きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.2.8 自宅庭の白梅




2007.3.28(水)


 『詩と思想』4月号が来ました。拙詩集の書評をN女史が書いてくれています。書評だから貶すことは書かないものですけど、好意的に書いてくれて素直に嬉しいです。彼女は今回の詩集だけでなく以前の詩集も読んで村山の全体像を捉まえたいとのことで、旧詩集をお贈りした経緯があります。わずか600字の書評にそこまで執着してくれたことはありがたいことだと思っています。機会のある方はお読みになってください。
 ついでに『詩と思想』の宣伝。4月号は新人特集で、9人の新人が登場しています。なかには私も懇意にしていただいている70歳過ぎの男性もいて、既存の新人≠ノ囚われない編集方針が見事です。こちらもおもしろいですからお読みくださればと思います。



詩誌『展』69号   .
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2007.3 東京都杉並区 菊池敏子氏発行 非売品

<目次>
●五十嵐順子:井戸             ●菊池敏子:ちょっと いい日
●名木田恵子:いちごゼリー/太古の記憶   ●佐野千穂子:寒の韻
●土井のりか:春 二題/父 眠る地へ    ●山田隆昭:脅迫
●河野明子:土筆



 いちごゼリー/名木田恵子

伯母は 二年前から
自分は九十三歳だ、といいはる
――ほんとは九十二歳になったばかりなのに

シルバーホームの せまい部屋
ベッドを置くために
余分なものはみんな 片づけられてしまった

口ぐせは 二つ
「はやく、しにてぇ…」
その三分後に
「死にとうない…」

私、にピントがあうと、
妹――私の母がはやく亡くなったことを、
自分だけ、こんなに長生きしている、と嘆く

「はやく死にてぇ…」
そうつぶやいた 伯母の口に
いちごゼリーを、ひと口、流しこむ
伯母の表情は とたんにやわらかくなり
「死にとうない…」にかわる

くり返される ふたつの言葉――
そのすき間に ゼリーのやわらかい感触
いちごの香りが たちこめる

 「二つ」の「口ぐせ」はその立場にならないと本当は判らないものでしょうが、それでも頭の中では理解することができます。私の父は85になろうとしています。最近、自分の死のことを言い出すようになりました。80、90でようやく死の実感が出てくるものなのかもしれません。
 作品は最終連に救われます。「くり返される ふたつの言葉」の「そのすき間」を埋める「ゼリーのやわらかい感触」と「いちごの香り」。人間の死を無視して存在する「いちごゼリー」に注目した作者の感性に敬服した作品です。



続続 進一男詩集』
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2007.2.20 東京都千代田区
沖積舎刊 9000円+税

<目次>
豚と私と――17
飛んでいる豚18 その日の豚19 豚を愛せよ20 豚のこと22 豚の擁護24 豚でさえ27 豚よ吠えろ28 いとしの豚よ30 白豚と黒豚35 黒豚物語36
何処からかやってきて――39
1(小鳥と子供たち)40 2(少女と花束)41 3(石)42 4(偶然)45 5(湯呑み)44 6(顔)45 7(走る)46 8(那覇の小壺)47 9(壺を書く)48 10(時間)49 11(雨と私)50 12(風と私)51 13(花々)52 14(海と私)55 15(空に昇る鯉)54 16(騎士)55 17(絵巻)56 18(発信地)57 19(月)58 20(千代)59 21(またも月)60 22(老女)61 23(対話)62 24(封印)63 25(逃走)64 26(海を歩く)65 27(ある詩)66 28(禿げ)67 29(場所)68 30(湖の向こう側)69 31(内部にて)70 32(かまきり)71 33(境界)72 34(会堂にて)73 35(音光色形)74 36(もう一度、駅へ)75 37(三つの屁)76 38(ある矛盾)77 39(私)78 40(プースケ)79 41(師)80 42(美について)81 43(時の変わり)82 44(迷路)85 45(街)84 46(泉)85 47(ある男)86 48(時を止める)87 49(流謫)88 50(生)89
カナとの対話――91
二つの「時」に関する私的な考察――93
1(戦慄する木々の下で)94 2(吃立する木々の中を)96 3(沈黙する木々の上からのように)98
より深く現われを待ち望む者――101
1(何時も待っている 言葉よ)102 2(ミュゾット館のアイビーを)104 3(その後ろ姿を 私たちは)106
カナと私のための幾つかの詩篇――109
1(カナ私は何時もお前に)110 2(母の名は信江と言った)112 3(カナよ 死者であるもの)114 4(私の魂よ何を求めようとしてか)116
カナの記憶に就いて書かれたことなど――119
1(一本の樹が立っている)120 2(それでは始めるとしようか)122 3(カナとは何であるか)124
ジーザス彷徨――127
不明の人々128 友ヨゼフス130 マタイオスは去る132 水と葡萄酒134 偽りのトマス戯語136 一度ならず二度ならず(第一の便り)138 孤絶者の並木道140 記されてある時142 秘められたイコン144 光と影146 少年トマスの呟き148 大工死す(第二の便り)152 言葉154 その人156 ある声158 架けられた男160 内なるもの162 アマミオンの乙女たち(第三の便り)164 告発168 今は不在170 聖母子像172 何故にお前は176 時の始まり179 歴史の陰で(第四の便り)182
自由自在空間――187
ある男188 童謡191 本物と偽物194 海の音197 薔薇200 逆立ち202 創世記204 足音206 不変ということ207 風の中で208 空210 顔212 歴史215 ひとりぽっちのつばめ218 阿具理221 犬の有り方224 土塊226 ボン227 縮んで228 徴候250 この男231 桃が流れない232 夢魔234 歩み236 風の声238 あの術240 AとKの会話242 母のカンナ244 母の肖像246 陶片248 片隅の生250 形象の園254 その人258 私は何者ですか261 その前日268
また再びの旅人よ――281
1生と死よ282 2マテリア285 3魚284 4骨285 5宇宙286 6昔日287 7雲水のごと288 8チボリの水289 9風を見に290 10道292 11Yさんのこと293 12ある時は294 13言葉295 14静かな村297 15蝶298 16足首299 17小さな教会で300 18夢と現301 19古語302 20旅に病む305 21海辺の道304 22流人305 23歩く306 24丘へ307 25砂丘にて308 26暗い絵309 27ある宿310 28旅愁311 29山路312 30秋の月313 31寓話314 32蛇皮線316 33峠318 34芙蓉319 35道連れ320 36陽光321 37問322 38出会い323 39香324 40秋風325 41美しく見える場所326 42ある場所327 43何も語らず328 44不思議な数330 45アザミ331 46馬車332 47花333 48生きてきて334 49海と山と335 50ピエロ336 51感触337 52新北風(ミーニシ)338 夢を見て339 54祈り340 55桔梗341 56非話342 57村343 58窓344 59ポケット345 60寒椿346 61人生の旅348 62痛み349 63出会いについて350 64もうひとつの道連れ352 65挿話353 66鳥に涙があるでしょうか354 67脱出355 68秋深し356 69山並み358 70何処へ339 71一歩360 72人恋い361 73ルリカケス362 74別の砂丘にて354 75蝶の越冬365 76宿の主人の話366 77巷を行く368 78永劫の旅人たち379 79松坂にて370 80孤371 81旅人よ372 82トンボ373 83空間374 84男と女375 85旅の意味376 86死とコスモス378 87母の花379 88殻380 89ある旅381 90ンチメント382 91はまゆう383 92ある旅人384 93目的385 94風の言葉386 95本の旅388 96芙蓉咲く389 97あの夏の記憶390 98夢の中の旅392 99新北風と芙蓉393 100終わらない旅394
聖ピエロあるいは黄昏の道化たち――397
覚書・ポエジイ――481
作品年譜――553
あとがき――561
進一男著書日録――577
進一男略歴――587



 縮んで

私の最高身長は一六二センチである
十代の終わりの頃のことだ
それ以来私は何時もそのように思っていた
ところが五十代のある頃
思い出して身長を計ってみた
すると一六一センチに足りなかったのである
年のせいで仕方あるまいと諦めていた

つい最近のことだ
ズボンの裾が少し長目なのに気づいた
自転車のサドルも少し高目に感じられた
もしやと思って身長を計った
何と一六〇センチを切っていた
正確に言えば一五九・六センチだった
ああまた縮んでしまったか

諦めざるを得ないとは言え
縮むことに不安がないわけではない
怖れもあれば空しさもある
一体どこまで縮むことであろう
無限に縮み行くということもあるまいが
この分だと生の終わりの頃には
一五八センチそこらということになろうか

今にして私は思い知らされる
生きるとは生の重みに耐えて
縮むことなりと見つけたり

 1985年刊行の『進一男詩集』、1996年『続 進一男詩集』に続く『続続 進一男詩集』です。「覚書・ポエジイ」では言わば全詩集の第三巻≠ニ書かれていて、600頁近い大冊です。
 紹介した作品は「自由自在空間」に収められていました。最終連が卓見です。私は現在「五十代」で、まだ「縮んで」はいませんが、いずれ「生きるとは生の重みに耐えて/縮むことなりと見つけ」るのかもしれません。それほど「生きるとは生の重みに耐え」ることなんだと瞠目させられました。81歳を迎えた著者の、まさに重い名言と云えましょう。文字通り厚みのある作品集に学ばせていただきました。



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