きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
百日紅(さるすべり) |
2007.4.24(火)
都民劇場(だったかな?)会員の友人に誘われて、生れて初めて歌舞伎座に行きました。ちょっと苦手意識のあった古典芸能ですが、観て良かったです。イヤホンガイドを借りて、解説付きでしたから分かりやすかったですし、今まで食わず嫌いだったなと反省しています。中村獅童も見られたし(^^;
今月は中村信二郎改め二代目中村錦之助襲名披露ということで、劇中に襲名口上があって、普段の興行とはちょっと違っていたのではないかと思います。私が観たのは昼の部です。全部で4部ありました。今後のために演目と配役を箇条書きしておきます。
一、當年祝春駒(あたるとしいわうはるこま)
曽我五郎…獅童、曽我十郎…勘太郎、小林舞鶴…七之助、茶道珍斎…種太郎、工藤祐経…歌六
二、頼朝の死(よりとものし)
将軍源頼家…梅玉、畠山重保…歌昇、小周防…福助、小笠原弥太郎…家橘、別当定海…亀蔵、別当慈円坊祐玄…錦吾、藤沢清親…松江、榛谷重朝…門之助、大江広元…歌六、中野五郎…東蔵、尼御台政子…芝翫
三、男女道成寺(めおとどうじょうじ)
白拍子桜子実は狂言師左近…仁左衛門、所化…獅童、所化…七之助、所化…種太郎、所化…宗之助、所化…猿弥、所化…勘太郎、白拍子花子…勘三郎
四、鬼一法眼三略巻 菊畑(きくばたけ)
虎蔵実は牛若丸…信二郎改め錦之助、智恵内実は鬼三太…吉右衛門、笠原湛海…歌昇、腰元白菊…隼人、皆鶴姫…時蔵、吉岡鬼一法眼…富十郎
特に二、四は日本史で習ったり本で読んだりしていることですから判りやすく、歌舞伎って面白いんだなと納得しました。四で襲名口上があり、劇中劇のようで、これも良かったと思います。ちなみに上の演目と配役はパンフレットの丸写しで、まるで判っていません(^^; これからは簡単な解説、感想ぐらい書けるようになりたいものです。
○個人通信『萌』19号 |
2007春の号 山形県山形市 伊藤啓子氏発行 非売品 |
<目次>
姉ちゃんの部屋
春の行進
春の行進
雲の隙間から
天使たちがラッパを吹きながら
とてちてたぁ〜
舞い降りて来そうな日
からだも心も軽々と能天気
そこで小躍りしていてはならない
空の明るさが妙にうとましく
嫌味くさくて
季節はずれの雪でも降ってしまえと思う
無邪気を装い
天使たちは残酷だ
裏庭の隅にひた隠しにしておいた井戸に
たちまち辿り着き
くすくす笑いながら
覗き込んでいる
見られたくない草々のものを
ひんやり澱ませておいたのに
得体の知れないものは
まだ名づけずにいる方がいい
やり過ごしていれば
そのうちどこかに行ってしまう
春の庭先は
うるさくてたまらない
言葉にならなかったものたちが
軒下の雪解け虫と一緒になって
ぷんぷん螺旋を描いている
作者は山形在住ですから「春の行進」と言えば、どんなに待ち望んでいたか、いかに「からだも心も軽々と能天気」であるかを書くのかと思いましたけど、違いました。「そこで小躍りしていてはならない」のです。「空の明るさが妙にうとましく/嫌味くさ」いと書きます。こちらの凡庸な思い込みを蹴散らされてしまいました。それは「無邪気を装い/天使たちは残酷」だからなのだと知らされます。ただ、その原因は「言葉にならなかったものたち」にあるようで、やはり詩人なのだなと安心もし、感心もしています。おもしろい作品です。
「得体の知れないものは/まだ名づけずにいる方がいい」というフレーズも佳いですね。名付けることによって認識され、行動に移すということはよくあることです。もちろん文字も詩も。そこをうまく捉えた作品だと思いました。
○個人誌『弦』38号 |
2007.5.1 札幌市白石区 渡辺宗子氏発行 非売品 |
<目次>
論理と情緒4 老人と詩の土壌/畑野信太郎
水琴の邑W/渡辺宗子
鍵老人のマザーグース(十三)/渡辺宗子
童話のほとりU 開戦前夜の夢の結実/渡辺宗子
水琴の邑W/渡辺宗子
夜明けはあるのだろうか
埋められた闇の不在
内攻する声の痕跡
めぐり巡る 擬態に
獣性が高揚するばかり
つかれた聴覚の
まなうらの虚飾の肥大
あすの死人と共有する
癒着を剥ぎとれば
幽かな声に惑き寄ってくる
毅然と澄んだ隠れた耳
牛の胎蔵が泄(もら)す
さまよえる肉声
地の涯の氓を求めて
水の琴韻を辿り
魂の仮象をなぞる
更なる不条理に敗北した
断腸のひとたち
言葉を棄てた悶えの 嘆きの水滴
地に溶け濾(おち)て響く
井戸はそうして 澱むのだから
遺跡という文化の媒体
武装 骸骨 瓦礫と絵画と
地底をどよめかせる渾沌
歴史は濃度を増しながら
未来へ流れつく
水琴の永劫の間歇
魂は いま流浪しているか
ひそやかな神の通路に
土俗のいとなみの起源へ
告げられる終末の危機
祈りの旋律へと
瀝(したた)れるしずくになっていよう
鉄筋の夜の寓意
摩天楼の欲望のうっ血
幻覚から醒めない
脱臼した耳の連携と
吃音の懇願
どの地平も あけぼのは亡い
連作「水琴の邑」も4回目になりました。水琴に落ちる「言葉を棄てた悶えの 嘆きの水滴」という詩語にも惹かれますが、ここはやはり最終連に魅了されます。「鉄筋の夜の寓意/摩天楼の欲望のうっ血」はもちろん現代の都市の喩でしょうが、これは「邑」との対比でもあり、都市にも村にも「どの地平も あけぼのは亡い」と読み取りました。いや、「水琴の邑」だけには遺されているのかもしれません。シリーズはまだ続くでしょうから、最後まで読まないと結論はでませんけど、おそらくそれが大きなテーマだろうと思います。長編叙事詩の完成した姿を早く見たい、読みたいものです。
○詩誌『暴徒』56号 |
2007.3.18 東京都練馬区 尾崎幹夫氏気付・暴徒社発行 400円 |
<目次>
●詩
尾崎幹夫/沈丁花 2、その日 4、キャベツ 6、あれ 8
みやもとふみこ/ウリマル 10、汚泥 12、巣穴 14、鬼婆 16、死体検案書 19
関口隆雄/朝 22、春 爛漫 24、デブ太 26、ケモノ 28
長嶋南子/かさぶた 30、糸みみず 32
●NOISE
みやもとふみこ/『パッチギ 2』 35
関口隆雄/落語を聞いて 36
長嶋南子/潮時 37
●後記/尾崎幹夫 38
●同人住所録・他 38
かさぶた/長嶋南子
子ぶたをもらった
なんでもよく食べるので
すぐに大ぶたになった
どこへでもついてくる
トイレも風呂もドアの前で待っている
抱いて寝ている
ひとり寝の肌さみしさがなくなる
もう ぶたがいないと寝られないくらい
ときどき押しつぶされそうになるけれど
ぶたや ぶたや といっていちにちが明け暮れる
けれど ぶた
家中おしっこやうんこをまき散らす
臭くて汚いので外に出す
雨がふってきてずぶぬれだ
かわいそうだから笠をかぶせてやる
笠ぶただ
うらめしそうな顔をして
窓からのぞいている
ついかわいそうになって家に入れる
ぶたにやる芋を切っていたら指を切ってしまった
走り寄ってくるぶた
傷口をなめまわす
あっという間にかさぶたになった
翌日にはポロリとはがれた
とって食べた
「笠ぶた」には失礼ながら笑ってしまいましたけど、指の「かさぶた」に持っていったところは見事です。この作品はもちろん創作ですけど、ポイントは「ひとり寝の肌さみしさがなくなる」でしょうか。すこから全て派生しているように思います。「ひとり寝の肌さみしさ」の具体化と言ってよいでしょう。具体で抽象を表現する、長嶋南子詩の面目躍如たる作品だと思いました。
○月刊詩誌『柵』245号 |
2007.4.20 大阪府箕面市 詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税 |
<目次>
現代詩展望 マイノリティの視座 石原武者『遠いうた 拾遺集』…中村不二夫 78
低い目線 灰谷健次郎2 私の出会った詩人たち5…伊勢田史郎 82
審判(8) 分裂…森 徳治 86
流動する今日の世界の中で日本の持とは 30
ネパール・日本合同アンソロジー『花束』の刊行…水崎野里子 90
風見鶏 河野仁昭 笹龍源 横田英子 佐合五十鈴 高階杞一 94
連麹の訃 港野喜代子さんのこと…水野ひかる 96
「戦後詩誌の系譜」43 昭和63年50誌追加2…中村不二夫 志賀英夫 112
松田悦子/ウル・シャリム 4 南 邦和/望郷 6
小城江壮智/国寄せ 8 小沢千恵/九塞溝 10
中原道夫/聞こえてこないか 12 山崎 森/河童ノオト 14
肌勢とみ子/「あ」 16 宗 昇/金魚鉢 18
柳原省三/シイタケ 20 名古きよえ/闇に向かって 22
忍城春宣/精進川の水車小屋跡 24 岩本 健/断章 26
北村愛子/お仏壇 28 進 一男/ある旅のこと 30
佐藤勝太/歩く青年 32 織田美沙子/音 ここは竹林だった 34
山南律子/寒牡丹 36 安森ソノ子/式服のスピード着付き 39
水崎野里子/「南京大虐殺なんてなかった」? 42
小野 肇/週末 46
鈴木一成/自問自答 48 川端律子/危機 50
ゆきなかすみお/常! 52 月谷小夜子/ぬくもり 54
北野明治/地獄 56 江良亜来子/初夏 58
門林岩雄/山人 秋の空 他 60 西森美智子/青年草 62
山口格郎/「口先だけ」と言えば 64 今泉協子/縮む 66
大貫裕司/古い同人誌 68 若狭雅裕/端午の節句 70
野老比左子/雲の鐘楼 72 前田幸一/脇役 春 74
徐柄鎮/富士漫筆 76
現代情況論ノート(12) 俺たちの国を守るために アメリカの挽歌として/石原 武 100
世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想(11)
コスモポリタン詩人金子光晴 反骨精神の意味…小川聖子 102
韓国現代詩人(10) 金光圭の詩 小蟹の死…水崎野里子訳 106
コクトオ覚書220 コクトオ自画像[知られざる男]40…三木英治 108
東日本・三冊の詩集 村山精二『故郷』
山本十四尾『水の充実』
こたきこなみ『夢化け』…中原道夫 122
西日本・三冊の詩集 森本敏子『無銘の楽器』
田中信爾『春光』
荒木忠男『夕日は沈んだ』…佐藤勝太 126
受贈図書 受贈詩誌 柵通信 身辺雑記
表抵絵/申錫弼 扉絵/中島由夫 カット/野口晋・申錫弼・中島由夫
常!/ゆきなかすみお
常が死んだ。僕より一つ年上の従兄弟の常が死んだ。酒飲みで肝
臓も心臓も悪くしていたが、静脈瘡破裂だった。六十八才。
疎開で行った僕に常は竹を割ってスキーを作って滑りかたを教え
てくれた。野球のバットは木を削って二人で作った。
教科書は年々オサガリで常のものを僕が使った。落書きだらけの
教科書だった。それでも力は強くて僕がいじめられているときな
ど、常が顔を出すだけで相手は逃げた。
夏休み、子供たちは朝早くから山奥に入る。割木や炭を背負子に
くくってトラック道まで運ぶのが仕事だ。割木一束二円五十銭、
炭は三円。割木二束背負ってよろよろしている僕をしりめに常は
その上へ炭を一俵のせて平気だった。
中学を出た常の姉が岐阜の妨績へ働きに行ったが二年もたたない
うちに戻されてきた。裏庭で血を吐いて死んだ。血の混じった雪
をつつきにきた鶏に常は竹竿を振り回して追いかけていたが、泣
いている常を見るのは初めてだった。
子供はいつもは帽子などかぶらないが修学旅行の時には要る。帽
子のない僕に常が古いのをくれたんだが、破れたところに墨が塗
ってあったんだ。国会議事堂で雨に降られたとき僕の顔は真っ黒
になって、先生も友達もみんなが大笑いした。
それでも必死になってこらえた僕だが、今日は泣くぞ!
お前にコップ酒据えて、僕は泣くぞ!
「従兄弟の常」という人間像がよく描けていると思います。様々なエピソードにそれは現れていますが、特に第5連の「泣いている常を見るのは初めてだった」というところに「常」の心境がよく出ています。最終連も佳いですね。詩の言葉としてはナマという意見もありましょうが、どうしても書かなければならない作者の必然性を感じます。これを書くために作者は今まで詩の習作≠やってきたと言っても過言ではないでしょう。思わず胸を熱くして拝読した作品です。
なお、今号では拙詩集を中原道夫さんが採り上げてくださいました。御礼申し上げます。ありがとうございました。
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