きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
070208sarusuberi.JPG
百日紅(さるすべり)




2007.4.29(日)


 所要で久しぶりに清里に行ってきました。R141の清里交差点は何度も通っていますが、清里駅まで行ったのは、たぶん20年ぶりぐらいだろうと思います。連休の初めとあって大勢の若い人がいましたけど、一時期の賑わいはないようです。
 もちろんETCの着いた新車で行きまして、作動は問題ありませんでした。新車になって初めての長距離ドライブです。快調でした。私の家から清里まで3時間ぐらいと踏んでいましたが、往復ともぴったり2時間。タバコ休憩(^^; を入れなかったら2時間を切っていたかもしれません。そんなにスピードを出したわけではありませんけど、例えば中央道笹子峠のカーブでもほとんど減速しないで曲がりきることができました。フルタイム4駆の性能を改めて認識した次第です。マニュアルのシフトダウン、シフトアップも奏功していると思いますけどね。
 中年暴走族にならないようにして、走りを楽しみながら全国各地に行ってみたいものです。過去40年ほどで北海道から九州まで走っていますけど、まだまだ日本は広い。特に九州は湯布院までしか行ってませんので、最南端の大隈半島は行きたい処です。沖縄も行きたいなぁ。フェリーで行けるんだっけ? 真冬の北海道も走りたいですね。



詩誌『詩区 かつしか』92号
shiku katsushika 92.JPG
2007.4.22 東京都葛飾区 池澤秀和氏連絡先 非売品

<目次>
曇りガラスの向うに/青山晴江        人間81 若者につたえる言葉/まつだひでお
人間82 老生/まつだひでお         逃亡者/小川哲史
ほたる/小川哲史              シンポジウム/小林徳明
タブラ・ラサ/小林徳明           きかせて/池沢京子
金平ごぼう/みゆき杏子           サンシャインの彼方に4 主語を刻む/しま・ようこ
片目のジャック/工藤憲治          戦争を知らない子供達/工藤憲治
地図/内藤セツコ              あじわい 3/池澤秀和
富津の海岸で…/石川逸子          まほうのすうじ/堀越睦子



 戦争を知らない子供達/工藤憲治

僕はミミちゃんのお家で、おとなしく積木遊びを
していた。するとサングラスをかけた原発のお兄
ちゃんが、オートバイを吹かしてやってきた。ミミ
ちゃんのお母さんは《遊んでおいで》と、僕達に五円
玉を握らせた。僕達はゴムの短靴をひっかけて、
近所の駄菓子屋に走った。アン玉を買ったがシカ
だった。梅干婆さんが《またおいで》と、歯のない萎
んだ口で笑った。
僕達はミミちゃんのお家に引き返した。障子に穴
を開けて、こっそり覗いた。ミミちゃんのお母さんと原
発のお兄ちゃんが抱っこしあっていた。赤い腰巻が
足にからみつき、啜り泣いていた。
僕はミミちゃんの手をとって、芒ケ原に走った。芒
ケ原はデコボコ原っぱで、飢餓
(けがち)風が砂埃をあげ
ていた。送電線の先に原発の鉄骨がそそり立
っていた。原発反対の垂れ幕が有刺鉄線にか
らみつき、啜り泣いていた。
僕達はズボンとスカートをおろし、みせっこしあっ
て、あっけらかんと笑った。僕達を原発のお兄ちゃ
んが、オートバイのライトを点滅させ、笑いながら
走っていった。
その夜だった。ミミちゃんのお母さんが車に轢か
れて死んだ。葬式が終ると、ミミちゃんのお父さ
んがお巡りさんに連れていかれた。ミミちゃん
のお父さんは腐った魚と酒の匂いがして臭かっ
た。大人達が狂い出すと、子供達はただ悲しく
なり、ただあっけらかんと笑うしかない。
僕のお父さんはずっと海に出ない。お母さんもず
っと畑に出ない。僕のお父さんとお母さんは原発
ご殿に住んで、ニコニコお札を数えている。大人
達は《遊んでおいで》と、ただ子供達に五円玉
を握らせる。ただ子供達は梅干婆さんに《ま
たおいで》と、五円玉をまきあげられる。
僕達は五円玉を積木箱に貯めることにした。
サングラスをかけた原発のお兄ちゃんが、オート
バイを吹かして走るたびに、積木箱はだんだん重
くなり、揺するとジャラジャラ音がした。そして、
とうとう音がしなくなった。僕はミミちゃんの手を
とって芒ケ原に走った。原発の鉄骨の下に穴を
掘って埋めた。
―――ハリマオー!ハリマオー!
   僕らのハリマオー!―――
僕達は大きな声でハリマオーを呼んだ。しかし、
ハリマオーは積木箱の五円玉では不足なのか、現わ
れなかった。僕はやりきれなくて漏れそうになって
いた。
僕はコタツにもぐり込んで、僕のお母さんの赤い腰巻
のなかを覗いた。僕の産まれた黒い穴を覗いた。
僕は遂に、赤い腰巻のマントをひるがえした。手に
ハタキを握った。目に見えない悪人達を、バタバタ
叩き切った。ハタキはバタバタ宙を切っているのだ
が、僕にははっきり悪人達が死んでいくのが見え
た。僕達はもう五円玉を握らない。僕達はもう
あっけらかんと笑わない。
僕の背中で赤い腰巻が真っ赤に燃えていた。
―――ハリマオー!ハリマオー!
   僕らのハリマオー!―――
その夜だった。駄菓子屋の梅干婆さんが、アタリ
のアン玉をノドにつまらせて死んだ。
僕の背中で赤い腰巻が真っ赤に燃えていた。
―――ハリマオー!ハリマオー!
   僕らのハリマオー!―――
その夜だった。サングラスをかけた原発のお兄
ちゃんが、有刺鉄線にオートバイをからませて死
んだ。
僕の背中で赤い腰巻が真っ赤に燃えていた。
―――ハリマオー!ハリマオー!
   僕らのハリマオー!―――

 手書き作品でしたのでスキャナーで読み取れません。ちょっと長めでしたが手入力してみました。原文では行末が揃っていますけど、ここでは不揃いになってしまいました。ご了承ください。
 作者はおそらく私と年齢が近いのではないかと思います。「ゴムの短靴」や「五円玉」、「ハリマオー」は小学生時代の経験です。私も「戦争を知らない子供達」のハシリで、「ただあっけらかんと笑うしかない」子ども時代だったように思います。この作品にはそんな昭和30年代の世相がうまく読み込まれていると云えましょう。現在の基礎となった昭和30年代の証言者、「ハリマオー」は昭和35年放映、東海村原発一号炉の建設は昭和41年に完了しています。当時の小学生も還暦を迎える年代、この半世紀を振り返る作品だと思いました。



田島道氏詩集『シスターの靴』
sister no kutsu.JPG
2007.3.20 東京都千代田区 花神社刊 1800円+税

<目次>
 T
シスターの靴 8   小さな挨拶 10
再生 14       秋の夜長 18
魚一 22       立冬 26
オレンジビーチ 30  結構です 32
すぐ近くで 36    蝉 40
波打ち際 44
 U
夢 50        プールサイドで 54
獏 58        手 62
海浜道路を渡れば 66 背負う 70
朝の玄関で 74    陽のあたる場所ヘ 78
南青山五丁目 82   光の中で 86
 V
坂の上には駅が見えて 90
水切り 94      枝 98
ねむり 102
.     赤い花 106
木槿 108
.      菫のおもさ 110
引込線 112
.     さくらに 116

詩集『シスターの靴』に添えて 菊地貞三 118
あとがき 126
挿画=大島賢一



 シスターの靴

灰色の長いスカートの裾から見えた
シスターの靴

駅の階段を一段下りるたびに
ゆっくり現われる黒い靴

その靴にこだわりながら私は
歩調をあわせて階段を下りた

わずかしか見えないのに
よく磨きこまれているのがわかる

どこを歩いてこられたのか
これからどこへ向かわれるのか

シスターの静かな足どりを支え
共に活動している靴

階段を下りきると
シスターは東口の方向へ行き

私は西口の
改札口をでた

少し大きめに見えた靴だが
いつもどこへ向かっているのだろう

 27年ぶりの第2詩集です。タイトルポエムであり、かつ巻頭の作品を紹介してみました。1連2行の端正な構成が、まるで「シスターの静かな足どり」のようです。「ゆっくり現われる黒い靴」に視線を合わせる著者の観察眼には驚きます。何も語らず、歩くという行為だけのシスターですが、敬虔な信仰心まで見えるような作品です。
 Uの「陽のあたる場所ヘ」は盲目の父親と母子が電車から降りる一瞬を捉えた作品。著者のやさしさが滲み出ている描写の佳品です。語り口は静かですが人間を見る眼の確かさを感じさせる詩集です。



   back(4月の部屋へ戻る)

   
home