きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.4.8 神奈川県真鶴岬 |
2007.5.10(木)
近辺の美術館巡り。今日は山梨県河口湖町の「河口湖美術館」へ行ってみました。聞いたことのない美術館でしたから、正直なところあまり期待していなかったのですが、行ってみて良かったです。
常設展は富士山の絵を中心として30点ほどの小さな展示室で、こちらはまあまあ。企画展は写真展でしたから、これも期待していませんでした。1998年に亡くなっている前田真三という写真家のものが200〜300点ぐらいあったでしょうか。ちょっと食傷気味の北海道・上富良野町や美瑛町の風景写真です。カレンダーや雑誌などにも多く使われていましたから覚えている人も多いでしょう。
フン、これね。傲慢にもそう思いながら観て行って、知らず知らずに惹き込まれている自分に驚きました。美瑛町に写真ギャラリーを持っているぐらいですから美瑛が多いのは当然ですけど、構図、色彩、シャッタースピードの選択などは、カレンダーなどで見るのとは大違い。これしかない、というシャッターチャンスで撮られていました。思わずじっくりと観てしまい、3時間も掛かってしまいました。プロの写真をナメてはいかんなと反省させられました。
それは大変勉強になったのですが、印画紙に欠点が多いのが気になりました。昔の商売っ気が出て、斜めに縦に観察すると、額装時や運搬時に付けたと思われる傷、ゴミ。なかには製造時や現像時の故障もあって、おやおやと思ってしまいました。普通に見ている分には気付きませんけど、元プロの眼で見ると判ってしまうんです。ま、それは措いても佳い企画展でした。
唐突に写真が出てきて申し訳ありません。河口湖畔にある田中冬二の詩碑です。美術館に行く前に寄ってみました。例の有名な「くずの花」、
ぢぢいと ばばあが/だまつて 湯にはひつている/山の湯のくずの花/山の湯のくずの花
かと思いましたがそうではありませんでした。
朝の食卓に近い/窓いっぱいに富士/目近く見る/富士は以外に小さい/スープに浮かんだ/その富士を/スプーンに掬う
と彫られています。どこから採ったのかと思って手持ちの現代詩大系や文学全集の詩歌編を探してみましたけど、残念ながら判りませんでした。いずれ調べてみます。ちなみに田中冬二は日本詩人クラブの創設会員です。
ところで、燃費の話。出かける前に新車の4回目の給油をしました。12.9km/L。11km台から始まって、いよいよ13kmになりそうです。環境にもお財布にも優しい運転をこれからも心がけます。
○山本萠氏素描集『福音の蝶』 |
2007.5.31 埼玉県所沢市 書肆夢ゝ刊 2700円 |
<目次>
1 歌っているのは誰 2 渚の2人
3 ここは静かな鳥の国 4 三か月とねこ
5 ケセラセラ 6 咲いてしまう木
7 冬のダンス 8 潮騒
9 トリになる 10 ぼくらのヒミツ
11 花のオルゴール 12 雨にうたえば
13 夜の瞳 14 わたしが鳥だった頃
15 バーミヤン回想 16 はるうれい
17 光の街角 18 バグダッドに花が降る
19 アルルカンの帽子 20 同じ夢を見た
21 森へ行く 22 落日
23 どこから来たの? 24 無伴奏
25 バスラの太陽 26 星に乗る
27 聖夜 28 星のブランコ
29 晩夏光 30 群青の人
31 祈りの時間 32 記憶
33 小さな淑女 34 光の蝶
35 いずこへ 36 虫の宴
37 虫踊る 38 飛ぶことについて
39 丘の夕日 40 落日の響き
41 風になる 42 バグダッドの歌
43 世界はこのように 44 虫の帰る道
45 再生 46 神サマの歌う
47 天使と蝶 48 耳を澄ませば
49 帽子の男 50 どこかにいつもいる
51 遠く聴こえる 52 彼方からの声
53 神さまがいるとしたら 54 泣いている魚
55 ぼくらの悲しみ 56 火のプレリュード
57 遥かな雲 58 ぼくも飛んだ
59 鳥の街 60 天使のなみだ
61 飛べない鳥と 62 わたしの鳥
63 海の少年 64 アフリカ木彫女神像
65 アフリカ土偶
あとがき
乾いた幹に 掌をあてると あなたは昔の木 だった
あらゆることがすみ
とほうもなくなって
なんでもない 木屑 みたいだ
わたしが虫の声で歌うと
透き通ってしまう
何百年 経ったのか 気づきもしなかった
詩人・書家、写真家でもある著者の、主にネパールで手漉きされた紙に墨やクレヨンで線画したという初めての素描集です。イメージは表紙の絵を見てください。一応<目次>としておきましたけど、実際は絵のタイトルです。ちなみに1〜43と64〜65は墨、44〜45はクレヨン・ボールペン、46〜48はシャープペンシル、49〜60はクレヨン、61〜63は水墨となっていました。それぞれの絵にタイトルと1行から数行の詩語が添えられています。紹介したのは「1 歌っているのは誰」の詩語です。絵を見せられないのは残念ですが、眸が強調された顔です。
私はタイトルも絵の一部と思う方なのですが、さすがは詩人だけあってタイトルにも魅了されています。1からの言葉を並び替えるだけでも詩が出来そうです。紹介した1の詩語とともにタイトルもお楽しみください。
○詩誌『六分儀』29号 |
2007.4.21
東京都大田区 800円 小柳玲子氏方・グループ<六分儀>発行 |
<目次>
林 立人/面(1) 1 樋口伸子/転居通知 6
夏目典子/チチアンの肖像画展 10 鶴岡善久/谷津筆記*4 渡邊白泉の戦争 13
島 朝夫/peguyの詩と祈り 18 古谷鏡子/窓という幻像 26
小柳玲子/夜ふけ どこかで 30
表紙/林 立人
転居通知/樋口伸子
この春
長かった仮住まいを終えて
川のこちらに引っ越しました
お近くまでおいでになられても
どうぞ けして
お立ち寄りにならないでください
まだ早すぎます
眺望絶景大気清浄
西向きとは言え日当たり良好
うめ・さくら咲き誇る晴朗の地ですが
意外に
いや 予想どおり退屈なところです
電話なし ケータイ圏外 交通不便の地
コンビニ スーパー ファミレスもなし
もちろんカラオケにクリニックも
それでもお越しになりたい方は
満月から三日日のかはたれどき
川霧の晴れ間に浮かぶ小舟を見つけ
こんこんこん
舟べりを軽く三度叩けば
静かに舟はすべり出し
こちらまで無事に
送ってくれるでしょう
道中は時間に急かれることもなく
舟酔いもせずに夢見ごこち
着いてからの心配はご無用です
すれ違う人みな善人
お知り合いにも出会うでしょう
あんなに嫌いだった人が
妙になつかしかったり
遥かな年月が伸び縮みの遠めがね
賑やかな健康志向の人びとが
死んだことさえ忘れて行き交い
笑いさざめく当地です
いずれお越しになられるときは
どうぞ川のそちらの方々の
悪口を手土産にしてください
みんな喜ぶことでしょう
努力精進のはての
六根清浄お山は晴天でも
桃源郷は退屈なところですから
追伸
ご承知でしょうが
戻りの便はありません
何処に転居したのかと思ったら、三途の「川のこちらに引っ越し」たのですね。「お近くまでおいでになられても/どうぞ けして/お立ち寄りにならないでください/まだ早すぎます」という意味もこれで納得しました。「西向き」は西方浄土、「すれ違う人みな善人」は地獄ではないから、と全て意味のある言葉です。最終連の「戻りの便はありません」には笑ってしまいましたけど、いずれ誰もが行く処、どうせなら「死んだことさえ忘れて」「笑いさざめ」いていたいものです。
○個人誌『Moderato』15号 |
2001.5.25 和歌山県和歌山市 出発社・岡崎葉氏発行 年間購読料1000円 |
<目次>
詩作品/(幸せのかたち) 2 往復書簡/(地方で詩を書くこと)4
特集/個人誌 11 詩作品/(薪能)大原勝人 14
Poem Diary 16 詩作品/(職業おじさん)くりすたきじ 18
気になる詩人(13)/(江口節さん)岡崎葉 20 連載エッセイ(14)/(方言の印象)山田博 22
詩作品/(オシドリ) いちかわかずみ 24 詩作品/(冬蕾)羽室よし子 26
Cantata(5)/(中上健次を読む)田端宣貞 28 受贈詩集&詩誌 30
編集後記
職業おじさん/くりす たきじ
ぼくの職業は おじさん
誰が見ても おじさん
おじさん と呼ばれたら
四角い顔を無理やり まあるくして
はい。と返事する
とても素直な おじさんになった
小学生のころ
ぼくの友だちは おじさんばっかし
花札教えてくれた おじさん
パチンコ教えてくれた おじさん
エッチな写真見せてくれた おじさん
ビールを注いでくれた おじさん
そんな訳でぼくは
りっぱな おじさんに成長した
黒い瞳のかがやく
未来の おじさんをつかまえて
ぼくは思案している
さて 何から教えようかな
ぼくの職業は おじさん
やる気いっぱい
確かに昔は「花札教えてくれた」り「パチンコ教えてくれた」り、「エッチな写真見せて」「ビールを注いでくれた おじさん」というのが大勢いましたね。今はみんな品が良くなって、そんなことをしようものなら総スカンですが、当時の私は人間の一面を見せられた思いがしたものです。それを復活させようとは思いませんし、出来もしません。しかし最終連のように「未来の おじさん」に何かを教える必要はあるでしょう。「さて 何から教えようかな」。やっぱり私も「思案して」しまいます。
○個人誌『Moderato』27号 |
2007.5.25 和歌山県和歌山市 出発社・岡崎葉氏発行 年間購読料1000円 |
<目次>
特集「モデラート賞・その後」
<詩作品> 佐々木洋一 <インタビュー> 佐々木洋一 2
詩作品
裸身の一花/石下典子 8 あしあと/羽室よし子 10
道/大原勝人 12 光/岡崎 葉 16
その秋/渋谷卓男 18 影/岡崎 葉 19
アルカイックスマイル/いちかわかずみ 22
ポエムダイアリー 14
連載エッセイ26 空気の印象/山田 博 20
気になる詩人・気になる仕事20+4/斉藤征義 24
カンタータ17 京都の詩朗読会「ほんやら洞」を出発点として/名古きよえ 26
本自慢 28
影/岡崎 葉
あの慌ただしかった日々に
こころとからだは
ひとつの熱に浮かされていた
ひたすら走りつづけた道に
見えていたのは空と地上だけで
究極は 星と砂の関係であればいいとまで
思いつめていた 希望もなく
満ちたりていた日々にも
それはつながり
思いつめるほどに
こころとからだは
真にゆたかになっていくのだった
理知的な生き方だけが
幸せだろうか?
しずかに堆積する時間のなかで
重みを増した書物の断面を見れば
はみ出した栞のような日々のしみが
光を誘っている
「詩合わせ」というコーナーで渋谷卓男氏の「その秋」と共に載っていました。お互いに関連させるという意図があるのかどうかは判りませんが、それぞれ単独の作品としても成立しています。ここでは岡崎葉氏の「影」を紹介してみました。最終連の「はみ出した栞のような日々のしみ」という詩語が秀逸です。「日々のしみ」が「影」なのかもしれません。「はみ出した栞のような日々」を単独で採り出しても、これは読者のイメージを豊かにさせてくれます。その前連の「理知的な生き方だけが/幸せだろうか?」というフレーズも佳いですね。「理知」に対応させて感覚≠置くのは不適切かもしれませんけど、そういう「生き方」もあるのではないかと考えさせられました。
(5月の部屋へ戻る)