きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.4.8 神奈川県真鶴岬 |
2007.5.23(水)
自治会の仕事を一緒にやった男の母上が亡くなって、18時半からお通夜でした。市内の葬儀場に行ってきました。この10日ほどで実はこれで5件目です。5月中旬から自治会内で葬儀が続いていました。なかには60代後半の方もいらっしゃいましたが、ほとんどが80代、90代。人間だから止むを得ないのかもしれません。
葬儀場で、昔、自治会役員を一緒にやった先輩方ともお話ししましたけど、続くときは続くものです。件の男の母上は91歳。この5件の中では最長老でした。しかし、何歳であろうが母を亡くすというのは寂しいものです。いつもは豪快な彼もちょっとしょんぼりしていました。私も自分の生母を35歳で失った47年前、後おふくろを74歳で亡くした10年前を思い出しました。順番だからしょうがないんです。でもね、母親ってずっと生きてるって錯覚に陥るものじゃないでしょうか。二人の母を弔った今でもそんなことを思います。
父を亡くした経験はまだありません。日本詩人クラブのオンライン現代詩作品研究会で、誤報で死んだことはありますが(^^; いま85歳。脳梗塞を患っているものの、一人暮らしが好きだと言うほど元気です。あと5年なのか10年なのか、ヤクザな父親にもいずれ死は訪れます。そして、そのうち私の番。人間は遺伝子を運ぶ舟に過ぎません。一応、科学者の端くれの私としては、現在の科学では証明できない輪廻転生を信じていません。それでも何度かお会いした男の母上、しょげた男の様子を見ていると複雑な気持になります。おそらくこれが宗教の始まりなのでしょう。宗教を否定する気はありません。それで救われるなら結構なことです。でも、私自身は救われないと思っています。科学的な、あくまでも証明できる理屈・理論で生き抜きたいと望んでいます。
なんか、話がとんでもないところに飛躍しましたね。死という厳粛な現実に直面すると、ついこんなことを考えてしまう癖があるようです。そんなことはとりあえず措いて、彼の母上のご冥福をお祈りいたします。あなたの息子という佳い男と仕事をさせてもらいました。ありがとうございました。天上の柔らかな地で、安らかにおやすみください。いずれ再会しましょう!
○寺本美智子氏詩集 『何が起こるかわからない』 |
2007.6.1 大阪市北区 編集工房ノア刊 2000円+税 |
<目次>
逢魔が時 8 交通事故 10
加害者 12 機能訓練 14
バルーン 16 出ない 18
主治医 20 右足(みぎそく)関節開放性脱臼骨折 22
行き届かない看護師 26 かゆい 28
手術前 一週間 30 知らんかった 32
手術 一 34 手術 二 36
手術 終わる 38 インフルエンザ 40
ベッド生活 42 レントゲン 46
年末年始 48 おたがいさんや 50
四十日目の入浴 52 抜糸 54
たばねて つないだんや 56 おおきに 58
たまには 休んでもええねんで 60 メランコリー 62
*
ご機嫌悪い主治医 66 回診 一 68
回診 二 70 回診 三 72
見舞い 74 辛い思い出 76
点滴 80 松葉杖 一 82
松葉杖 二 84 松葉杖 三 86
縫い目 88 ノンストップのエレベーター 90
交通事故の男性 92 抜釘手術 96
目の不自由な キセばあちゃん 100. 眠れない 102
嫁と娘 104. 家に帰りたくない 106
薬が嫌いな アツばあちゃん 108. ナースコール 110
入退院 112. お手入れ 114
前に向かって 116. 靴 120
*
寺本美智子さんの詩集に寄せて 島田陽子 124
あとがき 132
装幀 森本良成
逢魔が時
平成十年十二月十三日午後五時三十分
あたりはすっかり暗くなっていた
十字路 信号が青になった
横断歩道の真ん中まで歩いた
その時
左折してきた自動車が目に入った
ひかれた!
それから一週間 私は眠っていた
警察が言っていたこと
左折は事故が多い
角に建物があるので見えにくい
加害者
暗くなった当初は
運転者の目がまだ慣れていない
横にフィアンセが乗っていた
日曜のデート帰りで疲れていた
悪条件が重なった
交通事故に遭って5カ月余の入院をし、その後8ヶ月を車椅子・松葉杖で過ごし、更にリハビリ通院したという経験を1冊にまとめた詩集です。まさに「何が起こるかわからない」いまの世を読者に体験させてくれます。紹介した作品は冒頭の詩で、ここから始まっていきます。加害者を憎み、度重なる手術に涙し、辛いリハビリに耐える生活は「ひかれた!」というフレーズから始まったわけです。私も日常的にクルマを運転する身で、幸い人身事故の経験はありませんけど、これからも「ひかれた!」という言葉を誰にも与えたくないものです。この言葉にはそれだけの強さがありました。
詩集はほぼ時系列に進みます。辛い中にも時にユーモアを交え、最後は加害者を精神的に許すところまでいきました。著者の人間性に触れて、ホッとしたというのが読み終わったあとの正直な感想です。著者の第一詩集で、詩人としては辛い出発になりましたが、天性の明るさがあるようで、今後のご活躍を楽しみにしています。
○月刊詩誌『柵』246号 |
2007.5.20 大阪府箕面市 詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税 |
<目次>
現代詩展望
高銀詩選集「いま、君に詩が来たのか」−辻井喬「『高銀問題』の重み」…中村不二夫 82
聖にして仙 各務豊和3 私の出会った詩人たち6…伊勢田史郎 86
審判(9) 統帥部…森 徳治 90
流動する今日の世界の中で日本の詩とは31 多元性と地域性そして独立への道 沖縄旅行の思い出…水崎野里子 94
風見鶏 姨嶋とし子 あゆかわのぼる 西村啓子 住吉千代美 高木 白 98
「戦後詩誌の系譜」44 昭和64年 53誌…中村不二夫 志賀英夫 112
詩作品□
柳原省三/金魚の通夜 4 肌勢とみ子/午睡 6
南 邦和/河童の消息 8 山南律子/手をふる2 10
進 一男/夢とも現とも 12 宗 昇/みこし 14
松井郁子/柳生・秋 16 山崎 森/兎座 18
小沢千恵/鳥魂 20 中原道夫/チューリップ 22
北村愛子/身の丈の詩 24 小城江壮智/居住権 26
江良亜来子/追想の石畳 28 佐藤勝太/飾り窓の人 30
大貫裕司/途中下車 32 名古きよえ/絨毯を織るイランの娘 34
織田美沙子/詩の一行 36 川内久栄/あぜみち今昔 39
松田悦子/詩的展開図 42 上野 潤/和蘭物語32 46
忍城春宣/小山田さんちの小父さん 48 野老比左子/地球神話 50
平野秀哉/電話(文明について) 52 門林岩雄/亡き友に 冬の夜 54
川端律子/木も人間も 56 小野 肇/校舎 58
鈴木一成/老境さまざま 60 水崎野里子/琉歌試作 62
山口格郎/苦節一年 64 西森美智子/ある更年期 66
若狭雅裕/梔子の花 68 安森ソノ子/四月四日に降る雪は 70
北野明治/卍 72 岩本 健/ただの人 74
今泉協子/灯籠 76 前田孝一/侵略 78
徐柄鎮/丘の上の無人駅 80
現代情況論ノート(13) アメリカ教育改革瞥見…石原 武 100
世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想(12) シュペルヴィエルの宇宙的時間−『引力』を中心に…小川聖子 102
ベトナム現代詩人レ・パム・レの詩 風はどこから吹く…水崎野里子訳 106
コクトオ覚書221 コクトオの詩想(断章/風聞)数々1…三木英治 108
東日本・三冊の詩集 鈴木正樹『川に沿って』
安永圭子『七月六日の赤い空』
北条敦子『ゆらぐ』…中原道夫 124
西日本・三冊の詩集 『続続 進一男詩集』
岸本嘉名男『見つめつつ』
掘論『ぶる〜☆の〜と』…佐藤勝太 128
受贈図書 134 受贈詩誌 131 柵通信 132 身辺雑記 135
表抵絵 申錫弼/扉絵 中島由夫/カット 野口晋・申錫弼・中島由夫
金魚の通夜/柳原省三
金魚が死んだ
病気になり戸外の別鉢に入れて
療養していた金魚であった
暖冬といえども寒かろうと
妻がぬるま湯を混ぜたらショック死した
優しい心が裏目に出たのだ
世の中にはこういうことがままあるようだ
親切を尽くして怨まれていたり
善意が仇になって返ってきたり
ぼくらの人生もそんな経験に満ちている
だけどやっぱり思うのだ
結果が裏目に出ることを恐れ
行動をためらっていてはつまらない
用心は心掛けるべきであろうが
気弱になってはいけないはず
生きることは戦いなのだから
良かれと信じる精神の光は
力強く炎のように放出し続け
輝いて燃え尽きるのが美しい
金魚は苦しまないで死んだのだからと
妻はしきりに自分を慰めている
消えた命はもう戻らないが
今晩は金魚のお通夜である
とはいえ酒のつまみは焼き魚なのだが
金魚って「ぬるま湯を混ぜたらショック死」するんですね、知りませんでした。そういえば金魚鉢の水交換はいっぺんに全部換えるのでなく、半分にするのだと聞いたことを思い出しました。意外と繊細な魚のようです。
「結果が裏目に出ることを恐れ/行動をためらっていてはつまらない」というのはその通りだと思います。ダメもとという考え方が私にもあります。1回しかない人生ですから「用心は心掛けるべきであろうが」やるだけのことはやってみたいものです。
最終連の「酒のつまみは焼き魚」には失礼ながら笑ってしまいましたけど、やはりこういう強さも必要なものなのでしょう。今号の巻頭作品、堪能させていただきました。
○詩と散文『多島海』11号 |
2007.5.20 神戸市北区
江口節氏発行 非売品 |
<目次>
Poem
冬日和*森原直子…2 たまゆら、海の風景*松本衆司…6
ホシハジロ*江口 節…10 タビビトノキ*江口 節…12
長縄跳び*彼未れい子…14
Prose
黎明期を感じながら*松本衆司…18 右巻き 左巻き*彼末れい子…26
巨樹めぐり*森原直子…31 第六日日の作品*M・ノエル 訳
江口節…36
同人名簿…39 入り江で…40 カット 彼未れい子
ホシハジロ/江口 節
羽にあたまをうずめ
ゆらゆら
水鳥が浮かんでいる
あたまは紅く 羽は白く 黒い尾を立てて
粋な海カモ ホシハジロ
一度 いっせいに首をもたげ
すぐまた羽にあたまをうずめた
湾の方角からタグボートが帰ってくる
運河に大きく波が立ち
鳥は
めざめることなく持ち上げられ
めざめることなく引き落とされ
二、四、…二十羽、…
群れのまま
あられもないゆめにあって
群れのまま
まぎれもなくうつつに揺さぶられる
正気にかえる、とはどういうことだろう
ぐずなゆめを見ました、と
粋なゆめを見ました、と
ゆらゆら
波間にただよって
とおい浜辺にうちあげられて
また ひとつ
タグボートが帰ってきて
「タグボート」が効果的に遣われている作品だと思います。タグボートは大型船を押したり台船を曳いたりする船ですから、その動きはゆったりとしたもの。「運河に大きく波が立」っても「ホシハジロ」は「ゆらゆら/波間にただよって」いるだけなのでしょう。人間が造り出した船と「水鳥」のおだやかな関係が絵のように浮かんで、心が和みます。「ぐずなゆめを見ました」「粋なゆめを見ました」という詩語も佳いですね。「多島海」という誌名にもふさわしい作品と云えましょう。
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