きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.4.8 神奈川県真鶴岬 |
2007.5.29(火)
たぶん10年ぶりぐらいだろうと思います、ジーンズを買いました。先日、ベージュ色のジャケットをプレゼントされたんですが、それに合うパンツがありませんでした。考えてみると、この10年というのはほとんどスーツかブレザーで過ごしていました。サラリーマンでしたから、いつ出張になってもおかしくありませんでしたし、突然の来客もありました。少なくともネクタイを締めれば何とかなるスタイルが定着していました。それはそれで服装で悩む必要がなくて良かったんですけどね。
ジャケットを見て、もう一度ジーンズに戻ってみたくなったという次第です。で、一本購入。一応、細身でOKでした。が…。腹が出てる(^^; そろそろ50代も終わりという年齢だから、まあしょうがないけど、理想と大きくかけ離れた我が身が情けない…。現実は現実として受け入れて、でも、皆さんにはお見せしません、、、たぶん。一人でこっそり楽しもうと思っています。
○詩とエッセイ『千年樹』30号 |
2007.5.22 長崎県諌早市 岡耕秋氏発行 500円 |
<目次>
詩
潮騒の墓地/わたなべえいこ 2 老人の夜道・夜陰のつむじ風/早藤 猛 4
さくら/さき登紀子 8 空がない ほか二篇/鶴若寿夫 10
藤の花・機縁/江崎ミツヱ 16 あばよ ちばよ/和田文雄 20
虫のいい話・氷枕/竜崎富次郎 22 ざわざ/松富士将和 26
海辺の風景から三篇/岡 耕秋 30
エッセイほか
『ふるさとの川 城原川』を出版して/佐藤悦子 36
暴力考(二)/中田慶子 40 古き佳き日々(二七)/三谷晋一 42
自由の鐘(三)/日高誠一 46 菊池川流域の民話(二四)/下田良吉 51
樹蔭雑考/岡 耕秋 59
『千年樹』受贈詩集・詩誌等一覧 60
編集後記ほか 岡 耕秋 62
表紙デザイン 土田恵子
潮騒の墓地/わたなべえいこ
ここは山の中腹
砕かれた貝が敷き詰めてある
わたしの足音だけの早朝
墓碑には義父の名前だけが刻み込まれている
戦死の公報がはいり
村葬を済ませて数ケ月
義父は帰ってきた
自分の墓標を焼いたそうだ
半身不随になって二十五年
八十七歳で逝った
五年祭の卒塔婆が
ひっそりと立っている
墨の濃さが
ひとつの法事のなごり
嫁いできて三十年
九十数軒の集落では
墓に入る人が多くなってきている
夫の友人の事故死
享年五十八歳だった
葬列で夫の吹く笛の音が
潮騒を消して響く
「お前はいまだにわたなべさん
戸部になりきれていない
どこのお墓に入るんだ」と皮肉る夫
翔ぶことも馴染むこともしなかったわたし
いつかこの墓地に眠り
潮騒を聞くようになるのだろう。
「お前はいまだにわたなべさん/戸部になりきれていない」というのは精神的なことなのか、ペンネームで旧姓(おそらく)の「わたなべ」さんを使っているからかなのか判然とはしませんが、後者だとすると多くの女性詩人に共通する悩み≠ネのかもしれません。もちろん「夫」によって様々でしょうが…。しかし「わたなべ」さんだろうが「戸部」さんだろうが「いつかこの墓地に眠」るわけで、その事実だけを作者は真正面に見ているように思います。
住所録によると著者は福島県いわき市平在住。私事で申し訳ありませんが、私の父親の実家がある街です。私も小学校3年生まで過ごしました。ですから「砕かれた貝が敷き詰めてある」墓地はかすかに記憶しています。葬列で笛を吹くということがあったかどうかは定かではありません。小学校3年生で経験した生母の葬列には無かったように思います。「潮騒を聞く」墓地、懐かしく拝読しました。
○詩とエッセイ『杭』48号 |
2007.5.20 さいたま市大宮区 廣瀧光氏代表・杭詩文会発行 500円 |
<目次>
■詩■
ブサコの森で ポルトガル…平野成信 2 旧金山(サンフランシスコ)の華人街(チャイナタウン)…棚橋民子 8
レイテからの雲・風…比企 渉 10 暦…大谷佳子 13
魂(みたま)ふり…尾崎花苑 16 私の今…池上眞由美 18
ひとりではない…和田 望 20 オリオンの三つ星が…白瀬のぶお 22
剪定/山丘桂子 24 ミーニャンとの携帯メール…二瓶 徹 38
オリオン…巴 希多 40 だるまさんが転んだ/不在の記憶…斎藤充江 44
五月…伊早坂一 48 寒椿…廣瀧 光 50
■エッセイ■
1945年8月15日の京城…河田 宏 26
三番日の娘 トゥイちゃん…平松伴子 30
無名だから言える 王様の耳はロバの耳…大畑善夫 36
晴れのち曇り…笠井光子 52
母(二)…郡司乃梨 54
またまた猫のはなし…三浦由喜 56
想う(天空に咲く奇跡の花)/遠藤冨子 58
■詩書紹介■ 平野成信詩集『道』を読んで…山丘桂子 59
■杭の紀■ 大畑善夫詩画集 TANMA 62
題字・槇 晧志
レイテからの雲・風/比企 渉
東の空から
純白の雲が近づいて来る
どこか南国の香を含みながら
鐘楼に佇む私に向って
どんどんと近づいて来る
ふと 戦死した父の思いが浮かぶ
六十三年前
祖国の勝利を信じて
異国での戦い
父は二十五歳で
カンキポットのジャングルで散華した
その状況を聞いたのは
私が二十五歳の時
部隊で一人生き残った上司
富山県の中川軍曹から
富山の自宅に伺い詳細を聞いた
あれから約半世紀
今は退職し
子や孫にも恵まれ
父の分まで
人生の幸福を実感している私や家族に
雲や風を乗り継いで
会いに来てくれたのだろうか
雲に向って深々と頭を垂れる
また 南方に戻って
戦友と語らって下さいと
三歳と一歳と七ケ月の孫に
あの戦争の話は何時できるだろうか
帰宅し雲と風のことを話した
妻が
お父さん 今度風が吹いて雲が来たら
私にも教えて お礼を言いたいから
雲や風は戦いはしない
人間の思いを世界中に届けてくれる
雲も風もありがとう
「東の空から」近づいて来た「純白の雲」に「戦死した父」を重ねた作品ですが、「また 南方に戻って/戦友と語らって下さい」と向ける言葉に父子の信頼を感じます。「お父さん 今度風が吹いて雲が来たら/私にも教えて お礼を言いたいから」と語る「妻」の言葉も良いですね。「三歳と一歳と七ケ月の孫に/あの戦争の話」をするにはもう少し時間が必要でしょうが、この姿勢も大事だと思います。本当に「雲や風は戦いはしない」のに、人間だけがいつまでも醜い争いを続けています。歴史の重みを感じさせる作品でした。
○詩とエッセイ『どぅるかまら』2号 |
2007.5.31 岡山県倉敷市 瀬崎祐氏発行 500円 |
<目次>
河邉由紀恵…母の物語 2 タケイリエ…俯瞰 4
北岡武司…助走 6 北岡武司…泣き声 7
北岡武司…リブッサ 8 瀬崎 祐…声の在りか 10
蒼わたる…紙魚 12 坂本法子…海のみえる喫茶店 14
坂本法子…雨が降らない 16 水口京子…アメトリン 18
川井豊子…朔太郎の形而上学 20 郡 宏暢…「見えるもの」の世界 24
タケイリエ…みんな、魂 25 河邉由紀恵…記憶のなかの風景をさがすはなびら 26
岡 隆夫…イタリアのコメ 27 山田輝久子…水 六題 30
沖長ルミ子…お付き合い 32 郡 宏暢…鳥の都市 34
郡 宏暢…波 35 境 節…待つ 36
境 節…打って 36 境 節…生きる 37
田中澄子…ヒロ子さんが 38 長谷川和美…浄化 40
斎藤恵子…みずうみ 42 秋山基夫…対枕 44
紙魚/蒼わたる
糊も不味くなったものだ
これほど米の生産も立派なのに
続飯はたっぷり塗られることが無くなった
化学糊は背と言わずたっぷりと
あらゆる所に塗りたくられる
蒸し剥ぎの楮 三椏 生剥ぎの雁皮
ああこうも和紙が高くては、
わし、わしとばかりも言ってられないもの
朽ち果てた土塀の中 鬱蒼とした雑草
住人の居ない母屋に並んだ蔵に
紙魚に食われ 綴じ糸の切れた
和本が数冊 板敷きに散らばっている
近く不動産屋の解体に身を任されて
紙魚も住めない野原と化すのであろう
日本中 是に類した蔵はその運命を
外材とツーバイフォーの建造物に委ねている
公私を問わず世界中にある文庫 図書館
美術館 博物館に収蔵されている貴重本
キリスト教 マホメット教 仏教 あらゆる
宗教に保管され 堅く護られている文書の山
紙魚の襲うすき間などはない
西本願寺三十六人集の羅文紙や打雲 飛雲など
紙魚は狙っても防備の網はくぐれまい
それにしても古書本屋もどんどん潰れていく
文字もパソコンにどんどん吸い込まれていく
紙魚よ しみよ 文化とともに何処へ行く
最終連でドキリとさせられました。「紙魚」も「文化」の一部だったんだなと、改めて思います。「文字もパソコンにどんどん吸い込まれていく」というフレーズも考えさせられます。私はむしろ文字を「パソコンにどんどん吸い込ま」せて電子化した方が良いと思っています。蓄積や後の処理を考えると電子化のメリットは計り知れません。国宝の書画も電子化されて、誰もがその恩恵を受けられるようになりました。しかし「文化」という側面で考えると、本当にそれでいいんだろうかとも考えてしまいます。おそらく原本が「保管され 堅く護られてい」くことと、便利さとの両立がこれからの方向でしょう。あるいは電子化によって新しい文化が生れる可能性も否定できません。投げかけた波紋は大きい作品だと思いました。
○詩誌『しけんきゅう』148号 |
2007.6.1
香川県高松市 しけんきゅう社発行 350円 |
<目次>
<詩作品>
りんごの皮は。…葉山みやこ 2 ギルモアの宝石(1)五剣山物語…笹本正樹 4
十月の水辺に/十一月の水辺に/十二月の水辺に…水野ひかる 6
遠雷…秋山淳一 9 三体の人形…ネットコーナー 作者:A 10
ビニール の ひも…くらもち さぶろう 12 しあわせくらべ抄…山本 潔 14
雨日記…かわむら みどり 16
<創作> おい、あいつと…(ナルシスへの伝言シリーズ)…さや まりほ 17
<エッセイ> 夢のような風景…山本 潔 22
<評論> ヒバリ の さえずり を どう きく か
P.B.シェリー「ヒバリ に よせる」…くらもち
さぶろう 26
広場(すくうぇあ)…30
雨日記/かわむら みどり
雨が降る
雨が降る
長雨のはしりのような しとしとと降る雨じゃない
ないないつむりをするような
ききわけのない雨の音
「山の上の龍が雨を降らすんだよ」
だれかの声に振り向くと 風がうずをまいている
この町はいつもどこかで祭りがあって
きつねや龍や天狗が空を飛び
八百万の神さまが 隣近所にいらっしゃる
雨のなかでふくろうが鳴いている
わたしがこの町に とうとう居着いてしまったのも
日常と幻想のなかを 時が行き来しているからか
雨が降ってきた
おだやかな雨じゃない
白刃のように閃光が走ると
一瞬 雨は空に留まる
そしてふたたび
虹の記憶を映したような あじさい花に
雨はすいこまれていく
私はシャンソンが好きなので、「雨」というとついシャンソンの数々を思い出してしまいます。シャンソンでも雨は大事な素材ですが、この作品は視線がちょっと違います。「ききわけのない雨の音」、「一瞬 雨は空に留まる」などのフレーズは作者独自の世界で、1世紀前のシャンソンとは違う、まさに現代詩の世界です。「きつねや龍や天狗が空を飛び/八百万の神さまが 隣近所にいらっしゃ」り、「日常と幻想のなかを 時が行き来している」「この町」、謂わば日本の中でも古い方の町でありながら、現代を描いています。現代≠象徴する言葉は何ひとつありませんが、それを感じさせる不思議な作品です。堪能させてもらいました。
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