きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.4.8 神奈川県真鶴岬 |
2007.5.30(水)
日本ペンクラブの第51回総会が15時から東京會舘で開催されました。総会出席者は110名ほど。役員改選の年だったからか、例年になく出席者が多いなと思いました。議案は全て執行部原案通り可決。私も全てに賛成票を投じました。意見交換も1時間に渡り、活発な意見が飛び交って、熱気を感じたほどです。特に言論表現委員会提案のペン声明に関する意見が熱を帯びていましたね。
役員改選で大きいのは会長の交代です。前会長(写真右)井上ひさしさんは4年の任期で勇退され、新会長は専務理事だった阿刀田高さん(写真左)に決定しました。新専務理事は常務理事だった浅田次郎さんになりました。委員会組織も大きく統廃合されましたが、詳細を記録しませんでしたので、会員の方は会報で確認してください。
わが電子文藝館委員会も大きく変わりました。館長・秦恒平理事、委員長・城塚朋和さんは勇退。新理事、新委員長として大原雄さんが決定しました。大原理事の指名で私は従来通り副委員長として留任が決まりました。任期は2009年の総会までです。今度は本腰を入れて作品蒐集に努めますので、会員の皆さまは覚悟しておいてください(^^;
懇親会はちょっと多忙でした。事務局から駐日クロアチア大使のシュタンブク閣下を紹介され、閣下の詩集の企画出版を打診されました。閣下は詩人で、翻訳された詩集を日本で出版したいそうです。しかし日本では自費出版が主で、企画出版は相当難しいことを回答申し上げました。一応、原稿を拝読して可能かどうか検討することにしましたけど、よほど売れる見込みがないと難しいでしょうね。500部ほどを買い取るなら企画出版という形を採れますが、これはお伝えしませんでした。クロアチアではどうなのか聞き漏らしましたけど、日本の詩の現状に驚いておられ、ちょっと恥ずかしい思いをした次第です。
その後エジプト人の作家、日本の俳人、作詞家、デザイナー、編集者などを紹介され、ほとんど呑む間もなかったほどです。二次会はいつもの銀座のクラブへ。ここでようやく一息ついて、出されたお酒がチリワインの「フロンテラ」。初めて呑みましたけど、まろやかな私好みの味でした。4〜5杯呑んだのかな? 酩酊までは行きませんでしたが、帰りの電車の時間を忘れるほどでした。多くの人とお話しして疲れたなという感じはありました。でも楽しかったです。特にクラブでは二度目にお会いした同年代の男性と1時間ばかり話し込んで、カラオケをやって、楽しませてもらいました。ありがとうございました!
○石田天祐氏著『虚妄の人 野望の人』 |
2007.4.25 京都府木津川市 ギルガメッシュ出版刊 3000円+税 |
<目次>
虚妄の人…5. 野望の人…78
遷都…223. 春秋遼遼…247
憂国…327. はしけやし…369
夢のあと…399
「虚妄の人」は杜甫と同時代に大詩人を夢見た楊春という青年を、その少年時代からの友人・李啓宗からの視点で捉えた異色の詩人伝と云えましょう。楊春、李啓宗ともに架空の人物と思われますが、玄宗皇帝時代の中国を背景にして、詩人の生き方とは何かが問われて来ます。
「野望の人」は15歳で父により妓楼に1ヵ月余上げられ、女はもう嫌という気になったところを去勢された宦官・劉孟信の話です。戦国の世を400年ぶりに統一した隋の宮廷で身を立てる筋書きに胸躍らせながら読み進めました。しかし10人の皇帝に仕え、86歳になった孟信は国外追放に…。こちらは歴史とは何かを問いかけてきます。
「遷都」は旱魃、洪水に苦しめられる商の皇帝・盤庚の心理を描きます。
「春秋遼遼」は15歳を目前にした満州開拓部落の少年と、満州人の母と日本人の父との間に生れたカラモニとの初恋を軸に、敗戦直前の満州国を舞台にした活劇≠ナ、映画にしたいような作品でした。
「憂国」は百済の工匠であり高僧の阿非知(あひち)が、敵国の新羅の女王に招かれて大塔を建立する話。国家とは何かを考えさせられる意欲作です。
「はしけやし」は大君のみことのりによって新羅につかわされた雪連宅麿(ゆきのむらじやかまろ)が暴風雨に遭って死亡する話ですが、会話が全て古語である点が面白いと思いました。
「夢のあと」はこの集唯一の現代物で、同人雑誌の顧問だった木戸山人老人の通夜に集まったかつての同人たちを描いています。人生における夢とは何かを考えさせられました。
430頁に及ぶ以上の7作を2日掛けて読み終えましたが、やはり圧巻はタイトルともなった「虚妄の人」と「野望の人」でしょうか。特に「野望の人」は400字詰原稿用紙400枚ほどの大作で、素材の面白さとも相俟ってお薦めです。手にとってお読みいただければと思います。
○CD『嘘だと言ってください』 |
「嘘だと言ってください」を広める会発行 非売品 |
<曲目>
明日が来なかった子どもたちから、今を生きるあなたへ
長崎の鐘
嘘だと言ってください
ソプラノ/落合祐子 作詞/鶴
文乃 作曲/寺井一通 構成/福田 正
嘘だと言ってください 詞/鶴
文乃 曲/寺井一通
嘘だと言ってください あなたが死んだなんて
二十年ぶりの同窓会
嘘だと言ってください あなたの名前の上に
ひとすじに引かれた 黒い糸が悲しい
愛するゆえに 育てられない愛なんて
私たちだけで もうたくさんです
あなたに言えないまま 長崎の街を去った
ただひとつの言葉「被爆者です」と
好きです好きだったから私のこの不幸を
あなたにあげるのはどうしても出来なくて
夜汽車の窓から 別れを告げるこの私に
あなたは黙って手紙を差し出した
「嫌いになったのでしょうか。
もしそうなら仕方のないことです。
引きとめられない自分が悲しくて仕方ありません。
幸せになってください。祈っています。
二十年もすればあなたの人生も決まっているでしょう。
幸せならそれでいいし、、、、、
不幸せなら、なおのこと、、、、、、
二十年後の同窓会に来て欲しい。
必ず来て欲しい。待っています。」
嘘だと言ってください あなたが死んだなんて
愛を確かめに 来たというのに
嘘だと言ってください あなたも被爆者なんて
知っていたのですか 白血病だったと
何故私はあなたのもとを去ったのですか
何故あなたは止めなかったのですか
心もこの身体も ボロボロにすりきれながら
それでも生きてきた この私の
私のこの人生に どんな意味があったのか
見知らぬ人波に 隠れて生きてきた
教えてください どんな意味があったのですか
教えてください 私の人生を
嘘だと言ってください あなたが死んだなんて
二十年ぶりの同窓会
嘘だと言ってください あなたの名前の上に
ひとすじ引かれた黒い糸が悲しい
何故私はあなたのもとを去ったのですか
何故あなたは止めなかったのですか
八月九日は あまりにもむごすぎます
愛する力さえ 奪い去ってしまった
ささやかな夢さえ 奪い去ってしまった
ささやかな夢さえ ふたりの上から
ペンクラブ総会後の懇親会で作詞者の鶴文乃さんより頂戴しました。2005年につくばで開かれたピースコンサートで唄われた曲のCD化のようです。歌詞は「明日が来なかった子どもたちから、今を生きるあなたへ」とともに添えられていましたが、ここではタイトル曲の歌詞を紹介してみました。悲惨な歴史に翻弄された庶民の憤りが静かに語りかけてきます。曲も透明感のあるものでした。一度は聴いてほしい作品です。
○詩マガジン『PO』125号 |
2007.5.20 大阪市北区 竹林館発行 840円 |
<目次>
特集 海
シェイマス・ヒーニーの海…薬師川虹一…9
海と母性とそしてエロスと―アルチュール・ランボー『地獄の季節』からポール・クローデル『真昼に分かつ』へ…水崎野里子…13
海は詩人にとって恰好のテーマ…原 圭治…17
詩人と海…三方 克…24
海の詩篇三つ―「ひと」にとっての海という存在…佐古祐二…32
海〜文学と歴史の道で(5)〜…佐相憲一 35
海の児童文学…藤原節子…39
淡路島通う千鳥の泣く声は?…蔭山辰子…45
「海は死んだ」−菊村到「あゝ江田島」より−/海…中野忠和…48
海のシークレット…北山りら…52
海…日野友子…54
あぁ 海よ…神田好能…55
海…おれんじゆう…56
詩
水屋 二編…安水稔和…58 沁みの記録(5)…吉川朔子…60
董暦…鈴木東海子…62 冬鳥の来る池…藤原節子…64
ある思い出…佐古祐二…66 風なわたし…北村こう…73
目ん玉入れ替え…丈六友子…74 川/黒曜石…中野忠和…76
過去・今日・未来…長谷川嘉江…79 自画像…加納由将…80
遺伝アルゴリズム考…北村こう…82 甘え…神田好能…88
水のうた…堀 諭…90 サクラ…藤谷恵一郎…92
ことばの流れのほとり…梶谷忠大…93 こわれた信号/ひとよ…左子真由美…99
ふぃくしょん/公開授業…高野信也…106. 遠い風…蔭山辰子…107
朝が美しいのは…佐相憲一…108. 蘇生/微熱…川中實人…109
とぶ…牛島富美二…112. 男の子っぽさ、女の子っぽさ…星乃絵里…118
靄/循環(リング)…北山りら…119. 一人全部支えられず…山田満世…120
限りある星 地球に住む…清沢桂太郎…121. 人に伝える…関 中子…128
*
扉詩 ♭と♯ おれんじゆう…1
ピロティ 詩人とマラソン 門脇吉隆…7
英語詩日本語訳 「親愛なる人へ」 高野信也…57
舞台・演劇・シアター 震災から十年を過ぎて 河内厚郎…70
ギャラリー探訪 パリ1900年・ベル・エポックの輝き 堀 諭…72
一冊の詩集 桝谷まさる詩集『木だし』を読む 佐藤勝太…84
ビデオ・映像・ぶっちぎり 縄文ヴィーナス 丈六友子…87
エッセイ 続アメリカ黒人詩の流れ 堀 諭…100
一編の小説 三島佑一『あの日は再び帰らず』 梶谷忠大…114
この詩大好き 佐藤春夫「夕づつを見て」 水口洋治…116
竹林館BOOKS 奥村和子詩集『めぐりあひてみし〜源氏物語の女たち』を読んで 川本説子…117
詩誌寸感 −詩人のアドレス− 藤谷恵一郎…129
*
▽詩を朗読する詩人の会「風」例会…116△
▽受領誌一覧…131△
▽執筆者住所一覧…132△
▽編集後記…133△
▽会員・誌友・定期購読募集/広告掲載案内/「PO」育成基金/「PO」例会/「PO」ホームページ/投稿案内134△
海/日野友子
木曜日の夜
宅配便で「海」が届いた
A4のコピー用紙5〆入くらいの大きさの
白いダンボール箱に
「海−取り扱い注意」
と 赤い字で書いてある
持ってみると
重いような 軽いような
たゆん たゆん
中で たっぷりの液体が揺れる感触がする
差出人は と見れば 海
海に知り合いがあったかな
どこの海だろう
――これは日本海側じゃなくて 太平洋側の海だな
と 夫が言う
――南の方の海かな 波の音が日向の海に似てる気が
する
と 夫が言う
そう言われれば
箱の中から かすかに波の音が聞えてくる
よせて ひいて よせて
耳をすませば 風の音も聞えてくる
潮の香が漂っている
少し甘くて 塩からい 海辺の風の香だ
波打際で 貝がピュッと潮を吹く
砂蟹が岩の下に這い込んで行く
岩に貼りついたフジツボが
波に洗われて光る
トンビがゆっくりと旋回する
ひいて よせて ひいて よせて
ゆっくりと せりあがり
なだれていく 海
――穏やかな春の海だ
と 夫が言う
波間で うらうら陽の光が開いては すぼむ
海が
広がっていく
「特集 海」のなかの一編です。「宅配便で『海』が届いた」という思考の柔軟さに驚きました。「たゆん たゆん」という擬態語も良いと思います。海ですから水曜日の朝かと思ったら「木曜日の夜」。これは計算したかどうか判りませんけど、効果的と云えましょう。
「夫」が出てくることによって作品の拡がりも出たと思います。この夫婦にとって海は手中のもの。そんな読み方もできます。若い夫婦ならこれからを手中にする、年配ならこれまで手中にしたものの喩と私は捉えました。最後に「波間で うらうら陽の光が開いては すぼむ/海が/広がっていく」とありますから、ここは若い夫婦として読んだ方が良いかもしれませんね。ボンヤリしていた脳を刺激させられた作品です。
○詩誌『1/2』24号 |
2007.6.10 東京都中央区 近野十志夫氏発行 400円 |
<目次>
タクト・貧しい国・学歴/野川ありき 2 陽をあびながら・署名/黒 鉄太郎 4
セピア色の写真・ある馬の物語/枕木一平 7
大臣の妻なら/芝 憲子 10
日々/館林明子 12 ネギ4/辛 鍾生 14
むこうには/宮川 守 20 笑いの壷/薄葉久子 22
いのち/宮本勝夫 24 何もない昼下り/佐伯けんいち 26
幸せになってたまるか/都月次郎 30 退職−そして今/西條スミエ 32
睡没/呉屋比呂志 33 野良を嗤う・詩の写真 桜2編/近野十志夫 36
あとがき 40
幸せになってたまるか/都月次郎
六十年生きて四十二年働いて
もうすぐやっと停年退職
太い首輪になっていた
住宅ローンも同時に終わる
老後は盆栽庭いじり
孫のおむつも取り換えて
おじいちゃんほらほらじゃまよじゃま
ゲートボールに精出して
やがて寝た切りぼけ老人の仲間入り
思えば働き続けた人生で
曲がりなりにも恋をして
子供ができればいやでも父ちゃん
親は子の為家のため
住宅ローンに教育ローン
車のローンに家電ローン
お墓のローンまで肩に乗り
肩腰痛いは頭は禿げる
そうしてやっと六十歳
平凡平穏が何よりで
人生大過なく過すことが出来ました
これも偏に皆様方のご厚情の賜で
ふん なにいってやがる
そんな幸せはくそくらえ
女房は退職金持ってフィリピン
メイド雇って金持ち暮らし
長男イレズミ運転手
出逢いサイトで嫁が来て
次男はオカマのぷー太郎
家庭なんぞはとっくに崩壊
どうしようもねえ〜
これも私の不徳の致すところで
どうせなれない幸せならば
こちらの方からけ飛ばして
あばよバイバイなんにもいらぬ
もともと始めは無一文
水のみ百姓のせがれの出
貧乏暮らしにゃなれている
ままよ行こうぜどこへでも
小林一茶や山頭火
夕陽のガンマンもただ一人
団塊世代の落ちこぼれ
平成の仙人も悪くない
日本列島狭いが広い
大地をねぐらのアホウドリ
何とかなるのが人生で
開き直りが一番強い
さあさ皆さんご一緒に
幸せになんか なってたまるか!
あぁ、同じ年代の人だなと思います。「幸せ」というのは何かコソバユクて気色悪い、そんな意識を「団塊世代」の人たちは私も含めて持っているように思います。70年安保で騒ぎに騒いで、いつしか会社人間。それこそ「親は子の為家のため/住宅ローンに教育ローン/車のローンに家電ローン/お墓のローンまで肩に乗」っけて働いてきましたけど、「もうすぐやっと停年退職」となった今、何をやってきたんだっけ? と多くの人が感じているように思います。その端的な表現が「幸せになんか なってたまるか!」でしょう。さあ、この年代、これからどんな生き方をするのか、我ながら興味津津というところですね。
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