きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.5.20 栃木市 とちぎ蔵の街




2007.6.2(土)


 夜、ポストに行こうと思って庭に出ると、ちょうど月が出ようとしているところでした。橙色の大きな月。満月は数日前だったように思いますから16夜? 17夜? ちょっと欠けていましたけど見事でした。そのままクルマで10分ほどの郵便局本局まで眺めながら向かいました。なんか、拾い物をしたような佳い夜。一日中パソコンに向っていると、なんでもない自然現象に感動しやすくなるのかもしれません。月のお陰でガサついていて精神が少ししなやかになったような気がします。たぶん、錯覚でしょうけどね(^^;



中正敏氏詩集『星ではない』
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2007.6.28 東京都豊島区 詩人会議出版刊
2000円

<目次>
序 6
 *
空無 8       空の道 10
来状 12       死語 14
蜘蛛の巣 16     豚 18
裏表 20       骰の罠 22
真顔 24       状況 26
 **
搾取器 30      童話 32
CT検査 34     クリッピング…… 36
前夜 38       星ではない 40
エピック・トピック「余聞」 42
 惨劇 42       後悔 43
 豚か 44       生死 45
 拉致 46       大本営 47
 風幡 48
鹿 50         一生 54
あとがき  57



 星ではない

星ではない
星になりたくはない
大きな旗のなかの星の一つに
されたくはない

にんげんなのです
ひとは水にすぎぬとしても漏らさぬよう
光りの糸で たんねんに
いのちの籠を編むものだと思ってきた

いのちは自分のもの
それぞれが尊び
支配者のくにのために捨てたくはない

改憲すれば星一つの兵にされる
言葉で抗いつづけ
法は平和のためにあると希望を抱きたい

 いつものことですが、中さんの詩集は紹介したい作品ばかりで困ってしまいます。今回も死語になったのではない/受ける耳が死んだのだ≠ニいうフレーズのある「死語」と、本詩集のタイトルポエム「星ではない」のどちらを紹介するか迷いに迷ってしまいました。結局、1誌1作を紹介するという基本に拘ってタイトルポエムを転載することにしましたが、この詩集はぜひお求めになって読んでいただきたいと願っています。

 第1連の「大きな旗のなかの星の一つに/されたくはない」はもちろん星条旗のことを言っています。米国の第51州になりたいと望む若者もいるようですが、徴兵制で月に100人を超す戦死者の一人になりたいのかと言いたいですね。最終連の「改憲すれば星一つの兵にされる」現実を過去の歴史から学んでほしいものです。
 この作品で最も重要なのは、最終連の「法は平和のためにある」という概念だろうと思います。この概念は今のところ日本国憲法、南米コスタリカ憲法など世界でも限られた国にしか存在しません。しかし、いずれこの概念が世界を席巻します。紆余曲折はあるでしょうが、それは歴史の教えるところです。そこに著者も「希望を抱きたい」と言っているのではないでしょうか。
 世界に誇る日本国憲法が改悪されようという今、多くの国民に読んでもらいたい詩集です。



梁瀬重雄氏詩集『野辺の唄』
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2007.6.15 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊  2000円+税

<目次> 表紙題字・版画絵/渥美大童 写真/梁瀬重雄
 序章
野辺の唄 10
 第一章
正月 一 14     正月 二 16
正月 三 18     正月 四 20
百姓 一 22     百姓 二 24
百姓 三 28     百姓 四 30
百姓 五 32     百姓 六 34
酉年 36       涙も魂も 38
水田は鏡 40     秋 42
収穫の秋 46     秋の日に 50
音色 52
 第二章
誕生日 58      村の誕生 60
土壌 64       馬は農業の主役 68
案山子は田の神様 72  郭公 74
涙は虹の掛橋 78   農村哀歌 82
日々 86       関東平野 90
田園に先祖の霊 96  かわさと
(回想) 100
 第三章
ウイグル族 108
.   テンゲル 110
ゴビ砂漠 114
.    砂漠 118
高昌故城 122
.    交河故城 126
葡萄のトルファン 28  凛とした残像 132
解説 石原 武 136
あとがき 142



 百姓 六

百姓の安心は
稲株の毛根が確り大地に
張っていることだ

太陽は光と影を生み 光は影を連れ歩き
風雨はただ葉茎を揺するだけで
根まで動かす事は出来ない

百姓はどんな苦境の時代も
その真心がしっかり大地に
屈折もせず埋もれている事だ

栄誉も欲もいらない
(ひざまず)きながらも
安心して働く大地があればいい

百姓の流す涙も汗も
人類の生き行く確かな命の
輝く灯火であればいい

もし此の世に食糧飢饉が来るならば
無数の流れ星が遠く宇宙の彼方から
地球に警報を鳴らしにやって来る事だろう

 現代日本の代表的な農民詩人・梁瀬重雄さんの第6詩集です。ここでは「百姓」シリーズの六を紹介してみました。「稲株の毛根が確り大地に/張っている」ように「百姓はどんな苦境の時代も/その真心がしっかり大地に/屈折もせず埋もれている事」が大事だとするところに農民詩人の面目躍如たるものがあると思います。「栄誉も欲もいらない/跪きながらも/安心して働く大地があればいい」というのはサラリーマンでは出来ない羨ましい感覚だと云えましょう。「百姓の流す涙も汗も/人類の生き行く確かな命の/輝く灯火であればいい」と心底思いますね。おバカな亡国農政でも、どっこい百姓は生きている、そんな逞しさを感じさせる詩集です。



詩誌『驅動』51号
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2007.5.31 東京都大田区
驅動社・飯島幸子氏発行 350円

<目次>
「驅動」年表(2000年5月〜2007年1月)40    現代詩と「笑い」(六) 周田幹雄 20

ラストの酒盛り/長島三芳 2        アルパカの毛糸に出合って/飯島幸子 4
風と光と 他一編/星 肇 6        コラテラル・ダメージ/中込英次 10
カモメの知らせ/池端一江 12        痛点 他一編/周田幹雄 14
アホウドリって 差別語? 他一編/小山田弘子 17 黄色い猿/舘内尚子 26
お食事処<一楽> 他三編/忍城春宣 28   上京の夢はやぶれたが/金井光子 34
狼煙/内藤喜美子 36            おおさかべん西鶴 日本一の商都/桝井寿郎 38

同人住所・氏名 46             寄贈詩集・詩誌 46
編集後記                  表紙絵 伊藤邦英



 浅間詣での立ち寄り処 <江戸前 松葉寿し>/忍城春宣

富士五湖めぐりの
旅の仕上げに
 来ちゃいました
年配の女性が一人暖簾
(のれん)をくぐり
店に入ってきた

調理場の奥から
 いらっしやいましー
かみさんの声につられて
カウンターのなかの主人が
女性に深ぶかとお辞儀する

浅間神社境内の柄杓
(ひしゃく)の水で
洗い清めてきたばかりの細い指で
出された鮨を摘まみながら
女性は帰りのバスの時刻を気にする

わたしはカウンターの隅で
軽く炙
(あぶ)った歯ごたえのある
マグロのアゴを肴
(さかな)に地酒を舐めながら
刺身の盛り込みを注文する
ほどよい甘みと粘りある魚沼産の
コシヒカリが口のなかでハラリとほどける

このヤリイカはおいしいですね
といってみる
 それは漁師がとってきたから
 漁師を褒めてくれ
主人の素っ気無い返事が返ってくる

門前まち 須走
ちょうちん坂のまんなかに
浅間詣での立ち寄り処
<江戸前 松葉寿し> がある

風光る 須走には
いい店 いい水
いい人がいる

 「お食事処<一楽> 他三編」として4編が載せられたうちの、4編目の作品を紹介してみました。「それは漁師がとってきたから/漁師を褒めてくれ」と言う「主人の素っ気無い返事」が良いですね。静岡県小山町須走は私にも馴染みの土地ですが、冨士山麓の小さな街です。しかし自衛隊の教育機関・富士学校があって、全国から若い隊員が集まってきます。そのせいか街は意外なほど垢抜けています。「素っ気無い返事」は静岡県東部の気質かもしれませんが、そんな垢抜けた地方の特色であるようにも思います。最終連はちょっと褒めすぎのような気もしますが嘘ではありません。私の処からはクルマで30分ほど。久しぶりに訪ねてみたくなった作品です。



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