きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.5.20 栃木市 とちぎ蔵の街 |
2007.6.3(日)
今夜も本局まで郵便を出しに行って、月は? と思いましたが出ていませんでした。まあ、夜中の散歩のつもりでクルマを走らせましたから、月は出ていなくても良かったんですが、昨夜の月が見事でしたから、ちょっと期待したんです。
今夜の手紙は8通。いただいた本の礼状がしばらく滞っていましたので、とりあえずケリがついたかなと安心して、クルマを降りようとしたら、ん? なんと助手席のバッグの下に1通残っていました。やれやれ。○○さん、ごめんなさい、明日投函します。
私の住んでいる地域は戸数250軒ほど。地域内にポストはひとつしかありません。回収は1日1回だけだったと思います。私の家からポストまで歩いて8分。ついついバイクやクルマで行ってしまいます。どうせクルマで行くんだったら本局まで行くかぁ、ということで、最近は本局まで足を延ばすようにしています。本局のポストは1日に10回ぐらい回収しているようですから、届くまでに1日は短縮できるだろうと思っています。終日パソコンに向っていると、やっぱり疲れますから気分転換の意味もあります。田舎暮らしも悪くはないんですが、そういう面での不便さはありますね。
○谷口謙氏詩集『漁師』 |
2007.5.30 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税 |
<目次>
両耳出血 8 スタンド 11
こんなことも 14 寒夜 16
家出 21 母子家庭 23
送り 26 可憐とは 29
不明遺体 31 老婆が 33
朝の死 35 知人 37
紫の舌 39 鉄亜鈴(バーベル) 42
宵宮 45 弁当屋さん 49
焼死体 50 専門外来 55
遺書なし 58 炎天下自宅土上にて 61
迷い 64 郷里の海で 67
去年の患者さん 70 ノータツチ 73
書いてはいけないこと 書かねばならぬこと? 75
放置 78 教員の祖母 80
分裂病 82 典型的な 84
統合失調症 86 八月上旬と推定 88
救い 91 湯水のなか 94
吐物軽度血性 96 諍い 99
窒息死ではない 101. 漁師 104
三つの診断基準 107. 失血死 110
労災災害死 113. 二つの蛇口 116
首を振る 120. 六六% 124
羊羹 128. 数秒 131
ダブルヘッダー 133. 公道にて 139
搬送先 142. 暖冬だが 145
老希の生涯 148
あとがき 152. 著者略歴 153
漁師
七十九歳 男 元漁師
十月二日 朝から調子が悪い
午後六時 夕食も取らず就寝
翌三日午前五時頃
横に寝ていた婆さんはうめき声で目が覚める
ウーン ウーン ウーン
聞いたのは三回 起きて手首を握ったら脈がなかった
娘が三人 何れも町内に嫁している
一人が救急車を呼んだ
五時五十九分P病院着 すでに心肺停止
六時二十六分 死亡確認
心不全だろうとの意見
七時三十分よりA署霊安室にて検視
小柄 がっちりした体格
硬直全身になく
死斑背面のみ 淡赤紫色 弱圧退色
顔面 全身皮膚うっ血なし 普通の皮膚色
眼球透徹 瞳孔左右とも八×八ミリ
結膜溢血点左右上下ともなし
総入歯 耳鼻口よりの出血なし
脱糞なし 排尿少々
両手に爪白癬
両側頸動脈怒張著明
心臓血採取
後頭窩穿刺クラール
室温一九度
直腸内温度三四度
病名は虚血性心不全
死亡時間はP病院の決めた二十一日午前六時三十六分とする
――
生年月日 大正十四年五月二十一日
ぼくより七日年長
娘三人死亡直後にはせつけている
考えてみればお爺さん いい最後だったかな
海を恋い毎日海岸に立っていたとか
一週間先輩のあなたの生涯が羨ましい
無名の生涯だってよかった
医者嫌いで二十年未受診だった由
著者は開業医ですが、警察からの依頼で検視も行います。これまでも検視詩集として6冊を出版しており、今回が7冊目となりました。1冊に50件として7冊で350件。それをこの10年ほどで出していますので、単純計算で年に35件ほどの検視をおこなっているんじゃないでしょうか。それは毎月3件になります。いかに不自然な死が多いかの証左でありましょう。
紹介したのはタイトルポエムです。著者と同じ年齢で、たった1週間違いで視る側と視られる側に分かれたとはいえ、「一週間先輩のあなたの生涯が羨ましい」と著者の視線はあくまでも優しく死者を見ています。この視点があるからこそ不自然な死も作品化できたのではないかと思います。死を身近に感じさせてくれる詩集です。
○詩誌『花』39号 |
2007.5.20 東京都中野区 菊田守氏方・花社発行 700円 |
<目次>
評論
私の好きな詩人(2) 村野四郎の人と作品−人間存在と美意識/菊田 守 22
詩と笑いについて −相対的な笑いと無限性をおびた絶対的な笑い/佐久間隆史 42
詩
お若い/菅沼一夫 6 輪郭 −還暦に/原田暎子 7
猫と仕切りと隣の奥さん/鈴木 俊 8 もってのほか/坂東寿子 9
肩を叩く/石井藤雄 10 じめんになる/清水弘子 11
揺れるままに/鈴切幸子 12 流氷/飯島正治 13
悲歌 地平を生きる惑いのとき/柏木義雄 14
上州の風/田村雅之 16
狐の嫁入り/酒井佳子 17 虫の賦/天路悠一郎 18
猫で 犬の庄左−信玄史外伝−/中村吾郎 20
白梅/呉 美代 21
鶯をさがす/林 壌 26 匂う手紙/甲斐知寿子 28
吾亦紅(われもこう)/水木 澪 29 窓/湯村倭文子 30
迷程/和田文雄 31 平凡な暮し/馬場正人 32
ひこばえ/小笠原 勇 33 ヘブンリイ・ブルー/神山暁美 34
ひょんの木に出会った/北野一子 35 林道で/都築紀子 36
思い出というもの/青木美保子 38 マユミ/佐々木登美子 40
七階のレストランの窓から/川上美智 41 夏の夜には/秋元 炯 46
冬/山田隆昭 48 よりそう時間/山嵜庸子 49
発光/峯尾博子 50 ゆずの花/高田太郎 51
木無(ぶな)/宮崎 亨 52 清朝宦官(かんがん)日録 その3/山田賢二 53
爛れた月/篠崎道子 54 ~\千代に五千代に/狩野敏也 56
異形の樹/鷹取美保子 58 寓居/丸山勝久 60
船霊/宮沢 肇 62 春は霞みて/菊田 守 64
エッセイ
落穂拾い(5)/高田太郎 66 木の花 木の実 (一)卯の花は匂うか/篠崎道子 67
書評
抒情の痛みと超越−宮崎亨詩集『空よりも高い空の鳥』−/中村不二夫 68
田村雅之詩集『エーヴリカ』を読む/季村敏夫 70
ポジティブに生きる−都築紀子詩集『陽の下で』評/小野恵美子 72
「花」38号同人会報告/宮崎 亨 74
掲示板 75
編集後記 76
ヘブンリィ・ブルー/神山暁美
きりりとねじった蕾を
いつのまにかほどいて
青をひろげる朝顔
心のかたちした葉先が
おとこの眸にゆれる
「しずかな夏だ」
つぶやきながらおとこは
記憶の襞をたたむように
まぶたをとじた
空と海
わずかな色の差で
水平線をたしかめる
ただひとつの敵影も
見逃すわけには
いかない
双眼鏡を手に
おとこは艦橋に起っていた
視界を満たすのは
緊張の青 蒼 碧
明日はない
今だけを生きて
空に海に
散っていった者たち
ヘブンリィ・ブルー
花の命は
咲ききった昨日いちにちを
しっかりと握りしめたまま
今日の庭を彩っている
「ヘブンリィ・ブルー」……西洋朝顔の花の名
第3連で「ただひとつの敵影も/見逃すわけには/いかない」、第5連に「今だけを生きて/空に海に/散っていった者たち」とありますから、先の大戦のことを言っていると思います。「おとこ」は父上のことでしょうか。「艦橋に起っていた」父親は海軍の高位の軍人だったと思われます。その父親は生還して「記憶の襞をたたむように/まぶたをとじ」ます。「庭を彩っている」「ヘブンリィ・ブルー」を見て「緊張の青 蒼 碧」を思いだしているのでしょう。青に仮託した戦場の「空と海」、「今日の庭」が60年を経て同一化した見事な作品だと思います。細かい配慮もなされていて「きりりとねじった蕾を/いつのまにかほどいて」というフレーズに「おとこ」の気持がほぐれていく様子、「心のかたちした葉先」には「ヘブンリィ」と相俟った「命」を感じさせられます。
○詩誌『樹氷』154号 |
2007.5.31
長野県長野市 非売品 中村信顕氏方樹氷社・有賀勇氏発行 |
<目次>
扉詩 落書き/山岸敬於 1
作品
気弱なユダ/松田富子 4 サンザ・ムビラ/中村信勝 6
大樹(あなた)/清水義博 8
詩論 詩が書けない時に考えたこと/宮崎 亨 10
作品
遠い旅・「病気」から脱出して/松村好助 14 あんち えいじんぐ/天瀬夕梨絵 18
朝の音/細野 麗 24 四人の母たちと描/岸 ミチコ 26
素数/山岸敬於 29
宮崎 亨詩集『空よりも高い空の鳥』30
宮崎 亨詩集『空よりも高い空の烏』を読んで/諫川正臣 32
長野県詩集39 作品賞「僕が一年で一番好きな日」/山岸敬於 35
誌上詩画書展「天上大風」/西沢泰子 36
連載「昭和 ふるさと百景」/清水義博 40
エッセイ 小諸生れの俳人 臼田亜浪の文学/有賀 勇 41
作品
スプーン/宮崎 亨 46 冬の蝶(2)/中村信顕 48
冬蛍/有賀 勇 50 約束−城のさくら−/平野光子 52
樹氷の雫 54 読者投稿 55 受贈深謝 56
受贈図書管見 57 あとがき 59 同人名簿
表紙 清水義博
僕が一年で一番好きな日/山岸敬於
早春がほんの少しずつ動き始めてくる日や
真夏が心まで裸になれる日が
いい
僕が好きな日
晩秋の落ち葉の上を選んで歩いた日や
真冬が前ぶれもなく覆ってしまう日も
いい
でも
一番好きな日は大晦日
年齢のように残されていく
後悔と
陽炎のように見え隠れする
希望が
カーテンの隙間から訪れてくる
午前零時は
トコトン好きだ
にぎり拳が一度 とける瞬間だ
重い扉がまた僕には開かれる だろう
古びた革靴にソッと眠っているのは
ふたたび
歩いていく力だ
『長野県詩集』39で作品賞を受賞した詩だそうです。言語感覚がおもしろいなと思います。「真夏が心まで裸になれる日」、「真冬が前ぶれもなく覆ってしまう日」、「年齢のように残されていく/後悔」、「にぎり拳が一度 とける瞬間」などそれぞれに連に魅力的なフレーズが満載です。特に最終連の「古びた革靴にソッと眠っているのは/ふたたび/歩いていく力だ」がとても佳いと思います。眠っている力≠ニいうのは一般的な言い方ですけど、ここではそれが「古びた革靴にソッと眠っている」のです。しかも「大晦日」それを感じるわけですから、並の詩人にはないものをお持ちのようです。大事にしていってほしい感覚です。
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