きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.5.20 栃木市 とちぎ蔵の街 |
2007.6.11(月)
3泊4日の長野の旅も、今日は最終日。塩沢湖の軽井沢タリアセンに行って、「ペイネ美術館」「深沢紅子野の花美術館」「軽井沢高原文庫」「堀辰雄山荘」「有島武郎別荘」と巡ってみました。いずれも初めて訪れましたけど、なかなか風情があって良いものでした。
「深沢紅子野の花美術館」は「レストラン十四行詩(ソネット)」の2階にあります。入口で二人の中年女性が話しているのが耳に入りました。ねぇ、ソネットってなに?=@一瞬、驚いてしまいました。そうか、世間ではソネットという言葉は知られていないのか! 日本の詩が置かれている現状をまざまざと見た思いです。
写真は「堀辰雄山荘」です。木立の中で光に包まれ、暖炉から伸びる煙突がなんとも良い雰囲気でした。その後、喫茶室も併設されている「有島武郎別荘」でコーヒーを呑んで、12時には群馬県榛東村を目指しました。途中、カーナビの命ずるままに大好きな急カーブの多い県道を通って上信越自動車道へ。「榛名まほろば現代詩資料館」は月曜定休なのですが、私たちのために特別に開けて待っていてくれました。13時半到着。富沢智さん、ありがとう! 3種類のスパゲティ、おいしかったよ。
2時間ほど滞在して、帰路へ。所沢ICで降りて、埼玉県在住のお二人をそれぞれ自宅までお送りしたにも関わらず、帰宅は19時半。いつもは22時や23時の帰宅が当り前なんで、夕方に着くというのは珍しいことです。この早めの帰宅というのが効きましたね。疲れ方が全々違います。首都高のラッシュには20分ほど巻き込まれただけですから、夕方の帰宅としては上出来の方でしょう。
ここ10年ほどは出張がらみで全国を旅行しましたが、仕事ということもあって飛行機、新幹線、タクシーばかりの移動でした。久しぶりに自分で運転して移動したことになります。もちろん疲れましたけど、気分は爽快です。何より儲けの絡んだ会議や、気苦労の多い工場査察というのではないのが嬉しいかったです。好きな詩に関わるイベントに行って、好きな詩人たちに逢って、自腹で呑んで、これで文句があるなら異常です。次はどこに行こうかな。行ってみたい美術館、文学館が山ほど待っていてくれますね。
○清水榮一氏詩集『きしみ』改訂版 |
2007.5.31 宮崎県宮崎市 本多企画刊 1905円+税 |
<目次>
序文…ユニークな美術的効果 伊藤桂一 4
第一部
きしみ 14 蝉声 16
石塀 18 鉄路の花 20
白壁に 24 荒天の海 28
濃霧 30 朝陽 32
鮮魚 34
第二部
店頭にて 38 春景 40
病床にて 42 歓喜 44
深山にて 46 晩夏 48
暁景 50 悲しい視線 52
偶感 54 転落 56
第三部
早朝の工事場にて 60 駅の階段 64
雲雀 66 出稼ぎ 68
五月の空 70 光芒 72
つつじ(花精) 74 蘇鉄 78
疎林にて 80 こどもが…… 82
子供の泣き声 84 海 86
願望 88
あとがき 90
きしみ
独房の壁を通して 聞こえてくるような、
またふいに 鋭い刃物の先で 突き刺されでも
したような
暗い胸廓の内部の 肋骨のきしみ、
永訣。
1996年に刊行された第1詩集の改訂版だそうです。紹介した詩はタイトルポエムで、かつ巻頭作品です。おそらく1996年版もこの作品から始まっているのでしょうから、記念すべき第1作と言ってよいでしょう。詩人が生来的に持つ「暗い胸廓の内部の 肋骨のきしみ」をうたっていると思います。それとの「永訣」は感覚としての「きしみ」の言語化への決別と受け止めました。改訂版を出そうという意欲が理解できる作品であり詩集です。入手しやすくなったわけですから、ぜひご一読をお薦めします。
○詩とエッセイ『沙漠』247号 |
2007.6.5 福岡県行橋市 沙漠詩人集団事務局・麻生久氏発行 300円 |
<目次>
■詩
千々和久幸 3 小火
柳生じゅん子 4 光る窓
坪井勝男 5 矢車
藤川裕子 6 おませ桜
おだじろう 6 「忘れなさんな」(旧い日記から・その1)
おだじろう 8 母 入院(旧い日記から・その2)
宍戸節子 9 ちょっと違うだけで (11)アイスクリーム
平田真寿 10 鬚の男
秋田文子 10 脱皮
中原歓子 11 イーノック アーデン日本版(一)
河上 鴨 12 ラストラン
木村千恵子 13 板の間の記憶
風間美樹 14 白木蓮
菅沼一夫 14 大将変進曲
椎名美知子 16 木の椅子
原田暎子 17 桜舞う
坂本梧朗 18 イジメ・ジサツ
織田修二 19 不眠の刻
福田良子 20 牡丹
柴田康弘 21 夕ぐれの空から
麻生 久 21 Q氏の調書
■書評
おだじろう 23 坂本梧朗詩集《おれの場所》
菅沼一夫 24 山本みち子詩集〈オムレツの日〉
麻生 久 25 福岡県詩集2006年版/寸評(5)
■随筆
宍戸節子 27 つれあいの個展
河野正彦 28 少年の日の夢(続・詩の遍歴T)
(表紙画・カット) 宍戸義徳
矢車/坪井勝男
渓谷に渡されたロープで
鯉のぼりは 踊っていたが
昼下がり
風が凪ぐと
だらりと 吊るされて
みな 天を仰いだ
五月
萌えるみどり
前かがみの人影が消えると
間もなく
残された段々畑も 草むらに沈む
いつの頃からか
赤子の声も 聞こえなくなった
この季節
風音に紛れて
見えない矢車が 鳴りやまない
カラ カラ カラ
あの集落の空(うえ)で
最近、全国のあちこちで「渓谷に渡されたロープで/鯉のぼりは 踊ってい」るという風景が見られます。新聞や雑誌の写真では跳ね上がって勇ましい様子ですけど、しかし「風が凪ぐと/だらりと 吊るされて」しまうんですね。それを「みな 天を仰いだ」としたフレーズは面白いと思いました。しかも、ここには天を敬い仰ぎ見るということではなく、青息吐息で溜息混じりに天を見るという感じが出ていて、それが以降の連に繋がっています。「残された段々畑も 草むらに沈」み、「カラ カラ カラ」と「見えない矢車が 鳴りやまない」「あの集落」は、「人影が消え」た日本の農山村の象徴であり、「渓谷に渡されたロープで」「踊っていた」「鯉のぼり」はその遺物なのかもしれません。短い言葉の中に多くの問題を提起した作品だと思いました。
○詩誌『鰐組』222号 |
2007.6.1 茨城県龍ヶ崎市 ワニ・プロダクション発行 非売品 |
<目次>
連載エッセイ 村嶋正浩/俳人攝津幸彦の生きた時代(1)07
論考 高橋 馨/ナジャ論 22
詩篇
坂多瑩子…春 08 平田好輝…先生! 14
白井恵子…およぐ 10 小林尹夫…棲息30 06
福原恒雄…希望くん 02 仲山 清…くもがたの 20
山佐木進…湾岸にて 12 相生葉留実…シーラカンス 05
佐藤真里子…アイルおじさん 16 村嶋正浩…いつか晴れた日に 04
三田麻里…ああやっとついた家/きょうも夜 18
読者から 32
執筆者住所録/原稿募集 34
希望くん/福原恒雄
夜半の雨を
はらって
こぢんまりと残る林と土の道を覆って
いそいでいるのは霧である
見えない顔と
見えてくる顔と
判然としない朝の地理をマリア様如来様お大尽さま亡者さま きょ
うも
こんなにもけんめいに歩いています
うっふふう
出かけようにも出かけられない気もちに埋まるK君の家を通り
とつぜん空き家になったT宅の門柱に賂む蔓バラを避け
最近外壁を塗り替えたB氏の窓からの手に首すくめ
夜勤のOさんのアパートは昼でも電灯がついていて
それら湧き上がる一切の風景に
不振をこらえる湿っぽい靴音がいじらしい希望に思えるのは
薄弱な日だまりをさがしていそいでいる霧のせいである
目を凝らす時間がやって来るのは
それからだ きっと
希望の微塵もない空は 気前よく
広大無辺で
ねぼけた註釈なんて
歩かせないよ
うっふ ふうと
「ねぼけた註釈」になってしまうかもしれませんが「それら湧き上がる一切の風景に/不振をこらえる湿っぽい靴音がいじらしい希望に思えるのは」、きっと、ささやかなそんなところにしか希望≠ェないからなんでしょう。「薄弱な日だまりをさがしていそいでいる霧」には憲法や年金の問題、自衛隊の国民監視の問題を感じ取ることができます。しかし、本当に「目を凝らす時間がやって来る」のでしょうか。作者は「広大無辺で/ねぼけた註釈なんて/歩かせないよ」と釘を刺しています。詩人に出来ることはそこまでなのかもしれません。難しい言葉は何もなく、別の解釈もできるかもしれませんけど、私はそんな風に受け止めました。
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