きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
070611.JPG
2007.6.11 軽井沢タリアセン・塩沢湖




2007.7.7(土)


 日本詩人クラブの研究会が東大駒場で開催されました。4人のパネリストによる「雑誌『詩界』をめぐって」という座談会です。『詩界』は1950年の日本詩人クラブ創立当時からの機関誌で、紆余曲折はありましたが現在まで250号を数えています。この雑誌の歴史的な意義、今後の展望などが話し合われました。詳細は次号の『詩界』に載ると思いますから、会員・会友の皆さんはそちらをご参照ください。当日の様子は
日本詩人クラブHPにアップしておきました。これもご参考までに。

070707.jpg

 写真は懇親会風景です。キャンパスを背景にした明るい雰囲気が伝わると思います。今までの神楽坂エミールや白木屋に比べると、慣れないための戸惑いもありますけど、それはいずれ時間が解決してくれるでしょう。事務所は別にして、ここがこれからの私たちの拠点です。大事に使わせてもらおうと思っています。

 研究会ということで例会に比べると人が少ないこともあって、二次会は2人だけでした。渋谷の行き着けの店でゆっくり呑んでいました。22時頃まで2時間ほどだったかな? 大勢で呑むのも良いですけど、たまには向き合ってじっくり話ししながら呑むのも良いものです。



詩と散文『同時代』第3次22号
doujidai 22.JPG
2007.6.20 東京都豊島区 「黒の会」発行 1500円

<目次>
特集 夢、夢想
風景とその言葉が与えてくれる音/富田 裕 6
夢をめぐる対話 神谷光信/11        サイボーグと「夢」のアンビヴァレンス/川崎 浹 17
夢――文学との関連において/大橋健三郎 22 『天湖』と『オーレリア』――「夢」による告発――/谷口正子 27
夢/長尾重武 33              半ば夢のなかに/大重徳洋 45
乱反射考――国境/丸地 守 48       宇宙の夢のような 夢の縺れ/清水 茂 52
夢の淵/旦向てる 56            夢想のヴアイオリン/和田 旦 59
アンケート<夢>〔銅版画図版〕武田史子 <夢の住処> 72
 有田忠郎/大重徳洋/大橋健三郎/神谷光信/川崎浹/後藤信幸/清水茂/高橋榮一/武田史子/谷昌親/富田裕/野見山暁治/村上光彦/和田旦/長尾重武

変容/安田雅文 84             舌覚の歎語――魔曲『歳薔薇』の序曲のどこかの一章/原 子朗 90
三角測量/有田忠郎 95           龍の川/鈴木哲雄 100
神の味噌汁/大重徳洋 104
.         千万年の文字の夢/布川 鴇 106
時を挿頭して/吉田章子 109
.        あんなにも 荒れ狂った嵐のもとでは どうしている/長尾重武 112
散文
駅前広場のメルヘン「ワルシャワのピアノ弾き」/大月裕司 115
宇宙・自然・時間、そして「いのち」――河口龍夫『地下時間』展/大川公一 137
偶然上の世界――牛腸茂雄、もの派、佐藤真(四)/大倉 宏 149
共有された修辞 生物学と言語学(六)連載最終回/森 常治 153
堀田善衛『若き日の詩人たちの肖像』をめぐって/影山恒男 168
 ――戦時への緩やかなプロテスト――
編集後記 172



 千万年の文字の夢/布川 鴇

不在証明はどのように手渡されたというのか
空を見上げ海の匂いを辿っても
たしかな道標を見つけられないまま
何年も何十年も経ち
石の地面にうつむいて
わたしはふたたびかすれた文字を書く
ひと拭きで消えてしまう文字を書く

微風に揺れる葉の裏には
耳にひびいてやまない遠い悲鳴を書きつける
声はほんの片時も安らぎを見せることなく
たがいにせめぎ合い 傷つけ合い
そうして むなしい努力のあとに
またたくまにちりぢりとなる
そのように文字も末枯れていく

       (息をひそめた地の底で
        千年も万年も
        待ち続けなければならない)

やがて闇を開いてかすかな明かりが差し
希望に湧きかえった文字たちが
形を変え 色を変え
羽のように薄い音をひびかせて
透明な記憶の空に昇っていくのを

海への誘いも街のざわめきもない空に
もうどんな思惟をも拒み
文字そのものとなり
ただ淡いやわらかなひと群れとなって
高く高く昇っていくのを

       (息をひそめた地の底で
        やはり千年も万年も
        待ち続けなければならない)

凛々と光の満ちる午後には
なにひとつ語りきれなかったまなざしの向こうに
いくつものしろい惑星となり
さびしさも哀しみももう人の感情のなにものでもなく
ただ静かな自転
(めぐ)りの中に吸い込まれていくことを

 「特集 夢、夢想」に則った作品だと思います。他の人たちが人間を主体とした夢の詩なり散文なりを書いているのに対して、ここでは「文字の夢」を主体としているところがまず面白いと思いました。もちろん、人間が作り出した文字ですから、人間を離れることはありませんけどね。
 「声はほんの片時も安らぎを見せることなく」消えていきますが、声を定着させるつもりで作り出された文字も実は「ひと拭きで消えてしまう」ものです。しかし、そんな文字でも「息をひそめた地の底で/千年も万年も待ち続け」れば、「やがて闇を開いてかすかな明かりが差し/希望に湧きかえ」ることができるのだと謂います。それが「文字の夢」だと…。逆に言うと、文字でさえも「さびしさも哀しみももう人の感情のなにものでもなく/ただ静かな自転りの中に吸い込まれていく」ものでしかない、と謂っているように思います。声なり文字で記録させる人間の営為の儚さ…。「千年も万年も/待ち続け」ても、と採るか、「千年も万年も/待ち続け」れば、と採るかでこの作品は大きく変わりますが、私は後者を採りたいと感じました。



詩誌『礁』3号
show 3.JPG
2007.7.15 埼玉県富士見市
穂高夕子氏発行  非売品

<目次>
詩作品
散る桜/近村沙耶 2            そらまめ/近付沙耶 4
泣き砂/山浦正嗣 6            寺の鐘/山浦正嗣 10
俳句 五月闇・椿餅/川端 実 12
エッセイ
叱りを忘れた父獅子の悲劇/川端 実 12   正岡子規(7) 子規とカリエスと短詩文学/川端 実 14
金子みすゞの詩を読む(3)/穂高夕子 20   イノベーション雑考/秦健一郎 24
ほろびしものはなつかしきかな/中谷 周 30
詩作品
ちぎり絵の街/佐藤 尚 34         あいまいな時間の狭間で/佐藤 尚 36
五月/穂高夕子 38             幼蝶/穂高夕子 40
編集後記…42                表紙デザイン 佐藤 尚



 散る桜/近村沙耶

花びらの絨毯の上を
ふんわりふんわり ひと足ふた足
静かに舞い散る花びらは
そっと ささやき髪飾りになる
時にはとめどなく
涙のようにてのひらに絡みつく
どこまでも淡い薄桃色に染まって
つづく 百本余りの桜並木

この土地に住み八度目の満開を仰ぐ
今年の桜の開花は三月半ば
亡夫の生死の月
二階の窓から見る桜に
少年のように満面の笑みを
たった一度 私に向けた
そんな二人だけのこの上ない至福の時間があった
窓から見上げる先に
あなたの眼差しが
まぶしさとなって心に染みる

散る桜は
「おーい 元気でやっているかー」と
あなたからのメッセージ
でも花びらはぼやけて霞んで見えるだけ

桜は翌年も生きるため 咲くために
優しい風に乗って散っていく

 濡れた桜を手に取ると「涙のようにてのひらに絡みつ」きます。そのイメージで読み進めると「亡夫の生死の月」というフレーズに出会いました。そこでタイトルの「散る桜」の意味が判りました。それだけならこの作品は印象に残らなかったでしょうが、最終連で足を停めてしまいました。「桜は翌年も生きるため 咲くために」というフレーズです。ここには「亡夫」の再生への思いが籠められているように思います。現実にはあり得ませんが、「私」の中では可能なことなのです。一度「優しい風に乗って散ってい」っても、再び戻って来る、遺された人のそんな思いを感じ取りました。



詩誌『こすもす』52号
cosmos 52.JPG
2007.7.15 東京都大田区
螢書院・笠原三津子氏発行 450円

目次
<詩>
幻 札之辻では…森原直子 2        春の扉をノックして…井上富美 4
光…笠原三津子 6             朝市の一風景…阿部堅磐 8
桜さくら…佐瀬智恵子 10          ゴールデンウィークのゲリラ…今朝丸翠 12
風の川…三木 昇 14            毛沢東語録…石田天祐 16
独樹…柏木友紀絵 19
会員の消息…22
後記…23



 光/笠原三津子

何をささやいているの 光
おやすみなさい 安心して
明日の朝まで
きっと守ってあげます
まばたきもしないで
闇と戦う 光

悪い奴らが闇を味方にして
押し寄せて来ようとも びくともしない
夜空に輝く光は 瞳を見ひらき
光線の矢を四方八方に放ちつづけている
悪い奴らが うようよいる
家のかげ 樹木のかげ
這いずり廻る 悪の親分子分
お前たちの思い通りにはさせない
清らかな瞳を見ひらくと 光は
七色の光線の矢を放つ
晴れやかに 輝きわたる
どこまでも
光りかがやく
おごそかな調べ奏で

地上を照らす
光 おお
慈愛をふりそそぐ

 「光」を擬人化して呼びかけるという作品に初めて出会ったと思います。そういう観点で「光」を見ると、確かにおもしろいですね。「ささや」き、「まばたきもしないで」、「夜空に輝」き「瞳を見ひらき」、「おごそかな調べ奏で」、そして「慈愛をふりそそぐ」。これほど擬人化に適していたのかと眼から鱗が落ちる思いです。私より二回りも先輩の詩人ですが、その頭の柔らかさに改めて驚いています。勉強させていただきました。



詩誌『軸』89号
jiku 89.JPG
2007.7.10 大阪市浪速区   500円
佐相憲一氏事務局代表 大阪詩人会議発行

<目次>

電波公害/畑中暁来雄 1          もう一つの宇宙/瀬野とし 2
人間関係/中井多賀宏 3
新会員作品 二日酔い/コーラ 4
投稿作品 そういう日/赤尾ゆう 5

あなたも花だ/清沢桂太郎 6        糸はなぜもつれる/いしだひでこ 6
お〜しまい/熊井三郎 7          イマジン/佐古祐二 8
ある春の日/迫田智代 8          林任期(りんじゅうき)/やまそみつお 9
おほさか暮色−子供/玉置恭介 10      日曜日/木村勝美 11
東住吉冤罪事件/幽間無夢 12        お化けの種明かし/猫だましい 13
息子の手・母のねがい/松本千鶴子 14    父 二編/みくもさちこ 15
老い/脇 彬樹 16             きょうちゃん/椛島恭子 17
我が臣民よく忠によく孝に(三)/浅田斗四路18 愛着/おれんじゆう 19
土にかえりたいと僕も思う/しかやまぶん 20 期待/竹島 修 21
明星を見た/清沢桂太郎 22         追悼のとき/和比古 24
記憶喪失/佐相憲一 25
短歌(二) 母と父を送る/清沢桂太郎 26
エッセイ
あたらない題名/必守行男 27        戻ってきた当り前/必守行男 27
文学と歴史の道で(6)/佐相憲一 28     年齢をとる/松本千鶴子 31
書評
中井多賀宏詩集『ユクヘシレズ』畑中暁来雄31 佐古祐二詩集『ラス・パルマス』佐相憲一 32
報告
詩人会議総会/原 圭治 33         野外例会/玉置恭介 34
『軸』88号合評会/佐相憲一 35
『軸』88号感想集 37
受贈誌・詩集等紹介 40
お知らせ 『軸』90号原稿募集・カンパ募集 42
編集後記
表紙絵 山中たけし



 日曜日/木村勝美

急に電話が鳴る
なんやの
愛想なく言ってしまったわたし
久しぶりに 顔を見せるという
娘に

いつでも急や
髪きりに来たからと

いつでもついでや
友達の所へ来たからと

ついでにやって来て
ボソボソッとしゃべって
スパスパ煙草吸って
弟に意見して
冷凍食品ゴッソリもって帰っていく

(親には 世話になってないで)
(ちゃんと 自分で生活してるで)
キッチリ捨て台詞残して帰っていく

でも
今日は ついでじゃなく
私に 紙袋
中には(母の日)のサマーセーター

 「いつでも急」に、「ついでにやって来て」「(親には 世話になってないで)/(ちゃんと 自分で生活してるで)」と言いながら「冷凍食品ゴッソリもって帰っていく」「娘」。そんな娘さんが「今日は ついでじゃなく」て「(母の日)のサマーセーター」を持って来た「日曜日」。うまくまとまっていて、庶民の母娘の関係がほのぼのと出ていると思います。関東在住の私から見ると、関西弁の会話も魅力です。関東の言葉ではこの味は出せないでしょうね。楽しんで、少しホロリとさせられました。



   back(7月の部屋へ戻る)

   
home