きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.6.11 軽井沢タリアセン・塩沢湖




2007.7.12(木)


 有名な南青山の「マンダラ」に行ってきました。シャンソン歌手・竹下ユキさんのライヴです。以前、中原道夫さんが主宰する詩誌のイベントで歌ってくれたことがあり、その時、歌唱力に惹かれてCDを買いました。そのCDをここ数年は一番よく聴いています。ライヴのお誘いは何度か受けていたのですが機会がなく、今回ようやく実現しました。ちなみに竹下さんの父上は日本詩人クラブの会員で、その関係で中原さんのイベントにも来てくれたようです。

 ライヴはピアノ、ベース、アコーディオンの構成でした。<クルト・ワイルとその時代の歌>と銘打たれて、1900年から1950年のシャンソンが主でした。ブレヒトの詩、日本詩人クラブ会長でもあった薩摩忠の訳詩と、私にも馴染み深い作品が多かったです。有名なところでは「三文オペラ」ですね。いつもCDで聴いているアカペラなどをナマで聴くのは、迫力があって、やはり良いものです。「マンダラ」は初めて行きましたが、ウェイターの対応も良く、佳い店です。南青山の夜を堪能しました。



詩と文tab5号
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2007.7.15 横浜市鶴見区
倉田良成氏発行  非売品

<目次>
詩篇
後藤美和子‥椅子/01            石川和広‥夜が来て・何も捨てられなかった/02−04
野村籠‥足跡・星・ペリカン/05−07     高野五韻‥夏の回廊/08
倉田良成‥さきわいも災厄も/09−10

木村和史‥二種電気工事士試験/11−13    倉田良成‥伝世ということ/14−16
あとがき集/17−19
画‥和田彰



 椅子/後藤美和子

昔、人類学者に聞いた
椅子を手にした部族の話
彼らは裸で
裸だけれど手に椅子を持っていた

彼らは椅子を手に歩く
潅木を縫って友人に会いに
正午の森の密談を
笑いのさざめきに変えるため

椅子は三つ足で
いつでも少し傾いていた
太陽の運行のように
少し遠まわりをしていた

彼ちは片手に椅子を持ち
片手で木々に挨拶をおくる
塩獣に出会ったら
椅子を抱いて逃げるのだ

腰をおろす場所
この世界に
着地するために選ばれて
大地の黄身に連なる椅子
               皆既蝕三七号

 「椅子を手にした部族」というのは実際のことのようにも思いますが、別の喩かもしれません。「人類学者」が注目する「裸」の部族ですから、いわゆる文明人≠ゥら見れば未開≠フ人たちということでしょう。しかし、そこには文明人には見られない文化があるように思います。「太陽の運行のように」「いつでも少し傾いていた」「三つ足」の椅子を持ち、「片手で木々に挨拶をおくる」。「大地の黄身」は地球の核と考えてよいでしょうか、そこに「連なる椅子」を持つ文明人≠ヘ皆無でしょう。価値の多様性、いわゆる文明≠フ脆弱さを教えてくれる作品だと思いました。



個人通信『萌』20号
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2007.夏 山形県山形市 伊藤啓子氏発行 非売品

<目次>
身代わり地蔵
夏の絵



 夏の絵

咲きはじめのヒマワリが
行儀良く並んで
窓辺のカーテンが
心地よく風に揺れて
鮮やかな青色で空は染められ
ついでに
入道雲をもくもく浮かばせて−

空を見あげて
少年は
ちっ、と舌打ちした
子どもが書いた絵のような風景は
もう見飽きた
画用紙を
真っ黒に塗りつぶしたくなる

たとえば
ずっと前の夏に死んだおじいさんの
しゃがれ声
庭の隅にある古井戸跡の
湿り気
汗をかいたあとふいにやってくる
鳥肌
まぶしいだけではない夏を
ほんとうは書きたいのに

少年は 黒一面
何枚も何枚も塗りつぶす
闇の中で
白い光を見るように
濃い気配をまとったものが
ほのかな色を選んで
浮かびあるかもしれない

世界のありようは
陽のかげから訪れる
夏の暦が狂わず刻まれるたび
少年は
すこしずつ無口になっていった

 「まぶしいだけではない夏を/ほんとうは書きたいのに」描けない、「濃い気配をまとったものが/ほのかな色を選んで/浮かびあるかもしれない」のに描けない…。「すこしずつ無口になっていった」「少年」の心理が手に取るように分かる作品です。この時期を通り越して大人になっていくのでしょう。「ずっと前の夏に死んだおじいさんの/しゃがれ声/庭の隅にある古井戸跡の/湿り気/汗をかいたあとふいにやってくる/鳥肌」、これら抽象の世界へ近づこうとする「少年」をいとおしく見つめていたいと感じさせます。



個人詩誌『魚信旗』37号
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2007.7.15 埼玉県入間市 平野敏氏発行 非売品

<目次>
Aの場所 1     Bの場所 4     Cの場所 6
Dの場所 7     Eの場所 8     Fの場所 9
後書きエッセー 10



 Fの場所

産土
(うぶすな)を探してミミズの赤血が這っている
リンゴ畑が見える場所をめざして
津軽富士も見渡せるところなら尚可だと頑張る
流れる白雲が赤血のミミズを見届けもせず
北へ北へと知らぬ存ぜぬとしらばっくれて流れている
そこでフロアを上へ上へとあげて
ミミズの住居は雲に近づく
高層マンションの売れ筋がよいわけ
遠い産土
(うぶすな)に手短に環る方策の一つとして流行っている
いずれ空の帝国が未来を治めるだろうと
古代文明の滅びの原因
(わけ)からヒントを得て
空という巨大な空間に挑んでいる
わが老体も全身蚯蚓張れを押して高層マンションにたどり着く
空が近くなった
御来迎も難無く拝めそう
ある日突然に夕時の瑠璃光に目を奪われたら
このフロアから黙って雲にまたがって
わが産土
(うぶすな)の北国に送ってもらおう
ちんまりとしたははなるものの潜む場所へ

 今号は「場所」のシリーズでした。人間が住み、さまざまに位置を占める場所=BそれらはAからFという記号で示されている通り、特定の場所を指しているわけではありません。具体的な地名もありますが精神の居場所と捉えて良いでしょう。ここでは最終の「Fの場所」を紹介してみました。「高層マンション」という場所から「空という巨大な空間に挑んで」、最期は「このフロアから黙って雲にまたがって/わが産土の北国に送ってもらおう」という姿勢に詩人の矜持を見る思いです。「古代文明の滅びの原因からヒントを得て」というフレーズには「空という巨大な空間に挑」む人類の歴史も垣間見せています。
 なお最終行の「はは」には傍点がありますが、ここでは割愛させていただきました。ご了承ください。



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