きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.6.11 軽井沢タリアセン・塩沢湖




2007.7.14(土)


 日本詩人クラブの7月理事会・例会が東大駒場で開かれました。理事会からの報告としてすぐにお伝えできるのは、まず「詩の学校」を開設することになったということです。これは会員・会友のみならず一般に開放する予定です。ただ、場所が神楽坂の事務所ですから、定員は20名ぐらいになります。開設時期は早くても10月からになると思いますが、第3木曜日の18:00〜20:00。いずれ日本詩人クラブHPでも公開しますから、詳しくはそちらをご覧になってください。

 二つ目はオフラインの作品研究会が復活したことです。メーリングリストによるオンライン作品研究会は従来通り続けますけど、やはり実際に顔を突き合わせたオフラインの研究会もやってほしいという要望が多くありましたので、今期は11月と4月の第1土曜日に事務所で開催します。この研究会の講師は4名で、その中になんと私も加えられてしまいました。がんばります。

 三つ目は11月10日にクロアチア大使の講演が決まったことです。日本ペンクラブ事務局から、詩人でもある大使の講演ができないかとの相談を受けていましたが、正式に詩人クラブ理事会で承認されました。こちらは東大駒場で。私が直接オモテに出ることはあまりないと思いますが、皆さまのご参加をお待ちしています。クロアチア現代詩の状況などをお話しいただこうと思っています。

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 理事会の詳細な報告は機関誌『詩界通信』に載りますので、会員・会友の皆さまはそちらをご覧になってください。
 理事会のあとは例会です。写真は受付をやってくれる総務担当理事と総務専門委員の皆さま。このメンバーでは今回が初めてになりますけど、スムーズに来客者を捌いてくれました。2年間、私がお世話になる人たちです、よろしくお願いいたします。

 例会は、会員2名による小スピーチと詩の朗読。そして理事長と新会長の講演でした。講演内容は、これも『詩界通信』に載りますので、そちらをご参照ください。
 そのあとは懇親会。台風が近づいているということで、参加者は45名と、いつもの半分ほどでした。その分ゆったりと楽しんでもらえたのではないかと思います。人手が足りなくて私が懇親会の司会をやったのですが、驚くことがありました。皆さん、他人様の話を聞いているのです(^^; いつもはグループで話し込んでいたり呑んでいたりで、半分も聞いてくれません。それが今回は、全員がスピーチをしている人の話を聞いている! 前代未聞と言ったら怒られそうですが、そうだったのです。人が少ないこと、会場が東大ということで緊張があったのかもしれませんけど、主催者側としては嬉しいことです。ご協力、ありがとうございました(^^;

 二次会は渋谷に出て、最近よく行く「なな寿庵」。ここは静かなときとうるさいときが極端ですけど、今日は静かでした。6人ほどとゆっくり歓談して、まあまあのお酒も美味しく呑めました。最後までお付き合いいただいた皆さん、ありがとうございました。好い夜でした。



詩誌『東国』136号
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2007.7.1 群馬県伊勢崎市
東国の会・小山和郎氏発行 500円

<目次>

春 2 福田誠
ひとひらの行方 5 関口将夫        雉 6 三本木昇
詩の途中 8 新延拳            桜湯/ふきのとう 10 中澤陸士
浜山/ひととき 17 斎藤光子        わかみづま 23 江尻潔
さくら 24 堀江泰壽            講堂と母 28 金井裕美子
ジョイ・ハージョ詩篇 30 青山みゆき・訳  キョゾウ/詩人 40 森ノ坂一詠
漂流瓶日常・11 55 小山和郎        桜の風景 58 松浦宥吉
おんぶさった記憶 62 大橋政人       ビールで乾杯 66 渡辺久仁子
秋山晩晴 68 愛敬浩一           ミカンと学校とハナダイコン/夢は朧に陽は西に 70 田口三舩
那辺の際 74 山形照美           呪術師の顛末 78 柳沢幸雄
ラストスパ-ト/幻のキャンドル 80 若宮ひとみ 表裏の意 84 奥重機
初夏の風 86 伊藤信一           机上の葉 88 本郷武夫
北の丸公園/賞味期限 90 高田芙美     部屋 93 野口直紀
トロール船とインスピレーション 94 綾部健二 養鶏場 97 青山みゆき
呼吸 98 川島完
外接円 誇って何?−分からないものを求めて「東国」134・135号を読む 44 宮田小夜子
針の穴
三宅やよい句集『玩具屋』 48 新延拳    新川和江詩集『記憶する水』49 新延拳
宗昇詩集『きおくのみなわ』 50 川島完   渋谷美代子詩集『閑人帳』 51 小山和郎
篠崎勝己詩集『悲歌』 52 小山和郎     小柳玲子詩集『夜の小さな標』 53 小山和郎
●あとがき 100
●題字 山本聿水
●装画 森川e一



 ひとひらの行方/関口将夫

さあ今日は石になる日だ
そう言いながら木が入ってきた
石は笑いながら一滴の水になって部屋を出ていった
沈黙はそのまま二千年ほどつづいた

ぼくは卓上の陶片を見ていた
今朝の散歩で拾ってきた
土師器や須恵器の陶片だ
千年とか二千年という月日を軽々と掌にのせ触れていると
「お昼ですよ」と階下のおんなの声に
とんとんと階段を下りる
たった数秒で現代人にたちもどり
即席のラーメンをすする

ひとがひとになるまでの距離と
花が花になるまでの距離に
さほどの隔たりはないとしても
なんと昼食の早いこと
とんとんとんと再び古代人にもどって
となり村の煙りの高さなど思ってみる
それにしても陶片は何故こんなにも美しいのだろう
欠けらだからこそ
失って見えない部分が美しく疼いている

へそのような突起のある欠けらに触れると
のぼれない木ややわらかな石が部屋に溢れていく
それにしても億年の過去にもどれるのに
ぼくの命は時間の外側にしか落ちていけない

 何気ない日常生活の中から拾い出した詩と思いましたが、あるいは作者にとって日常生活そのものが詩なのかもしれません。「木が」「石になる日」、「たった数秒で現代人にたちもどり」「とんとんとんと再び古代人にもど」る生活、ここには詩的真実があると云えましょう。
 第3連の「それにしても陶片は何故こんなにも美しいのだろう/欠けらだからこそ/失って見えない部分が美しく疼いている」というフレーズにも注目しています。ここには想像力の豊かさがあり、それが創造へと繋がっているように思いました。詩≠堪能させてもらった作品です。



詩誌『詩風』15号
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2007.6.30 栃木県宇都宮市
詩風社・仲代宗生氏発行 300円

<目次>
林檎の木と皿の伝説/あらかみさんぞう 1
遠野へ行こう/あらかみさんぞう 5
薔薇のいけにえ/金敷善由 9
詩論 詩は芸術−シンタックスを変える作業/金敷善由 11
抽水生物/金子いさお 13
オペラハウス 〜恋敵への献辞〜/綾部健二 17
新しい別れ/和田恒男 19
詩論(詩を求める心の問題について……)
なぜ私は詩を書いてはいけないのでしょうか/和田恒男 21
花開き 散り敷いても/仲代宗生 35
編集後記



 オペラハウス 〜恋敵への献辞〜 /綾部健二

このささやかな贈物は すでに考案されていた
ひしめき合い 眠っていたイメージの存在
その選択についての裁き それはあなたのものだ
無秩序の美 拡大する想像力 描くというリスク
寛大な余韻は あなたとの境界を超えられるだろうか

誓約 奔放 美辞麗句
表現したい言葉の誘惑が 迫ってくる
発見の旅とは 自分自身が道になるということか
信仰や信念よりも大いなる 確信
暗転する舞台に向かっての 跳躍

大屋根の頂点は 九階分の高さ
オペラハウスは きわめて美しい幻影を生む
正面には 高さ十八メートル以上の円柱が立ち並び
重さ三十トン 八つの巨大な梁が屋根を支え
舞台背景は ヴェルディ作「アイーダ」のセット
現実を忘れさせる エジプトの魔法の呪文
別の土地 別の時代 別の世界への

歌手 演奏者 指揮者
コーラス ダンサー プロンプター
舞台のせり出し 布や材木やペンキ
めくられる楽譜 長時間にわたるリハーサル
多次元をつらぬく個々の部分 そして全体
蒼天の方向に 強く引き寄せられる感覚

舞台を離れた行為が どんなにみすぼらしく
生彩を欠き 無秩序で断片的であっても
それぞれの宿命を 際限なく掘り進めていくならば
意識の裏庭に 「自由」は見つけられる
あなたは王子であり また海賊でもある
わたしは主人であり また奴隷でもある
果たして 光輝の雲はたなびくか

 副題の「〜恋敵への献辞〜」とはおもしろい発想で、その視点で「オペラハウス」を見ている点がユニークです。実際は逆で、建物から想起された言葉なのでしょうが、どちらかを問うことはあまり意味がないように思います。
 「発見の旅とは 自分自身が道になるということか」というフレーズに魅了されます。まさにその通りでしょう。しかし、こう詩的に述べた詩人はいないのではないでしょうか。最終連の「舞台を離れた行為が どんなにみすぼらしく/生彩を欠き 無秩序で断片的」というところも佳いですね。自身の芯≠離れることはできない、と受け止めました。「オペラハウス」という華麗な中に人間を見つめた作品だと思いました。



詩誌『谷神』9号
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2007.7.15 千葉市稲毛区
楓舎・中村洋子氏発行 非売品

<目次>
玉川 7・8/松田治江 1         空豆/田中憲子 4
猫/田中憲子 6              まえぶれ/中村洋子 7
蝶の声/中村洋子 8            街の/増田恭子 10
五月/肱岡晢子 12             海へ/肱岡晢子 14
楓舎の窓 中村洋子 16
あとがき



 蝶の声/中村洋子

朝がたの夢に
去っていった人があらわれ
やわらかい笑みをのこす

昼さがり
駅ちかくの横断歩道を
紋白蝶がひくく飛ぶ
走る車にふれそう
「あぶない」の声をのみ
蝶の言葉をさぐってみる

軽やかに舞いあがる蝶
いま あやういのは
いぶかしさにとらわれること
それとも不審をやりすごすことか
通じないもどかしさのまま
わかれたわけではない

もしもし どなた
まちがい電話ならごめんなさいと切る

人の夢に迷って出るかもしれない
ふるえる心の耳
まだ 蝶の声をききとれない
もしもし てふてふ もしもし てふてふ

 「蝶」に「声」などあるのだろうか、と読み進めて「まちがい電話ならごめんなさいと切る」というフレーズで判りました。「声」は「去っていった人」の声だったのです。声が「通じないもどかしさのまま/わかれたわけではない」が、「いぶかしさにとらわれ」「不審をやりすごすこと」ができなかった、と読み取りました。そう思って見ると、最終連の「もしもし てふてふ」のリフレインがよく効いています。「蝶の声をききと」ることで見えてくる世界、それを感じさせられた作品です。



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