きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.6.11 軽井沢タリアセン・塩沢湖 |
2007.7.15(日)
台風4号来襲。神奈川県西部地方は暴風圏の端がかすった程度で、特に大きな被害はなかったようです。一部、道路が崩れたようですが人的被害もなくヤレヤレ。皆さまのところは如何だったでしょうか。
○春名純子氏詩集『猫座まで』 |
2007.7.25 大阪市北区 編集工房ノア刊 2000円+税 |
<目次>
T 猫の手
猫の手 8 かわせみ 10
月 12 床下の巣 14
水祭り 16 無季 20
初冬日和 24 十月 26
いつまでも いるよ 30
U 三月の車窓から
水底 34 春の足跡 36
水通信 38 日溜まり 42
山鳩が来る 44 三月の車窓から 48
五月の町 52 蝉のように 54
歩行困難 58 八月のユンボ 62
落秋 66 回遊 70
風を見上げて 72
V 夜桜
花明かり 76 風の名はジョセフィン 78
夜桜 82 「Who」 86
十二月のイルミネーション 90 笹を眠らせる 92
オムニバスなロンドで 96
W 草原(くさはら)
アカイ シロイ 100. 春雨の門 104
過ぎ行く頃 106. 雪と鍵 198
春のアクロバット 112. 九月の雪 116
赤ん坊 120. 野天風呂 124
草原(くさはら) 128
*
あとがき 133
カバー装画作品 著者
装幀 森本良成
日溜まり
軒先に吊したメジロの蜜柑が
尖ったリズムで回され
朝のひとときが
昼の方へ傾く
太陽の吹き溜まる庭の一角
咲き揃った水仙の視線を気にしながら
落ち葉の上で
黒い猫が丸くなる
耳は 雀の羽音に覚めたまま
「時」は いつしか
魚と小鳥の夢になる
日溜まりは 猫の時間
光る にこ毛の上で
風が止まる
5年ぶりの第2詩集だそうです。詩集タイトルの「猫座まで」という作品はありませんが、モチーフとして猫が出てくる詩が多いので、詩集全体のイメージとして付けられたのだと思います。
紹介した詩はその典型のような作品です。主題はあくまでも「日溜まり」ですが「黒い猫が丸くなる」「日溜まりは 猫の時間」と猫が重要な位置を占めています。それにしても「日溜まり」を「太陽の吹き溜まる庭の一角」と表現した点、「朝のひとときが/昼の方へ傾く」と見る視線は並ではありません。形而上詩を堪能させてもらいました。
○せきぐちさちえ氏詩集『ころ柿の時間』 |
2007.7.12 東京都葛飾区 ジャンクション・ハーベスト刊 2000円 |
<目次>
T
坂 10 椿 12 まち 16
はまなし 18 風呂敷 20 新しい街 22
山菜 26 那里 30 笑う 32
ころ柿の時間 36
U
大地 42 心臓 44 命名 48
顔 52 バトン 54 春 58
V
根っこ 62 山百合 64 夢 66
禁酒 70 太極拳 72 親善大使 74
W
咳 78 蚊帳 80 もらい湯 82
ゆるみ 84 雛祭り 86 口紅 90
記憶 94 舞台 98
X
あんびん 104. どらぶち 108. 思い出 110
戦場 112. 尊厳 114. 寂しい 寂しい 116
山椒 120
あとがき
ころ柿の時間
ぶらぶら歩くことがなくなった
足の向くまま 気の向くまま
風に吹かれて歩くことがなくなった
ぶらぶら歩くとは
山すそをめぐり
川の流れに沿って
遠回りして歩くこと
差し迫った用事もなく目的もない
急ぎはしないから
対角線をたどることもない
たっぷりした時間に浸って
見慣れた風景が
もぎたての野菜のようだ
季節を丸ごと齧って歩いていく
心が空っぽになっていくのに
忘れていたものが
脈絡もなく浮かんだりして
思い出し笑いしながら歩いていく
吹きだまりの落ち葉の温もりを感じ
どこぞの庭先で誰とも知らぬ年寄りと
日和のよさを誉めたりして
軒先にぶら下がっている
ころ柿の上に
ゆったりした時間が
トンボのように止まっているのを
見るともなく見ながら歩いていく
歩幅をころ柿の時間に合わせていく
ようやく陽が傾いてきた
あーした天気になあれ
第1詩集を2冊同時に出し、それ以来10年ぶりの詩集だそうです。老いに向かう身を静かに語る秀作に満ちた詩集で、ここではタイトルポエムを紹介してみました。「ころ柿」とは初めて知った言葉ですが干し柿のことのようです。「見慣れた風景が/もぎたての野菜のようだ/季節を丸ごと齧って歩いていく」、「忘れていたものが/脈絡もなく浮かんだりして/思い出し笑いしながら歩いていく」などのフレーズに共感します。やっと「歩幅をころ柿の時間に合わせてい」くことができるようになった年代に入って、老いを楽しむ姿勢を、読者である私の身にも重ねて拝読しました。
なお、目次Tの「那里」の「那」は口ヘンですが、表現できないので省略してあります。ご了承ください。
○個人誌『一軒家』18号 |
2007.7.15 香川県木田郡三木町 丸山全友氏発行 非売品 |
<目次>
お客様の作品
詩画 心の花/友里ゆり 0 沢野 啓 0
絵てがみ 深野久江 0 さくらんぼ/向井拓海 0
随筆
再会/宮脇欣子 1 抱夢園−心血を注ぐ−/荒木伸春 3
ガラス越しの鳶職人/池田みち 5 『ポール=ベルトの公園にて』に魅せられて/内藤ヒロ 6
民家食堂/篠永哲一 8 詩を書くということ/田島伸夫 9
趣味としての詩/高崎一郎 11 一字違いで雲泥の解釈/小倉はじめ 12
飛騨の歳時記/佐藤暁美 13
詩
まっさらな海/丹治計二 14 公園/小島寿美子 14
夜の金魚/佐竹重生 15 人間笑顔が大切/伊東美好 15
蜩/高橋智恵子 16 うれい/窪田孝司 17
兄弟/尾崎紀子 18 1秒/高松恵子 17
夏の到来/星 清彦 19 藤のものがたり/内藤ヒロ 19
霧/角田 博 20 父のこと/戸田厚子 21
いのちの輝き/吉村悟一 21 煙草/中原未知 22
心に春を呼ぶとき/友里ゆり 22 思い上がりの夏/宇賀谷妙 23
素顔の仮面ライダー/飯塚 真 24 闇に誘われて/大山久子 24
晩夏/沢野 啓 25 雪の降らないスキー場/小倉はじめ 25
吉田博子小詩集/吉田博子 26 高崎一朗の世界/高崎一朗 27
花遊び/佐藤暁美 28 夢があるから/吉原たまき 28
童話
せらい/星野歌子 29 ももばたけ/吉原たまき 31
月夜のカニ/森ミズエ/32
俳句 川西一男 34 小倉はじめ 34
川柳 徳間育男 34 川西一男 35
短歌 山上草花 36 友里ゆり 35
短編小説 坂戸敏明 36 小山智子 38
一軒家に寄せられた本より
恋の前方後円墳/水野ひかる 41 平成の詩画集
全友の作品
短篇小説 首 43
詩
日曜日 48 戻ってきた夏 48 森の中で 48
抜け殻 49 カラスアゲハ 49 無欲 49
張り合う 49 伝言 50
身辺記
病棟の廊下にて 50 つばめ 52 弁慶の馬の墓 53
夏の到来/星 清彦
きっとこんな日は
世界中の あちらこちらの空も
碧く輝いているのを
決して 誰も 疑わないだろう
ポスターで見たような空へ
遮断機が揚がり
光の翅は ラジカルな手紙
遠くの方では ブァカンスの飛行機雲
花びらの中で 南からの風が
たっぷりと 欠伸をした
火傷した空の色が
あの寄宿舎の窓に移り
もうじきどの部屋にも
内気な幸福が ほっくりと灯るのだ
まさに「夏の到来」を思わせる作品です。特に「花びらの中で 南からの風が/たっぷりと 欠伸をした」という表現が佳いと思います。少し気だるさを感じる初夏の雰囲気が伝わってきます。そのあとの「火傷した空の色が/あの寄宿舎の窓に移り」というフレーズも良いですね。「移り」は映り≠フ誤植かもしれませんが、このまま「移り」の方が良いでしょう。空の色が移動したと採れ、非常におもしろく感じました。「内気な幸福」も佳い言葉です。無駄のない佳品だと思いました。
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