きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.8.20 神奈川県真鶴半島・三ッ石




2007.9.3(月)


 今週6日、日本詩人クラブ事務所に電話を引く工事をやることになって、今日は電話を買いに行ってきました。もちろん電話・Fax共用のものです。一番安い機種を選んで、1万3千円ほど。ずいぶんと安くなったなと思います。高いものは3万も4万もしますけど、今のところ事務員のいない事務所ですから、そんなに高機能は必要ないと判断しました。
 店内をうろうろしていて、面白いことを発見しました。電話売り場には電話≠ニいうコーナーとFax≠ニいうコーナーがあったのです。電話コーナーはもちろん単独の電話だけ。じゃあFaxコーナーはというと、ちゃんと電話・Fax両用機が置いてあるのです。一般の家庭でFaxを使うためには電話がついているのが当たり前ですから、わざわざ電話・Fax≠ネんて表示はしないんでしょうね。どうでもいいことですけど、日本語の変遷の一端を見た思いです。



季刊『樂市』60号
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2007.8.1 大阪府八尾市
楽市舎・三井葉子氏編集 952円+税

<目次>
特別寄稿
というわけだが/暮尾 淳…4        地上/新井豊美…6
船遊び/鈴木章和…8

凪/三井葉子…28              四葉のクローバ/小野原教子…30
境界/永井章子…32             山間/小西照美…34
池に囲まれ/山田英子…36          差/木村三千子…38
近況/斎藤京子…40             ロクムという音/福井千壽子…42
パリ 摂氏十二度/福井栄美子…44      借金/谷口 謙…46
私のからだに私が出会うとき/加藤雅子…48  声/川見嘉代子…50
母/松井喜久子…51             初夏/太田和子…52
ブルーベリーと銃弾/小泉恭子…54      Wさんはまだ帰ってこない/司 茜…56
キャンバスと桜/中神英子…59
楽市楽座
十字の花/小西照美…15           少女の体育館/渡部兼直…15
ワルツを捨てる-詩と信仰について-/小野原敦子16 老警察医/谷口 謙…19
琵琶湖/福井栄美子…21           断想(22)/木内 孝…21
(短詩)福井栄美子・加藤雅子・太田和子
「楽市」60号に寄せて…62
木内 孝・木村三千子・司 茜・永井幸子・玉井敬之・萩原 隆・斎藤京子・松井喜久子・福井千壽子・北原文雄・山田英子・三井葉子
随筆
親鸞の幸福/真継伸彦…10          漱石 茶山 耕一/玉井敬之…80
痴愚女神/萩原 隆…85           泡鳴の文学碑/北原文雄…91
薔薇男/山田英子…95
●編集後記…100



 Wさんはまだ帰ってこない/司 茜

どしゃ降りの五月の雨の朝
四丁目のWさんは大阪地検の特捜部に捕らわれていった
枚方市発注の建築工事をめぐっての官製談合に関わった
大手ゼネコンの首謀者としての容疑をかけられた

その一月ほど前
春とは思えない蒸し暑い夜の七時半頃
バス停でWさんと会った
並んで座った
「忘年会以来ですね お元気でしたか」
「はい まあなんとか」
「今度の御岳山の旅行には行かれないそうですね」
「忙しくてね
 ところでまだ詩を書いてますか」
「はい ボチボチです」
「うらやましいですなあ
 詩集時々読んでますよ」

日を追うごとにニュースのWさんは悪党になっていく
警察官まで絡みサスペンスさながらを呈している
夫と私はこの話で晩御飯を食べる
「あのWさんがな そんなことできる男と違う」
「ええ人やのに 大きな会社の人はつらいね」
「もう テレビ見るな ええか」

この町は四十年ほど前 山裾の西瓜畑をつぶし造成さ
れ住宅地として売り出された 小さな区画に邸宅とは
呼べないがカラフルな家々がみるみる建ち戸数は八百
戸を越し 人口は三千人にも達した 赤ちゃんの泣き
声や子供の声 洗濯機を回す音 垣根越しに 二階か
ら特売の話をする主婦の声であふれた 住民の親睦を
はかるためにと自治会も立ち上がった Wさんも私の
夫もくじ引きで役員となった 渋々引き受けた役だっ
たが十三人の仲間たちは会則づくりや市との折衝など
に休日返上で懸命に任にあたった 役員の妻達も借り
出されソフトボールやバレーボールの応援お茶出し草
刈り盆踊りと忙しく過ごした Wさんは寡黙なほうだ
ったが要所要所を押さえよく働き笑った

夫婦の仲は特別によかった
捕らわれて十日がたち
Wさんの会社の社長は退陣した
Wさんはまだ帰ってこない
小さな庭には
手入れが途絶えた
赤や朱や黄
白の薔薇が咲いている

 隣人が「官製談合に関わった/大手ゼネコンの首謀者としての容疑をかけられ」て逮捕されたという話ですが、第4連では「Wさん」の地域における様子が判ります。そんな「ええ人」に対する「夫と私」の態度が第3連に出ていて、「日を追うごとにニュースのWさんは悪党になっていく」と、世評に批判的なことも判ります。日ごろ「Wさん」を見知っている人の眼がここにはあり、その人間像も表出していると云えましょう。主を失くした「薔薇」も印象的な作品だと思いました。



季刊詩誌『GAIA』21号
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2007.9.1 大阪府豊中市
上杉輝子氏方・ガイア発行所  500円

<目次>
庭の音/竹添敦子(4)           梅雨の晴れ間に/横田英子(6)
山/中西 衛(8)             阿曽原
(あぞはら)中西 衛(9)
山鳩が来る/春名純子(10)         討匪行/猫西一也(12)
花束/海野清司郎(14)           ひとつの/立川喜美子(16)
澄み渡るおもろの声が/平野裕子(18)    蒼きニホンオオカミ/小沼さよ子(20)
八月の声/水谷なりこ(22)         吾亦紅/熊畑 学(24)
サンゴ礁の明日/熊畑 学(25)       草/国広博子(26)
一枚の写真/上杉輝子(28)
同人住所録(30)
後記 上杉輝子



 草/国広博子

草の中に立つ
すがすがしい気分 梅雨の合間なのだろう
 雑草と戦いを始める
両手を拡げて はいつくばる様にして
素手で雑草を引いて行く
幸い根がまだ浅いので 私の手でも引ける
両手一杯になって次の場所へ移動する

もう一巡して もとの場所へ逆って来た
ところが もう小さな芽が出かかっている
おかしいじゃないの そんなにすぐに
目の錯覚かなあ? いやちがう!
それぐらい繁殖力があるのだ だから
昨年八月には 手がつけられなかったのだ。
10本抜いたら 10本生える
そんな理屈は全く通らないのだ

まあまあ 今日はやめだ 又明日がある

 草むしりは私もたまにやりますけど、たしかに「それぐらい繁殖力があるのだ」と思いますね。人間の「そんな理屈は全く通らないのだ」とも思います。「10本抜いたら 10本生える」くらいの繁殖力がないと動物に食べられ、踏みつけられる種は残らないのでしょう。「まあまあ 今日はやめだ 又明日がある」と言いながら再び「雑草と戦いを始める」私たちは、草に笑われているようにも思います。そんなことを感じた作品でした。



詩誌『北の詩人』58号
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2007.9.5 札幌市豊平区   100円
日下新介氏方事務局・北の詩人会議発行

<目次>
藪萱草(写真・詩)/佐藤 武 1      子守唄/かながせ弥生 2
花のぜい沢/かながせ弥生 2        俳句 友の詩を読んで/山広苗子 3
巨木/内山秋香 4             温度/内山秋香 4
孫悟空の像/釋 光信 5          ぬくもり/たかはし・ちさと 6
モンスターペアレント/たかはし・ちさと 7  民族と国家/松元幸一郎 8
わが詩/松元幸一郎 9           もう そこまできている/松元幸一郎 9
茂子 17/阿部星道 10           八月六日ヒロシマ/佐藤 武 11
灯籠/佐藤 武 12             背高アワダチソウ(文・写真)/佐藤 武 13
詩のピースウェーブ(文・写真)/佐藤 武 14  短歌 奪はれし命/幸坂美代子 15
胆嚢炎で入院/大竹秀子 16         夫の入院/大竹秀子 17

追悼 貴島雄二『遺構者集選』の美と真実/松元幸一郎 18
追悼 幟は倒れず/日下新介 19
エッセイ 波紋/日沖 晃 20
書評「清洲島現代史−公共圏の死滅と再生」/高畑 滋 21
書評「在日義勇兵帰還せず−朝鮮戦争秘話」/高畑 滋 22
写真・八重咲きのポピー・北の詩人(在りし日の二人)/佐藤 武 23
即興詩 九条へのつぶやき/日下新介 25
会員.会友住所録 24
寄贈詩集・詩誌感想・ブログ村山精二
たかはし・ちさと 佐藤武 阿部星道 日下新介 25
もくじ・あとがき 28



 子守唄/かながせ弥生

私は何も望まない
望める一生ではなかった
ベッド一台とサイドボックスと衣装ケース
それが私の財産
たとえ
望んで それが何になろう

ただただ誰も恨まず死んでゆこう
多くの人 又は何人かの人に
心を込めて お礼を言って
父母と同じ土
私の好きな函館の土に帰ってゆこう

私を騙して身ぐるみをはぎ
山の中のこの病院に
放り込んだひとりの肉親
彼女さえ 恨むまい
彼女の好きな お金を少し残そう

冬は雪の線菓子を食べ
夏は陽の光を食べよう

たとえ誰も拝みに来なくてもよい
私は素粒子
ほんとうに千の風だから

かつて
泣いて泣いて8ヵ月
私は どしゃぶりの中を歩いた
私を救ったものは
人の言葉でも 医療でも 自然でもない
自分の流した 自分の涙だ
ああ 嬉しいことに
私には涙があった

人には耐えられない悲しみなど
なかったのだ

 作者は長い入院生活のようです。その心情をうたった詩ですが、「私を救ったものは」「自分の流した 自分の涙だ」というフレーズに悲しみの深さが表出していると思います。さらに最終連の「人には耐えられない悲しみなど/なかったのだ」には絶句してしまいました。ここまで書かざるをえない「悲しみ」の奥深さを考えてしまいます。そこから湧き出た強さをもまた感じます。常人では窺い知れないものがあることを知らしめてくれた作品です。



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