きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.8.20 神奈川県真鶴半島・三ッ石




2007.9.6(木)


 今朝の神奈川新聞に拙詩集が第39回横浜詩人会賞を受賞した記事が載っていました。担当の文化部記者は事前に「本当に小さな扱いで申し訳ないんですが…」と言っていましたけど、ちゃんと顔写真入りで、そこそこの大きさでした。お礼申し上げます。

 午後からは日本詩人クラブの事務所に行って、電話設置工事の立会い。その合い間に10月研究会・例会の発送作業を船木理事と行いました。電話の方は光ケーブルを1本引いてオシマイ。簡単なものでした。業者さんが帰ったあとにインターネットのセットアップをやって、電話・Faxそれぞれの機能を確認してOK。これで電話・Fax・インターネットが完備し、ようやく事務所らしくなりました。電話・Fax番号は詩人クラブのHPに載せておきましたから、必要な方はそちらをご覧ください。Faxは常時事務所で受け付け、電話は事務所不在時は理事長に転送されるようにしてあります。

 で、台風9号。首都圏に上陸しそうでしたので、仕事が終わってすぐに帰って、正解でした。新松田駅に着く直前から土砂降り、強風。久しぶりに傘を差せない状態を体験しましたが、その後電車が遅れる事態になって、辛うじてセーフでした。帰宅して家の被害を確認したら、10枚ほどのヨシズのうち2枚が吹き飛ばされた程度でした。しかも最も古い2枚。この夏が終わったところで廃却処分になるものでしたから、惜しくはありません。ド強風でしたので全部飛ばされてもおかしくないんですけど、2枚で済んで驚いています。1枚のヨシズの真ん中を2〜3ヵ所針金で留めるだけで、上下はテラス側で食い込ませる設計になっています。我ながら設計力の確かさを改めて自慢したいですね(^^;



詩誌COAL SACK58号
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2007.8.31 東京都板橋区
コールサック社・鈴木比佐雄氏発行 800円

<目次>
*詩
熱い夏の日…長津功三良 3         変容のセレナーデ…崔 龍源 6
ソフトな盆だご…岡 隆夫 8        散花−春季…山本十四尾 10
手紙(1)(2)…伊与部恭子 11         夢など叶わなくとも私は生きる…辻元よしふみ 12
遺失物としての自分…新延 拳 13      走る少年…朝倉宏哉 14
月夜とトンネル…李 美子 15        記憶(つながり)…佐相憲一 16
アラーム/アラーム…山本聖子 18      非戦闘地域から遠く…塚本敏雄 19
笑いながら行く(続)…山本泰生 20      ひぐらし…葛原りょう 21
カンボジアの地雷博物館…水崎野里子 22   
Tuvalu(ツヴァル)…くりはらすなを 24
うつくしい唄…淺山泰美 25         M葬送…酒井 力 26
季節のない部屋で…下村和子 28       蛍−ホスピタルにて…遠藤一夫 29
空の里…杉本知政 30            暴風
(かぜ)…大原勝人 31
バイアス思考、キノコ菌…山本倫子 32    線香花火の夜…石下典子 34
夏の日…うおずみ千尋 35          
parfait…倉田良成 36
タクシードライバー…平原比呂子 37     くぐる…森 常治 38
絶学無優…石川和広 39           雪…森田海径子 40
危うい断崖(きりぎし)…結城 文 41     「熱風に追い立てられて」…徳沢愛子 42
小さな石が戯れて…中岡洋一 45       不自然という自然…加藤 礁 46
りんかい線の駅前で…西村啓子 47      夕陽の丘で、紫陽花…横田英子 48
世界の共通語、子どもの生まれない星…近藤明理
(めいり) 50
アイノカタチ(1)(2)、コワイハナシ…岡村直子 52
《針》…石村柳三 54            祈りの花炎
(かえん)…鈴木比佐雄 55
*詩・翻訳詩
視線…大山真善美 56            遠くも深くもなく ロバート・フロスト/大山真善美訳 57
最後の一葉…尾内達也 58          モスクワのホテル ヴァレリー・アファナシエフ/尾内達也訳 59
飢…鳴海英吉/水崎野里子訳 60       アジア詩行・4…高 炯烈/李 美子 62
*エッセイ
いぬの仔もねこの仔もひとの子も…淺山泰美 65
*講演・詩論・書評・紹介文特集
詩画集『白い闇』出版を祝う会 上田由美子スピーチ原稿…上田由美子 67
詩論集『雨新者
(うしんじゃ)の詩想』を出版して…石村柳三 72
具体性の詩学ノート2…倉田良成 76
現代詩における叙事詩の試み…大塚欽一 78
教育再生の処方箋の一視点 大山真善美『学校の裏側』を読む…福谷昭二 86
矜持と含羞の〈自分史>〉 金光林エッセイ集「自由の涙」を読む…南 邦和 88
宮田登美子詩集‥「竹薮の不思議」書評 「夢」その創造的異種空間への誘い…小島きみ子 92
優婉で高い完成度 大掛史子詩集『桜鬼』…図子英雄 96
古代と現代をつな夢の通路 大掛史子詩集『桜鬼』…吉田博哉 100
豊穣の秋の金いろの実−新川和江詩集『記憶する水』…大掛史子 104
ラジオから流れた『原爆詩一八一人集』(鈴木比佐雄記)108
*『原爆詩一八一人集』書評特集
「われわれの過ち」という特殊と普遍…辻元よしふみ 112
一八一の〈ヒロシマ・ナガサキ〉…草野信子 116
祈りを伝えて――『原爆詩一八一人集』…江口 節 118
次の世代に伝えたい…長沼士朗 122
沈黙の壁をこえる詩人たち…牧野立雄 125
『原爆詩一八一人集』書評…宇佐美孝二 129
原爆詩はここからこそ書かれなければならない…伊藤芳博 132
感想…有馬 敲 136
『原爆詩一八一人集』について−英語版を中心に…水崎野里子 140
『原爆詩一八一人集』管見…埋田昇二 145
*原爆・空襲体験記
「原子爆弾の投下」について…土井 寛 148
十歳の夏あの夜は戦場だった…安永圭子 154



 こどもの生まれない星/近藤明理
(めいり)

ドーナツの穴から
小さなこどもが
うふふと笑って顔を出した

でも あたりを見まわすと
すぐに奥にひっこんで
つかまえようとしたら
地球の裏側にまで
行ってしまった

――おーい、そっちには何があるの?

そこには
樹があって
山羊が草を食べていて
広場では
おじいさんやおばさんやこどもたちが
輪になり
手仕事をしながら話をしている

しかし 働きざかりの男たちは
武器を手に
村を出て行った
だから広場には乾いた砂けむりが舞っている

村はずれでは
キノコ雲を作るために
炉に火を入れはじめたという

――あぁ、そこさえも
  もうすぐ きみの居場所ではなくなるんだね

きみはもっと遠い
望遠鏡を逆さまに覗いたような
暗い井戸の底の先の先の
針の穴ほど遠くに見えるところへ
行ってしまう

そこは
ヒトが生まれるよりもはるか昔に
地球に向けて光のメッセージを発した
星雲のなかの一つの星

――きみはその星に帰って
  何を伝えるの?
  地球で見た
  何を知らせるの?

 戦争や「キノコ雲」の悲劇を伝える詩作品は多く書かれていますけど、「子どもの生まれない星」という視点で描かれた詩は、おそらく初めてではないかと思います。「――あぁ、そこさえも/  もうすぐ きみの居場所ではなくなるんだね」というフレーズでドキリとさせられ、「そこは/ヒトが生まれるよりもはるか昔に/地球に向けて光のメッセージを発した/星雲のなかの一つの星」という連で、遙かな宇宙の歴史の中での地球の位置を考えさせられました。プロットもしっかりした佳品だと思いました。



詩誌『馴鹿』47号
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2007.8.28 栃木県宇都宮市
tonakai・我妻洋氏発行 500円

<目次>
*作品
葬送…齋藤新一 1             透明な水…入田一慧 4
紅いサルビア…矢口志津江 7        亀裂…和気勇雄 9
文明と蔓…村上周司 11           雪柳/五月/躑躅/土用/三毳山…大野 敏 17
眠りの渕…青柳晶子 19           沈黙/掴む、それだけのことだが…和氣康之 21
バンドリ…我妻 洋 25
*橇
石田由美子詩集『回廊』を読んで…青柳晶子 13
青柳晶子詩集『空のライオン』のことなど…我妻 洋 14
後紀
表紙 青山幸夫



 葬送/齋藤新一

水曜日の朝
襟を正して葬送する

ちまちました日常生活の大航海に
もまれながらも
私のために
我が家のために
孜々として粉骨砕身し尽くして
くれたものたちを
にべもなく煮られ しゃぶられ 捨てられる
ごくありふれた日常のひとコマ
その果てに 哀れビニール袋の
棺に投獄された
ものたち

 (繰言なども封印され
 脱獄すらも叶わぬ身の上よ)

のどかな薫風やウグイスの読経の中
本来なら弔辞を述べるべきところだが

あなた方は
犬馬の労をとる
勇敢な戦士だった
メモとして記憶のかけらを
とどめた紙も
やり残した夢の残骸に
かっとして目を見開いた
ニシンの御頭も
なしくずしのまま
自身を切り売りした
ニンジンのしっぽさえ
廃棄物になる前は
眼には うっすらと涙をたたえ
一礼(次に茶毘に付されるのは
私かもしれない)
改めてゴミステーション
の牢獄の格子の前で
深々と
拝礼する

 目次を見たときは正直なところ、巻頭作品が「葬送」かと、ちょっと気が沈みましたけど、拝読して少しは気が休まりました。もちろん「ゴミ」だからと言って笑ってすまされる話ではありませんけど、ヒトの葬送よりは落ち着いて読むことができます。そして作者の視線に敬服しました。「メモとして記憶のかけらを/とどめた紙も/やり残した夢の残骸に/かっとして目を見開いた/ニシンの御頭も/なしくずしのまま/自身を切り売りした/ニンジンのしっぽさえ」もちゃんと葬送すべきではないかという発想に瞠目させられます。「次に茶毘に付されるのは/私かもしれない」のですから。おもしろくて、笑ってもいいのでしょうが、そのあとでちょっと考えさせられる作品と云えましょう。



一人誌『粋青』50号
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2007.8 大阪府岸和田市
後山光行氏発行  非売品

<目次>

○波は今も廃船に寄せている(4)      ○浪花如今依然涌向度船(5)
○隕石(6)                ○隕石(7)
○海が消える(8)             ○海在消失(9)
○早い朝(ルーマニア語)(11)       ○早い朝(12)
OEarly Morning(13)           ○宝石(14)
OA Jewel(15)              ○漂流する朝・7(16)
スケッチ (10)(19)
エッセイ
●絵筆の洗い水【26】(18)         ●自祝第50号記念号を迎えて(20)
●舞台になった石見【40】オリンピック選手 上迫忠夫氏、竹本正男氏、福井 誠氏(22)
あとがき
表紙絵:だんぢり祭/岸和田・上松(05年10月)



 波は今も廃船に寄せている

ある嵐の中で
梶をこわした船を
遠い記憶の底に見たことがある
私がその地を訪れたのは
それから何日も何日もあとのことで
海岸に難破船は打ちあげられていた
その時その船のすべては
終わったというけれど
海岸に打ちあげられた日から
青い空と蒼い海を背景にしながら
白い波が今も寄せている
今 船の行き先を知るすべもないが
目的地を大きくはずれて
この地に流れ着いたにちがいない
そして形としてくずれ続けながら
美しい風景をつくっている
生きているのかも知れない
人間が現実をひとつづつ
捨てていくように
船ははつらつとした船員を
ほんの小さな現実のように
捨ててきた
風景のなかにたたずむことが
青く蒼く悲愴に輝く
波がなおも寄せ続ける
この振動を神の子守歌に聞きながら
わずかな時間をやすらかに
眠るがいい
そして壊れつづけるのだ

 50号記念号となっていました。1995年8月の創刊から12年で50号ですから、ほぼ季刊と言えましょう。よく続いたものです。おめでとうと申し上げます。このペースで行くと100号は、後山さんも私も古希の頃ですね(^^;
 今号の詩作品は、「漂流する朝・7」を除いて中国語またはルーマニア語、英語の対訳付きです。50号記念の一環だと思います。そのうち巻頭の「波は今も廃船に寄せている」を紹介してみましたが、「そして形としてくずれ続けながら/美しい風景をつくっている」というフレーズに惹かれました。廃墟の美というのでしょうか、目の前に風景が浮かぶようです。続く「人間が現実をひとつづつ/捨てていくように/船ははつらつとした船員を/ほんの小さな現実のように/捨ててきた」というフレーズも佳いですね。船にとって船員は「ほんの小さな現実」なのかもしれないなと思いました。
 100号へ向けて、一層の充実を祈念しています。



詩誌『二行詩』22号
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2007.9.10 埼玉県所沢市
伊藤雄一郎氏編集  非売品

<目次>
鉄橋 ほか/安部慶悦            武州ローカル鉄道/大瀬孝和
私説なんだから物語/高木秋尾        或るイケメンサラリーマンの一日/伊藤雄一郎
梅雨(い) ほか/吉田健治          日記抄(鳥)/布谷 裕
花模様/渡辺 洋              ハングル・イン・ザ・恋の予感/全 美恵
先人の『二行詩』を訪ねて 第五回/伊藤雄一郎 良寛の二行書き漢詩/布谷 裕
お便りコーナー
後書き



           安倍慶悦

 鉄橋
今夜もまた山彦がわたる
月影を慕う風が通り過ぎてゆく

 
場所を追われて時間はとどまれない
屋根に風に晒されて経験として記される

 馬齢
私は時間のように場所を持たない
過ぎていった経験の長さだけがある

 停留所
いつも同じ年齢の女子高校生を見る
通り過ぎるわたしだけが老いてゆく

 巻頭の安部慶悦さんの作品を紹介してみました。最後の「停留所」が佳いですね。「女子高校生」はほとんどが16歳から18歳。入学して卒業して、人はどんどん変わっていくのに、「わたし」は「いつも同じ年齢の女子高校生を見る」。そして「通り過ぎるわたしだけが老いてゆく」。この作品はタイトルの「停留所」も成功していると思います。バスや電車を降りた「女子高校生」がドッと群れている、そこに、ある一定の「同じ年齢」の集団を感じさせて、ちょっと眩暈がしそうなくらいです。

 高木秋尾さんの「私説なんだから物語」のうち「獣道」もおもしろかったです。
<そのあと人が通る/そのあと獣は通れない>
 なるほど! こういう発想と表記は二行詩ならではのものでしょう。今号も楽しませていただきました。



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