きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.8.20 神奈川県真鶴半島・三ッ石




2007.9.18(火)


 日本ペンクラブの9月例会が東京會舘で開かれました。講演は、詩人で駐日クロアチア大使のドラゴ・シュタンブク閣下による「詩の夕べ」。閣下はクロアチアペンクラブ、イギリスペンクラブの会員でもあります。自作詩を英語で朗読し、翻訳した詩を天童大人さんが朗読するという形でしたが、作品がレイモンド・カーヴァーに触れていることには驚きました。ハーバード大学に特別研究員として行っていたこともあるそうですから、親交があったようです。

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 写真は天童大人さんとシュタンブク閣下。閣下のお声は柔らかくて聞きやすいものでした。作品は手首や指輪への観察が鋭く、背景に国際問題や世界への視線があり、日本ではちょっと書ける人はいないだろうなと思いましたね。

 懇親会では閣下としばらくお話しさせていただきました。もちろん通訳付きで。日本ペンクラブ事務局からの仲介もあって、11月10日(土)に日本詩人クラブ例会で閣下のご講演をいただきます。その打ち合わせです。詩人クラブの理事長と一緒にお話しさせてもらい、基本的なことは事前の打ち合わせ通りに了解していただきました。後の細かいことは書記官とやってくれというので一等書記官を紹介されましたけど、なんとうら若い美人でした。閣下には申し訳ないけど、こっちの方がGood(^^;
 いずれ詩人クラブのHPで公表しますが、ぜひ閣下のご講演を聞きに来てください。お人柄にも魅了されると思います。



阿刀田高氏著『遠い迷宮』
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2007.9.25 東京都千代田区 集英社文庫
571円+税

<目次>
趣味を持つ女…7   来訪者…31      マッチ箱の人生…60
茜色の空…90     箱の中…112
.     ナポレオン狂…140
粘土の女…171
.    姉妹抄…204.     恋は思案の外…237
蜜の匂い…259
自作解説…289
.    鑑賞 小池真理子…296



 良家の若妻・真樹子は、そろそろ1歳の娘と朝の時間を優雅に過ごしていた。そこへ、出産の時に病院で世話をしてくれた初江が、突然訪ねてくる。表面は人のいいおばさん風だが、何か薄気味悪い感じのする女。彼女が帰った午後、刑事がやって来て……「来訪者」より。人生、男女、心など、人間が生み出す数々の謎をモチーフに描く、鮮やかで洗練された珠玉のミステリー10編。

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 ペンクラブ例会参加者に配布された本です。紹介したのは裏表紙に書かれていた文です。阿刀田ミステリーは私もファンですから「ナポレオン狂」は単行本でも持っています。今年から来年にかけて、集英社では「阿刀田高傑作短編集」全5巻を刊行するそうです。この本はその第1巻。1巻目は例会に来た人に無料配布するけど、あとは全巻買ってネ、という意味だそうです(^^; 久しぶりに阿刀田ワールドを読んでみましたけど、やはり面白いです。皆さんもよろしかったらどうぞ。ちなみに阿刀田さんは今期から日本ペンクラブの会長です。



草間真一氏詩集『沈黙する水』
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2007.4.10 東京都東村山市 書肆青樹社刊 2000円+税

<目次>
 T
序詩 10       水の眠り 12     暴流 14
息吹 15       大海原 16      水流 18
岸辺 20       数式 22       真如 24
物象 25       りんご 26      沈黙 28
さようなら、そして 30 島 32        降臨 34
現象学的還元 36   そいつ 38      沈澱 40
つぼみ 42      さくら(一) 43    さくら(二) 44
受肉 46       花園 48       夏野 50
クロッカス 52
 U
風の記憶 56     ゼルマのために 58  あなたに(Mに) 60
喪失 62       不運 64       雨 66
石 68        眠り 70       半眼 72
珠光 74       灯明 75       影 76
摘果 78       ひかり 80      ゆき 82
夕照 84       目覚め 86      跳躍(一) 88
跳躍(二) 90     眼差し 92      跋詩 93
あとがき 94
装幀 丸地守



 灯明

灯りは闇を照らしだし
灯りは 闇をほんの少し削り取るだけで
その先に 無限の闇のあることを
しみじみと思い知らされる。

夜を深くするのは 実の所
闇ではなくて
あかり
それ自身なのだ。

 大雑把な言い方を許してもらえるなら、Tは水の詩、Uは光または闇の詩という言い方ができるかもしれません。ここでは、詩集中で一番好きなUの「灯明」を紹介してみました。光と闇は私にとっても大きなテーマで、光は反射するものが無ければ闇に吸い込まれるしかない、なんて詩も書いてきました。そんな意識で拝読しましたから「灯りは 闇をほんの少し削り取るだけで」というフレーズには驚かされました。この見方は新鮮です。2連目も佳いですね。「あかり/それ自身」が「夜を深くする」ということは、言われてみれば感じていたことですが言葉にはできませんでした。そういう意味でも非常に勉強になった詩集です。



詩とエッセイ『樹音』56号
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2007.9.1 奈良県奈良市
樹音詩社・森ちふく氏発行  400円

<目次>
因果応報 他1編/寺西宏之 2       石南花 他1編/かりたれいこ 4
采女まつり 他1編/汀さらら 6      天からの声 他1編/結崎めい 8
風と道と/森ちふく 10

地球温暖化への警鐘/大西利文 11      社会性って何なのだろう/板垣史郎 12
さよならだけが人生ならば/かりたれいこ 14

編集後記 15     樹のこえ 16     樹音・会員名簿 18
表紙題字・大西利文



 蛍能/汀さらら

夕暮れ迫る阿紀神社の森
素朴な能舞台
松明の爆ぜる音すら
大きく響く

演じられる「平 清経」

所作がとまり
突如訪れた闇
放たれた数百匹の


再び
何事もなかったかのように
朗々と舞台は続いていく

大きなのが源氏ボタル
小さなのが平家ボタル

滅び行くものが
はかなく小さいと思ってか
そう名づけられた

この世に生あるものは
全て滅び行く
源氏もしかり
ならばみんな平家ボタル
そんなことはあるまい

何故か
皮肉る私がいる

 「放たれた数百匹の/蛍」も一役買っている「素朴な能舞台」。美しい情景が眼に浮かぶようです。しかし作者は私のように単純ではありません。蛍へと思いを馳せ、「大きなのが源氏ボタル/小さなのが平家ボタル」であるが、「この世に生あるものは/全て滅び行く」「ならばみんな平家ボタル」ではないかと「皮肉」ります。「滅び行くものが/はかなく小さいと思ってか/そう名づけられた」わけですが、この名付けに異を唱えている、とまで行かないところがこの詩の魅力でしょう。あくまでも「皮肉」なのです。詩の使命≠フひとつに皮肉があると私は思っています。皮肉ることで世の中や人の心の問題点を抉り出す…。そういう作品として拝読しました。



個人詩誌『縞猫』17号
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2007.9 兵庫県西宮市 中堂けいこ氏発行 非売品

<目次>
夏おくら
教室



 教室

いつか吹く風 どどっど どどっど どどっど どど・・・・
数えられないままで
わたしたちの頭上をふきわたる

君もまた転校生 ケンジがわたしに告げる 校舎に沿う裏山で
君もまたいつかいなくなる 薄い胸ひびかせ 大木の枝に登り
見上げるわたしに 葉葉が擦れ 風ふきわたる ケンジの枝に
掛けた巣箱から 数えられない雛がかえり つなぐ手がほどけ
あの日から風ふきやまず ケンジのうっすら白い耳も届かない
抱卵の親鳥が探す 枝枝にわたしたちの さわれないゆびさき
さみしく残され 君もまた転校生 どどっど どどっど どど

二学期からみんなの同級生になります ケイコさん 南の風が
足踏みオルガンを高く鳴らして 夏の歌始まる ケンジの習字
狐と木の実が揺れ だれかこの文字が黒板に馴染むまで 迷子
の雛鳥を探すのですよ わたしたちに近づく若さで 美しい声
廊下から窓へ 窓から校庭へ 裏山の貯水槽へ 細い獣道伝い
同級生がつらなる ケンジの後ろから ふくらはぎ裏返るのや
はねる靴を見つめ 差し出される手首から 山の匂い苔の匂い

君は小さいからと 答えられないわたしの耳元から 額寄せて
答えが書かれる ふと顔を上げて わたしの額にふれる 暖か
な感触よ 君も何処へも行かない 繰り返される抱卵のわたし
たちの巣箱見上げてよ 肩越しに引き合うケンジの眼差し追い
遠くの須崎湾に 帆をあげる練習船もいて 眼差しの奥深くに
わたしもいて、降りしきる雪と鉄床雲もいて この教室の窓を
大をく開け どどどっど今は数えられる歌と答えを書きとめよ
           、        (スサキサス1)

 (スサキサス1)とありますから、今後連作になっていくのかもしれません。「スサキサス」の意味が判りませんでしたので調べてみましたが、広辞苑にも載っていませんでした。作者の造語なのでしょう。あるいは「須崎」の砂洲? 今後それも判明してくると思います。
 作品はおそらく小学校の「転校生」の「ケイコさん」と「ケンジ」の淡い恋、と言ったら読み過ぎでしょうか、それにしてはちょっと大人びている気がしないでもありません。今の時点から振り返って見ているからでしょうか。繰り返される「どどっど」は絶妙な効果を上げていると思います。続きが楽しみな作品です。



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