きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.8.20 神奈川県真鶴半島・三ッ石 |
2007.9.29(土)
20代の姪に誘われて昼食を供にしました。独身の彼女にはいろいろと悩み事があって、その相談なんですが、そういう時には結論が出ているものです。私はフンフンを聞いていればいいわけで、それでオシマイでした。
彼女のクルマに乗せてもらって、いかにも若い女の子が好みそうな小田原市内の店に連れて行かれました。私は運転しなくていいので、さっそくビール。つまみのピザは良かったですよ。でもビールをガンガン…、とは、さすがにいきませんでしたね。伯父としての対面もありますから、抑えました。あーぁ、これが姪でなかったなら、もっと楽しめたのにな。ま、誘ってくれただけでヨシとしましょう。昼メシ代はしっかり奢らされましたけど(^^;
○山本泰生氏詩集『声』 |
2007.9.30 東京都板橋区 コールサック社刊 2000円+税 |
<目次>
T章 時
−時 詩編− 10 −地底 詩編− 18 −道草 詩編− 26
−触 詩編− 34
U章 ギタリスト
ギタリスト 46 寝室 50 耳 54
ビル風 58 車 62 案山子 64
男 68 ほりぬき 74 雲の上のアルバム 78
花束 82 別に 84 階段について 88
鬼さん 92
V章 笑いながら行くひと(連作詩)
黒い手 98 原形 101. 玩具 104
個体 107. 肉 110. 仮面 113
時間 116. 秤 120. 眼 124
海 127. 扉 130. 独語 133
白い手 136
あとがき 140
耳
ちいさな耳がある
耳だけがある
ほかに何もない薄暗いところ
震えている耳
耳は聞く
しずかな ざわめき うなり しぶき
天空の時の刻み 透明の矢の飛び
聞こえないくらいの声
というより生命以前の声
響き 底流している
しいん しいん ぎうん ぎゅううん
ふしぎな耳鳴り
地球に生きる 三十八億年のいのち
いっぽんの弦が鳴る
一人分三万個余の遺伝子が音もなく鳴る
DNA 微細で美しい二重螺旋に
莫大な遺伝子暗号の書が詰まり ひそかに
読み解かれる声もある
ぴし ぴいいん きりる きりる ぐる ぐおおう
声は永い一息
宇宙の吐く息に乗って
地球の途切れていない遥かないのちを息して
声から レプリカ
ひと一人
だから どんなに見逃されていても重い
そっと降りかかる いのちの声
澄みきった渦の声
抱擁する声
包まれて 生かされるこうふく
宇宙の独り言
偉大な力(サムシング・グレート)の声を聞き分けられるのは
本当は耳ではない
耳奥の深い沼
表題の「声」という作品はありません。それについて「あとがき」では次のように述べています。
<タイトル『声』については、だれとなく情報の洪水に翻弄されるなかで、眼に見えるものを超えて「自身の深い声」を聴き汲み上げ行動しなければならない、こうした「声の時代」到来という切実な願いを象徴したものです。>
その具体化が紹介した「耳」という作品ではないかと思っています。ここでは「生命以前の声」、「ひそかに/読み解かれる声」を聞いているわけで、しかも、その「声を聞き分けられるのは/本当は耳ではない/耳奥の深い沼」だと言っています。この感覚は優れたものと云えましょう。そして「声の時代」の到来を願う著者の思想にも共感します。勉強させていただきました。
○詩誌『濤』16号 |
2007.9.30 千葉県山武市 500円 いちぢ・よしあき氏方 濤の会発行 |
<目次>
広告 川奈静詩集『ひもの屋さんの空』 2
訳詩 『大気(エール)』より四篇/フイリップ・ジャコテ 後藤信幸 訳 4
作品 ヨイト巻けのうた/桐谷久子 6
処方箋/村田 譲 8
口ずさむ/鈴木建子 10
濤雪 吾が家の事情(5)/いちぢ・よしあき 12
作品 メロポエム・ルウマ他/いちぢ・よしあき 13
詩誌・詩集等受贈御礼 18
編集後記 19
広告 山口惣司詩集『天の花』 21
表紙 林 一人
処方箋/村田 譲
大丈夫か? と問われ
(欠勤日数、有休有り、作業引継ぎ
何が? と答える
メニエール病なのか? と問われて
(病名リスト、ネット情報、またそれか
(経過記録、確実さ、医師説明は
否、症状以外は分からんものらしい、と答え
治るのか? との更なる問い掛けに
(不安、興味、携帯のコール、反発心
(印象の、唇の歪み
(導師はアンダーライン様
今ここに出て来てるやん! と受け流す
問われて答えての繰り返しに
大丈夫の複写がまた一段と増えていく
改めて透かして見るのは効能書
確信を宿すための英数字たち
ひとつづつ丁寧に強調されて
色取り取りに咲き狂い
こいつはどうも本人の自覚という奴は
どこまでも遠い欄外の
自由日記で記載せよとの仰せだなァと
今後、森羅万象を問われたならば
(細かすぎる注意書は無視のこと
(赤い文字色の通りに
それは食後です――と答えておくか
病気でちょっと仕事を休むと、言われるのが「大丈夫か?」と「治るのか?」ですね。相手は心配して言ってくれているのでしょうが、多少の煩わしさがあるのも事実です。そんな心理を上手く表現した作品だと思います。特に( の遣い方には工夫の跡が見られます。最終連の「それは食後です――と答えておくか」というフレーズには実感があり、詩人ならばの言葉と言えましょう。
○詩と文『tab』6号 |
2007.9.15 横浜市鶴見区 倉田良成氏発行 非売品 |
<目次>
詩篇
野村龍‥夏風の歌/01.
石川和広‥吸いこまれていった・スケッチ/02.〜04.
鈴川夕伽莉‥アジアの純真/05.〜06.
倉田良成‥悲哀のすずのね/07.〜08.
文
木村和史‥白に誘われて/09.〜11.
高野五韻‥ことば以前の声/12.〜13.
倉田良成‥蕉句二つ/14.〜16.
あとがき集/17.〜19.
画‥和田彰
夏風の歌/野村龍
背中で開いたふたつの耳から
司書達の紡ぐ紫色の繭が
時雨のように染み込んで来る
この風は まるで長年馴染んだ猫だ
ちいさく鳴きながら
纏いつく 纏いつく
Rimbaudそっくりの 短い乱れた髪を手櫛で掻きあげて
そっと送り火を焚く
母さん
帰っていくのだね
翼は暖かい
まだ
飛べるかも知れない
「背中で開いたふたつの耳」、「まるで長年馴染んだ猫」など魅力的な詩語が多い作品です。「Rimbaud」はフランスの詩人・ランボーで良いと思います。「送り火を焚く」ですから、亡母へ贈る「夏風の歌」と採ってよいでしょう。「背中で開いたふたつの耳」は「翼」でもあるようで、短詩ながら意味を重層させた佳品だと思いました。
○月刊詩誌『柵』250号 |
2007.9.20 大阪府箕面市 詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税 |
<目次>
現代詩展望 詩人が開く未知の扉 日本詩人クラブ法人化余話…中村不二夫 76
審判(13) 追悼…森 徳治 80
流動する今日の世界の中で日本の詩とは34 告発する美しい精神・御庄博美『原郷』…水崎野里子 84
薄田泣董と大阪(4) 関西に住む 古都奈良へのあこがれ…黒田えみ 88
風見鶏 岡 耕秋 増田幸太郎 吉田伸幸 安英晶 霧林道義 92
現代情況論ノート17 ベトナムからの〈されこうべ〉…石原 武 94
山崎 森/津軽海峡 4 肌勢とみ子/風 6
中原道夫/紫陽花 8 小沢千恵/紅花イチヤク草 10
柳原省三/因果応報 12 松田悦子/朝のラジオ体操 14
大貫裕司/雨の日 16 山口格郎/腹に据えかねる 18
北村愛子/近頃は 20 宗 昇/留守電 22
山南律子/迎え火 24 南 邦和/ある塔の話 26
名古きよえ/海辺のことば 28 佐藤勝太/男は寂しいか 30
忍城春宣/螢 32 岩崎風子/十五の君のポケットに 34
岩本 健/想定外 他 36 織田美沙子/儀式のように 38
小城江壮智/いなご 40 宇井 一/風景 42
西森美智子/神話の国から 44 八幡堅造/どの辺りに 46
北野明治/六月の雨 48 月谷小夜子/鉛色のべえる 50
小野 肇/人差し指 52 江良亜来子/構図 54
鈴木一成/あるく 56 川端律子/近況 58
門林岩雄/夏の朝 60 安森ソノ子/桜育て 62
若狭雅裕/秋深し 64 野老比左子/虫の知らせ 父 66
前田孝一/「だけ」の横行 68 今泉協子/女王の呟き 70
進 一男/ひととき 72 徐柄鎮/八十路のひとよ 74
世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想 16…小川聖子 96
タゴールの 『ギータンジャリ』から −神と詩と普遍牲−
世界の裏窓から−カリブ篇(2) ナイポールとウォルコット…谷口ちかえ 100
ベトナム現代詩人レ・パム・レの詩5『風はどこから吹く』…水崎野里子訳 104
コクトオ覚書225 コクトオの詩想(断章/風聞)数々 5…三木英治 106
東日本・三冊の詩集 小林登茂子『シルクロード詩篇』 岡部久子『水辺の午後』 森口祥子『冬の薔薇』…中原道夫 110
西日本・三冊の詩集 春名純子『猫産まで』 住田文子『風の記憶』 丸本明子『花影』…佐藤勝太 114
受贈図書 120 受贈詩誌 117 柵通信 118 身辺雑記 121
表抵絵 野口晋/屏絵 申錫弼/カット 中島由夫・野口晋・申錫弼
津軽海峡/山崎 森
龍飛岬
「ここは本州の極地である。
この部落を過ぎて路はない。
あとは海にころげ落ちるばかりだ。」*
北の果てにやっと辿りついたトカレフ氏は
龍飛岬から、津軽海峡を走る小さな漁船を
ターナー*の絵を見るような眼差しで
うっとりと眺めていた。
鮪を追っているのか、鱶を攻めているのか、
なぜ、猿や熊やアイヌ*の棲む、神秘的な
北の僻地が、彼の好奇心を刺激するのか。
それは長い二重らせん梯子の業(ごう)だ。
たぶん、海峡を越え 蝦夷地を抜け、千島、
樺太を過ぎり、ベーリング海を流氷で渡ると、
イワン雷帝に謁見できるという、妄想が
とり憑いたのかもしれない。
一陣の突風が吹き上げると
黒い翳が、海にころげ落ちていった。
波頭は脅迫反復的に断崖へ襲い掛かる。
鶏小舎に似た岩礁の凹みには、飛沫に晒された
おびただしい骨の散乱、聖地か。
翡翠の指輪をはめた骨、黒ずんだ十字架の絡んだ肋骨、
頭蓋骨の中で、時を刻むオメガ、
死者に捧げる幽かな鎮魂のミサ曲。
たぶん、ころげ落ちたのはこの世にあっても
屑と呼ばれる、よけいな人間たちか。
イエスですら、愛と優しさを示したのは
ころげ落ちぬ可憐なメリーウイドウだった。
なんと筋のある矛盾・なんと空々しい陥穽、
脅かしと騙しの啓示、なんと干涸びた曠野よ。
彼は懐の拳銃を徐かにとり出し、
微笑みを泛べ、群れとぶ、海猫に向って
vale vale と叫び 乱射した。
*・太宰治者『津軽』より、 *・J.M,W..Turner *・Ainu(先住民)
おもしろい作品なのですが固有名詞で迷いました。「トカレフ氏」は「懐の拳銃を徐かにとり出し」「乱射」とありますから、有名なトカレフ拳銃の開発者で良いと思います。1871年生〜1968年没。津軽海峡との関係は判りません。ネットで調べると、他に音楽家や映画の名前が出てきますけど違うでしょう。「ターナー」は私も好きな画家ですから、これはOK。「イワン雷帝」も有名な皇帝ですが、ちなみに1530年生、1584年没でした。「メリーウイドウ」はチューリップとオペラがありましたけど、これは前者だと思います。最終連の「vale」はValley(谷)の詩語だと手持ちの辞書に出ていました。
そんな前提で読み返すと「津軽海峡」の「龍飛岬」に立つ軍人の姿が浮かんできます。「長い二重らせん梯子の業」に操られた兵器開発者の拳銃によって「おびただしい骨」となった人たち。「曠野」を眼にした作者の、20世紀という時代への思いが表出した作品だろうと感じました。
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