きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.9.9 東京・浅草




2007.10.13(土)


 久しぶりに横浜中華街に行ってきました。第39回横浜詩人会賞の授賞式に出席してきたのですが、実は私が受賞者なのです(^^;
 贈呈式の前に本社に寄ってくれ、と神奈川新聞の文化部から依頼されていました。神奈川新聞には10年ほど前からポツポツと詩を載せてもらっていますが、訪れるのは初めてです。新装なった社屋の会議室でインタビューを小1時間ほど受けました。文化部長と担当記者のお二人の前で、ちょっと緊張しましたけど、記者の持っていたデジカメが私と同じニコンD70。これだ!と思ってこちらから話題を仕掛けました。そうなればあとはこっちのもの(^^; ポンポンと話は進んで、お二人とも呆れたでしょうね。
 インタビュー記事はいずれ神奈川新聞に載るそうですから、機会のある方はご覧いただけるとうれしいです。

 授賞式は「翠華」という中華料理店で行われました。主催の横浜詩人会は130名ほどの会員で、全国組織から見れば小さな会なのですが、それでも50名近くの人が集まってくれて盛会だったと思います。いつもより多いと言われて、ちょっと恐縮してしまいました。今日は日本詩人クラブの例会もあって、某有名詩人のコンサートもあったのですが、こちらに来てくれた人も多かったようで、誠に申し訳ないことでした。

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 写真は授賞の瞬間です。撮影者は日本現代詩人会前理事長、葵生川玲さん。他にも撮ってくれた人がいらっしゃったのですが、こちらを使わせてもらいました。
 それにしても胸の飾りは似合わないなぁ。私は授賞式には数え切れないくらい出席しています。そのほとんどが主催者側の下働きで、たまに友人の受賞です。時折、受賞者が「コレ、いらないよ」と言う気持が初めて判りました。子供の頃住んでいた常磐炭鉱の言葉で言うと、コッパズカシイ。でも、主催者側のときは毅然として、付けてください! それが判っていますから付けましたけどね、なんか、もっとスマートに方法がないものかなと思います。せめてリボンぐらいで…。

 懇親会のあいだ中、ウズウズしていました。いつもはバカ話に興じているのですが、今日ばかりはそうもいきません。ご祝辞を固くなって聞いて、お酒も少なめにして、ストレスがちょっと溜まりましたね。まあ、二度と訪れない機会でしょうから、たまには真剣になるのもクスリでしょう。
 選考委員の皆さまのお話は非常に参考になりました。やはり、紛糾したようです。私の今回の詩集は、結果的に一般の読者を意識したものになりました。新聞に掲載させていただいたものが多かったからで、詩の前衛≠狙うというような意識ではありません。それはそれで30代、40代でやってきたつもりですから(それほど前衛≠ニは言えないかもしれませんが)、前詩集と今詩集は詩の復権≠考えていました。ですから若い選考委員には不評で、年配の委員が買ってくれたようです。それは私が何度か選考委員をやった経験からもよく判ります。その意味でも今回の受賞は私に力を与えてくれました。拙い詩集を真剣に議論してくださった選考委員の皆さまに新ためて敬意を評します。

 二次会は野毛の「村田屋」でした。汚い店の頃は何度も呑みに行った懐かしい店ですが、新装なって昔の面影はありませんでした。しかし、某有名詩人のコンサートが終わったあとに駆けつけてくれた友人もいて、ホント、うれしかったですね。
 なにはともあれ、終わってホッとしています。横浜詩人会の皆さま、東京、小田原、静岡から駆けつけてくれた詩友の皆さま、ありがとうございました。これをバネに、もう少し進化した詩を書いていこうと思っています。今後ともご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。



『H氏賞57年のあゆみ』
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2007.9 日本現代詩人会他制作協力 非売品

<目次>
「H氏賞」とは―― 2            平澤貞二郎略歴 2
H氏賞のいわれ/平澤照雄 3        永遠なれ、H氏賞/新川和江 4
H氏賞という存在/菊田 守 5       日本現代詩人会 6
日本詩壇の輝ける星として/葵生川玲 7   「H氏賞」歴代受賞者 8
H氏賞と私/郷原 宏 10          H氏賞とともに/井坂洋子 10
支えによって/山田隆昭 11         詩の未来へ向かって/河津聖恵 11
「H氏賞」選考基準 12            日本の詩祭 第57回「H氏賞」授賞式 13
みくに文化未来館 14



 日本詩壇の輝ける星として/日本現代詩人会 理事長 葵生川玲

 この国の詩は、西欧からの影響で「新体詩抄」が顕されてからまだ百数十年を経たに過ぎないとも言えますが、近代詩と呼ばれる時代と戦争を経ての戦後詩を中核に含む現代詩の歴史は、単なる欧米文学の流れに乗ったものではなく、長い歴史を持つ和歌、紀行文などわが国の古典文学と東洋思想からの水脈を持つ漢詩の伝統をも底流に置いた、固有の精神的な深まりを内心に熱く持っていると言ってよいでしょう。
 敗戦により、国土だけでなく飢えとともに人心の荒廃が未だ治まらない中の、1950年1月21日、日本現代詩人会の前身である「現代詩人会」が、発起人・安西冬衛、安藤一郎の名によって、詩人46名に呼びかけられ、回答のあった43名の会員をもって発足し、その日を会の創立日としたものです。
 戦後五年、平和と復興の兆しが射すなか、早々に文学の核として在り得るべき詩人の声を響かせたのでした。
 その具体的な事業活動として、アンソロジーや講演会、詩の講座の企画などとともに、その年の第一回総会で提案されたのが、現代詩の賞(H氏賞)の創設と選考委員の選出であった。第一回選考委員会を無記名投票で選挙、安藤一郎、北川冬彦、木下常太郎、草野心平、村野四郎の五氏を選んでいます。翌1951年の第1回「H氏賞」受賞者は、殿内芳樹詩集『断層』であり、全国で活動する詩人たちに大きな激励、希望として受け止められたのでした。その発端として、逸早く寄金を申し出られた平澤貞二郎氏は、その後も継続的に賞の存続と発展にご協力され、1985年には、公益信託平澤貞二郎記念基金が創設され、現在に至っていますが、「H氏賞」は詩壇の芥川賞ともマスコミで喧伝されるほどに、新鋭詩人に与える賞として、多く耳目を集める存在として、現在まで57回、63名の受賞者を産み出してきました。
 その清新な才能群は、わが国の文学とりわけ詩を牽引する力として、豊かで大きな作用を及ぼしてきましたが、何よりも創造者の魂を励まし続ける希望の星として、常に在り続け、輝く存在になってきたのでした。
 日本現代詩人会も、1960年の組織改革を経て、当初の43名から、半世紀を経て現在の1,017名へと大きな団体に成長しています。
 そして、この国の詩にとってなくてはならない存在として、「H氏賞」を会員だけではなく、さらに拓かれた輝かしい詩の象徴にまで高めるように、今後も、他には見られない唯一公平な選考と運営を続けていきたいと考えています。
 このたびは、協栄産業株式会社の社会貢献の一環としてさらなるご協力をいただけるとのことで、一層、身の引き締まるものを感じております。(6月30日記)

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 前出、日本現代詩人会前理事長、葵生川玲さんより頂戴しました。文章も葵生川さんのものを紹介させていただきました。私は日本現代詩人会の会員ではありませんので、非常に参考になりました。おそらく、H氏賞のこのようなパンフレットが制作されたのは初めてではないかと思います。「輝かしい詩の象徴」としてのH氏賞、ますます日本の詩壇・文学界での興隆を願ってやみません。



西区文化協会ニュース
  『にしぶんか』20号
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2007.3.31 横浜市西区文化協会発行 非売品

<目次>
詩 夢の山を下る/林
(リン)文博(ウェンボー) 1
会長対談/浅間神宮宮司・吉田周司:西区文化協会会長・岩崎忠雄 2
開港150周年を契機としてさらなる文化の香り高き西区の創造を/西区長 二木健夫 3
クラブ訪問 絵を通して人との出会い 4
故会田南桑先生を思う/岩崎忠雄 5
研修会日記/海老塚八重子 6
こども囲碁教室 6
追悼 諸星淳造先生/長谷川泰 7
リレー随筆 心ゆたかに/野地暎人 8
西区文化協会事業報告 8
にしぶんか・ニュース 8
編集後記 8



 夢の山を下る/林
(リン) 文博(ウェンボー)

昔々 お江戸から物見遊山で
賑わいの人の群れが黒船を見物しに
急勾配の天神坂を下った頃があった

かつての天神山裾
野毛山公園には夢がある

サラリーマンは 寒空の下
朝のウォーキングに励む

地下には水脈
パーマーさんが埋め込んだ水道管

歩こう 歩こう 絶対に歩こう!
散歩って 発見の連続だよ
ジャージを背広に着替えながら
愛妻に囁く
小さな息子の寝顔に接吻し
玄関を出る

おう 寒い
雲は廻る 風は吹く
水は流れる

彼は 夢の山を下る
会社への道のりを
せっせと歩いていく

樹木が騒ぐ 荒ぶる
夢の続きを
もっと見たいんだ と
         (じゅ・げ・む所属)

 横浜市西区で発行している広報誌で、巻頭詩を紹介してみました。地元の地名や歴史をうまくうたいこんでいると思います。詩人だけではなく一般の人が見るわけですから、この配慮は大事ですね。特に「パーマーさんが埋め込んだ水道管」は、全国的には知られていないと思いますが、たしか日本で最初の洋式水道管のはずで、横浜市民なら誰でも知っていることで誇りに思っているようです。こういう地域性を織り込むことが必要です。
 それに加えて作者の個人的な「愛妻」や「小さな息子」がちょっとだけ出てきて、そこに読者も親近感を感じることでしょう。開かれた詩の見本のような佳品だと思いました。



詩誌『じゅ・げ・む』7号
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2003.4.1 横浜市港南区     600円
田村くみこ氏連絡先・かながわ詩人の会発行

<目次>
春城…とべしゅん 4            相棒に…富家珠磨代 6
会議…富家珠摩代 8            素…林
(リン)文博(ウェンボー)  9
綿菓子…林
(リン)文博(ウェンボー) 10        あとのまつり…林(リン)文博(ウェンボー) 12
戸部村くらやみ坂…とべしゅん 15      生きる…内藤嘉利 16
カマキリ…田村くみこ 18          公園のゆらぎ…宗田とも子 20
切り戻し…宗田とも子 22

エッセイ&小論集「船方 一(六)」…内藤嘉利 24
「歴史の断面」ルポルタージュ・抑留前夜…佐藤冨美雄 27
同人雑記〈とべしゅん 林文博 富家珠磨代 内藤嘉利 田村くみこ 宗田とも子〉 36
受贈詩誌・受贈詩集…39
「じゅ・げ・む」同人・住所録…40
題字 上野裕子



 生きる/内藤嘉利

地下鉄電車のなかで
九十に手のとどくと思われる
老女が文庫本を読んでいる
眼鏡をはめた目を
紙面にすれすれにまで寄せて
ぎらぎら目を輝かせ
飽くなき知識欲

僕は咄嗟にカバンからカメラを出して
撮影の準備を始める
だが一瞬にして
表現された被写体は消えた
シャッターチャンスを逃した僕は
呆然としている

今では僕の記憶の中に残るだけの映像
あの生命の輝き
あの生きる尊さ
あの人間の美しさ
僕は失われた映像に鼓舞され続けるだろう
撮り損なった写真を
僕は胸の壁に掛けておこう
それを見る度に
僕の怠慢な心は消えてゆくだろう

鋭い剣で打たれたように
僕に生きる意味を問いかけてくる

 「九十に手のとどくと思われる/老女が文庫本を読んでいる」ことに感動して「咄嗟にカバンからカメラを出して/撮影」しようとしたが、「シャッターチャンスを逃し」てしまった、というわけですけれど、老女の「飽くなき知識欲」に魅せられた「僕」に私はむしろ感動します。そこに人間に対する「僕」の貪欲なまでの興味がある、と感じるからです。「生きる」ことへの真摯な姿勢まで感じられます。それが最終連の「僕に生きる意味を問いかけてくる」というフレーズになってくるのでしょう。普段は詩の言葉として使うことを避けている、「生きる」というタイトルが「生き」ているように思いました。



詩誌『じゅ・げ・む』13号
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2005.4.15 横浜市港南区     600円
田村くみこ氏連絡先・かながわ詩人の会発行

<目次>
ザブン…林
(リン)文博(ウェンボー) 4        広場を作る…林(リン)文博(ウェンボー) 6
引きこもる…富家珠磨代 10         短い夏…富家珠磨代 11
自動改札…宗田とも子 14          オーロラ…宗田とも子 16
やさしい檻…田村くみこ 18         鏡の向こう…田村くみこ 20
夢のある場所…内藤嘉利 22         冬の代々木公園…内藤嘉利 24

同人雑記〈林文博 田村くみこ 内藤嘉利 富家珠磨代〉…26
受贈詩誌・受贈詩集…29
「じゅ・げ・む」同人・住所録
題字 上野裕子



 自動改札/宗田とも子

現在地の切符は音を立てず流れていく

鋏を鳴らす駅員が立っているから
あなたの仕事は終わったのだと告げると音を立てず立ち去っていく

私が手のひらに暖めた切符は思い残し切符
生まれた子どもに投げつけた言葉や
約束を果たさなかった帰宅時間や
読み残した絵本のフレーズが身体のなかで渦巻いている

何人もの人の思い残し切符が流れそこねて

幼子を抱えるからっぽの両手の重み
絵筆から香る絵の具のふくらみ
空に散らばるスコアから舞い上がる八分音符のさえずり

行き先の印字は消えて
未だ渡しそこねて
握りしめて

 「思い残し切符」という詩語がおもしろい作品です。その切符は駅で使われているものから「生まれた子どもに投げつけた言葉や/約束を果たさなかった帰宅時間や/読み残した絵本のフレーズ」へと展開して行くわけですが、その発想にこの詩人の特徴があるように思います。「言葉」という切符=A「時間」という切符=A「フレーズ」という切符≠ヘ、感覚的にせよ論理的にせよ、かなり位相をズラさないと出てこないと私は思います。そこを軽々とやっているところに驚きました。最終連も佳いですね。私たちの人生は「未だ渡しそこね」たものを「握りしめて」立ち竦んでいるだけなのかもしれません。



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