きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
070909.JPG
2007.9.9 東京・浅草




2007.10.22(月)


 昨日午前10時に終了した日本詩人クラブのオンライン作品研究会は、ちょっと物足りなかったかもしれません。開始の前に管理者として私が発信した「1行コメントはやめてください」という言葉に反応して、皆さんまとまった意見を書いてくれたのは良かったのですが、1行コメントによる賑やかさという面では問題があったかなと思っています。批評らしい批評が多く出てきましたので、それは意図した通りでしたが、気安さには欠けたかもしれませんね。まあ、いろいろ試行錯誤してみます。ご協力ありがとうございました。

 今日は午後から湯河原町で開催された櫻井千恵さんの朗読会に行きました。演目は北原亜衣子の「妻恋坂」。案内には〈藤沢周平の作風を彷彿とさせながら、独自の世界を女性らしい筆致で描いています。そしてどの作品からも市井の女たちの眼を通して時代の変動がとらえられているのです〉とありましたが、まさに藤沢周平の作風を彷彿とさせ≠ワしたね。

071022.JPG

 時は老中水野の時代。手鎖30日の刑を受けた瓦版(読売)売りの周二の前に現われておマチ23歳。時代に翻弄されながらも生きる市井の人々への作者の視線が眩しい作品でした。
 終わったあとは500円会費のお茶会になるのですが、そこで珍しいものを見させていただきました。水に浮かんだ葉から芽が出ているのです。セイロンベンケイソウという植物だそうで、マザーリーフと言うのだそうです。ちょっとカルチャーショックでした。そんな面白いものにも出会える、面白い会です。



季刊『詩とファンタジー』創刊号
poem and fantasy 1.JPG
2007.12.1 神奈川県鎌倉市 かまくら春秋社発行
800円+税

<目次>
●表紙絵・やなせたかし
やなせたかしの詩と絵 淡淡−2 たり−4
●詩とイラストレーション
トランプ−福田ゆかり 絵・横田 稔 6
コスモス色の夕暮れ−朝川 映 絵・内田新哉 8
初恋−水無月ようこ 絵・小谷智子 10
あまい壁−澤村薫 絵・葉 祥明 12
お風呂のピアノ−COSMOS 絵・メグホソキ 14
心の絆−本松錠二 絵・松永禎郎 16
横顔−カンノナツミ 絵・東 逸子 18
折合い−鳥羽亮子 絵・宇野亜喜良 20
ころころ−みち。 絵・スズキコージ 22
十年−おびきみつこ 絵・山口はるみ 24
浜辺の星−甲斐富祐美 絵・味戸ケイコ 26
二わのかぶの前で−藤野光樹 絵・杉浦範茂 28
ちんじゅの杜のものかげで−糸川草一郎 絵・黒井 健 44
そのひと−平岡あみ 絵・飯野和好 46
飛行機−大下美奈 絵・永井夏夕 48
リンゴっこ−棚田悦子 絵・広瀬 弦 50
青みかん−桂川 悠 絵・大友ヨーコ 52
下のキミ−吉田公園 絵・さいとうじゅん 54
柿の木−遠藤由季 絵・高橋幸子 56
お加減−夢街詩織 絵・高田美苗 58
栗ごはん−たなかひとみ 絵・はせがわゆうじ 60
紅茶と月と白いネコ−香山もも 絵・永田 萌 62
特集・愛の唄−平岡淳子 絵・安西水丸 76
●ファンタジー
アシゲといっしょに−三木 卓 絵・梅川紀美子 30
あなにやし−新川和江 絵・ささめやゆき 32
赤いオルゴール−高橋順子 絵・瓜南直子 64
キジムナー物語−うえま・つねみち 絵・後藤貴志 80
●特集・中原中也の詩と生涯
詩・中原中也 解説・青木健 絵・安藤早紀
(1)サーカス 34    (2)雪が降つてゐる…… 37
(3)いちじくの葉 39  (4)ゆきてかへらぬ−京都 41
(5)都会の夏の夜 43  (6)一つのメルヘン 69
(7)春と赤ン坊 71   (8)月夜の浜辺 73
●エッセイ
ヴァンクーヴァーの教科書から魔へ−白石かずこ 絵・マーリット・コンティアイネン 75
宮沢賢治、夢また夢、夢のまた夢−天沢退二郎 絵・大西秀美 84
●シリーズ
少女だったとき 波縫い−島田奈都子 絵・雨宮尚子 88
少年だったとき 幻を灯す−清水哲男 絵・下谷二助 90
●月のかけら 作品集−絵・吉野晃希男 92
●創刊記念鼎談 やなせたかし大いに語る 94
●お便りのコーナー 95



 初恋/水無月ようこ

初めで
好ぎになったひとさ
思いを伝えんのは
容易なごとじゃない

そんでなくても
トウギョウがらの転校生さ
ずうずうなまった
あたしじゃ
こっ恥ずがしいったら
ありゃしない

話がしてぇ
並んで歩きてぇよぉ

んでも
それがでぎねぇで
真っ赤っかにほでった胸
下ぁ向がせ 忙がしぐ
追い越すだげなのさぁ

 休刊している『詩とメルヘン』の後継誌のようです。やなせたかしさんの責任編集となっていました。「創刊記念鼎談」ではっきりと抒情の復権をうたっていまして、それはそれで良いことだと私は思います。詩には抒情もあって叙事もあって、シュールも純粋詩も象徴詩も、何もかもあって良いのです。人間にも黒人がいて白人がいて、黄色人種がいて、そして全てが認められているように、あらゆる詩が存在する理由があると思っています。その意味でも抒情詩の復権を掲げた本誌が、おそらく日本で唯一出現した意義は大きいと思います。難解で読者離れが進んでしまった日本の現代詩に風穴を開ける季刊誌です。

 紹介した作品は創刊号で唯一「ずうずうなまった」詩でした。「初めで/好ぎになったひと」は「トウギョウがらの転校生」。「話がしてぇ/並んで歩きてぇ」と思いながらも「追い越すだげ」という乙女心がよく出ていると思います。本誌の創刊号にふさわしい作品と云えましょう。添えられた絵も良かったのですが、こちらは残念ながら割愛。本屋さんで手にとって読んでみてください。



おだじろう氏詩集『ほろぼさないで』
horobosanaide.JPG
2007.10.15 佐賀県神埼市 アピアランス工房刊 1143円+税

<目次>
まったく不思議なことだ 8         ほろぼさないで(平仮名の詩
(うた)・その1) 12
腕章 15                  あし の ひとくき(平仮名の詩
(うた)・その2) 18
オレのJOB 21              ドイツではなく 25
卒業証書 28                ガマの内外 32
『くじょう』があるけん(筑後弁で) 36   逆走 40
慙愧 43                  かまいたち(平仮名の詩
(うた)・その3) 46
流れは止まらない 49            語りまくれ 53
ゆくて は かすんで(平仮名の詩
(うた)・その4)55 隣のベッドの男 58
罪深い善人 61               業
(ごう) 63
意味 65                  眠れぬ古鴉 68
へいわ(平仮名の詩
(うた)・その5) 71     忘れなさんな(旧い日記から・その1) 74
母 入院(旧い日記から・その2) 77    危ない役者(旧い日記から・その3) 80
その時はもう来ない 82           ぽきぽき 86
斎場の控え室で 89             白い雲 92
偶感 95                  あとがき 97



 ほろぼさないで(平仮名の詩
(うた)・その1)

そのめを ほろぼさないで
そのめが なにいろであっても
そのめが どっちのほうにのびていても
そのめは なんと よわよわしげであっても
その 芽 は

はるから しょか にかけて
ね を はり くきをのばし
あおい は ひろげ
あかや あおや きいろや
いろいろないろの はな さかせ
いろいろなかおり ただよわせ
なつから あきへむかって
ほっこりとした み をつけ
うけついだ いのちを
せいいっぱい まっとうする
その め にちがいないのですから

いまは かるくさわったり
ほんのちょっと つまんだだけで
あったかい なみだ うるうるながし
よくじつは しぼみ ぐったりとたれさがり
だから だから

こころからだいじに
こころからだいじに……

 73歳になったという著者の8冊目の詩集だそうです。著者の所属する詩誌『沙漠』や『いのちの籠』で拝読した作品が多くありましたが、ここではタイトルポエムを紹介してみました。「そのめを ほろぼさないで」と呼びかける著者のあたたかさが滲んでくる作品だと云えましょう。この作品の対象は植物の「芽」ですが、とうぜん若い人たちをも想起させます。「うけついだ いのちを/せいいっぱい まっとうする/その め」、その若い人たちを「こころからだいじに」したいという思いがよく伝わってくる作品だと思いました。



山口敦子氏詩集『沈黙のブルー』
chinmoku no blue.JPG
2007.9.30 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊
2000円+税

<目次>
T 世界の青
青の宝石 8                詩人トラークルと画家ルノワールの青 11
モディリアーニの瞳 14           デュフィにみる青の幻想 16
クールベの絵画より 18           鮮明なレジエの青 21
ガンジスの青い煙 24            パシュパティナートの青い炎 27
地中海の青 30               ブルーの洞窟 33
U 心の糧
エゴイズムの世界 36            ムンクの叫び 39
ジャン・デルヴィルについて 41       ラファエロと悪魔 43
ピカソと子供の世界 46           ミレーより 49
モネの睡蓮より 52             シャガールの牛の瞳 55
ミケランジェロ 57             ゴッホを訪ねて 59
パリの公園で 62              ガウディの世界 65
神秘のモンサンミッシェル 68        アルルの美女 71
V 日本の青
岡本太郎 迷宮の青 76           プラネットブルー 79
無形文化財の青 82             青のロータス(
Lotus) 85
切り絵にみる 青の世界 88         青い鳥は何処から 91
人間国宝の青 94              青い眼の人形 96
青い瞳の花嫁 98              青の看板 101
跋 104
あとがき 108



 青の看板

保育園の看板には どんな色が一番目立つだろうかと
ある日娘を伴って池袋や新宿の夜のネオン街へ出掛けた

数々の看板を見て歩いて
夜目にも鮮やかに浮かび上がっていたのは
青地に白の字で書かれた看板であった

その後も数々の看板を注意深く見てみると
駅の指示板にも青が多く
新幹線の横線も青であった

なぜ 赤じゃないの?
なぜ 黒じゃないの?
逆に疑問がおきてしまった

古代青≠ヘ
蛮族が他の族を威嚇するために青の香料を全身にぬったものだと
書物に書かれていた
だがいまは最先端を走る新幹線に青が変身している
私は 自分の仕事のため青の看板を掲げることにしたが
やはりこれが一番
これからの世代を担う子供達には
限りなく青が似合うと一人北叟笑んでいる

 絵も描くという著者の第3詩集で、画家としての眼を通した珍しい「青」の詩集と云えましょう。紹介した作品は巻尾を押さえる詩ですが、それまでのものとはまったく異なった作品です。旅や展覧会で接した青ではなく、ここでは「保育園の看板」としての、現実に求められる青が主題となっています。ちなみに著者は保育園の園長さんで、「自分の仕事のため青の看板」が必要だとと感じたわけです。
 物理的には青は波長の短い電磁波ですから、エネルギーは他の色よりも強いです。空の青、海の青も最終的に残った強いエネルギーとして見えているわけで、その意味でも「これからの世代を担う子供達には/限りなく青が似合う」と云えるでしょうね。青の詩集の見事な締めの作品だと思いました。



   back(10月の部屋へ戻る)

   
home