きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.10.15 箱根・湿生花園のコウホネ |
2007.11.3(土)
午後から新宿・天神町の日本詩人クラブ事務所で、第1回「現代詩作品研究会」が開催されました。インターネットのメーリングリストを使ったオンライン作品研究会は、この2年ほどで定着して、東京から離れた地域の会員・会友や海外在住者の参加もあって、それなりに好評なのですが、インターネットを使っていない人から、昔のように顔を付き合わせた研究会もやってほしいという声があがっていました。それなら今年度はオンラインと、いわばオフラインの2本立てでやろうということになったものです。その第1回目です。
何度かお見せしていますが、会場はご覧のような狭さ。でも、今回は18名の参加ですから、しばらく前の30人よりははるかに余裕がありました。作品提出は10人10作品。講師は3人。私も講師の一角を命じられていますので、全作品についてコメントさせていただきました。会員・会友外の一般の参加者も数名あり、会員からは90歳を越えた大先輩の作品もあって、にぎやかで、有意義なものになったろうと思っています。
オフラインの研究会も良いものですが、やはり膝を交えたオンラインも捨てたものではありませんね。久しぶりにナマの詩人たちに向き合いました。次回は4月。またユニークな作品、唸ってしまうような佳品をお待ちしています。
○下村和子氏詩集『弱さという特性』 |
2007.10.30 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税 |
<目次>
T
弱さという特性 8 「こわれもの 注意」 10 聖水 12
蒼い時間 16 海の見える寺 18 フラジリティ 22
子守唄 26 明るい処 28
U
消えていく 32 落下するもの 34 青の中で 38
私という区間 40 白馬大雪渓 42 影 44
微笑のために 46 今を歩く 50 歌 52
V
切れた絃 56 ふるさと 58 波 60
約束 64 微香 66 青い石 68
あたらしい王国 72 地球の水 76 私のまつり 84
暮れてゆく 88 冬の樹 92
あとがき 94
弱さという特性
女は
ほとけを自分の腹に宿す
十月十日かけて彫りあげた
初顔のやわらかさ
無垢で柔軟
弱さの極という形で
赤ん坊は女に 愛を教える
弱者が強者を導くとき
海はゆったりと満ちてきて
地球に光の朝がひろがる
仏は本来何の力も持たない
その弱さの故にやさしく 不動である
仏像に銃を向けると
微笑したまま 倒れて こわれる
10冊目の詩集です。タイトルポエムで、かつ巻頭作品の「弱さという特性」を紹介してみました。「弱さの極という形で/赤ん坊は女に 愛を教える」わけですが、「その弱さの故にやさしく 不動である」のだと素直に読み取れます。最終連の「仏像に銃を向けると/微笑したまま 倒れて こわれる」というフレーズも印象深いですね。仏という「何の力も持たない」存在を見事に描いています。まさに弱いものの特性を描いて、詩的に高めた作品であり詩集だと思います。
○詩誌『Void』15号 |
2007.10.31 東京都八王子市 松方俊氏他発行 500円 |
<目次>
<詩>
残日の庭…小島昭男 2 石のよな手で…浦田フミ子 5
嵐…森田タカ子 8 かぜがやってきた…中田昭太郎 12
<小論> 寄贈詩誌から…中田昭太郎 15
<詩>
二人三脚は足の引っぱりあい…中田昭太郎 16
砺波の女…松方 俊 22
後記…森田タカ子・中田昭太郎・小島昭男・松方 俊 24
石のよな手で/浦田フミ子
――石のよな手で 親様(おやさま)が(下田節)――
風が吹くと
山が 鳴る
ぶ厚い緑の 雑木林が
たしかに 生きてきたのだ わたしらは
この 言葉のない 底知れない
木々の 声に 支えられて
一九四五年八月 戦争に敗けて
そのあと農地解放があった
もともと農地がすくない 宇津貫(うつぬき)村 農民は
地主の山林(やま)を 実力で開墾し
山林解放をやった
中世いらいの そぼくな農具と じぶんの手
足で
煉瓦(れんが)みたいに ザラザラの
堅くて厚い おおきな手
(手間替(てまが)えで草むしりするでしょ
お宅のダンナがやると、みんなからずっと
遅れるんだよね。
でもそのあと草が出るまで
ほかの人の倍もつんだよネ。)
はじめて
七国(ななくに) 開墾地入り口の
小さな 三角の畑を 手放したとき
その ひびわれた 手のひらに
そこばくの 札(かね)をのせ
無口の夫は つぶやいた
土地を うるのは みじめで いやだ
明治生まれの一生一度の意思表示
風が吹く
開発で 削り取られた
山が 鳴る
ぶ厚い緑の 雑木林が
身を震わせて 鳴りとよむ
(二〇〇七・一〇・二)
「農地解放」というのは歴史で習いましたが、「山林解放」もあったのですね。第一次産業という面では同じ扱いだったのかもしれません。しかし「中世いらいの そぼくな農具と じぶんの手/足で」「実力で開墾し」た「夫」の「三角の畑」も「手放」すことになり、林業政策の失敗をここでも見る思いです。その「無口の夫」が「つぶやいた」、「土地を うるのは みじめで いやだ」という「明治生まれの一生一度の意思表示」には重いものを感じます。戦後の歴史の証言のような作品だと思いました。
○詩とエッセイ『橋』122号 |
2007.11.1 栃木県宇都宮市 橋の会・野澤俊雄氏発行 800円 |
<目次>
作品T
◇夕日に 戸井みちお 4 ◇千年の大樹 冨澤宏子 8
◇流れ 瀧 葉子 10 ◇蝉時雨 若色昌幸 12
◇時代の差 相馬梅子 14 ◇一挙手一投足・他 和田 清 16
◇某日 江連やす子 18 ◇小さな自然(U) 大木てるよ 20
◇夕暮れの道 草薙 定 22
石魚放言
テリトリー 瀧 葉子 24 シャガールの「私の国」 都留さちこ 25
評論 敬愛と互助の精神で平安な社会を――『江戸しぐさに学ぶ』―― 宇賀神忍 26
作品U
◇ひと夏・他 高島小夜子 30 ◇皮 山形照美 32
◇妹へ・他 都留さちこ 34 ◇歩調 斎藤さち子 36
◇麻と母 簑和田初江 38 ◇香のお告げ 酒井 厚 40
◇立ち位置 V そのあいか 42 ◇今年粟 國井世津子 44
◇心辺抄 野澤俊雄 46
書評 野澤俊雄
◇おしだとしこ詩集『流れのきりぎしで』48 ◇岡田喜代子詩集『午前3時のりんご』49
橋短信 風声 野澤俊雄 50
受贈本・詩誌一覧 51
編集後記 52 題字 中津原範之 カット 瀧 葉子
一挙手一投足/和田 清
洟をかむのも
雨戸を閉めるのも
そっと
そっと
人間も
家も
ガタがくるのは
はやいので
鼻血がでたり
戸が外れたり
するからね
大事なものほど
こわれやすいのです
タイトルが効いている作品だと思います。「一挙手一投足」を「そっと/そっと」やろうね、ということを言っているわけですが、それは「人間も/家も/ガタがくるのは/はやいので」というばかりではなく、まわりの他人への気遣いも表しているのでしょう。最終連に置かれた2行も佳いですね。「こわれやすい」「大事なもの」とは、もちろん人間と家だけではありません。小動物や草花なども含まれるように読み取れます。短い言葉の中に、私たちの「一挙手一投足」のあり方を教えてくれる作品だと思いました。
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