きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.10.15 箱根・湿生花園のコウホネ




2007.11.5(月)


 特に予定のない日。終日、いただいた本を拝読して過ごしました。



今猿人氏詩集
『抒情詩 イソップの詩法』
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2007.11.1 大阪市北区 竹林館刊 800円+税

<目次>
 T
イソップの詩法 8  EXPO 12     ゲチャ 16
ジグザグ 22     川崎物語 24     キャンパス 26
 U
南病棟311号室 30   ええねんで 34    手を握る 38
お線香 42      お骨
(ほね) 46     空におるんか 50
コイン 56
 V
国生み 60      思い出 64      連鎖 66
五月に吹く風は 70  風の町 74      秋の夜半 76
音信 80       旅の支度 88
あとがき 93



 イソップの詩法

《時が流れた
 それは一つの比喩だ》

目覚めたばかりのウサギが山巓を仰ぐ
永遠の先までも亀の姿は見えない

亀は一万年を生き
ウサギは五巡目の冬ごとに死ぬ
天文学的な距離のかなたにゴールを主張した亀の思惑

ウサギは一時間に二十キロを駈け
その間亀は二百メートルの移動をする
勝利の決まったはずのレースに後悔するウサギの愚鈍さ

いつスタートの合図は切られたのか
そういえば あの時
『レースが人生の比喩ではなく
 人生がレースの比喩なんだ』そう あいつは言ったが
はや十年が経つ あいつが死んでからでさえ
軽快なウサギのステップを得意とした男
そのくせ男は 死を急いだ亀にもどこか似ていた

《時が流れた
 それは一つの比喩だ》

そしてまた一万年を生きる亀も
やはり一つの比喩にすぎない

なぜなら亀は一生のほとんどを眠って過ごす
時間は二乗され 空間は固着する
ウサギは耳をそば立て 外界を窺うことで一生を終える
時間はおののき 空間は平方される

そして今
この世界ともあの世界とも知れないどこか時空の一点で
歩みを止めてしまった一匹の亀がいる
それは不意に訪れた一万年目のバースデー

寝ぼけ眼のウサギが走りはじめる
時が再び流れた
すべては比喩にすぎない

 第1詩集のようです。ご出版おめでとうございます。ここではタイトルポエムであり、かつ巻頭作品の「イソップの詩法」を紹介してみました。「《時が流れた/ それは一つの比喩だ》」「『レースが人生の比喩ではなく/人生がレースの比喩なんだ』」、そして「すべては比喩にすぎない」ということがテーマになっていて、そこに「イソップ」を持ってきたことが成功していると思います。「時間はおののき 空間は平方される」というフレーズも佳いですね。今後のご活躍を祈念しています。



詩誌『じゅ・げ・む』18号
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2007.11.1 横浜市港南区    600円
田村くみこ氏連絡先・かながわ詩人の会発行

<目次>
野分け…宗田とも子 4           冬構え…林
(リン)文博(ウェンボー) 6
盆…富家珠磨代 8             月下美人…田村くみこ 10
音楽・流れる…林
(リン)文博(ウェンボー) 12     補助線…宗田とも子 14
りんどう…富家珠磨代 16          目線…田村くみこ 18

精神の涵養〜詩人・村山精二に逢う〜…林(リン)文博(ウェンボー) 20
【同人雑記】…<宗田とも子/富家珠磨代/田村くみこ/林
(リン)文博(ウェンボー)> 23
全国受贈詩誌・詩集
題字 上野裕子



 盆/富家珠磨代

七月十三日は父の命日である
家の周囲と玄関に続く道の草刈をやる
父に帰るべき我が家がわかるようにと
草を刈る
息子は昨夜も仕事で帰ってこなかった
日曜日も土曜日もなく度々昼もなく夜も
働いて
帰ってきたときの息子は汗で臭い
いつから労働者はこんなに黙って働くように
なったのだろう
夫と二人で労基法顔をだせと声を荒げ
監督署はどこだと腕を組んでみる
不機嫌がつのると
夫は詩なんかやめろと言う
詩で何か少しでもよくなったか
詩で俺たち家族が助けられたか
そんなことは一度もないだろう
詩を書く暇があったら
草を刈って掃除をしろ
父さんと息子が帰ってくるぞと
生死の区別もなく怒鳴る
家の周囲と玄関に続く道の草を刈る
草の香りいっぱいにつつまれて
この道を
死んだ父と
生きてる息子が
帰ってくるのだ

 「詩で何か少しでもよくなったか/詩で俺たち家族が助けられたか/そんなことは一度もないだろう」というフレーズにはドキリとさせられます。確かにその通りなんです。経済的には何のメリットもなく、むしろ家計を圧迫するだけのものでしかない詩…。それでもやめられないところに詩人の業、強いては人間の業があるのかもしれません。「生死の区別もなく怒鳴る」「夫」にポエジーを感じてしまうのも、やはり詩作者としての私の業なのでしょうか。「いつから労働者はこんなに黙って働くように/なったのだろう」、「夫と二人で労基法顔をだせと声を荒げ/監督署はどこだと腕を組んでみる」ところも、現代を生きる市井人の詩があると思います。
 今号では林文博
が「精神の涵養〜詩人・村山精二に逢う〜」で、私を採り上げて下さいました。ありがとうございました。



詩誌『錨地』48号
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2007.10.31 北海道苫小牧市
入谷寿一氏方・錨地詩会発行 500円

 目次
<作品>
さがさないで下さい…中原順子 1      鱗のある状況…山岸 久 3
夏 わが原野・子ども−女の記憶…入谷寿一 5  遠い天井…宮脇惇子 10
無言…菊谷芙美子 13            九十九歳…関 知恵子 15
記憶…浅野初子 17             輝き…笹原実穂子 19
煙草は 線香を焚くように…あさの 蒼 21  分水嶺…遠藤 整 23
諫早遠望…新井章夫 25
<エッセー>
錆…寺島ゆう 29              突然のこと…笹原実穂子 31
「千の風になって」…宮脇惇子 31       それは裸の会話から始まった…岩城英志 32
同人近況…30・34・36
<風鐸>
『錨地47号』に寄せて…33          受贈詩誌・詩集紹介…35
新同人募集…35               あとがき…37
同人名簿…38
表紙…工藤裕司               カット…坂井伸一



 無言/菊谷芙美子

眠りから覚めたように
ぼんやりと ここに居る
それを、朦朧と見ている私がいる

聞耳を立てながら
永劫に失った、一つの存在を
太古の無言に 委ねている

苦手な不安が煌めいている午後の時間
かつて抱いたわずかな恍惚と静寂が
取り乱した未来の風となって降りそそぐ
認知したものは何だろう

やがて
古びた想い出にのべられた両手が
つつましく閉じられて

限界のない暗やみの底から
寡黙な着想が
夕やけ色に 回帰したとき
今日の下着を水に沈めた。

 「ぼんやりと ここに居る」私、「それを、朦朧と見ている私」。この書き出しから「無言」というタイトルそのものを連想させます。続く第2連の「永劫に失った、一つの存在を/太古の無言に 委ねている」というフレーズも、無言≠ニいう内容から考えると、スケールの大きなところがあるのではないでしょうか。無言≠ニは時空も量も超えたものであると同時に、それら全てを包括しているものだということを気づかされます。最終連の「今日の下着を水に沈めた。」という詩語にも意表を突かれました。たぶん、汚れたものを沈めた、というような喩のでしょう。「無言」という概念を巧みに具象化した作品だと思いました。



館報『詩歌の森』51号
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2007.11.6 岩手県北上市
日本現代詩歌文学館発行  非売品

<目次>
東北に魅せられて/斎藤由香         文学館活動時評17 開館から十七年/北川れい
詩との出会い18 詩か短歌か/沖ななも    連載 現代のこどもの川柳3/江畑哲男
連載 現代俳句時評(3)/茨木和生      資料情報 2007.6〜9
詩歌関係の文学賞              事業ご案内
特別講座開講                各種講座開講
日本現代詩歌文学館評議員動向 2007.6〜9   お知らせ
日録 2007.6〜9               後記



 ごめんねのかわりにそっと机ふく (盛岡市)小五・男子
 机よりソファーが好きなランドセル(柏 市)小二・女子
 見ているとなにかせつない青い空 (柏 市)中二・男子
 友達といつも同じ好きな人    (流山市)中二・女子
 学校の机は眠るためにある    (東京都)高三・男子

 今年は川柳250年だそうです。それを記念して千葉県流山市教育委員会の後援も得て「東葛ジュニア川柳大募集」という企画をやったと「連載 現代のこどもの川柳3」にありました。全国から830句、約400人の応募があったそうで、紹介したのはそのときに特選となった5句です。原本では名前まで載っていましたが、ここでは男子か女子かだけ判る程度にしておきました。この5句について江畑哲男氏は次のように述べています。

<ジュニア川柳は楽しい。川柳それ自体の楽しさに加えて、それぞれの入選句から子どもの発達段階が読みとれるからである。小五の子は、友達との葛藤を詠み、中学生は孤独や恋心を詠んだ。最後の句の断定は、高校も三年生でないとなかなかこうは詠めぬ。>

 特選だけあって、5句それぞれに秀作だと私も思いますが、特に中二・女子の句が佳いですね。これから大人になっていく子の、今まで感じていなかっただろう気持が、明るく、ユーモラスさも交えて表出しています。大人になっては書けない句、思春期でなければ書けない句だろうと思いました。



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