きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.10.15 箱根・湿生花園のコウホネ




2007.11.11(日)


 12月8日に日本詩人クラブの「国際交流の集いと忘年会」があります。忘年会、新年会、総会などは往復葉書で案内状を出すことになっていますから、今日はその版下を完成させました。いつもの月例会の1枚のチラシでも何度も見直しをしますけど、今回は往復葉書、9万円を超える金額です。いつも以上に念入りにチェックをしました。金が絡むものは怖いですからね、真剣です(^^; 特に問題なく、明日、印刷所に持ち込みます。



門田照子氏詩集『終わりのない夏』
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2007.10.30 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税

<目次>
 T
後ろの崖 8     万華鏡 12      炭化風景 16
竹の皮草履 20    未来への伝言 24   青い小径 28
海辺にて 32     暴走の果て 36    夏の終わり 40
雷鳴 44       花火 48       遥かな自転車 52
 U
ハッピー・リターン
.56 ささやかな日々 60  和食の暮らし 64
薄情もの 70     侘鳴き 74      明日は 78
ある夏の日 82    涙壺 86       続 耳のはなし 88
小春日和 92     どっこいしょ 96   後始末 100
戻る 104
.      それぞれの近未来.106

跋 自分史的な心情をゆたかに説く ――門田照子詩集『終わりのない夏』 伊藤桂一112
あとがき 122
初出一覧 124



 ささやかな日々

おとこもおんなもF大病院の患者である
隔週ごとの金曜日は予約時間に合わせて
それぞれ仕事のように通院する

おとこは朝が早い
香ばしい焼き加減のトーストにミルク
季節の果物は仄かに酸味のあるものがいい
新聞は一面から満遍なくコラムまで
連続テレビ小説の出来具合を鑑賞し
空模様を楽しみながらバス停までの散策

おんなは朝が遅い
ぎりぎりの時刻 身繕いもそこそこに
カップ一杯の牛乳を流し込み
息を切らして早足歩き バスは待ってはくれない

おんなはペインクリニックで頭痛の治療
後ろ頭に針を刺される神経ブロックの
緊張と恐さに慣れることはなく
クスリだけで用の済む日の嬉しさ
内科では大きな息を吸って吐いて喘息の聴診
ドクターは首筋のアトピーが痒そうだ

おとこはペースメーカー装着者である
懐中時計状の機器を鎖骨下に植え込まれ
一分間七〇回設定のいのちが搏動する
小さな機械に生かされて在ることの不思議
病院嫌いを返上して通院に励む
白内障で眼科 前立腺肥大症で泌尿器科
内科では心臓強化の質問をあれこれ
若い医師は寝不足の眼で微笑む

おとことおんなは
待合室でばったり出会ったりもする
  あ こんにちは
  じゃあ お先に
連れ合いが急に老けて見えるのはこんな時
連絡事項は無いのがいい

おとこは馴染みの書店を梯子して帰る
おんなもスーパーを見回って戻る
遅い昼食はサラダに麺類 ビール一缶
いつもより少し饒舌になり 互いに
あと二週間は生き延びられると思っている

 3年ぶりの詩集で、Tでは戦中の少女時代のことを中心に、Uでは結婚以後のことがまとめられていました。ここではUから「ささやかな日々」を紹介してみましたが、「おとことおんな」はもちろん著者夫妻のことと採ってよいでしょう。「連れ合いが急に老けて見えるのはこんな時」というフレーズには私も身をつまされてしまいます。「連絡事項は無いのがいい」のはお互いの病状に変わりがないということでしょう。そして最終連の「互いに/あと二週間は生き延びられると思っている」には思わず笑ってしまいましたが、病院に行くまでの2週間をこのように表現した作品にはなかなかお目に掛かれないでしょう。「ささやかな日々」を手堅い筆力で描いた佳品だと思いました。



詩とエッセイ『異神』100号
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2007.11.1 福岡市中央区 各務章氏発行 500円

<目次>
「小詩集」
各務 章
 ふる里の道…1   秋…2        遠い広場…4
 竹の里…6
田中裕子
 回復…8      置き去り…10     たまご…11
小澤清實
 ここまで…14    ブラックホール…16  すかぶら…17
田中圭介
 ミジンコ的気分でドライブ…19
金子秀俊
 小学校前バス停留所…24          玉山の日の出…27
麻田春太
 からっぽになったあたま…30        遠い季節…31
 点火…32                 餞舌な男たち…33
「エッセイ」
ワンピースの物語(招待作品)和泉僚子…35  詩の原郷 各務 章…38
「立つ」から「歩く」へ 田中裕子…42
.    雑草との対話 金子秀俊…44
上の空は能天気 田中圭介…46        瀞
(とろ) 麻田春太…48
弔辞 小澤清實…50
「編集後記」 各務 章…54



 置き去り/田中裕子

どこかでこらえていたものがはみ出して
かたちをつくった
ふうわりとした
ふき出しのかたち
ひぐらしが目玉も動かさず
時間をしまう仕事の合い間に投げかける
 具体的なせりふじゃないけれど
 悲鳴 というのはどう

シャキリと立っていたはずの足もとを揺るがして
川が
流れ始める
いつかだれかと見たような
見るはずだったような

遠くに手鏡が沈んでいる
ただ 空をあふれさせて
わたしのです
叫びそうになる

初めて安住の地を得て
声を持たない悲鳴は ほっとしている
どう歩いても置き去られそうな夕暮れの
矢じるしまで嘘をつきそうな道

 第3連の「ただ 空をあふれさせて」「遠くに手鏡が沈んでいる」というフレーズで、作者の並々ならぬ感性を感じます。最終連の「矢じるしまで嘘をつきそうな道」の矢印は道路標識と採ってよいでしょう。公安委員会が設置するようなものでなく、手作りの、どこか危うい矢印を連想しますが、ここにも意表を突かれました。「どう歩いても置き去られそうな夕暮れ」に、「わたし」は誰から、何から置き去りにされようとしているのでしょうか。時代か、世間か、「わたし」の不安がそのまま読者の不安でもあるような作品だと思いました。



個人誌Moderato28号
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2007.11.25 和歌山県和歌山市
岡崎葉氏発行  年間購読料1000円

<目次>
●特集「おしゃれな詩人に贈る、第2回モデラート賞。」
受賞のことば/山本十四尾          再びの僥倖/清水恵子
モデラート賞によせて/高嶋洋子
詩作品 牛久阿弥陀大仏/山本十四尾 2   蛞蝓/山本十四尾 4
山本十四尾(詩的+私的)自筆年譜 5     ロングインタビュー 山本十四尾・岡崎葉 8
●詩作品
紅蜀葵
(こうしょっき)/大原勝人 12        月の海/吉川彩子 16
浄化/羽室よし子 18            老後/いちかわかずみ 22
野の花/岡崎葉 24
●詩合わせ
高原/槇さわ子 14             恋/岡崎葉 15
●連載エッセイ(27)電柱の印象/山田博 20
●カンタータ18 出会うとき/北岡淳子 26
●本自慢 28
編集後記



 月の海/吉川彩子

月の海のテトラポットで隠れんぼしてたら
きみを見失った

粘膜を焦がす煉瓦色のオーロラの下に
嵐の大洋*が広がっていた

迷走する彗星が
きみの頭上で止まるとき
碧い月の石のかけらをつなぎあわせて
星の記憶を再起動する

1/6の重力の向こう側へと
閉じられてゆく扉をこじあけると
ストロボライトの光と闇に浮かび上がるのは
アクリル樹脂のアンドロイドの長い手足

流星の光の渦が月面にワックスをかけ
かつて海であった漆黒と星々が交信をする

虹の入江*辺りを滑るように航海してゆく帆船のきみへ
未明 メールを送る

有翼の半神獣からそっと渡された
アスピリンを飲んできみは今夜も眠るのだろうか

 *すべて月面の名称

 月は古来から詠われてきたものですが、この作品はいかにも現代という印象を受けます。月面に人間が降り立ってから随分と月日が流れましたけど、私たちはそれ以後、感覚を変えなければならないのかもしれません。例えば「流星の光の渦が月面にワックスをかけ」る、というように。こういう書き方はおそらく初めてではないかと思います。これこそが現代に生きる詩人の役割でしょうね。硬直気味の頭に喝を入れてもらった作品です。



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