きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
071115.JPG
2007.10.15 箱根・湿生花園のコウホネ




2007.11.26(月)


 今日は「ペンの日」だったんですが、サボりました。他に1件お誘いがありましたが、これも丁重にお断りして終日家に籠っていました。今月末締切り原稿の下調べと、いただいた本を読んで過ごしましたけど、まだまだ礼状が遅れています。すみません。



アンソロジー『大宮詩集』30号
omiya shisyu 30.JPG
2007.12.1 さいたま市大宮区
金井節子氏方事務局・飯島正治氏発行 1300円

<目次>
「大宮詩集」30号に寄せて 会長 飯島正治 6
中村  稔・冬の朝の食卓にて 8      山ア  馨・人生の坂路 10
飯島 正治・朝の散歩 12

秋田 芳子・花火 14            浅井 裕子・梅桃(ゆすらうめ) 16
池田 玉子・碁盤 18            植原まつみ・六十九才の夜 20
岡野 菊子・草の匂い 22          金井 節子・化粧 24
清宮  零・ふたりで 見た 26       黒石けさ子・平家の落人 28
小松 嘉代・風のいたずら 30        斉藤 充江・約束 32
ささきひろし・蝉時雨−H氏を偲んで 34   重田千賀子・白百合のかげに 36
清水 寛三・降誕祭 38           鈴木 昌子・つたの夢 40
田口 洋子・大木戸坂下 42         只松千恵子・世に隠れた詩 44
たちばなとしこ・祈り 46          たてのたかこ・ざくろ 48
田中しづ子・隅田の花火 50         対馬 正子・パープルブルー 52
津村美恵子・特異体質 54          西尾 君子・玉音放送−夏が来ると/逃げる−四月十三日 56
二宮 清隆・三味線 60           二瓶  徹・鎮守の森 62
花籠 悌子・私のうしろに 64        林  哲也・海の灯り 66
原島 里枝・水 68             昼間 初美・福寿草 70
廣瀧  光・雨降り朝顔 72         福島みね子・靴 74
ふくもりいくこ・桜 76           藤倉  明・だれかがいた 78
古田のい子・毀れかける風景 80       堀田 郁子・疲れたママン 82
堀井 裕子・メール症候群 84        堀口  浩・上弦のつき 86
牧  達子・天空の城 88          間中 春枝・既視感 90
宮坂美樹子・半夏生 92           村上 呉味・狸に化かされた「とよ」 94
湯村倭文子・キャップランプ 96       力丸 瑞穂・夏の幻想−薄紅色の紙縒 98
大宮詩人会メモ/大宮詩人会規約/役員名簿/あとがき



 化粧/金井節子

T病院の
リハビリセンターの看護婦さんは
女性の患者たちに化粧をする

患者のおばあさんも
髪を梳かしてもらい化粧水をつけ
おしろいをつけてもらう
看護婦さんは小さな手鏡を置き
「おばあちゃんべっぴんね」
言葉を残していく

おばあさんはやっと届くほどの鏡に
手を伸ばし
いつまでも嬉しそうに眺めている
付き添うおじいさんも
そわそわしながらおばあさんの
麻痺している指をさすってあげる
うすくマニキュアしてもらった爪が
おじいさんとおばあさんを結んでいる

口紅をつけ
化粧してもらう事で
患者たちは「ありがとう」という言葉が
不自由な口から
甦ってくる

 最終連を読んで、ああ、そういうことなのか!≠ニ思いました。女性はいくつになっても「『ありがとう』という言葉が/不自由な口から/甦ってくる」ほど「化粧」に思い入れがあるのでしょうね。それを「看護婦さん」も理解しているわけで、それもリハビリの一端なのでしょう。「付き添うおじいさん」の心理も巧く表されていて、「うすくマニキュアしてもらった爪が/おじいさんとおばあさんを結んでいる」というフレーズも微笑ましく拝読しました。



詩誌『黒豹』116号
kurohyo 116.JPG
2007.11.24 千葉県館山市
黒豹社・諫川正臣氏発行  非売品

<目次>
諫川正臣/風日記 2            諫川正臣/家出 3
西田 繁/ざくろ 4            西田 繁/木犀 5
よしだおさむ/土手に 6          よしだおさむ/夕凪 ジブを 7
前原 武/あの男は 8           前原 武/初秋の風 9
山口静雄/中秋 10             富田和夫/マリオネットを操る大男 11
杉浦将江/杜鵑草
(ほととぎす) 12        杉浦将江/ローカル線電車 13
本間義人/日盛りの頃 14          本間義人/日曜の朝 15
庄司 進/平教師 16            庄司 進/教師の言葉 17
編集後記 18



 夕凪/よしだおさむ

風がおちる
夏の一日

カラスが沖の島ヘ
夕日をあびて帰っていく

少年も釣り糸をまきあげ
潮の道をいそいだ

宿題も何もやってない遠い日

 「夏の一日」の気だるい夕暮れが思い出される作品です。「風がおちる」という1行で「夕凪」を表しているわけですが、続く第2連でも無風の中を鴉がゆっくりと羽を上下させている様が思い浮かんで、少し暑さがやわらいだ夕方を感じさせます。第3連の「少年」は最終連に懸かって、ここが作品中の最も素晴らしいところだと思います。少年の頃の「宿題も何もやってない遠い日」に思いを馳せる作者の心境が読者にも伝わってきます。短い作品ですが、短いからでしょうか、印象深く拝読しました。



個人誌『伏流水通信』25号
fukuryusui tsushin 25.JPG
2007.11.25 横浜市磯子区
うめだけんさく氏発行  非売品

<目次>

旗…長島三芳 2
トタン屋根の向う側…うめだけんさく 4
手術…うめだけんさく 5
 *
フリー・スペース(24) 空爆の記憶…志崎 純 1
 *
<エッセイ>『兵役を拒否した日本人』を読んで…うめだけんさく 6
 *
後記…8
深謝受贈詩誌・詩集等…8



 トタン屋根の向う側/うめだけんさく

壊れそうな家の窓辺に
洗濯物がはためいている
夏の強い日差しで
灼けるトタン屋根
その上の遥か向うに
空めがけて伸びる高層ビルが
古い時代を睥睨する

誰が望んだのか
今の景色を
違和感を感じさせる風景だ
そのために失ってきた調和の世界
木の香りや土の匂い
心の中から呼び起こすものがある
庶民の愉しみを奪われ
人々の怒りや悲しみが陽炎の中から
立ち上ってくる

昭和という時代の面影が
誰の目にも焼き付けられ
からだに染み付いている
忘れようにも忘れられない
網膜に焼きついた過去
その名状しがたい懐かしさが
捨てられるのを拒んでいるのだ
この感覚はいかんともしがたい

雨が降れば水溜りができ
さびたトタン塀の狭い路地では
赤子を背負って遊ぶ子らがいた
縁台に将棋をさす親爺がいた
買い物籠を下げた母がいた
夕餉のにおいが漂い
風鈴が鳴る
そして下駄履きの行き交う音が心地よく響く
あれは昭和のメロディーだった

 「昭和という時代」が「捨てられるのを拒んでいるのだ」という「感覚」は、昭和を40年ほど生きた私にも判るように思います。「夏の強い日差しで/灼けるトタン屋根」、「赤子を背負って遊ぶ子ら」はまさしく昭和の風景です。そして「下駄履きの行き交う音」が「昭和のメロディーだった」という感覚は卓見と言うべきでしょう。平成も20年を迎えようという今、昭和は遠くなりにけり≠ネのかもしれません。



詩誌『詩創』8号
shiso 8.JPG
2007.11.30 鹿児島県指宿市
鹿児島詩人会議事務局・宇宿一成氏編集
 茂山忠成氏発行  非売品

<目次>
詩作品
叙事詩 沖縄‥野村昭也 2         蛙飛び‥野村昭也 4
こどもの視点でいい‥野村昭也 5      ふりむくと‥野村昭也 6
ライフヒストリー‥南浜伊作 8       〇七 秋から初冬へ‥岩元昭雄 10
この男‥岩元昭雄 15            変貌‥岩元昭雄 17
眠り‥妹背たかし 20            兵馬俑坑博‥茂山忠茂 22
光 −坂のある風景‥茂山忠茂 24      苔‥宇宿一成 26
白くま‥宇宿一成 28            小生意気なフラミンゴ‥桐木平十詩子 30
「んどうかい」…松元三千男 32
小詩集 神の子問答‥徳重敏寛 33
神の子問答‥34               あなたと共に‥35
祈りと私の心の変化と‥36          開眼‥37
天のお父さん‥38              何が面白いの‥39
草や木が‥41                迎え入れるだけ‥43
今、ここ‥45                一生は‥46
そうではない?‥48
投稿作品
貧しさの再分配‥植田文隆 50        思い出が消えていく‥植田文隆 51
「詩人会議」十二月号より転載
手作りの詩誌に心こめて‥宇宿一成 52    待ち惚け‥安樂律子 53
詩創七号読後感
人を孤独から遠ざける生命の音‥宇宿一成 54
おたよりから‥57              後記‥59
受贈詩誌・詩集‥60



 「んどうかい」/松元三千男

「きょうは ぼくたちのんどうかいでした。ぼくは かけっこで4ばんになってかんどうしました」
翌日の日記だ。思いを文に書いて喜んでいる最中である。
「よくかけたね」とほめた。「うん」や「4」のことは後にした
 足元から頭のてっぺんまで全て新品だけど軽くかぶってるぼうしのように落ちるもんだ
 家でも「早く、速く」とせきたてられる毎日
一字一句が身に着かないままカリキュラムという学習電車は通過する。
 自分にも覚えがある
 家と教室に日々持ち余している余裕を分けて送りたいなどと思った。

 最初は脱字かと思いましたが、そうではありませんでした。「『うん』や『4』のことは後にした」という作者の配慮に敬服します。さらに「家でも『早く、速く』とせきたてられる毎日」と、子供の生活にまで思いが行って、「一字一句が身に着かないままカリキュラムという学習電車は通過する」という現状の問題点を指摘しています。作者は小学校の先生だったようで、児童からも慕われた先生だったのではないかと感じました。
 なお、今号から作品の後に作者紹介があって、作品を鑑賞する上で非常に役立ちましたが、ここではインターネットの特殊性に考慮して省略してあります。ご了承ください。



   back(11月の部屋へ戻る)

   
home