きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.10.15 箱根・湿生花園のコウホネ




2007.11.27(火)


 今日は地元の新聞『神静民報』11月23日号と、月刊誌『詩と思想』12月号が相次いで届きました。『神静民報』には詩を、『詩と思想』には書評を送稿していたものです。どちらも拙い詩、拙い書評ですが、機会のある方はお読み下さるとうれしいです。



保高一夫氏詩集『空飛ぶ鯨』
第6次ネプチューンシリーズNo.U
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2007.11.26 横浜市西区 横浜詩人会刊 1200円

<目次>
Part T
空飛ぶ鯨 8     ワニ 10       エチゼンクラゲ12
ラッコ 14      アデリーペンギン 16  カラス 18
牡蠣 20       カモメ 22      コオロギ 24
Part U
砂丘 28       拉致 30       マヨネーズ 32
エルニーニョ現象 34  ひまわり 36     気球 40
紫陽花 44      理髪店 46      廃屋 48
時間差 50      怠惰 52       津波 56
出版乱念パーティ 60  骨董屋 62      逃亡 66
朝市 68
Part V
風よ 海よ 72
あとがき 82



 空飛ぶ鯨

天空を
数百頭の巨大鯨が飛んでいる
とても信じられない

また
鯨が一頭迷い 岩場で溺死した
台風の影響で潮に流されたのでは との噂だが
本当なのだろうか

鯨が迷うだなんて
鯨は超がつく通信能力の持ち主なのだ
それが迷うだなんて

なぜ鯨が氷山に閉じこめられたり
群れで浜に打ち流されたり
身体中傷だらけになりながら頓死するのか

鯨が空を飛ぶ

汐を吹き
大ジャンプし飛行艇のように
鯨はもう迷うことはしないだろう

砂漠で見る蜃気楼には
空を飛ぶ鯨の大群がくっきりと浮かび
揺らめいている

 巻頭詩でもあるタイトルポエムを紹介してみました。なぜ鯨が空を飛ぶのだろうと思っていましたが、死んだ鯨の魂のことだったのですね。そして「超がつく通信能力の持ち主なの」に「なぜ鯨が氷山に閉じこめられたり/群れで浜に打ち流されたり/身体中傷だらけになりながら頓死するのか」と疑問を呈しています。科学的には解明されているのかもしれませんが、人間が関与しているだろうことは想像に難くありません。そこを強めて書いてあるわけではありませんので、逆に考えさせられる結果になったと思います。そうやって空を眺めると、今日も「鯨が空を飛ぶ」姿が見えるようです。



詩誌hotel18号
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2007.10.20 千葉市稲毛区
根本明氏方・hotelの会発行 500円

<目次>
作品
老魚…片野晃司 2             おれ自身はあそこにはいなかったんだ。…広瀬大志 4
迷路としてのスナック街…福田武人 6    雁信…海埜今日子 8
斧の平和/背理の伽…野村喜和夫 10     泉源通り…柴田千晶 18
赤信号…かわじまさよ 20          空の芯…浜江順子 22
地にえがく…澤口信治 24          もやもやと つながる…川江一二三 26
炎天…根本 明 28             冷たいものを注文し、君にメールを打ち始めた。…井本節山 30
エッセイ
ざわめく実(3)燃える箱のにおい…海埜今日子 33
書評
狩の愉楽 野村喜和夫詩集『稲妻狩』に沿って…広瀬大志 16
ブーブイエの「外」と「内」…川江一二三 17
□terrasse 35
表紙/カット かわじまさよ



 雁信/海埜今日子

くうふくをおさえて、ぎょうかんをでかけた。おとこにかかげず、
そしゃくのすすんだかんたいをみつけようとしたのだろう、しょも
つたち。きっかけがこきょうをとおざけることもあるのです。でん
ぶんはそらからふって、つもって、ひっぱりますか、ろうとのよう
にくちをあけ、あたしはとてもとりをまっていた、
まいますか、ふるいさほうに、くぎをうたれ、もじのしみかたをあ
おぎ、まとをいるようにして、はばたきのうけざらをつくってやら
なければならなかった。あしくびにこよりがめだつだろうか。はが
れるだいじさをしばりつけ、そだったばしょでないことをいつもこ
うりょにいれよう。ともかくとりをなんとしてでもえがくのだ。い
びつなかみたちがあたしをまった、はつかり、まって、
ふりしきるぎょうかんは、てがみだということをおぼえている。べ
つじんのあいさつをないほうし、ひとはだのようなそうにゅうでう
けいれ、だって、とりはかえりたいのですから。さむさがしなびた
はなびらをにぎりしめ、ふきかける、いき、ひさしぶりにもどれ。
しおりにしますか、うめますか、あたしをはじくぬの、からつかわ
して、でんごんのまわりにとどけたい、
とりににせたたよりをもたらされると、ペーじがはがれ、くちのな
かにささえられる。まじわって、はきだして、なつかしいこえ、と
ちでうけとり、あてはめるまでもなくのみこむだろう。でかけたさ
きでぎょうかんをこぼしていた、たくわえたちはてんでにはなしを
かえるから、いらないものでまんぷくになる。やさしいあしくび、
だって、しんそこまとったおうかんだもの、
ぎょうかんにもじのふりかたをそそぎこむことだって、おりこんで、
だからいちぶにすべてをたばね、かりがね、なみうつくうきをつめ
こむたび、ひろがりすぎてしまうんじゃないかとしんぱいだった。
はさんだはなびらはしみました、にじんでいることもはいごにまと
わせ、とペーじにかきしめし、ずいぶんまえのはくしにもどる。と
り、いないてがみはひしょうしますか、
しょもつ、さしだせば、そしゃくをたばねることもあるという、し
まいです。ふるさときんペんで、えがいたとりをいきたいと、おと
こもかたることがある、とうつされたから、つたえようとめくって
いた、こよりかわけ。くうふくがふくれあがるなら、おえつのよう
にとおさをせんかいすればいい。とどいたがんしんがあふれだし、
きぬのつたって、あおいだあたしをまちつづけた。

 *雁信は手紙のこと。漢の時代、絹に書いた手紙を雁の足に結んで送った故事から。

 「雁信」とは、なんとまあ若い女性に似合わない古語を持ってきたものだ、と思いましたが、内容はよく合っています。全文平仮名も奏功していると言えるでしょう。何度も漢字カナ混じり文に直したいとの誘惑に駆られましたが、辛うじて抑えています。平仮名ですから曖昧な文字、例えば「かんたい」「はつかり」「こよりかわけ」「きぬのつたって」などは幾通りにも書けます。その幾通りをも想像しながら読むのもこの作品の魅力でしょうね。
 しかし、それにしても佳い詩語が多いなぁと思います。「くうふくをおさえて、ぎょうかんをでかけた。」「ろうとのよう/にくちをあけ、あたしはとてもとりをまっていた、」「おえつのよう/にとおさをせんかいすればいい。」などは、それだけでも1篇の詩が書けそうです。



詩誌Messier30号
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2007.11.30 兵庫県西宮市
香山雅代氏方発行所  非売品

<目次>
粒子空間:銀河階段/アンパッサン/風をうつす鏡…香山雅代 2
Gatelessの上に瞠視する…竹田朔歩 6    ぱちぱちはぜる…松尾直美 10
遥かな記憶・夏…大西宏典 12        隠れている…大堀タミノ 14
高野川の桜並木…内藤恵子 17        S.T.氏へ…内藤恵子 20
夢は北北東へ…藤倉孚子 22
星間磁場
モンゴルヘの道…松尾直美 25        旧友へ〔夏の手紙〕…大西宏典 25
四十年前の思い出…内藤恵子 26       詩の変容態とパロディの試み…香山雅代 28



 隠れている/大堀タミノ

エスカレーターに乗りながら
エスカレーターについて考える
エスカレーターの
見えない部分を考える
円形なのか それとも 三角形なのか
わたしには 隠れて見えないものが
(どれ)も 大きすぎて困る 一階に
降ってゆく人の 無言の背中

下校途中の
女子高校生達が乗っている
互いに振り向き合って
明るい声で笑っている
手に それぞれ
サンドイッチを持っている
つまんで食べている
サンドイッチが少女の手に乗っかり
降ってゆく
二人ずつ並ぶエスカレーターの足場は
満員だ
満員プラスサンドイッチ わたしは
そのプラス分が 気にかゝる
エスカレーターは 気にしない?
エスカレーターが
サンドイッチを運んでいる

つぎつぎに 見えない地下へと
潜り込んでいく エスカレーター
意識下へと導かれ
其処で
しばしの 夢を見る

柔やわの
三角形
サンドイッチになって
少女の指の先に
乗っかっている

 「エスカレーターが/サンドイッチを運んでいる」という発想がおもしろいと思いました。そのサンドイッチは「柔やわの/三角形」で、この三角形が第1連の「円形なのか それとも 三角形なのか」に繋がっていくのでしょう。主題は「わたしには 隠れて見えないものが/何も 大きすぎて困る」ということなのですから、「つぎつぎに 見えない地下へと/潜り込んでいく エスカレーター」も隠れている「意識下へと導かれ」ているのだと採ってみました。
 なお、第3連の「つぎつぎ」は、原文ではオドリが使われていますが、うまく表現できませんので表記のようにしてあります。ご了承ください。



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