きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.10.15 箱根・湿生花園のコウホネ




2007.11.30(金)


 ようやく月刊誌の原稿が仕上がって送信しました。今日の締切りで今日送信ですから、締切りは守ったというものの、もうちょっと余裕を持ちたいものです。でも、できないでしょうね。ギリギリにならないと集中力が出ないという性格に由来していますから(^^; ま、何はともあれスッキリした気分になっています。



秦恒平氏著『湖の本』51
華燭 続・逆らひてこそ、父
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2007.11.26 東京都西東京市
「湖(うみ)の本」版元刊  2300円

<目次>
華燭 続・逆らひてこそ、父 5
作品の後に 183



 暗がりに汝
(な)が呼ぶみれば唯一人ミシンを負いて嫁ぎ来にけり    遠藤貞巳

 おぅと声が出た。
 破顔一笑。快い笑みに祝福の思いが湧く。
「呼ぶ」のがいい、声が聞こえるようだ。いじけた声ではない、貧しくとも心豊かに健康に、若い生活を倶に支え合って行こうという、気迫に溢れた「汝」の声だ。
 女の、「ミシン」ひとつの愛と活気と決意とを受けて、迎える青年にも思わず一歩を力強く踏み出す気概が湧いたであろう。これが結婚だ。
「暗がり」を、人目を恥じてとは読むまい。決意して即刻に今夜から、と私は読む。そこに、「夫婦」の出発点がある。宵から朝へ。
 原始の暦はそのように数えられていた。「国民文学」昭和二六年四月号から採った。

                      秦恒平『愛と友情の歌』講談社刊 所収

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 今、深い感動に包まれています。この作品は1996年8月に起稿され、2007年10月、つい先月に脱稿した書下し長篇小説です。昨年7月に『湖の本』50として上巻が刊行されていましたが、今回はその下巻、これで完成です。

 物語は作家の奥野秀樹を中心に夫人の藤子、私立大学助手の妻となった娘・夏生、カード会社勤務の傍らアングラ劇場での公演を続けたい長男の春生という家族が主体の小説ですが、単なる家族モノではありません。表題に示す通り「
逆らひてこそ、父」が命題になっています。「父」の役割とは何か、家族とはと次から次へと命題が提示されてきます。現代を扱いながら人類不変の男と女、その上での家族≠ニいう問題を突きつけられた作品と云えましょう。
 一つの大きなテーマが身内≠ナす。奥野秀樹の身内意識を、夏生は「魂の色が似ている」と表現しています。身内=親戚ではないという思想で、これはおそらく作家・秦恒平氏の基本的な思想だと思います。ここから秦さんの文学は出発していると言っても過言ではないでしょう。

 紹介したのは扉に書かれている文章です。最初にこれを読んで、全編読み終わった3時間後に再読しました。この小説の最も言わんとしているところが出ています。この短い文章に象徴される本質的な男女の関係に、未熟な私も眼を覚まさせられる思いです。
 これ以上詳しいことは書きませんが、お薦めです。ぜひ上下ともにご鑑賞いただければと思います。ご注文は、秦さんのHP 
http://umi-no-hon.officeblue.jp/ からどうぞ。



詩マガジンPO127号
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2007.11.20 大阪市北区 竹林館発行 840円

<目次>
特集 生誕百年・没後七十年記念 中原中也
小川和佑 中原中也の恋歌――さらば青春…9
山田兼士 中原中也『散文詩集 remix』序説…15
湯澤利明 中原中也と運命の女神−ダダにおける堕落と破滅の蜜月時代−…24
藤田明史 中原中也と湯川秀樹…30
東 順子 中原中也と「骨」接ぎ…33
森  修 中原中也の魅力…36
門脇吉隆 雑感――中原中也の世界を垣間見て…46
梶谷忠大 阿修羅童子・中也居士――ダダさんと呼ばれた頃…49
三方 克 怒りと度量…56
佐古祐二 黒田三郎の中原中也論…64
中野忠和 愛してゐた−中原中也「冬の日の記憶」より−…68
蔭山辰子 遥かなる中也を偲んで−ある午後 鎌倉にて−…69
堀  論 徹底的決定的モーメント…72
詩作品
清ア進一 スヴェトラーナ…74        藤原節子 常夜燈…76
高野信也 ねがい/癌に…78         長谷川嘉江 電話…84
北山りら ひらめき…85           左子真由美 Mon Dico
(私の辞書)・愛の動詞U…86
佐藤勝太 メダカのいた校庭…92       川中實人 視黙/あしたを考えている/おのれ…95
おれんじゆう おばけ…98          藤谷恵一郎 メルヘン−花嫁−/美しい季節…102
牛島富美二 プラハで…104
.         水口洋治 赤い靴音/空虚なかたち/金色の穂波…106
星乃絵里 変わる部屋…112
.         佐古祐二 人生…113
清沢桂太郎 春の雨/春愁/水…114
.     神田好能 咲いては、しぼむ花−ある日の便り…122
加納由将 下校…124
.            中野忠和 日傘/縫い物・繕い物…126

扉寺 山崎広光…1
ピロティ 言葉の復権 喜田りえ子…7
舞台・演劇・シアター 逸翁の遺産 河内厚郎…82
この詩大好き 黒田三郎「ある日ある時」−日常語で詩を書くことについて 佐古祐二…90
一編の小説 司馬遼太郎『奇妙な剣客』 中野忠和…100
一冊の詩集 「もの」の静かなる生 森哲弥詩集『物・もの・思惟』 左子真由美…101
一冊の本 ことばの力の回復のために 小川和佑著『花とことばの文化誌』 左子真由美…109
ギャラリ一探訪 「余呉の天女」三橋節子画 絶筆展 藤原節子…110
ビデオ・映像・ぶっちぎり 「恋人たちの予感」 芦川えみ…111
竹林館BOOKS 佐古祐二詩集『ラス・パルマス』感想批評からの抜粋…120
詩誌寸感 民衆の感受性は未だ侮れないか? 北村こう…130
竹林館BOOKS 蔭山辰子詩集『ヘリオトロープの花たち』 ときめき屋正平…132

◎受領誌一覧…133
◎執筆者住所一覧…134
◎編集後記…135
◎お知らせ
 会員・誌友・定期購読募集/投稿案内/ホームページ/「PO」例会/広告掲載案内/「PO」育成基金…136
 詩を朗読する詩人の会「風」例会…137

編集長 佐古祐二
編集部 左子真由美・寺沢京子・中野忠和・藤谷恵一郎・藤原節子・水口洋治



 ねがい/高野信也

十年ほど前のこと
「かわいい」という言葉が
傷つけられた

なんでも かんでも
かわいいと
手垢にまみれて
ぼろぼろになり

あんなにも 笑顔に満ちた存在が
唇の端だけで うす笑み浮かべる

なんにでも使われるなら
使われなくてもおなじことよね
などという

そうなんだ そうなんだけど
それでも わたしは祈り続ける

わたしは それを 磨きたいんだ
そんな存在を 磨いてあげたい

だいじに だいじに 磨いて休ませ
ほんとの魅力が戻ってきたら
この紙の上 光らせてみたい

だから 言葉よ その魂よ
この場所に 降りてください

「超」や「萌える」や「微妙」も みんな
どうかこの場所に 降りてください

 「かわいい」や「超」や「萌える」や「微妙」を使うことに批判する人は多くいますが、それを「なんにでも使われるなら/使われなくてもおなじことよね」と批判≠オたところは見事です。同じ批判をするならこうありたいものだと思います。
 さらにこの作品の素晴らしいところは、その言葉たちを「だいじに だいじに 磨いて休ませ/ほんとの魅力が戻ってきたら/この紙の上 光らせてみたい」と言っていることです。「手垢にまみれて/ぼろぼろにな」ったからと捨てることは簡単ですが、作者はそんな言葉たちだからこそ「言葉よ その魂よ/この場所に 降りてください」と呼び掛けます。そんな「ねがい」を持つ詩人がどこにいましょうか。心底、敬服しました。



詩誌『やまどり』43号
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2007.11.28 神奈川県伊勢原市
古郡氏他編集・丹沢大山詩の会発行 非売品

<目次>
巻頭言 無題/こころ 1
作品ノート
新作花火/松本せつ 2           棚田の音/芝山ISAO 2
棚田は生きている/芝山ISAO 2     棚田のスケッチ/芝山ISAO 3
応援歌/綾香 3              来ちゃった/綾香 4
秋が来て/綾香 4             これからの旅/古郡陽一 5
生きてるってこと/こころ 6        My History/川口行廣 6
ある夜のこと/神谷禧子 7         変身/吉田涼子 7
秋/松田太智 7              こころ/松田勇樹 8
NHKスペシャル/小倉克允         し・しっぱい/山口良子 9
雪/上村邦子 9              あるひ(秋)/瀬戸恵津子 10
無題/夏海 10               きらいなもの 二題/あかしけい子 10
感触/ゆき 11               公園のふたり/ゆき 11
六地蔵さん/今井公絵 12          追憶/大橋ひめ 12
徘徊のかえり道/川堺としあき 13      新たな挑戦/湧水 14
かぜ/土百 15               コスモス/土天 15
随想
「冬の温もり芝居見物」/高林智恵子 16    岡本昌司さんの『悠々素敵』を読んで/古郡陽一 17
編集後記 18



 徘徊のかえり道/川堺としあき

水の惑星をつれあいと球乗りでやってきた
落ちそうになりながら笑いを受けてきた
観客の御捻りを拾ってはお愛想を使い
今日の疲れから苦しみ悲しみきれいさっぱり
一枚の御幣になってひらり風に吹かれて
劇場からぼおっと出てくるゆうれい
近頃は徘徊慣れして旅ゆけばになる
骨まで抜かれている様は哀れをこえている
老いの気楽さはお隣さんもいらっしゃる
地図の表では何処までも行き来して
描かれていない空に戻るつもりになっている
街をはずれて彼岸花に出会う
この紅は季節をたがわずに咲いて見せる
あの時のあの人を探して借りを返したい
めぐっては行った足を滑らせた時のお礼を
罪ほろぼしは忘れてはなるまい
成仏もこれからの最終目的だから
気の毒がられて捨ておかれて嫌がられて
それで世間からは遠くで放浪癖かもしれない
おっとっとの平行感覚もなくなってきて
足踏みはずす恐れと痛みに無神経になれて
生命使いもからっぽの躰を満たすまで
めぐりめぐって時間表の終着駅のその処は
到着時刻はそこでの服装は杖は財布の小銭は
歩いて往くのでおさおさ怠りなく悪人正機
ぐっとつまりながら何度準備にひまをかける
花にそって真っ赤な帯を巻いて飾りにしよう
ゆうれいらしく保護色を纏い花になりきって
     二〇〇七年九月二三日

 あてもなくうろつき歩いた帰り道に考えたこと、心に去来したことをお書きになったようです。ですから、この作品の場合は脈絡を捉えたり意味に拘ったりしない方が良いと思います。1行1行、1字1句を作者と共有する、そういう読み方が求められているように感じます。
 そういうつもりで拝読すると、実におもしろい詩句ばかりです。全行そうだと言いたく、なかでも「地図の表では何処までも行き来して/描かれていない空に戻るつもりになっている」というフレーズには瞠目させられました。平面の地図に対して、立体の「描かれていない空」を示しています。心に浮かぶものをそのまま書き記したと思われますが、その自由な発想から出た詩語でしょう。詩のポエジー≠見せられた思いのする佳品です。



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