きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.2.22 世田谷区・静嘉堂文庫美術館




2009.4.19(日)


 詩部OB会で湯河原泊りでした。以前勤めていた会社の労働組合に文化部というものがあり、その傘下に現代詩の書き手が集る詩部がありました。労働組合の右傾化とともに詩部は解散していますが、そのOB・OG10人ほどが恒例の泊りを続けていました。私も昨年から参加して、今回は2回目です。
 湯河原温泉の旅館に泊まって、温泉でのんびりして、夜はお酒を呑み続けて、昔話に花を咲かせました。在職中から仕事上の関係はなかった人たちですし、文学だけを語り合っていました。退職した今も、そういう仲間がいることは財産だなとつくづく思います。




南原魚人氏詩集『微炭酸フライデー』
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2009.2.20 京都府宇治市 草原詩社刊 星雲社発売 1500円+税

<目次>
魚男 9                  ミナミハラ31 13
ヨサブロー 17               クリスマスのビール 23
喫煙ペンギン 27              帰り道の焚き火 31
ガラクタの街 35              ボケ老人 39
腹欲蜘蛛 43                サダの方法 47
シビック破壊衝動 51            機内にて 57
カプセルは下り車線で発射する 61      火野正平 67
不安定の巣窟 71              つる巻き線 75
形の中の中の事例A 79           時間紛失 83
月回転 87                 自販機に縛られたキリン色のガ 91
一人 95                  幽霊缶 99
純骨 105
.                 ロック・マンション 109
解説 113
あとがき 119




 
時間紛失

20時30分と21時の間辺りを切って
くっつけ直したら一日が10分くらい短くなった

僕は無くした10分近くを家中探したけども見つからなかった
「お母さんが捨ててしまったんじゃないか」
と父さんは言った

次の日、朝から犬を連れて街中で僕の時間を探した
公園にも学校にもゴミ捨て場にも焼却炉にも
どこにも無かった
犬に聞いても反応は良く無かった

骨董品屋の親父にも聞いてみた
親父はとても心配してくれた
「残念ながらおまえさんの時間はないけども、代わりにこの壺を安く売ってやろう」
と埃だらけの壺を出してきた
「そんなヤフオクでも買えそうな胡散臭い壺はいらないよ」
と言ったら親父は顔を真っ赤にして怒りだした
そんなに怒っている親父を見たのは初めてだ

いくら謝っても静まらないので壺でおもいきり親父の頭をどついた
そしたら壺の中から3分くらいと親父の口の中から5分くらいが出てきた
間違いなく僕の時間だった

帰りに壺の破片で犬を脅したら
犬は申し訳なさそうに残り2分を吐き出した

 第1詩集です。ご出版おめでとうございます。2007年3月に大学を卒業したと〈あとがき〉にありますから、おそらく20代中盤の男性だろうと思います。〈あとがき〉には、詩集を出すことは「事故」のようなものだったともありました。新しい感覚の詩人の登場と云えましょう。
 ユニークな作品揃いの詩集ですが、ここでは「時間紛失」を紹介してみました。「時間」を「紛失」するという感覚は私たちにもよくあることですけど、それを見事に具象化していると思います。〈犬〉、〈骨董品屋の親父〉というキャラクターも巧く遣っていますね。今後のご活躍を祈念しています。




詩誌『りんごの木』21号
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2009.4.1 東京都目黒区
荒木氏方・「りんごの木」発行 500円

<目次>
イヤリングは片耳に 山本英子  2     二〇〇八年は暮れて 横山富久子 4
その人は−老い−  田代芙美子 6     二月の空      さごうえみ 8
ミクロの天使    東 延江  10     始動        栗島佳織  12
木枯らし便     青野 忍  14     うふふ       藤原有紀  16
相似形       小野支津子 18     ゆぶね       川又侑子  20
りんりんと     峰岸了子  22     ミクロとマクロ   宮島智子  24
冬籠り       高尾容子  26     静かな鬼たちよ
表紙写真      大和田久            いづくへか 荒木寧子  28




個人誌『索通信』6号
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2009.4.10 横浜市緑区 坂井信夫氏気付 非売品

<目次>
詩篇■小詩集 上野芳久 2          原子炉の花 水村和子 7
   百語詩詞「風暦」 亀岡新一 8     散文詩3篇 井原修 10
   渇きと眠り 坂井信夫 13
評論■田中正造の「辛酸亦入佳境」 尾崎寿一郎 14
資料■横田文子『白日の書』書評 坂井艶司 17




 
渇きと眠り ――17/坂井信夫

 ある日、ぼくは老医師に呼び出されて診療室へとおもむい
た。かれは、こういった。国からの機密指令がとどき、ぼく
の頭のなかに或る装置を埋めこむという。それは将来におい
てこの国に必要なことで、命令にさからうことはできないら
しい。ぼくは、なぜ自分がそのような実験に択ばれたのか、
それがどのような成果をもたらすのか、ひいては躰に後遺症
が……などと尋ねたが、かれは問いにはいっさい答えない。
とにかく国のためだ――そう断言するだけであった。ぼくは、
考えてみれば、兵役から逃れ、また社会のためになにも為し
ていない自分を認めざるをえなかった。ぼくは、しぶしぶ同
意した。老医師は診察室にひとつだけの、うす汚れた寝台に
よこたわるよう指示し、それから麻酔の注射を打った。ぼく
は、たちまち気を失った。それから何時間たったのか、気が
つくと、ぼくは自分の部屋に戻っていた。頭には包帯が巻き
つけられ、横目をつかって見ると少しばかり血がにじんでい
る。ときおり頭痛がした。ほそい管が首からたれさがり、腰
のあたりで黒い袋につながっている。しばらくすると老医師
が部屋の扉をたたいた。うす闇のなかで眼鏡が光った。かれ
の説明によると、ぼくの脳から滲みでる〈幻〉が液状になっ
て流れはじめ、それが管をつたって袋に溜められるのだと。
〈幻〉はふつう透明だと思われているが、この管を通過する
数時間だけ赤くて暗い光を放つのだという。なぜ、このよう
な実験のモルモットにぼくが択ばれたのか―― ふたたび訊
いてみたが医師は無言のままだ。皇帝がじかに択ぶわけはな
い。なぜなら、ぼくという人間を知っているのは家族と数人
の友だちだけなのだから。……窓からみえる木々は、すっか
り葉を落として冬を叫んでいた。ぼくは、もしかしたらかつ
ての婿約者がひそかに告げたのではないか、と思った。

 拙HPでは初めての紹介になる個人誌です。「個人誌」とは銘打っていませんが、あとがきでは他の人が〈寄稿〉となっていましたので個人誌と判断しました。
 紹介した作品はシリーズ物です。他の複数の詩誌などにも掲載されていますし、まだ完結ではないようですから全貌は掴み難いのですが、単独の作品としても充分魅力的だと思います。〈ぼくの頭のなかに或る装置を埋めこむという〉のは、国民総背番号制を彷彿とさせます。〈ぼくは、考えてみれば、兵役から逃れ、また社会のためになにも為していない自分を認めざるをえなかった〉というのは、それだからこそ国民だと言いたいフレーズです。〈皇帝〉が何をするか、完結を待ちたいシリーズです。






   
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