きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.4.18 東京国立博物館・平成館




2009.5.20(水)


 私が委員を務める日本ペンクラブ電子文藝館委員会で、いま、ちょっとした問題が持ち上がっています。ことの発端は私にありますので、このことをどう考えているのかを表明しておきます。
 電子文藝館招待席に私が「高村光太郎作品抄」を提案し、委員会で承認されて載せました。どんな内容かは
こちら からご参照ください。それに対して、ある作家から、高村光太郎の戦争賛美詩を載せる必要はないのではないか、というメールが、私を含めた3人に届きました。私はすぐに、私が提案して載せたこと、その意図は、右傾化していく現在、あれほどの詩人がなぜ易々と戦争賛美詩を書いたかを考える必要があるからだと返信しました。しかし作家は納得せず、削除を要求してきました。
 その後、数度のメールのやり取りがありましたが、その削除要求には応じていません。削除をしない理由は、以下の考え方によります。

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なぜ高村光太郎なのか

 電子文藝館招待席に高村光太郎作品抄を、最初は2006年末か2007年初頭に提案して、委員会の了承を得られた。当時の電子文藝館委員長からは『戦争文学全集』(集英社)の光太郎戦争詩のコピーや鶴岡善久氏の評論のコピーなどを頂戴して、大いに励まされた。しかし、実際に形になったのは2008年の10月になってからである。
 作品抄には『道程』より「冬が来た」、「道程」、『智恵子抄』より「人に」、「樹下の二人」、「人生遠視」、「千鳥と遊ぶ智恵子」を選び、さらに太平洋戦争中の詩と敗戦後の詩を選んだ。太平洋戦争中の詩には「十二月八日」、「真珠湾の日」、「彼等を撃つ」を選び、最後に評論「戦争と詩」を置いた。敗戦後の詩としては「終戦」、「報告(智恵子に)」、「わが詩をよみて人死に就けり」を選んだ。

 これらの詩、評論を選んだ意図は、「高村光太郎ほどの男がなぜ?」という思いである。もちろん、光太郎以外にも当時の多くの詩人が戦争賛美詩を書いた。その中でも光太郎は日本文学報国会の詩部会長に就任し、際立った動きをしたのみならず、戦後は、他の多くの詩人が口を噤んでしまった中で、詩によって多くの若者を死に追いやった自責の念から岩手県の山村で自炊の生活を送ったのである。立派な男だと思った。戦後創設され、私も会員である詩人団体の創設会員であったことも、招待席に作品抄を載せたいという動機になった。

 詩は本来、他に比べて批評意識の強い分野であると思っている。初期の光太郎は欧米留学を通じて、特にパリでは強い批評精神が培われている。それがなぜ易々と戦争讃美詩を書いたのか、その精神構造が判らないだろうかと思った。そこが判れば、付和雷同しがちな現在の我々への警告になるのではないか…。光太郎研究は数多く行われてきたが、その面での解明は意外に少ないようにも感じていた。
 戦後、詩人の戦争責任がある意味ヒステリックに論じられた時期があった。それはそれで必要なことだったとは思う。しかし戦後60年を過ぎた今、弾劾の季節は終わって、同じ過ちを繰り返さないためにも、詩人が批評精神を失くしていくのはなぜかが問われなければならない時期に来ているのだと思う。それを自由に発想でき、書けるのは、戦争も戦後も知らず、冷静に見つめることができる我々の世代だろう。70年安保の反権力パワーは、その後の高度成長期に行方不明になってしまったが、光太郎を読み直すことで所在が判るのではないか、とも思っていた。

 この掲載に対して、声を出せない故人の負の部分を公表すべきではないという意見があった。それはそれでもっともな意見だろうが、私は違うのではないかと思っている。やっていないことを弾劾しているのではない。光太郎自身が「暗愚小伝」として1947(昭和22)年の『展望』19号に書き、しかも3年後には詩集『典型』で再録していることなのである。『典型』の「序」では、〈これらの詩は多くの人々に悪罵せられ、軽侮せられ、所罰せられ、たわけと言われつづけて来たもののみである。私はその一切の鞭を自己の背にうけることによって自己を明らかにしたい念慮に燃えた。私はその一切の憎しみの言葉に感謝した。私の性来が持つ詩的衝動は死に至るまで私を駆って詩を書かせるであろう。そして最後の審判は仮借なき歳月の明識によって私の頭上に永遠に下されるであろう。私はただ心を幼くしてその最後の巨大な審判の手に順うほかない。〉とまで述べている。立派な詩人だと思う。

 戦争詩を書いたか書かなかったかというレベルで光太郎を考えているつもりはない。作品に対する取り組みの深さに感動しているのである。私は戦争を体験していないが、戦時中に光太郎詩を読んだら、勇んで戦地に行ったかもしれない自分を発見しているのである。その言葉の持つ真摯さに感激する。それほど詩を深く見つめる光太郎だからこそ、戦後はその暗愚≠深く内省したのだろう。ある意味では狂気に至る詩の怖さを感じさせる。それを光太郎詩は我々に示しているのだと思う。作品抄は、同じことを繰り返すなと言っていると思っている。
 防衛庁が防衛省になり、海外派兵が現実となった現在、没後50年の高村光太郎はどのように我々を見ているだろうか。真摯に光太郎詩と向き合うことで、我々の現実に向かう姿勢も問われるのだと思う。高村光太郎の戦争詩を隠蔽することは光太郎自身が望んでいないし、正しい道ではない。




伊藤雄一郎氏著『幸福の選択』
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2009.4.26 東京都新宿区 鳥影社刊 1400円+税

<目次>
第一部………5
第二部………77
第三部………163
カバー画 「ル・レーブ」 前田昌良




 (帯文より)

団塊の世代の過去と現在
そして今後を問う

同窓会で再会した五人の女性たち。団塊の世代の選択したそれぞれの人生の幸福とは何であったのか。過去と現在をとおして描き、その後の人生がおのおの人生観、幸福感と共にあぶり出される。人生を振り返りどう生きるかを問う。

還暦後の人生をどう生きるのか。好奇心とチャレンジ精神を忘れなければ、もう一つの人生が開けるかも知れない。
すべての女性にささげる入魂の長編小説!

第八回シニア文学新人賞受賞作




詩誌『山形詩人』65号
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2009.5.20 山形県西村山郡河北町
高橋氏方編集事務所・木村迪夫氏発行 500円

<目次>
詩●わたしの好きな浮舟/佐野カオリ 2
詩●小詩集 いろはにほへと/菊地隆三 6
詩●菠薐草・父/大場義宏 14
詩●遺伝子/阿部宗一郎 16
詩●確率/高橋英司 20
詩●火まつり/木村迪夫 22
評論●自分史あるいは回帰からの抗戦――高沢マキ詩集『蛇行切符』論/万里小路譲 25
論考●未成の詩「ソマリアの傷」について/大場義宏 33
後記 37




月刊詩誌『柵』270号
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2009.5.20 大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税

<目次>
現代詩展望 詩人の世俗化と超越 −進一男詩集『見ることから』−…中村不二夫 74
戦後史の言語空間(7) 通路…森 徳治 78
流動する今日の世界の中で日本の詩とは(53) 福谷昭二・「地域」への一貫したまなざし 努力と歴史意識…水埼野里子 82
風見鶏 山形一至 高田太郎 鈴木文子 手皮小四郎 畑中圭一 86
現代情況論ノート(38) 猿の漫画…石原 武 88
詩作品□
柳原 省三 新しい関係 4           黒田 えみ アケボノスギが語る 6
山崎  森 星座への階 8           肌勢とみ子 空き箱 10
小城江壮智 てのひら 12            江良亜来子 傘 14
佐藤 勝太 人工衛星 16            小沢 千恵 心柱 18
南  邦和 金婚式 20             松田 悦子 祭りの朝に 22
小野  肇 地球と月と 24           秋本カズ子 立ちびなの行方 26
進  一男 何時ものように 28         織田美沙子 どこへ行きたかったの? 30
西森美智子 うたびとのうた 33         中原 道夫 普段着の神 36
三木 英治 夏(天神祭り) 38         北村 愛子 プールにて 40
安森ソノ子 姪のリサイタル 43         八幡 堅造 怖がり 46
月谷小夜子 緩衝 48              赤嶺 盛勝 花 50
長谷川昭子 わたしの駅 52           北野 明治 夢 節分 54
水木 萌子 氷柱 56              門林 岩雄 島の話 58
今泉 協子 妹へ 60              鈴木 一成 都々逸もどき 9 62
名古きよえ 森の岩たばこ 64          前田 孝一 旧家に立ちて 66
野老比左子 バラを焚く 68           若狭 雅裕 六月の空 70
徐 柄 鎮 雪見灯籠の女人 72
世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想(36)『現代ロシア詩集』より1 −ブラート・オクジャワ詩の素朴さと内省…小川聖子 90
現代アメリカ韓国系の詩人の詩(3) 芦の原 クワク・サンヒ…水埼野里子 94
「柵」の本棚 三冊の詩集評…中原道夫 96
 宇宿一成詩集『光のしっぽ』96  浅野章子詩と写真集『涙が出てきそう』97  萩野陽子詩集『鈍行列車を待ちながら』99
「柵」バックナンバーの目次 200〜229号 111
受贈図書 119  受贈詩誌 120  柵通信 116  身辺雑記 121
表紙絵 野口晋/扉絵 申錫弼/カット 中島由夫・野口晋・申錫弼






   
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