2011年８月の部屋

受領済みの詩書等

斎藤恵子詩集『海と夜祭』　『サロン・デ・ポエート』293号　『交野が原』71号　『千年樹』47号　『火片』六〇周年記念アンソロジー　『ぽとり』23号　大塚欽一著『詩道考〔�T〕』　大井康暢詩集『象さんのお耳』　『伏流水通信』40号　『きょうは詩人』19号　ばばゆきこ詩集『白からの脱出』　『白鳥省吾研究会会報』12号　『ライラック』6号　あさのたか詩集『蜻蛉』　『ヒロシマ・ナガサキを考える』復刻版�V-1〜2　上林忠夫詩集『風の話』　『御貴洛』8号　『いちご通信』創刊号　『かわさき詩人会議通信』60号　『ネビューラ』20号　阿部忠俊詩集『彼岸桜』　『Ｓｃｒａｍｂｌｅ』113号　『谷神』21号　『表象』12〜16号　『この場所ici』5号　牧葉りひろ詩集『黄色いマントの戦士たち』　『青い階段』96号　『タルタ』18号　『ｓｐａｃｅ』99号　『ＰＯＣＵＬＡ』14号　『柵』297号　『極光』16号　相良蒼生夫詩集『段差』　『火皿』125号　『歴程』576号　『兆』151号　『二行詩』36号　横山克衛詩と物語『雨の日に……』　上田由美子ＣＤ『詩集「八月の夕凪」より基町高校在校生へのスピーチ』　『叢生』175号　『しもん』23号　『詩区』145号　『流』35号　『Ｖｏｉｄ』30号　『りんごの木』28号　『ＳＵＫＡＮＰＯ』12号　『進化論』14号　『魚信旗』86号　『山形詩人』74号　本郷武夫詩集『サチコを盗み撮り』　『ＶＩＯＬＥＴＡ』22号　北島理恵子詩集『三崎口行き』　『ＯＮＬ』115号　『犯』39号　河井洋詩集『異婚』　『黒豹』127号　『ぎんなん』77号　『粋青』66号　『詩論の欠片』7号　『炎樹』65号　『詩創』27号　『刺虫』5号　『鶴亀』5号　『真白い花』5号　『風都市』23号　山本博道詩集『光塔の下で』

○本郷武夫氏詩集『サチコを盗み撮り』

2011.8.10 東京都千代田区 砂子屋書房刊　2500円+税

＜目次＞
あなたと――異国の薄暗いホテルの部屋で　10
あなたと――中国の旅は人生そのものの……　14
菲菲の証明　18
ビニール袋がやってくる赤い旗を持って　22
重い冬　28
蛇の道　30
用事　32
思い出の本を開くと　34
冬の道にも　36
南極防熱という車　38
写真の中から　42
一条の光の……　46
神田三省堂で　50
亀のタケハル　52
トイレットペイパーの音　58
見せてあげると言って　62
サチコを盗み撮り　68
ガラスの向こうのサチコ　72
サチコの玄関　76
わたしダメみたい　80
タケハルに心で話しかけていた　84
サチコ毎日撮る　88
陶磁器　92
サチコと写真　96
サチコの言葉　100
サチコと純愛不倫　104
自慰　110
光の中のサチコ　114
黄泉の鳥　120
言葉の橋　122
通路　126
土手の花　128
神様　130
朝は雪　132
冬の火事　134
赤信号の　136
滝待ち　138

後書き　139

　サチコを盗み撮り

サチコを盗み撮りする
日常のサチコの表情
サチコの動き
ぼくの脳はサチコの映像が電力だ
幾つものいくつもの映像を詰め込んだぼくの脳は
仕舞い込んだものを見るのに
幾つか不便がある
上のものしかすぐに出ないこと
少し下のものを出すとぼくが涙もろくなること
うんと深い映像の部屋のカギは
ぼくが持っているわけでなく
サチコが持っているのだ
サチコの
小さな影が
忘れていた絵画を引き出し
オークションに掛けるようなものだ
その模様を
ぼくはどぎまぎしながら
会場から離れられない
何が出てくるのか
サチコの
高速で見えなかった部分
人の目では見えない
瞬間の喜び
瞬間の悲しみや悶え
ぼくはサデストではない
ぼくは前向き
一生で
人間は何十人の人間と
かかわりあうのだろう
人生のぼくの時間を
かかわりあった人と時間で割ったなら
サチコの時間は何分の一で
順位は何番目だろう
おそらく
百人を超えない人たちと
百人を超えない狭い地図の上で
終わることになるだろう
サチコ
君の盗み撮り
全てがぼく自身のため
君に
何をあげよう
何時　消えてしまうかわからない
ぼくらの一緒の時間のために

　タイトルポエムです。本詩集の代表と呼べる作品だと思います。本詩集は「サチコ」を主体とした作品群ですが、これらは何かの喩ではなく、作品上の現実と捉えてよいでしょう。著者自身が後書きで「二千十一年を＜今＞と思ったもの、とでも言えようか。根底は愛であって、おのずからこの中の多くの作品は私の恋愛詩とでもいえるものであるのだろう」と書いています。著者と私は年齢が近いようで、私自身にも憶えがあるのですが、「何時　消えてしまうかわからない」年代の、ちょっと早い挽歌のように感じました。