きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
新井克彦画「茄子」


1999.7.11(日)

 きのうは日本詩人クラブの例会があったんですが、出勤になり、欠席。新会長高橋渡さんの講演も楽しみにしていただけに、残念。でもまあ、サラリーマンとしても生きているわけですから、それも仕方ないことですね。


隔月刊詩誌『紙碑』187号
   sihi 187
  静岡県浜松市 紙碑之会 伊藤賢三氏 発行

 合わせ鏡/戸張みち子

わかったような
わからないような
いつの間にか
辻褄を合わせている

どうして辻褄が合ったのか
半信半疑で
みんなに選ばれた
偉い人がきめたのだから----

辻褄ならぬ
左褄をとって
ぬき衣紋に
たぼの納まり具合を
合わせ鏡でみている

 「辻褄」と聞くと反射的に「整合性」を思い浮かべます。今までは厳密に区別して使っていたわけではありません。しかし、この作品に接して反省しました。「辻褄」と「整合性」は似て非なるものですね。確かに合わせ鏡≠ナ考えると、「たぼの納まり具合を」を見るのは辻褄≠ナあり、整合性≠ナはありません。
 本当は、世の中のほとんどの部分は整合性を持ってほしいと思っています。でも、ある部分では不整合が必要で、それが芸術の基になっているんだろうと思います。しかし、現実には不整合ばっかりで、イライラする場面が多くあります。その最大のイライラが「みんなに選ばれた/偉い人がきめたのだから----」です。
 俺は一度だって選んだことはないぞ、と言ってみても仕方ないことは判っています。人類の到達した一応の最高峰が民主主義であることに異を唱える気もありません。でも、なんか違うんだなあ。せいぜい「ごまめのはぎしり」を演じて考えるしかないようです。


石原緑子氏詩集『しせいかつ』
   siseikstu
  1999.6.16 私家版 880円

 こんなに丁寧に他人様から本をいただいたことはありません。作者の石原さんから添文があるのは、まあ、普通のことです。驚いたのは、さらにもう一通。日本詩人クラブでご一緒している清水恵子さんの紹介文も入っていました。「石原さんは大切な友人」と書いてありました。

 『大嫌いだ あたしは
 子として親を悪く云うような人間は大嫌いだよ』

 前進座公演「かあちゃん」のポスターを居間に貼っている

 いいでしょ でしょ?
 この台詞 気に入っているのよ    (前進座「かあちゃん」第1〜3連)

 巻頭の作品の一部です。この人の私生活≠端的に物語る作品ですね。このあとの作品も楽しい詩が続きます。ご家庭のことが中心になっていますが、あたたかい家庭のように感じられ、読んでいてほのぼのとした気分になります。清水恵子さんが惚れ込むのも判るような気がしますね。


総合文芸誌『金澤文学』15号
   kanazawa bungaku 15
  石川県金沢市 金沢文学会 千葉龍氏 発行

 日本詩人クラブ会員の千葉龍さんからいただきました。

 死んでしまつた言葉たちよ/筧 槇二

<乳母車>
三好達治が泣いてるな きっと
ベビーバギーぢやねえ

てえわけにはいかない

<百貨店>
途中でぶつた切らないで
デパートメントストアと言つてくれれば
安売り顔になつて
チイキシンコウケンが似合ふと思ふよ

<乗合自動車>
バスつてのは
俺のことかと風呂が言ひ
bassもbusも
カタカナ書きは同じ顔

<酒屋さん>
米酒店
リカーショップ
みんな酒がまずくなつて
やつぱり酒屋さんの量り売りがいい

<魚屋さん>
冷凍品並べて鮮魚店
<八百屋さん>
青果店ぢや豆腐も売つてるよ

----言葉は時代とともに変るものである
なんちやつて
じつは人間がかつてに変へてるのに
ねえ
自称コピーライターの広告屋さん

 自分の所属する同人誌の主幹を、ここで紹介するのはマナー違反ではないかと思います。しかし、あえて取り上げさせていただきました。308頁に及ぶ大冊の中で、詩はやはりこの作品が一番おもしろい。言葉に対する筧さんの思いが伝わってきます。カタカナ言葉が新しいと、私自身も思っていたのは、もう30年も前のこと。今さら使っている人を見ると、フルイなあ、と思いますよ。
 マナー違反で取り上げた理由はもうひとつ。「」という字にあります。この字は現在のパソコンでは表現できません。ではなぜ私のパソコンでは表現できているかというと、6/16と7/7で紹介した文字鏡研究会編
『パソコン悠悠漢字術』のお陰です。詳しくはそちらをご覧になっていただきたいのですが、こんな場合に使える優れモノです。
 しかし、まだまだ問題もありますね。ご覧のようにフォントがちょっと違いますので、目立ってしまいます。画面でご覧の方には見えると思いますが背景色の指定ができません。白く抜けていると思います。やはり、できるだけ多くの文字に文字コードを振ってもらいたいものです。
 そうは言っても今現在、9万字を有するこのソフトは、世界唯一のものです。しかも無料。漢字も日々更新されるとなると、贅沢は言えないのかもしれません。特にこのソフトを私に無償提供してくれた文字鏡研究会には。お礼を申し上げるのみです。



 
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