きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
新井克彦画「ムラサメモンガラ」 |
2000.12.30(土)
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○詩とエッセイ誌『しある』28号 |
2000.12.20
長野県大町市 しあるの会・秋園隆氏発行 500円 |
今号は、10月28日に交通事故で亡くなった金田国武さんの追悼特集になっていました。数年前、私も『しある』の同人の皆さんにお会いしたことがあり、大町近郊を車で案内してもらったことがあります。金田さんにもその時お会いしています。それが最初で、最後の出合いとなってしまいました。
雪占い/金田国武
今年は蟷螂の卵が
蓬の上の方へ生みつけてあるね
百雀の置き土産の蛙だって
ほーれ ウツ木の上の方で
干からびている
久しぶりに スキー場は
ほくほくってわけだ
それにしても 虫たちが
見えない向うの方まで
すーっとお見通しとはね
今号の『しある』に寄せられた作品だそうです。おそらく絶筆ではないかと思います。「虫たちが/見えない向うの方まで/すーっとお見通し」ということにも驚かされますが、それを知っている信州人にはもっと驚かされます。自然の営みと等身大で付き合っている人たちにしか言えない言葉でしょうね。優れた詩人を失ったことに改めて気付かされます。ご冥福をお祈りいたします。
○個人誌『水の呪文』38号 |
2000.12.15
群馬県北群馬郡榛東村 富沢智氏発行 300円 |
景色屋/富沢
智
ようするに形良くです
意匠といったってああた
あの基礎的な構図の正しさはゆるぎません
学ぶひとは
つまんないひとだと
ひとまず言っておきましょう
知の方から
絶えず圧力が寄せてきて
本当は性根を知られたくないと
痩せ細った感情がふるえているのですが
これはこれでしぶとい
どおどおと
おしっこしながら景色屋は考えた
切り捨てるというけれど
そりゃあ表現の都合で
どこかに野暮な景色は残るもの
それを修正するのが仕事なんだが
歳のせいか
真面目に嘘をつくのが嫌になった
どうしたって完成というわけにはいかない
遠景のなかには必ず
あかんべえをしているひとがいて
それが愛すべきひとだったりする
きれいごとだよ
短詩型なんてさ
夕日にむかって格好つけられるのは
ほんの一瞬のこと
誰も見ちゃいない
なおかつそこらの小石を拾って投げられれば
たいしたもの
とても恥かしいことを
しているんだと
ひととして乗り越えなければ
景色は変わらない
但しことの良し悪しは
景色屋の関知するところではない
どうだ
狡いだろう
「景色屋」とは詩人のことです。詩人についてあれこれ並べて、最後はどう書くんだろうと思って見ていましたら、「どうだ/狡いだろう」。これには参りました。その通り! ちなみにここに書かれている「景色屋」は富沢智さんご本人であると明言しておきます。私じゃない(^^;;
以上、私の読みが間違っていたとしても、私の「関知するところではない」。
まあ、冗談はそのくらいにしておいて、今号の「榛名通信(26)」はいい文章でした。富沢さんの経営している現代詩資料館「榛名まほろば」の開店から現在までの状況を書いていて、淡々とした中にも富沢さんの「榛名まほろば」に対する思い、日本の戦後詩に対する思いが切々と伝わってきます。嫌味のない文章で、富沢さんの人柄が出ています。「榛名まほろば」を「書き手と読者をつなぐ場」にしたいという理想も支持できますね。しばらく「榛名まほろば」にはお邪魔していないので、また行きたくなりました。
○詩誌『こすもす』39号 |
2001.1.10
東京都大田区 笠原三津子氏発行 450円 |
虹/森原直子
<ほら にじ>
少し裏返った声で
叫んでいた
長い沈黙が途切れ
フロントガラスに閉じこめられていた
あなたの視線が
かすかに揺れた
何を急がせているのか
雨の高速道路
いくつかのインターチェンジを
いくつものトンネルを
押し黙ったまま通り抜け
どこにむかっているのかも確かめないで
あなたは
スピードを上げた
<ほら にじ>
はしゃぎながら指をさし
<ほら つき>
<ほら とんぼ>
同じ調子で叫んでいた幼い頃
<騒ぐんじゃないぞ>と 一喝したあと
裸足で飛び出していった父さんを
泣きながら追い掛けた
隣家の火事の日
抱きかかえた人形の
無表情な横顔のことなど
不意に思い出し
あなたをのぞきこんだ
<あっ にじ
きえちゃったわ>
4連がよく効いてますね。「あなた」と「父さん」がダブって、まあ、男なんてそんなもんだろうと思いますよ。私も車の運転中はほとんどしゃべりません。運転に集中したいのと、運転が楽しいから邪魔されたくないんです。高速道路より山岳道路の方がもっと楽しいですけどね。
そんな「あなた」の心境と作者の気持のちょっとしたズレが、この作品の魅力だろうと思います。でも「あなたの視線が/かすかに揺れた」んですから、ちゃんと見るところは見ているんでしょう。そこをきちんと表現していて「無表情な横顔」にも安心して読むことができました。
○詩と散文・エッセイ誌『吠』13号 |
2000.12.20
千葉県香取郡東庄町 「吠の会」・山口惣司氏発行 700円 |
今号は中関啓文氏の追悼特集になっていました。中関氏は詩集『愛があるから』で存じ上げていますが、それ以上に日本詩人クラブとの関係で印象深い方です。中関氏は1998年7月に入会しています。2000年5月には体調不良とのことで退会。翌6月に自死という形で亡くなっています。満36歳でした。
数々の追悼文の中でも書かれていますが、感覚の鋭い詩人で、今後の日本の詩を背負う一人と私も期待していました。お会いしたことはありませんでしたが、いずれお会いできるものとばかり思っていましたから、今でも残念な気持は変わっていません。
言葉/中関啓文
言わなかった言葉って
どこへ行くの
愛していますとか
死んでしまえとか
私が居なくなったら
誰かが代わりに
伝えてくれる
誰かが代わりに
謝ってくれる
「中関啓文遺稿作品」の中の一編です。中関氏以外に誰も「代わりに/伝えてくれ」ないし、誰も「代わりに/謝ってくれ」ないことを伝えたかった。ご冥福をお祈りします。
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