きょうはこんな日でした ごまめのはぎしり
kumogakure
「クモガクレ」Calumia godeffroyi カワアナゴ科


2001.12.2(
)

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詩と評論誌『日本未来派』204号
nihon miraiha 204
2001.11.15 東京都練馬区 西岡光秋氏発行 800円+税

 『日本未来派』同人であった上林猷夫さんと寺島栄一さんの追悼号になっています。上林さんは元日本現代詩人会会長(第3回H氏賞受賞者)、寺島さんは日本詩人クラブ会員で、私とも少なからず接点があった詩人たちです。特に上林さんは、会員でもない私が日本現代詩人会のイベントに出席させてもらったときなどに、何かと話しかけてくれて、その気遣いに感激した思い出があります。弔意を表して上林さんの作品を紹介します。

 竹/上林猷夫

家のどこかで
かん高い舌打ちをする音がする
その音は少し間を置いてつづいている

風が吹く
小さな庭の竹の笹が揺れる
私は庭に下りて音のする方へ近づく

一本の若い竹に
枯れて縦に割れた二本の竹が
寄り添って一緒に揺れている

風が吹くたびに
枯れた竹の節から突き出た破片が
若い竹の胴を勢いよく押す
擦れ合って虚
(うつ)ろな竹に撥(は)ね返り
乾いた音を発しているのだ

庭の一隅で
竹の声は魚板を叩くように
(くう)に鳴っている

 不遜ながら「一本の若い竹に/枯れて縦に割れた二本の竹が/寄り添って一緒に揺れている」という第3連に、生物の有り様を感じました。朽ちていくもの、それを越えて育つ「若い竹」も同じようにいずれ「枯れて縦に割れ」て朽ちてしまうという輪廻をこの作品から知らされます。上林さんを見送った私たちもいずれ上林さんの待つ異界へ…。ご冥福をお祈りいたします。



詩誌『きょうは詩人』3号
kyou wa shijin 3
2001.12.18 東京都武蔵野市
きょうは詩人の会・鈴木ユリイカ氏発行 500円

 だれかに呼ばれて/房内はるみ

ねむれなくて めざめてしまった夜
まわりから家族の寝息がおしよせる

あの人たちは
ねむりの底で なにを夢みているのだろう
かすれるような音で
闇を吸いこみ
あきらめるような音で
自分を吐きだす
にぎやかな会話よりも
あからさまに自分をさらけだして

わたしの呼吸は
どの寝息のリズムともあわず
いっそう めざめてしまう

不協和音みたいな息の重なり
ひびわれた音のすき間に横たわる
それぞれはこんなにも孤独だったのだろうか
かわいたような悲しみにつつまれて

見知らぬ顔
見知らぬ手足
ひっそりとうらぎれらていく夜は
不思議な声に呼ばれているので
夜の舟にのって
遠いところへはこばれる

 家族というものは不思議なもので、確かに「それぞれはこんなにも孤独だったのだろうか」と思う瞬間があります。そこをうまくとらえている作品と言えるでしょう。家族でありながら「見知らぬ顔/見知らぬ手足」に「ひっそりとうらぎれらていく夜」の発見は驚きであり、愕然とするものなのかもしれませんが、それもまた人間の有り様という気がします。
 しかしいつの間にか「わたし」も「夜の舟にのって/遠いところへはこばれる」。「不思議な声に呼ばれて」夢の中に落ちてしまいます。それは「わたし」も「かわいたような悲しみにつつまれて」いくことに他なりません。そうやって瞬間の「家族」という構成単位で暮しているのかと思うと、何やら感無量になってしまいますね。おもしろい視点の中にも人間の本質を鋭く抉った作品だと思います。



沼津の文化を語る会会報
 『沼声』258号
syousei 258
2001.12.1 静岡県沼津市
望月良夫氏発行 年間購読料5000円

 「猫のあくび」という連載エッセイで考えさせられる文章に出会いました。

 「闇」と怪人
 劇団四季の「オペラ座の怪人」を見た。おもしろかった。「闇」が全編に見事に息づいていた。日常生活の中から必死に「闇」を追放してきた戦後。その結果、「畏れ」などという言葉は影を失い、その分だけ「傲慢」や「不遜」が膨らんだ。そのくせいま、心の闇≠フ広がりに手を打てずにもがいている。安倍晴明ブームなどちゃんちゃらおかしい。「闇」に怪人の存在を見ること、それは身の丈に合った生活を営むことと同じである。 [伏見一成]

 確かに、私も田舎暮しを長くしていますから、「日常生活の中から必死に「闇」を追放してきた」という筆者の視点には同感できます。真夜中でも光溢れる都会に憧れるのも事実です。しかし、そういう自分を見ていて何か違うなと感じてきたのも事実です。何が違うんだろうと思った回答が「身の丈に合った生活を営むこと」であると知らされました。もちろん田舎暮しを甘受せよというものではなく、闇を畏れよ、という主旨ですが、ここはやはり心の闇≠ノも目を向けなければいけませんね。わが内なる心の闇=Bそれと現実の闇の狭間で、まだまだ書かなければならないものが多いことにも気付かされた一文です。



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