きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
「クモガクレ」Calumia godeffroyi カワアナゴ科 |
2002.2.9(土)
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○北野丘氏詩編集2『黒筒の熊五郎』 |
2001.9.15 東京都中野区 北野丘商店刊 100円 |
黒筒の熊五郎
一家せんべいを食べ尽くし
なんに使うの
熊五郎せんべい土産のからの黒い筒
ひんやり手にした黒い筒
底はつるりと銀の月
中はぽっかりしんと鎮まって
ちょうだい
枕に黒筒
きょうの収穣に
きのうの収穫入れようか
すっぽり
じぶんが入ろうか
びっくりするよ
とうさん かあさん
ふたに秘密のおまじない
おーい
おーい
熊五郎にくるまり春まで眠る
鉤針編みの空色ミトンに雪印が消え残る
何のことか思ったら「熊五郎せんべい」というものが入っていた「黒い筒」のことだったんですね。子供の頃の回想と受け止めました。作者は北海道生れ。私も北海道生れですから「空色ミトン」を懐かしく思い出しています。意味は違うけど「雪印」も。北海道では有名な会社だったんです。もうダメな会社になってしまいました。
○北野丘氏詩編集3『夷風使伝逸文』 |
2001.9.15 東京都中野区 北野丘商店刊 100円 |
離れ子岩とマッカナジョウリコ
奇岸のひだ
海の底まで岩ばかり
ぱかんと欠けた磯の窪みで
ごだんべ とげおっこ 干からびました
鳴く生き物はみあたりません
太陽はきょうも
昼の憩い
正午デス
コチラハ海洋気象台
マッカナジョウリコ
マッカナジョウリコ
タダイマ
蚊柱 鍋釣 ユラリコシツツ
礼文トイウノハ沖ノコト
中天ふかく
太陽は真昼
奇岸岬の突端では
おたまじゃくしの尾がきれた
まんまる頭の離れ子岩がお昼寝きらいで遊んでいます
つめたい汐はカイのなみだ
あったかい潮はゲルダのなみだ
北か南
南か北の
さあどっち
日没位置ハ本日
奇岸岬ノヒトネムリニ移動
危険区域ハ
マッカナジョウリコ ユクトオリ
海難救助信号ハ…
てぃとぅとととてぃととと
コチラハ海洋気象台デシタ
憩いから覚めキラリと一瞥し
太陽はきょうを終えました
やがて海も空も岬も青い時間に
離れ子岩は糸三日月の道を現象します
おいでここまで
ひとりでジョウリコ
馬にかて曳かれてげえげと
泣くもの
誰のおまえはめんこい子
毬、箸置いて わすれちゃった
おまえは誰のめんこの子
あとがきに当る部分に作者が書いていることから、「ジョウリコ」と草履コ≠フ意味だそうです。北海道南部漁村の方言のようです。「蚊柱 鍋釣」は地名でしょう。「礼文」は有名だからご存知のことと思います。「げえげ」は鳴き声。あとはだいたい判るかな? 私も北海道生れですが道央、赤平です。漁村の様子はまったく判りませんが、この雰囲気は理解できます。大好きな作品です。地理的には違うものの、私自身の原点を見ているような錯覚に陥っています。
「海洋気象台」の放送(たぶん短波)には泣かされますね。ラジオ大好き、無線大好きでしたからね。今はもう無くなってしまったモールス符号も出てきて、思わず指で叩いてしまいました。ちなみに「海難救助信号」は欧文のSOS≠ナ良いと思いますが、そうすると「てぃとぅとととてぃととと」ではなくととと つうつうつう ととと=A記号で書くと・・・ −−− ・・・≠ノなると思います。作品の上ではどうでもいいことですけど^_^;
○北野丘氏詩編集4『簀巻き奥さん』 |
2001.9.15 東京都中野区 北野丘商店刊 100円 |
簀巻き奥さん
あなた
巻いてください
奥さんはむしろの上に裸で樵たわり
ごろりごろり
鉄火巻きの要領で巻かれる
どうぞ
足をかけられ
荒縄できつく縛りあげられ
荒巻鮭の質感がする奥さんは抱き起こされる
奥さんはL字型の金具を脇腹に刺してもらい
買い物バックをすくってひっかける
あなた買い物に行ってきます
ぺこり
自転車には乗れないので徒歩でゆく
沈められる前にきらした卵とふりかけを補充しとく
わたしが原因で原因の元はあなたで
あなたの元の素はわたし
電話ボックスに全力でダッシュしよちよち駆け込み
L字の先でプッシュする
あなた わたしたちは編み上げ靴のひもなの!
あ 牛乳
きれてませんでしたか
あ こんにちわ
あの 犬 苦手なんです すいません
ぺこり
軸をふりふり奥さんの
歩く跡には
わらがほとりと落ちている
漫画みたいでおもしろいんですが、ちゃんと裏があります。「簀巻き」を檻や規則、ルールと置き換えて読んでみた方が良さそうです。私たちの生活なんてこんなものかもしれませんね。自由に好き勝手やっているように見えて、実はちゃんと縛られている。思い当たりませんか?
○北野丘氏詩編集5『北野研Q所』 |
2001.9.15 東京都中野区 北野丘商店刊 100円 |
2月3日に行われた山岡遊さんの出版記念会で、北野丘(きゅう)さんに初めて会いました。そしていただいたのがこの5冊の詩編集です。今まで紹介した4冊にはすべて詩が入っていましたけど、この本にはありません。副題に「ことば篇」とありまして、まさに言葉についての思い入れ、解説が書かれています。例えば「す」と「ず」についての考証。『日本書記』で未解読になっている歌の新たな解釈等など。詩編集の奥付にも書かれていますからバラしてもいいと思いますが、北野さんは国学院の文学部出身です。久しぶりに文学部出身者の評論を見た思いです。
私は詩が好きで、もう30年以上関わっていますけど、実はちゃんと国文学をやったわけではありません。まったくの雑学で、手当たり次第に読んできただけです。ですからこの本を読んで、ちゃんと基礎をやってくるということはこういうことかと改めて思いましたね。世の文学部出身者は大勢いるけど、言語についてきちんと書いている人はなかなかいません。そういう点でも真面目な人なんだなと思いました。
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