きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.6.5
「宇都宮美術館」にて
 

2005.6.7(火)

 午後から東京本社に出張してきました。関連会社の不始末を話し合う会議でしたが、本来なら私のいる工場に出向いてもらうのがスジ。下手をすると相手はオレの会社に出向いて来いと言いかねないので、ここはスジを通そうと思いましたけど、相手は全員東京本社勤務、うちの会社も私以外は全員東京本社勤務。なかを採って弊社の東京本社に集まったという次第です。メンツを立てているようですけど、これはあくまでもスジ論。念のため(^^;

 相手の会社はエライ人も出向いて、それなりの危機感を持っていることは伝わってきましたけど、弊社側とちょっとニュアンスが違うので驚いています。不始末の再発防止は当然としても、私たちが求めているのは不始末の根本原因は何か、です。弊社側では事前の打合せをしたわけではありませんけど、その観点では全員見事に一致していました。トラブルの原因究明の教育は数十年に渡って全社的に行われてきましたので、その成果かなと思っています。

 不始末の原因究明ができなければ再発の可能性があります。原因究明の出来ていない再発防止案には不安が残り、現場に過重な負担を強いるだけです。だから弊社はそこに拘りました。それも人間のミス≠セけに起因させたくない。ミスを犯すのは個人ですが、ミスを犯す背景、ミスを犯しても市場に流出させないシステムがあったのか、を問いました。相手のエライ人はさすがに考え方を理解してくれましたけど、現場の詳細までは掴んでいないので沈黙せざるを得なかったようです。

 次回の会議までにその辺を検討してもらうことで会議を打ち切りましたけど、社風というか精神分野まで踏み込む話ですからね、どうなることやら…。相手の会社と私とのつき合いは、私が以前の職場時代から数えると10年になります。相手の社風に業を煮やした時期もあったので、今回は良い機会だと思っています。もちろん関連会社とは云え、相手は別会社。私たちの思考が影響できる範囲は限られていますけど、ここは性根を入れて取り組もうと思っています。




『西垣 脩詩集』
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1980.4.20
東京都千代田区
角川書店刊
2500円
 

  <目次>
   T 昭和十三〜十七年
   桜花恍爛として春に耐へたり   一〇
   山院暮日            一二
   朝               一三
   火を思へよ           一四
   神話集             一五
    新しい歴史の詩        一五
    山岳を目指して        一七
    決 心            一八
    相聞歌            二○
    鴎の歌            二二
    星夜を流れるもの       二三
   花に嗟くうた          二五
    生命のための我が歌      二五
    花の生理           二六
    願 ひ            二七
    河              二七
    喪 情            二八
    別 離            二八
    故郷はオルゴルの音よ     二九
    天使の手           二九
    薄暮             三〇
   成 熟             三二
   旅               三五
   霧ぬれの歌           三七
   咏 唱             三九
   父 に             四一
   せんだんの花          四四
   赤坂見附にて          四六
   暮秋歌             四八
   栴檀夫人            五〇

   U 昭和二十四〜二十九年
   鎮魂歌             五四
   花綵島             五六
   きんの桃            五九
   晴れの旅のうた         六一
   散 歩             六五
   七面鳥のひとりごと       六八
   蝶               七〇
   あんびたしおん         七二
   熊               七四
   むささび            七六
   鮒の列             七八
   航 路             八〇
   風 は             八二
   沈む鳥             八五
   野末の歌            八七
   風の途             九〇
   噴水独唱            九二
   夢覚めて……          九六
   
Confession           九八
   このしあわせのつづく限りは…… 一〇一
   相聞覚書            一〇三

   U 昭和三十〜三十七年
   星釣り             一〇六
   悲               一〇九
   山渉り             一一一
    1 豹            一一一
    2 星の夜          一一三
    3 渓の湯          一一四
   獲 物             一一五
   早 春             一一七
   まじらい            一一九
   白 鷺             一二一
   交 誼             一二四
   ある日 雨……         一二七
   定               一二九
   寂               一三一
   花明り             一三三
   夏休み             一三六
   即 事             一三八
   冬の空             一四一
   市のくらい眺め         一四三
   谷 間             一四八
   軸 受             一五〇
   肱笠の雨            一五二
   海 風             一五五
   諷               一五八
   園遊会の人           一六〇
   幻 花             一六二
   燕               一六四
   シャトオの客          一六七
   悲母讃談            一七〇
   探しもの            一七五
   秋の蝶             一七八
   一角獣             一八一
   溶ける             一八六

   W 昭和三十入〜五十三年
   鎮魂曲             一九〇
   喚子鳥             一九八
   学園暮景            二〇一
   喪中新春            二〇三
   居残り鮎            二〇六
   四葩咲く            二一一
   新 秋             二一四
   樹に寄せて           二一七
   雪               二一八
   風信片簡            二一三
   さざんか連祷          二二九
   花不知葉不知          二三四
   鱒の歌             二三六
   飛行について          二三九
   こころえ            二四三
   念               二四五
   烏 瓜             二四七
   終電車             二五三
   花版画             二五五
   逸 聞             二五八
   柝 音             二六三
   花は売れません         二六五
   地酒のはだあい         二六八
   かあちゃんの腕前        二七○
   日本一のあゆ          二七二
   朝市のかぞえ          二七四
   白磁の秋            二七六
   朝の鳥             二七八
   秋たけて            二八○
   風雨錯落            二八二
   花売りの歌           二八八
   朝 顔             二九○
   涓               二九二
   声の意味            二九四
   凍て滝の…           二九六
   詐 称             二九七
   梅 雨             三〇〇
   海の墓             三〇二
   日本海             三〇六
   早春 墓参           三〇八
   雁の旅             三〇九

   西垣脩の詩業     大岡 信 三二○
   編 註             三四六
   全詩作品一覧          三五三
   年 譜             三六一
   あとがき            三七一



    

   ほろびの美などと
   お仕着せの語を口にするな
   はかないことが
   正真こころを支えるものか
   風化は千年
   腐蝕は一年
   かびの花ちる饒舌のくに
   感傷よだれのうたのくに
   わやわやと景変じ風俗転じ
   還りきし漂鳥われに
   師もははも老いのせんなし
   人はいさ心も知らず わがふるさとは

   深更 机に凭りて酔吟す
   <野日荒荒白、江流泯泯清。 杜甫>
   はかないなんぞということが
   なんでそんなに立派なものか と

 この詩集と次に紹介する『鹿』という詩集は、日本ペンクラブ電子文藝館委員会でご一緒している東大教授の西垣通氏より頂戴しました。詩集著者の西垣脩氏は通氏の父上で、1978年に59歳の若さで亡くなっています。先日、氏が拙HPで父上のことを書いた私の文章をご覧になって、メールを送ってくれたのがそもそもの始まりです。
1999.2.6 の部屋で、高橋渡氏よりいただいた詩論集を紹介したのですが、その中の西垣脩氏について書いた文章に通氏が反応してくれたという訳です。

 そんなことでしばらくメールのやりとりをしていたのですが、私としては実際に父上のご詩集に接してみたくなりました。父上はしばらく日本詩人クラブに在籍なさっていたことも判っていましたから、日本詩人クラブに関係した人の著作・略歴を電子化している私としてはその面での興味もあったという次第です。で、厚かましくもお願いしたところ2冊の詩集を送ってくださいました。

 前段はそのくらいにして詩集の紹介をします。生前の西垣脩氏には『一角獣』という詩集しかありませんでした。この『西垣 脩詩集』は氏が亡くなって2年足らずで糸屋鎌吉、大岡信、鈴木亨の3氏による「西垣脩詩集編集委員会」により出版されています。
 紹介した作品を見てみましょう。「涓」はけん≠ニ読み、水の細流または水滴という意味だそうです。1975年の『青衣』52号初出です。前年の1974年4月から約10ヶ月ロンドンに留学していて、帰国直後の作品のようです。杜甫の詩を「深更 机に凭りて酔吟す」る著者は、「かびの花ちる饒舌のくに/感傷よだれのうたのくに」と当時の日本を批判していますが、時代背景としては高度成長期の入口で、「消費は美徳」などと馬鹿げた時代だったことを思い起こす必要があるでしょう。その反面では「ほろびの美」「はかな」さが文学を席巻していた時代と読み取ることも出来ます。

 1999.2.6 の部屋をお読みいただいた方はお判りかと思いますが、「
今日詩に必要なものは詩ではなくて、詩人である」という氏の言葉そのものの作品と云えるでしょう。良質な硬質性を感じる作品です。氏の言葉は30年経った現在でもそのまま通用し、氏のような硬骨漢がいなくなったなと改めて思います。




西垣 脩氏詩集『鹿』
    shika.JPG    
 
 
 
 
1990.10.10
東京都千代田区
花神社刊
2427円+税
 

  <目次>
   讃歌        8
   母に獻ぐ      10
   詩一篇       14
   哀歌        16
   無為        20
   旅寝        24
   蝶         26
   流竄        28
   道行        32
   ねむりに揺られて  34
   春のソネット    38
   朝あけの歌     40
   風が葦を……    42
   晩秋のソネット   44
   声         46
   鹿         48
   カレイドスコオプ  58
   おとぎばなし拾遺  62
   メルヘン      66
   歌ひとつ      70
   顔         72
   水のほとり     74
   傾斜        76
   船         78
   口笛        80
   琥珀        82
   蜂         84
   夜深く       86
   爪         88
   ライオン幻想    92
   夜想曲       96
   淡雪        100
   花         102
   夜半の目覚め    104
   夜の家族      106
   沈丁花       108
   駿河台にて     110
   時計        114
   咒文        116
   秋の水       118
   山河        120
   岬         122
   吃水線       124
   景色        126
   翡翠        128
   夢あるき      134
   春荒れ       136
   鳥の族       140
   落葉と旅人     142
   飛ぶ前       144
   日曜日には     146
   滝見        150
   深い森のなか    152
   水禽        154
   聞書        158
   牡丹と雨      160
   無言訣別      166
   土佐日記異注    170
   見られつつ     172
   知命独語      174
   さいみさきでら   176
   娘のなかの父    178
   水に跼む      180
   われならなくに   182
   癖について     184
   溶ける       186
   懐         190
   しゃんそん、    192
   冬の客       194

   初出一覧      196



    鹿

    T

   つつましく ノックをして
   椋鳥
(むく)の巣さながらの 僕の部屋へ
   しなやかに入ってきたのは 鹿であった
   この真夜中に 誰かと思った でも
   よく生きていたね というと
   懇意な絵描きに招かれて出て来た
   ついでに立ち寄った と答える
   <僕は 高等学生のとき
    ひと夏 山あるきのお花畠で
    いちど 出会ったきりだ>
   相変らずひとりぼっちですか と問うから
   昔よりもっとひとりぼっちさ と答え
   あの頃は といいかけると 遮るように
   山へ旗をお忘れでしょう と訊く
   そうだったかも知れない しかし
   そんなものは もう一切要らない
   あれは 本当は気紛れのオモチャさ
   といい捨てると
   端麗な顔を俄かにくもらせて かなしそうなので
   何故か こちらがドキリとして
   なぐさめかたがた 歌をひとつ
   きかせてやった
   ≪……………………………
    さやぎの外に すきとおり
    したたり結ぶ 氷柱
(つらら)の列
    時あかりさす メトロノム
    トルソのならぶ 空の道
    ……………………………≫
   すると隣の農家の 豚の仔が
   とんきょうに夜啼きをはじめたので
   急にそわそわしだし 帰るという
   送ろうか というと
   却ってあやしまれるから と
   一揖したかと見るや
   すいと影を倒して 消えた

 詩集タイトルの「鹿」はT〜Wの構成になっています。ここでは冒頭のTを紹介してみました。私が第一詩集を出したのは1977年10月です。翌年8月に著者はお亡くなりになっていますから、お逢いできる機会は無かったのでしょうが、作品からお人柄が偲ばれます。「相変らずひとりぼっちですか と問うから/昔よりもっとひとりぼっちさ と答え」たところなどは、著者の本質的な孤独感を表出させているのではないかと思います。「山へ旗をお忘れでしょう」「そんなものは もう一切要らない/あれは 本当は気紛れのオモチャさ」というフレーズからは、背景に1960年代、70年代という時代を感じますが読み過ぎかもしれません。
 「鹿」の静かながら、内に秘めた熱情も感じられ、それがそのまま著者の性格であるようにも読み取れた作品です。




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