きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.12.23 群馬県安中市
新島襄旧宅
 
 

2005.12.10(土)

 日本詩人クラブの国際交流・忘年会が神楽坂エミールで開催されました。国際交流の第一部は李承淳さんの通訳で「韓国詩の現在」と題する講演が韓国外国語大学教授・季炭(イ タン)氏によって行われました。韓国では詩人の社会的地位が高く、数百万部というベストセラー詩集が出るというお国柄ですが、その内実を紹介してくれました。

 第二部は「朗読・世界の名詩」と銘打ち、韓国は前出の李炭氏・李承淳氏
通訳、中国は中国漢詩協会理事でフェリス女子大講師の陳晶氏・通訳は前埼玉新聞編集委員の飯島正治氏、ドイツはドイツ学術交流にて来日中の東京大学教養学部教師・近現代ドイツ文学者のガブリエレ・シュトゥンプ氏が朗読し東京大学教授の川中子義勝氏が通訳しました。さらに来日詩人はいませんでしたがメキシコの詩をラテンアメリカ文学者の細野豊氏、フランスの詩を慶應義塾大学名誉教授の山田直氏、アメリカの詩をアメリカ児童文学者の岡野絵里子氏が朗読しました。まさに国際色豊かなイベントで、100名近い聴衆という盛大なものになりました。

    051210.JPG    写真は韓国の詩人・李炭氏を囲んで。韓国を代表する詩人を囲む、日本を代表する美女たち、と言ったら言い過ぎかな(^^;

 楽しい会でした。これで2005年の詩人関係のイベントは終了です。一緒に呑み歩いた詩人の皆さま、一年間ありがとうございました!





月刊詩誌『現代詩図鑑』第3巻12号
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2005.12.1
東京都大田区
ダニエル社 発行
300円
 

  <目次>
   春木 節子  温室 ……………… 3  高橋 渉二 ディスパラテスをわたる … 31
   海埜 今日子 堀街 ……………… 6  野間 明子 救出 ………………………… 35
   柏木 義高  美しいランナー … 9  高木 護  キップ ……………………… 38
   岡島 弘子  ともる …………… 12  結城 富宏 変身の夏 …………………… 41
   山之内まつ子 しるし …………… 15  佐藤真里子 秋が消える日に …………… 45
   宮原 結   船出 ……………… 18  枝川 里恵 「くるみの樹」 ……………… 48
   竹内 敏喜  水仙 ……………… 23  倉田 良成 アリア ……………………… 54
   坂井 信夫  <日常へ>――17 … 27  表紙画 …………… 来原 貴美『冬のバラ』



    温室    春木節子(はるき せつこ)

   抗わずわたしは
   それを あなたのなまえでよぶのだろうか

   ちいさな叫び声をあげるのだろうか
   異臭のする体温に触れ
   湿った指が喉元にまきついて 濡れた犬歯が皮膚を裂き
   そこからたとえ僅かでも 温かい血が溢れでたとしたも

   霧雨のけむる 夜更け
   園庭にたつ誘蛾灯のひかりをたよりに
   露草に裾を濡らし
   汗が ビスチエの脇のしたにまだらに染みをつくり
   微かな風にも揺れる 樹木の葉擦れや
   鳥たちのはばたきにも 息をつめて

   中庭にある 温室の白いペンキは剥げかけ硝子は割れ
   木枠に擦れた素足は泥で汚れ 髪が釘に絡まり
   歪んですこし開いている扉の 鉄錆のつくドアノブを回すと
   湿って饐えた風が 廃屋になった温室にこもった空気に混じり
   淀んでいた
   亜熱帯植物だった痕跡を残す
   ながい葉脈の色を退色させ嫌な匂いを放つ たくさんの観葉植物は
   腐敗したままに捨て置かれている

    なぜわたしは
    ここにきたのだろ
    たとえあなたから といわれてことずけられた
    ちいさなメモをみたとしても

   なにかわからないものの息づかいが 近づいてくる

 作品の上では「わたし」と「あなた」の関係性が重要になってきますが、実はそこはあまり考えなくても良いのかもしれません。「温室」という場が大事であって、なぜ「温室」が設定されたかを私は考えたい、鑑賞したいと思います。ヒトによって「温室」の採り方は様々でしょうけど、私は現実の世と採ってみました。21世紀の現代の日本と限定しても良いでしょう。そうすると最終連にたった1行置かれた「なにかわからないものの息づかいが 近づいてくる」は不気味ですね。そんな今を想像しています。おそらく作者の意図とは違うでしょうが、そういう読み方も出来る作品だと思っています。




巴 希多氏詩集『空 <くう>
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2005.12.17
さいたま市浦和区
紅天社刊
2000円
 

  <目次>         表紙絵・佐野翠峰
   悠久 8        さきたまの丘 10
   季節の狭間で 12    文庫 14
   てん 18        燠(おき) 22
   心 24         そいつ 26
   立ち止まれば 30    いずれ 32
   峠越え 36       たばこ 40
   朝 42         仕舞 44
   せめて 48       縁(えにし) 50
   予知能力 54      笑いながら 56
   まんじゅしゃげ 58   土 60
   推敲 64        季節に出逢うのは 68
   空(くう) 70

   跋 羊水時代の純粋性――高橋 次夫 75
    あとがき  78



    たばこ

    付き合うのを父は反対していた。
   ある晩、たばこを切らした父が私
   を送ってくれた彼に一本所望した。
   彼が胸のポケットからハイライト
   の箱を取って父に向けた。父は一
   本抜いた。たばこが板のようにペ
   チャンコだった。私を抱き締めた
   からだ。父は黙って指先で丸く整
   え、彼の点けたライターでたばこ
   を吸った。娘を諦めたのはきっと
   あの時。胸の中にわだかまってい
   た思いを、煙と一緒に吐き出した
   んだ。

    あれから三十五年。
   父さん、お盆には迎えに行くよ。

 27年振りの詩集だそうです。第一詩集を出したあとに「詩を創るより田を作れ」を地で行って、畑を作った結果だと「あとがき」にありました。詩誌『杭』に載せられる著者の作品はいつも注目していましたが、こうやって纏って拝読するとやはり佳いですね。2005年、日本詩界の収穫の一冊でしょう。
 紹介した作品は「娘を諦めたのはきっと/あの時。」というフレーズが生きています。私も父親ですから、いずれ我が身なんでしょう。ちょっと身につまされます。最終連も佳いですね。父娘という世代の遷り変りを感性豊かに表現していると思います。
 詩集に収められた作品のうち
「推敲」 はすでに拙HPで紹介していました。ハイパーリンクを張っておきましたので、そちらでも巴希多詩をお楽しみください。




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