きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
夕焼け 2005.1.2 神奈川県南足柄市 |
2006.1.18(水)
その2 その1へ
○季刊詩誌『燎原』134号 |
2005.6.1
熊本県熊本市 600円+税 小林尹夫氏編集・堀川喜八郎氏発行 |
<目次>
□詩
春…魚本藤子…6 さくら…吉本純子…9
はる…西岡佐江子…10 代償…藤子迅司良…13
五月−それは時間以上に群れ−藤子迅司良…16 橋のうえの犬…梅本恵子…18
洛陽は永遠なり…中村繁實…21 アウシュビッツと二人の娘たち…中村繁實…24
ペースメーカー…井上勝子…27 不思議の国のアマリリス…吉永 大…28
こんとん T…近藤かずを…30 化粧…おかむらすず…32
身体…田尻 謙…34 篝火・幻想…川嶋榮子…38
永遠の楽園…川嶋榮子…40 儀式…山下陽一…42
赤い叫び青い波…山下陽一…44 化石となった地名に風は吹く…山下陽一…46
老いの季節…山下陽一…49 白馬…須河信子…54
倒置法…川内夕子…56 学校(続地蔵岬)…小林尹夫…58
灰色の馬−追悼・光岡明−…小林尹夫…60 本音…小林尹夫…63
追体験…岡たすく…64 乙酉年賀状…岡たすく…66
□エッセイ
堀川喜八郎詩集「三人の印度兵」を読む…松尾大倫…70
堀川喜八郎詩集「三人の印度兵」を読む…岡たすく…72
ピカソの描いた男と女…魚本藤子…73
詩によって生まれる永遠を生きる−武田肇詩集「Commune」−…小林尹夫…76
同人近況…78
□受贈詩集から
朱…たかぎたかよし…80 飛蝗記…石原 武…81
編集後記…82 表紙・カット…坂井榮雄
追体験/岡たすく
筑豊の美術館で
「炭坑(やま)の風景展」と題した
山本作兵衛さんの
坑内スケッチ原画展を観た
裸でスラ(灰函)を押す坑夫
尺余の切羽でツルハシを振う採炭夫
明治大正期の坑内風景だが
わたしが働いた
戦後の小炭坑(こやま)も大差なかった
カンテラの取手を啣え
涎を垂らしながら電線繋ぎをした
坑内電工の姿が重なる
屠殺場に牽かれるような逡巡
入坑する度に唇を噛んだ
丑年生まれの男
古巣を覗き見する隙間から
苦い追体験が追いかけてくる
作者の断り書がある
「この絵には嘘が一つあります
それは 坑内はこんなに
明るくないということです」
わたしも一つ
自分に嘘をついている
絵が射る切先を除けながら
歳月にことよせて
懐かしんでいることである
私事ですみません、私は1960年前の子供のころ福島県いわき市、北海道芦別市に住んでいましたから「坑夫」をよく見ていました。親戚にも炭鉱に勤めていた人は多かったです。「坑内」にこそ入ったことはありませんでしたが、鉱山の人の目を盗んで坑口までは遊びに行ったものです。ですから「筑豊の美術館」は訪れてみたいものだと思いました。
最終連が佳いですね。自分で書いた上の文章を読み返しながら「絵が射る切先を除けながら/歳月にことよせて/懐かしんでいる」のは私自身ではないかと思っていまいました。福島・北海道と筑豊は、距離的には離れていますが妙に身近に感じた作品です。
○季刊詩誌『燎原』135号 |
2005.9.1
熊本県熊本市 600円+税 小林尹夫氏編集・堀川喜八郎氏発行 |
<目次>
□詩
空がカンバス…藤子迅司良…6 逡巡−透明水彩の頃−…藤子迅司良…8
夏のボート…梅本恵子…10 風景…林田信彦…12
竹の時間…魚本藤子…14 草原…西岡佐江子…17
陽が昇るまで…川嶋榮子…20 夏の影…川嶋榮子…22
地上の楽園 西双版納…中村繁實…24 シビレエイ…田尻 謙…28
健康……?…田尻 謙…30 道路…田尻 謙…32
赤い月…須河信子…34 小さな骨壺…山下陽一…36
庚申待…山下陽一…38 里の神話(3)…山下陽一…40
折鶴を解く…山下陽一…43 しっぽの短い猫(2)…山下陽一…46
とげ…おかむらすず…48 こんなとき…川内夕子…50
記憶…吉永 大…52 こんとん U…近藤かずを…55
化粧(続地蔵岬)…小林尹夫…56 クリ坊(続百鬼夜行)…小林尹夫…58
おとむらい…小林尹夫…60 鯉…岡たすく…62
老いふたり…岡たすく…64
□エッセイ
(寄稿)堀川喜八郎の世界…山口惣司…66
健全な人間の視点−堀川喜八郎詩集−…魚本藤子…74
堀川喜八郎詩集「恥ずかしい夏」にこたえて…藤子迅司良…78
同人近況…82
□受贈詩集から
雨季…丸地 守…84 酒なかりせば…島田陽子…85
編集後記…86 表紙・カット…板井榮雄
庚申待/山下陽一
中国人を殺した夢にうなされ
父ありき南京は我が血と巡る
−朝日歌壇(岡山市)小林道夫−
げらげら笑いながら睡魔とたたかい
長生きしたいと一夜を明かす里の庚申待は
眠った人の体内から三尸という霊物が抜け
その人の過悪を最大漏らさず天帝に告げる
授かった寿命がその分だけ削られるという
あの爺たちの笑顔の裏に
どんな過去が刻まれているのか。
庚申さんですけん どうぞと声がかかる
近年里の庚申待の習俗も廃れ
明け方まで語り明かすこともなくなった
庚申さんにお参りして帰る道すがら
朝刊の朝日歌壇の一首がふと胸を過る
出番を失った三尸が私の体内で蠢くのだ。
戦後六十年 節目の年に
中国で繰り返される反日デモ
東洋鬼(トンヤンキ)と呼ばれた南京虐殺
捕虜を丸太棒と呼んだ生体解剖
新しい歴史教科書問題など
過去を通して歴史認識が未来を問う。
歳とともに遠い記憶が鮮明になっていく
中国戦線での悪夢にうなされ
貝になり穀を閉じた投稿者の父も
日頃は穏やかな里の爺たちと同じ顔
今わの際に戦地での真実を語り逝く人がいる。
三尸に罪を告げられまいとする守庚申
これは祖先の人たちが自らの原罪に対する
素朴な告発と宗教的反省ではないのか。
作品中の「三尸」とはさんし≠ニ読み、辞書によると <道教で、人の体内に住んでいると説く三匹の虫。絶えず人の行動を監視していて、庚申の日の夜に睡眠中の人の体から抜け出てその人の罪過の一々を天帝に告げるという。三尸虫。→庚申待ち(小学館『国語大辞典』)> という意味だそうです。これでタイトルの「庚申待」の意味が判りました。
引用の短歌と「里の庚申待の習俗」がよく合っていると思います。最終連の「祖先の人たちが自らの原罪に対する/素朴な告発と宗教的反省」という視点も慧眼と云えましょう。「東洋鬼」の末裔しては、襟を正して拝読すべき作品と思いました。
○季刊詩誌『燎原』136号 |
2005.12.1
熊本県熊本市 600円+税 小林尹夫氏編集・堀川喜八郎氏発行 |
<目次>
□詩
猫とアゲハ…梅本恵子…6 海の窓…魚本藤子…8
ひとみ…西岡佐江子…10 少年…吉永 大…14
ある朝 秋が…吉本純子…16 ステーションホテル…藤子迅司良…18
耳鳴り…山下陽一…22 磐座(いわくら)…山下陽一…24
おじゃめ遊び(1)…山下陽一…27 おじゃめ遊び(2)…山下陽一…30
最後の災害…中村繁實…33 愛国心 一…田尻 謙…36
愛国心 二…田尻 謙…38 秋の韻律…川嶋榮子…40
月光…川嶋榮子…43 天敵あるいは掃除機…おかむらすず…44
空蝉…川内夕子…46 癖…須河信子…48
土の上に…小林尹夫…50 旅路−あるカブトガニのハネムーンー…小林尹夫…52
人魚…小林尹夫…55 ポッコン(続地蔵岬)…小林尹夫…56
適齢…岡たすく…60 生の日記…岡たすく…62
□エッセイ 言葉の風、心の風景−蔵原伸二郎に接近する−(上) 小林尹夫…66
同人近況…70
□受贈詩集から
はじまりもおわりもない…小川英晴…74 地球の影が横切ってゆくとき…山根千恵子…75
編集後記…78 同人名簿…76 表紙・カット…板井榮雄
愛国心 二/田尻 謙
熱烈な愛を捧げても
報われることのない
永遠の片想い
それが愛国心
お前が国でもあるまいに
何故 国を愛することを求めるのか
沖縄で 中国で 南洋諸島で
国は国民を見殺しにした
大災害が起きても
自助共助公助などと
煙に巻いて
国が国民を助けることはない
国が国民を愛したことなど
これまで無かったし
これから先も無い
痛烈な作品で、胸のすく思いをしました。「国でもあるまい」「お前」が、税金を誤魔化し年金を減らし、収賄に走り天下りして私腹を肥やし、そして「国を愛することを求める」。はっきり言えば「お前」のために国民は犠牲になれ、と言われているようなものです。
最終連は肝に銘じておく必要があるでしょう。「これまで無かったし/これから先も無い」のだと自覚することによって、家族や自分が守れるのだと思います。幻想を捨てることを教えてくれた作品です。
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