きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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夕焼け 2005.1.2 神奈川県南足柄市

2006.1.18(水)

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 小田原のアオキ画廊で開催される第10回西さがみ文芸展覧会は今日が初日なんですが、行けませんでした。閉館が5時ですからね、5時で仕事が終るサラリーマンには辛いところです。23日の最終日は月曜ですが、片付けがあるので、休暇を取って行こうと思っています。閉館より早めに行って、そこで観るつもりです。



進 一男氏詩集
素描もしくは断片による言葉で書かれたものたち
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2006.1.5 宮崎県東諸県郡高岡町 本多企画刊 3500円+税

<目次>
私たちは 10     秋桜 11       花 12        誰かが 13
形象 14       線 ことば 生 15  私たちが 16     少年 17
樹木たち 18     光よ1 19      炎 20        陽 21
私 22        影1 23       一輪 24       落葉 25
何 26        影2 27       少女に 28      こんなこと 29
嵐 30        夢 31        光よ2 32      海 33
見ることから 34   木々 35
       黄色のチョッキ 36  在ること 37
言葉 38       赤い岬 39      美について 40    空間 41
歓喜 42       薔薇1 43      橋を渡る 44     砂漠 45
ある男 46      ランプ 47      空(そら)48     予兆 49
再び 木々 50    垂直に 51      ある本のこと 52   物語 53
嵐の中で 54     あなたに 55     風に1 56      空気の流れ 57
灯 58        薔薇2 59      その人 60      海のほとり 61
あなたが 62     映像 63       素描 64       種子 65
再び 樹木たち 66  自分自身 67     虫のように 68    ポエジイ 69
チェーホフ 70    風と花と私と 71   そのような日に 72  現在 73
自然のままに 74   空(くう)75     天使 76       黄砂 77
後ろと前と 78    空無に向かって 79  自然は 80      だから 私は 81
私なりに 82     見えない塊 83    始まりの日 84    何ものか 85
眠り 86       生きること 87
    追われる 88     追われる日々 89
風に2 90      ある男の呟き 91   見つめる 92     記憶 93
靴 94        底の方に 95     つわぶき 96     脳 97
構図 98       方型の中に 99    自然から遠く 100
.  花は花 101
雨の日 102
.     トカラつつじ 103.  そんなこと 104.   非在 105
その場所 106
.    榕樹 107.      豊熟 108.      悪夢よ さらば 109
あとがき 111



 落葉

珍しく ある女に出会った
昔 自然に出会い 自然に暮らし 自然に別れた女である
幸福に過ごしていると聞いていた
いま何処に? と尋ねると コーチ と答えた
高知? 土佐の? と尋ねる いいえ 心の荒地 と女は答える
思わず相手の方に真直ぐに顔を向けると
声だけが残って 女は消えて行った
急に落葉が舞い降りてきた

 長くても10行ほどの、短詩ばかりの詩集です。タイトルの「素描」や「断片」には短詩という意味合いがあると思いますが、単なる素描や断片ではありません。紹介した作品のように現実と非現実のあわいで書かれていると思います。技術的にも「心の荒地」と「落葉」は適切な組み合わせでしょう。もちろん「昔 自然に出会い 自然に暮らし 自然に別れた女」も「落葉」であるわけです。短いが故に凝縮された言葉の奥を探る必要性の重要さを感じた詩集です。



季刊詩誌『燎原』131号
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2004.9.1 熊本県熊本市  600円+税
小林尹夫氏編集・堀川喜八郎氏発行

<目次>

雨やどり…吉本純子…6           小春…藤子迅司良…8
風…西岡佐江子…10             橋を渡る人…梅本恵子…13
「野原」…魚本藤子…16           管理職 一…田尻 謙…18
管理職 二…田尻 謙…20          鳥…川嶋榮子…22
百日紅(鹿児島の地にて)…川嶋榮子…24   突然死…林田信彦…26
風化…林田信彦…28             浮舟の朝…須河信子…30
手紙…川内夕子…32             闇…山下陽一…34
どっこいおいらは生きている…山下陽一…36  祖先…山下陽一…38
同窓会…井上勝子…41            空っぽ…おかむらすず…42
言葉のトンネル…森山多美子…44       階段(続地蔵岬)…小林尹夫…48
月の畑(続百鬼夜行)…小林尹夫…50     長崎の雨…小林尹夫…52
ひとりしずか…岡たすく…56         思い出くんたち…岡たすく…58
続・足の旅…堀川喜八郎…60
エッセイ
「待つ」ということ…藤子迅司良…62     由らしむ可し、知らしむ可からず…田尻 謙…64
受贈詩集から
秋…三木英治…66              なぜ…中 正敏…67
編集後記…68   表紙・カット…板井榮雄



 階段(続地蔵岬)/小林尹夫

じゃんけんをして階段の一番上まであがる遊びがあった
じゃんけんして勝ったら一段あがる
負けたら一段さがる
そしてとうとう一番上までのぼってしまうのだった
「あがり」
そこから上はない
お寺の石段だった

あわただしく誰かがおりてきたりあがっていったり
田舎の古い家の階投のようだが暗くてよく見えない

子供の頃私は階段が怖かった
何度もあがったことのある見覚えがあるはずの二階が怖かった
二階には鬼がいると
見えない鬼に身をすくめていた

階段からおりてくるたびにみんな年を取った
頑丈な祖父は頭もうすくなり痩せて足も弱くなった
医者いらずの祖母は歯医者に行ってからおかしくなった
酒をやめられない父の顔は土色になっていた

一つずつあがるかおりるかして
不思議なことにのぼりきってしまうのだった
あの遊びのように
いつの間にか二階から誰もおりてこなくなった
あんなにあわただしくあがったりおりたりしていたことが
夢のよう

のぞいてみようか
そっとあがっていこうとすると
『まだくんな。くるこたならん!』と声がした

 「遊び」から「田舎の古い家の階投」への展開が見事です。私は生れてからずっと平屋暮らしが多かったのですが、それでも昔養蚕をやっていた親戚の「二階が怖かった」ですね。「二階には鬼がいる」、「階段からおりてくるたびにみんな年を取った」という感覚は判るように思います。
 最終連が佳いと思います。まだ行かなくてよいのだ、まだ早いのだと安堵させる連です。救われた思いをしました。



季刊詩誌『燎原』132号
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2004.12.1 熊本県熊本市 600円+税
小林尹夫氏編集・堀川喜八郎氏発行

<目次>

雨音…藤子迅司良…6            水たまり…魚本藤子…12
カティア・ゲレイロ再び…田尻 謙…14    乗船券…田尻 謙…16
バスストップ…西岡佐江子…19        デザイン…川内夕子…22
風船…森山多美子…24            夢占…須河信子…27
胡瓜…田中厚次郎…28            メル友が消えた夜…吉本純子…30
台風のイメージから…中村繁實…32      夢…井上勝子…35
藪椿幻想…山下陽一…36           民具(木地師考)…山下陽一…38
里の神話(1)…山下陽一…40        里の神話(2)…山下陽一…42
水辺の風景-ふたたび赤橋から-おかむらすず44 新築…林田信彦…46
至上最強ロボット…吉永 大…48       科学と生…岡たすく…50
霧(続地蔵岬)…小林尹夫…53        畳の上(続百鬼夜行)…小林尹夫…56
キス(3)…小林尹夫…58          暗い道…堀川喜八郎…60
冠考…堀川喜八郎…62
エッセイ
「海達公子遺稿詩集」より…松尾大倫…8   現代中国の文学的状況…中村繁實…11
みえないものをみる−藤子迅司良詩集を読む…甲斐ゆみこ…64
岡たすく第五詩集「日常の問い」を読む…松尾大倫…66
九州詩人祭に参加して…岡たすく…68
受贈詩集から
ありやとういやした…岡 隆夫…70      一日が終わるまで…井上嘉明…71

編集後記…74     同人名簿…72     表紙・カット…板井榮雄



 暗い道/堀川喜八郎

気がついたら
見知らぬ人たちと歩いていた。
おびただしい行列だった。

行軍のようでもあったが
行けども
行けども
果てしない暗い道だった。

もう 家に帰れないかもしれない。
漠然とそう思いながら 歩きつづけた。
はて わたしに妻子がいたかどうか
記憶の焦点はぼけたまま。

ぼくらはどこへ行くのだろう。
不安になって 前の男に
「おい!」と声をかけると
ゆっくり振りかえったのは
ビルマの山中でマラリヤで死んだ
N一等兵だった。

なにか言いたげな面持ちで
鮮明な微笑が 印象的だった。

そこで目がさめたが
かれは確かに
こう言ったような気がした。
「堀りカン
お前が後
(うしろ)から来るのはわかっとったぞ」

 *堀カン=かれはわたしをそう呼んでいた。

 この作品も最終連がよく効いていると思います。「N一等兵」の言葉は、いずれ「お前が後から来る」と採れますが、それは生物にとって必然のことで、タイトルの「暗い道」とは反するようですけど、一種の明るさ、爽やかささえ感じます。「もう 家に帰れないかもしれない」、「記憶の焦点はぼけたまま」という体験者のみが持つ明るさではないか、そんなふうに感じた作品です。



季刊詩誌『燎原』133号
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2005.3.1 熊本県熊本市 600円+税
小林尹夫氏編集・堀川喜八郎氏発行

<目次>

晩秋の…岡たすく…6            画廊めぐり…岡たすく…8
冬鳥は群れをなして…梅本恵子…10      バーベル…田中厚次郎…14
曇り日…藤子迅司良…16           水滴…藤子迅司良…18
怨霊…田尻 謙…20             白蟻…田尻 謙…22
沿線風景…林田信彦…24           身体は心… 川内夕子…26
アゲハ蝶…川嶋榮子…28           見果てぬ夢… 川嶋榮子…30
梅…森山多美子…32             難聴…おかむらすず…34
スカシユリ…山下陽一…36          天狗の神隠し…山下陽一…38
ヤボサ神…山下陽一…40           閻魔の声…山下陽一…43
ひげ…西岡佐江子…46            待合室にて…近藤かずを…48
月と卵…井上勝子…51            名前…魚本藤子…52
怖じもん(続百鬼夜行)…小林尹夫…55    ザラザラボッチ(続地蔵岬)…小林尹夫…58
キス(4)…小林尹夫…60          空の階段…堀川喜八郎…62
エッセイ
木曽路を行く…藤子迅司良…64        事実の記録…田尻 謙…66
詩とわたし…中村繁實…68
たゆまぬ光、万華鏡−杉山平一詩集「青をめざして」を読む−…小林尹夫…70
同人近況…72
□受贈詩集から 冗談をいう鳥…柴田基孝…75
編集後記……76  表紙・カット…板井榮雄



 曇り日/藤子迅司良

泣き出しそうな空
とは
よく云ったものだ

空は
泣いたら晴れる

泣いたら晴れる
とわかっている
悲しみなら
いくら背負ってもいい
けれど

人の世は常識だらけ
人の世は矛盾だらけ
人の世は因果だらけ
人の世は欲望だらけ
人の世は呪縛だらけ

今日の空を
似た者同志

愛を込めて見上げてみる

お前は


 「空は/泣いたら晴れる」は名言だと思います。「泣き出しそうな空/とは」本当に「よく云ったものだ」と思いますが、この逆は考えたこともありませんでした。盲点を突いた、柔軟な思考の作品と云えましょう。
 最終連の「空」はそら≠ニもくう≠ニも読めますが、その二つを採りたいですね。色紙にでも書きたいような作品です。


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