きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
060529.JPG
2006.5.29 さいたま・見沼たんぼ「見沼自然公園」にて



2006.6.21(水)

 以前からバイクのスペアキーを作りたくて、やってくれる店を探していたのですが、先日、小田急新松田駅近くの金物屋さんで看板を発見しました。けさ、娘を新松田駅に送ったついでに寄ってみたら、何と開いていました。午前7時15分! 「おはようございます、早いですね!」と声を掛けて入ったら、店主らしきおじさんがびっくり顔でこちらを見ていました。こっちもびっくり、あっちもびっくりという訳です。おじさんに呼ばれて出て来た息子らしき若い男は、眠そうな眼をこすりながら、それでも笑顔で「いらっしゃいませ」。キーはものの5分で出来上がり、値段も480円。帰ってバイクに合わせてみたら、もちろんピッタリ。太陽は顔を見せてくれませんでしたが爽やかな朝でした。



個人誌『パープル』28号
purple 28.JPG
2006.7.16 川崎市宮前区
パープルの会・高村昌憲氏発行 500円

<目次>
四行詩
高校生………………………高村昌憲(2)
ポピーの花…………………高村昌憲(3)

のうぜんかずら……………中平 耀(4)
評論
初期プロポ断想(その12)…高村昌憲(8)
編集後記 ……………………………(23)
執筆者住所録 ………………………(24)
誌名/笠谷陽一 表紙デサイン/宿谷志郎 カット絵/高村喜美子



 高校生/高村昌憲

パリ市内では高校生がデモをして
雇用されて二年以内に理由もなく
首を切られても良い法律を拒否して
失業の不安を吸収した正義の花が咲く

空には同じ風が流れている筈なのに
あの順法闘争の逆説を知らない高校生
マネーゲームと談合社会でできた竜巻に
不公平な列島の天気図も描けない青い性

 フランスでは「雇用されて二年以内に理由もなく/首を切られても良い法律を拒否して」若者たちが「デモ」をしたというのはニュースで知っていましたが、迂闊にもその中に「高校生」がいたとは考えもしませんでした。日本では60年、70年安保で高校生が活動していましたから、現在のフランスでそれがあっても不思議ではありませんけど、私の頭のなかでも社会運動と高校生が結びついていなかったことに気付きました。そういう意味でも「あの順法闘争の逆説を知らない高校生」は私たちが作り上げてしまったとも云えるでしょう。考えさせられた作品です。



詩と評論『日本未来派』213号
nihon miraiha 213.JPG
2006.6.15 東京都練馬区
日本未来派・西岡光秋氏発行 840円

<目次>
〈眼〉日本の世相と現代詩の課題 木津川昭夫
〈特集〉
松生い茂る森の帰化詩人 細野  豊 26
森という暗喩の旅    川島  完 30
森と霊         中原 道夫 34
精霊の森へ       井上 嘉明 38

鹿島立ち     小山 和郎 2  動物実験       武田  健 16
春の横顔・閑吟  坂本 明子 4  城山         斎藤  央 17
死者の居場所   星  善博 5  なんじゃ・もんじゃの唄
.高部 勝衛 18
わたしのG    青柳 和枝 6  夜と森        平方 秀夫 20
夢か現かこの夜は 岩井美佐子 7  風の日の報奨     安岐 英夫 21
うそつき飴    今村 佳枝 8  墨を磨る       五喜田正巳 22
失語の男     水島美津江 10  麦わら帽子      まきののぶ 23
雷鳴       建入 登美 11  八月の犬       綾部 清隆 24
ネパールは海   福田 美鈴 12  エズラ・パウンドの地中海へ
還暦の桜     水野ひかる 14  −福田陸太郎先生に捧げるソネット
春の落葉     後山 光行 15             石原  武 25
〈メキシコ詩人を囲む会〉
広く世界に目を向けよう 細野 豊 41
〈ボワ・ド・ジョワ〉
川島完『ゴドー氏の村』受賞記念随行記     小山 和郎 44
『わが動物記、そして人』埼玉文芸賞授賞式の記 中原 道夫 46
〈海外詩〉アメリカ/ポーランド       新延 拳・訳 42
レオ・ヤンケヴィチの詩 阿呆/橋/哲学者
〈詩との出会い〉
老いたる者をして  山内 宥厳 50
骨の音       綾部 清隆 52
詩は記憶である   藤田  博 54
〈日本未来派の詩人たち〉
赤石信久さん――大きな音の柏手 福田美鈴 56

春だから      瀬戸口宣司 58  雪は降り止まない   川村 慶子 69
黄泉からの帰宅   細野  豊 59  タイム・トライアングル
.前川 賢治 70
櫛         松山 妙子 60    ――風の旅人
天問        南川 隆堆 61  ポイント故障     中村 直子 71
俺び助       天彦 五男 62  手紙         菊地 礼子 72
夜桜に下弦の月   鈴木 敏幸 63  ひまわり       林  柚維 73
  そして食中毒           君は誰        伊集院昭子 74
桜古木の春     山内 宥厳 64  サザエさん      井上 敬二 75
桜幻想       平野 秀哉 65  銅版画のための構図  小野田 潮 76
さくら       柳田 光紀 66  この指とまれ     新延  拳 77
笑み        宮崎八代子 67  砂の情話       川島  完 78
天気予報図にかさねて 若林克典 68  伝言板        井上 嘉明 79
〈旅から生まれた詩〉
旅は大事な栄養源  伊集院昭子 96
夢の彼方へ     林  柚維 98
燃えた男たち    中村 直子
.100
〈書簡往来〉
書くことの意味   小野田 潮
.102
〈私の処女詩集〉
『鋲』のきらめき、春のひらめき 水野ひかる 47
『春の焔の頃    小倉 勢以 48
『風の見舞』の誕生 松山 妙子 49
〈追悼〉福田陸太郎 〈作品〉照る日曇る日――
ソネットもどきの独白 より高く・クレピュスキユル 年譜 80
福田陸太郎とカール・シャピロ 川口 昌男 82
エクセルシオール       倉持 三郎 83
福田陸太郎さんを偲んで    西岡 光秋 84
〈追悼〉浅野明信 〈作品〉花火とボク・さくら・忠犬ハチ公 年譜 86
詩とともに生きた人生     鈴木美枝子 88
詩の鐘を北の空に       西岡 光秋 90
〈追悼〉九谷元子 〈作品〉橋・死の美学  年譜 92
畏友 九谷元子さんを偲ぶ   上野 菊江 94

百夜通い      木津川昭夫
.104  いのちの果実     壁  淑子.113
桜花幻幻      内山登美子
.105  雪隠詰め       石井 藤堆.114
リング       山田  直
.106  白鳥         磯貝景美江.115
マネキン      中原 道夫
.107  蔓茶羅の午後に    太田 昌孝.116
ゆれうごく     杉野 穎二
.108  カフェテリア     藤田  博.117
風を吹く男     金敷 善由
.109  ミラクルブルーの君に 森 ちふく.118
闇が        角谷 昌子
.110  チューリップ  くらもちさぶろう.120
約束        壺阪 輝代
.111  跳べない僕      植木肖太郎.121
小春日和      小倉 勢以
.112  角帽         西岡 光秋.122
=森=
手を焼く木     天彦 五男
.124  四半世紀       建入 登美.128
昭和五十八年頃とその後の日記より   詩を書けなかったころ 南川 隆雄
.129
          鈴木 敏幸
.125  児童憲章       菊地 礼子.129
猫の話       瀬戸口宣司
.125  さくら賛歌考     柳田 光紀.130
すってんコロリン  杉野 穎二
.126  帰り釆ぬ青春     前川 賢治.131
桜そして桜のような女性(ひと)     自然なかたちで    磯貝景美江
.132
          青柳 和江
.127  五年間        石井 藤堆.133
最近の特集から 山田 直 91・角谷昌子 95・まきののぶ 123・倉持三郎 134
書評
金敷善由詩集  和田 恒男
.135   宮崎八代子詩集 土田 英雄.140
新延 拳詩集  高貝 弘也
.136   柳田光紀詩論・エッセー集
川島 完詩集  岩木誠一郎
.137           森田  進.141
山田 直詩集  北岡 淳子
.138   西岡光秋詩論・エッセー集
中原道夫詩集  野澤 俊雄
.139           金子 秀夫.142
短信往来…85 投稿作品 安岐英夫・小倉勢以…143 投稿詩応募規定…103 後記…146
表紙・カット 河原宏治



 雷鳴/建入登美

南の国を歩いてきました と
差し出されたガラスケースには
見たこともない大きな蝶が
翅を広げてピンでとめられていた

捕虫網を持って原生林を歩く話を聞きながらも
友人が帰った後も
わたしは いただいたオオルリアゲハの
瑠璃色に輝く翅から
視線を外すことができなかった

明かりを消そうとすると
ふと 何かが 身じろぎをした
わたしの他には 誰もいないはずの部屋で

暗闇を かすかにふるわせて
飛び立つ気配がした
飾り棚のあたりで
夜半 凄まじい雷鳴がとどろき
大粒の雨が屋根を打ち
窓に稲妻が走り

そのとき きらり と
光に浮き上がったものがある

わたしは 原生林に迷い込み
突然のスコールにあって
大木の下に ずぶ濡れでうずくまっている

青い翅をはばたいて わたしを誘う 蝶

けれども わたしの胸部には
一本の鋭い針が刺さっていて
身動きもできない

 「南の国」のように「夜半 凄まじい雷鳴がとどろき/大粒の雨が屋根を打ち/窓に稲妻が走り」と「部屋」が転化していく様に惹き込まれて、「原生林に迷い込み/突然のスコールにあって/大木の下に ずぶ濡れでうずくまっている」ところまでは予想できました。しかし最終連の「わたしの胸部には/一本の鋭い針が刺さってい」るところまでは考えてもみませんでした。この展開は見事です。学術という名目での殺戮への警鐘とも受け止めた作品です。



阿部堅磐氏詩集『梓弓』
azusa yumi.JPG
2006.7.1 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 2000円+税

<目次>
花月
花月 8       三河八橋 14
石碑 18       談山神社 22
ひたすらに酔う 28  故郷の土手にて 32
祭の夢 38
梓弓
身も果てず 46    歌壇の花 50
愛の協奏・その別れ
.54 ふりかえれば 58
梓弓 62       あしからじとて 68
古代物語
大津皇子 76
解説 古典の魅力と現代詩 中村不二夫 94
あとがき 100
詩歴 102
表紙絵 山本真一/題字 阿部光泉/装幀 狭山トオル



 梓弓
  
――あづさ弓ま弓つき弓年を経てわがせしがごとうるはしみせよ(『伊勢物語』)

 今日は姉上様のご主人、兄上様が都へ上る日です。私より八歳も年上の姉上様は機織りが巧みで、見事な反物を織ります。私も姉上様の仕事をお手伝いしております。兄上様が都へ上るのは、姉上様の織った反物を都まで馬で運び、洛中の市や殿の館で商いをするのが目的です。姉上様も兄上様も妹の私をこよなく可愛がってくれます。

 朝早く兄上様一行は都へと出立いたしました。その日から二十日ほど経ちました。半月もすれば帰ってくることになっておりましたが、この度に限りお帰りが遅うございます。姉上様は兄上様の身に何かあったのでは、と心配な様子です。今日こそは帰って来るのではないかと、里のはずれの橋のたもとまで出迎えに行くのですが、夕方、とぼとぼと姉上様はただ一人帰って来ます。山の端に夕陽が沈むのを眺めながら、姉上様は溜め息をつくばかりです。一月(ひとつき)経ち三月(みつき)経ち、半年経ち、小雪舞い散る冬がやって来ました。そして兄上様のいない最初の正月を迎えました。必ず兄上様は帰って参りますよ、と私は姉上様を元気づけておりました。召使いの何人かも同じように姉上様を元気づけているようでした。春、家の前を流れる小川のせせらぎが高く聞こえ、野に菫の花が匂っても優しい兄上様はいません。姉上様は兄上様と二人で倖せに暮らしていた頃のことを思い出しながら淋しそうにしておられました。その淋しさを打ち消すかのように毎晩、機を織っていました。夏の夜など、庭に機織り台を引き出し、月光を浴びながら、虫の音(ね)も途絶える頃まで、機を織ったものです。そんなふうに過ごしているうちに早くも三年の歳月が流れました。
 最近になって姉上様にねんごろに求婚して来る人が現れました。その人は都の役人でした。夫が消息不明で三年も経てば、他に嫁してもかまわない慣習もあり、姉上様はその人と結婚の約束を交わしました。そしてその人と新枕(にいまくら)する夜に兄上様が帰って来ました。「この戸あけたまえ」と言う兄上様の言葉に姉上様は「三年もの間待ちくたびれて、私はちょうど今夜、新枕をかわすのです。」と戸も開けず、返事をしました。すべてを察した兄上様は、戸の外でこう言いました。「年月を重ねて、私があなたを愛したように、新しい人に親しんで下さい。」そして兄上様は立ち去ろうとなさいました。その兄上様の言葉を聞いた時、姉上様の脳裡に兄上様との楽しかった日々のことが、次から次へと浮かんで参りました。そこで姉上様は「あなたのことを昔から愛しておりました。」と胸の思いを告げましたが、兄上様は無情にもその場を去っておしまいになりました。姉上様はもう今宵新枕することなどすっかり忘れてしまったかのようです。姉上様と私は兄上様の後を追いかけました。心の臓がもともと悪い姉上様は苦しそうでした。森の梟が三日月の空に不気味に鳴いております。それでも姉上様と私は暗い夜道を駆け、清水の湧く泉のところまで来ました。姉上様は苦悶の色を見せ、そこで倒れ伏してしまいました。そしてそこにあった大きな岩に指の血で、たどたどしく歌を一首書き記しました。

 あひ思はで離(か)れぬる人をとどめかねわが身は今ぞ消えはてぬめる

書き終えると、姉上様はぐったりと息絶えてしまわれました。私はただ悲しくて涙を流すばかりでした。

--------------------

 最初にお詫びをしなければなりません。原文は20字で行替えの散文詩ですがベタとしています。最近の携帯電話は拙HPも見られるようになっていますが、画面が小さいので原文通りで表示しますと変なところで行替えされて空白が多くなり、非常に見難くなります。ベタで組みますと自動で行替えしますから、美しく見やすくなるという次第です。原文の美しさを最小の機器でも味わえるようにするための苦肉の策ですのでご了承いただければ幸いです。また、ルビの表示も技術的に難しいので( )に入れてあります。

 さてタイトルポエムとなった作品そのものですが、これは『伊勢物語』という古典から採っていますけど、実は現代にも通じるものではないかと思っています。戦争未亡人≠フ話は私も子供の頃に聞いたことがありますし、戦後世代の私たちの年代でも誤解によるこういう話はいくらでもあります。作者の意図もそこにあると考えています。古典を古典として示すだけでなく、その行為には古典を通じて現代を見よというメッセージがあるのではないでしょうか。もちろん愛≠ヘ昔も今も変わらないのだとも教えてくれています。私自身の古典に対する見方が変わった作品であり詩集です。ご一読をお勧めします。
なお詩集中の
「歌壇の花」は拙HPですでに紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、こちらも合わせてご鑑賞ください。



花籠悌子氏詩集『裸木』
raboku.JPG
2006.6.20 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 2000円+税

<目次>
 T
挨拶 8       春の鐘――追悼 安西均先生 10
訣れ――友へ 12   遠い野原 14
月夜の飛行機 16   今年の春――一九九八・母九十一歳の 18
冬に入るとき−一九九九
 22
嵐のあと――二百十日 24
暁に 26
 U
若く そして熱く 30 深い穴 34
風が吹く 38     遠い街 40
時が過ぎて 44
 V
裸木 48       春 その黄昏に 50
夜の声 52      花の形象(かたち)に 54
岬まで 56      岬にて 60
私のうしろに 64   霧のなか 66
花野・初冬 68    秋の電車で 70
冬の手 74      二月 その空の下 78
五月
.その闇のなか.82 この春 84
海の時計 86     ひとりの午後に 88

解説 自然への畏敬と抒情 中村不二夫 92
あとがき 100



 裸木

欅の梢の先に鳥の巣がある
それに気付いたのは
木枯らしが吹き荒れて
葉がすっかり散りつくしたときだ

それから また風が吹くときも
氷雨や雪が降り止んだときにも
崩れかけた半球形の黒い塊
(かたまり)
細い枝々に支えられて漸くそこに在った
それを確かめることが
いつか私の慣いとなっていた

裸木の枝先から鳥のいないその巣は墜ちた
春一番が吹く夜更け
湯ぶねに沈めた胸がぎしぎしと歪み
肋骨の隙間で傾いたものが
ばらばらと墜ちていく音を聞いた

朝までに風は止むだろう
だが鳥はもう還らない
芽吹きはじめた欅の梢には
新しい巣が営まれることもない

 23年ぶりの第2詩集です。タイトルポエムを紹介してみました。「それを確かめることが/いつか私の慣いとなっていた」というフレーズに著者の自然への接した方が見えていると思います。それは第3連の「鳥のいないその巣は墜ちた」ことと「湯ぶねに沈めた胸がぎしぎしと歪み/肋骨の隙間で傾いたものが/ばらばらと墜ちていく音を聞いた」ことが同調しているように、自身と一体になった視線と云えるでしょう。「新しい巣が営まれることもない」のは自身の投影かもしれません。美しい調べのなかにも人間のはかなさを歌いあげている作品だと思いました。




   back(6月の部屋へ戻る)

   
home