きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.6.11 京都・泉湧寺にて



2006.7.6(木)

 2回目の失業保険認定日。今回は満額が支給されましたけど、上限いっぱいで、それ以上は出ないとのこと。現職時代の半額にもなりませんが、まあ、そういうもんかなと諦めています。官の無駄遣いが何十年も続いたから原資が無いんでしょうか。貰えるだけありがたいのかもしれません。



石原 武氏著『遠いうた 拾遺集
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2006.6.20 大阪府箕面市 詩画工房刊 3334円+税

<目次>
 一章
村落の思想 14
村落からの都市論 −壁という記号 23
詩とムラ 32
沈黙の風景 −詩とムラをめぐる随想 42
 二章
マイノリティの詩学 ――シャーマン・アレクシーの記憶の文学 54
マイノリティの詩学余話 ――ジェローム・ローゼンバーグの民族詩学 64
詩言語について ――シェイクスピアからの省察 76
 三章
アメリカインディアンの遠いうた
モハービ族の少女 92
雪解け道を行くズニ族の女 98
トウモロコシの女 100
ホピー族の唄と音楽 105
カボチャの花の髪型 109
ホピー族のスネイク・ダンス 111
ピマ族の創世神話 113
ピマ族の動物のうた 117
アパッチ族の報復 125
アパッチ族の神話 128
大平原の風・カイオワ族哀史 132
ダコタ族の霊世界 140
ゴースト・ダンスの陶酔と悲劇 142
シャイアン族の赤い紋章 146
酋長ハイアモゲィが語る伝説 149
 間奏・インディアンレッドの夜明け 152
ポーニー族の「星の神話」 155
アラパホー族の「亀湖」の唄 160
アラパホー族のクロー・ダンス 163
ウイネバゴー族の唄と伝説 168
クワキウトル族の唄 176
北西海岸の「揺り篭の唄」 179
北西海岸のインディアンと獣たち 183
北辺の種族と霊魂たち 191
五大湖・森林地帯の種族の唄 199
亜北極圏の種族の神話 207
イヌイットメンの唄 213
イヌイットの唄・息するごとく 231
イヌイットの毛皮戦争・その後 239
北極圏の唄 246
 間奏・アメリカインディアンの短編小説(シャーマン・アレクシー)
   「アリゾナのフィニックスから、死んだ親父を連れて」 25β
 四章
イ アイルランドから
アイルランドの哀歌 278
アイルランド・うたの深層 307
アイルランドのテロ 316
ロ エルサレムから ――怨嗟と報復 325
ハ 民族紛争の中から ――新しい時代のうた 344
ニ アフリカから
皆殺しのうた 354
殺し合いの事情 358
アフリカ拾遺詩篇 363
皆殺し記念館 368
最貧国の未来 384
スーダンの悲劇 393
スーダン情勢の輪郭 395
戦争についての算数 409
スーダン反政府ゲリラの少年 410
アフリカの少女は老いている 413
この子は重くなんかない 422
反体制詩人 ――ミウォシュとショインカのこと 429
ホ アメリカ ――その文明の闇から
牛、豚の尻尾切り 438
アメリカ兵は嘘をついていた 441
死の文化 450
物の数でない死 452
『大虐殺』 454
村の戦争 471
小さな町の贖罪裁判 480
兵士の帰還 488
アーサー・ミラー逝く 497
アメリカの繊細な感性 498
ト 宗教対立から
自爆テロリストの人間回復 502
神の掟のままに ――イスラムのサッカー 511
イスラム教徒の懺悔 520
多文化社会の落し穴 523
亡命者の肖像 531
言葉の麻酔 ――ハロルド・ピンターのアメリカ批判 540
文献/索引/あとがき



 インディアン・レッドの夜明け/石原 武

暗黒に獅子座の流星群が明滅し
小さなはぐれ星が幾つも私の屋根に落ちた
太陽に近寄るテンプル・タットル彗星
その光芒を追いかける無数の星屑たち
地球はかれらの真っ只中に突き進み
私の夢の列車はこころよく揺れた
はぐれ星がもう一つ水辺に滑り 朝

朝風に瓶が倒れて
飲み残しのワインが床に零れた
赤い地図が広がって朝刊を染めていく
世界はきな臭く
赤い砂漠に狼煙が上がる
砂埃の瓦礫の家々まで零れたワインは届かない
鼻水垂らしたアサッドやマルムドまで
暖かな芋は届かない
私は朝食に蒸かした芋の皮を剥きバターを溶かす
マルムドよ アサッドよ ご免な
せめて丘を下りてくる山羊のご慈悲をと
私は清ました頚で朝のお祈りをする

水辺の星は野鴨の羽ばたきで目覚める
赤らむ川面が深い記憶を引き寄せる
大平原の風の中をスー族の娘は
臙脂のマントを被って水汲みにいく
夏に水が涸れると
稲妻とガラガラヘビの谷間まで下りていく
雨が降って
豆の花粉に塗れた若い牡鹿が来ますようにと
頭に水の甕をのせ娘たちは神さまに祈る
星屑の故郷は遠いインディアン・レッドの平原
今朝もスー族の娘たちは東の夜明けに
水汲みにいく
星のうたを歌いながら

 月刊詩誌『柵』に2年に渡って連載された
『遠いうた――マイノリティの詩学』が単行本として出版されたのは2000年6月でした。本著はタイトルでも判る通り、その「拾遺集」です。しかしこちらは同誌に60回、5年に渡って連載されたもので、550頁を超す大冊です。読了するのに4日掛かりましたから、こちらの方が本編という言い方ができるかもしれません。ちなみに前著にはハイパーリンクを張っておきました。合わせてご覧ください。

 紹介した詩は本著では珍しい著者自身の作品です。2002年の正月に書かれたもののようで、2002という数字の表記から「野鴨が二羽、二つの星をはさんで夜明けの川を泳いでいく姿に見え」たことからの発想だそうです。そう書かれるといかにもロマンチックな感じを受けますが、拝読すれば判る通り、そう単純なものではありません。本著のテーマである周縁・マイノリティと深く関わっています。本著の性格を代表する作品と言っても良いでしょう。この作品を足掛かりに深遠な本著をご一読いただければと思います。



詩誌『木偶』65号
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2006.6.30 東京都小金井市
増田幸太郎氏方・木偶の会発行 400円

<目次>
落下論(3)/中上哲夫 1
歩道橋/野澤睦子 3
五月の詩/落合成吉 5
街/仁料 理 7
プラハのユダヤ人墓地にて/田中健太郎 9
春の自動改札機/荒船健次 11
眠り雀/乾 夏生 13
定年退職する父から娘へ/乾 夏生 15
メロンパン/天内友加里 17
相模川異聞/川端 進 19
一九四○年・辰年の記録 火起こし/土倉ヒロ子 23
三月の声/増田幸太郎 26



 相模川異聞/川端 進

日々
毎日が休日で
行こうと思えば
いつだって行けるんだ
誰はばかりなく行けるんだ
魚だって夜毎枕元に立ち現われ
誘いにやってくるんだ
遊びたいんだね
ぼくと
ところが
ぼくときたら
昨年の鮎漁解禁で
半日釣りをしたきりで
川に行っていないんだ
別に釣りが嫌いになったわけではない
川が何処かへ行ったわけではない
車で十分ほどの所にある
あるはずなのだ
その川は

その川は
上流にダムを持つ
蛇口を捻れば迸り出る水の源
涸れることなく川を潤す水の源
そのダムが危機にあったことを知っているか
いちばん安全な場所にいた者たちの知恵
終戦まぢかのころ
川を上り上陸しようとする敵を押し流す作戦
「そのダムを破壊せよ!」
映画の一幕なら
終わってほっとし
感動もしたりするだろうが
これは誰も知らない本当の話
身近にあった話

桜は散りぎわがいちばん美しい
といったライオンヘアの人がいたけれど
完成するやいなや破壊されるダムは美しいか
犠牲になった労働者たち
埋没した村や家々
その姿は美しく見えたか
今も記憶から消えないで残っている
ダムの袂にある店のおばさんの指差し話した言葉
あそこの底のところに私の生家があったの
いまもそのまま沈んでいる
里帰りも出来ないの
指差したその湖面
公魚釣りのボートが数隻
九条の恩恵を受け
漂っている

幸い難を逃れ
生き延びてきたダム
四季折々人々を呼び集め栄えている
観光名所
そのはるか下流
水郷田名の河川敷では
千数百匹の鯉が風をきり泳ぎ
やがと内水面祭りだ
平和なんだね
今は
というものの
一年近く川を見ていない
ちょっと心配になってきたな
明日は見に行ってこよう
川は無事か

* そのダムを破壊せよ
 「神奈川県初代の電気局長に就任した氏家文彌の思い出の記に次のような、文がある。
 愈々敗戦色が濃厚となり、軍は敵の相模湾上陸に備えるにあわただしい時であった。折りしも陸軍の某参謀が本庁に来て、あのダムを破壊した時の影響とその及ぼす範囲を研究して呉れという驚くべき申し入れをなした。それは敵がもし上陸したならば、ダムを破壊して敵を押し流すというのが、当時軍の戦法であることは、直に分ったが、栄々辛苦十カ年4餘り、完成一歩手前となり国家の運命の一大事とは云え、壊せと云われてもオイソレという気持ちにはなれなかったのが、當時のいつわらざる心境であった。」
 『相模川物語』(宮村忠著・神奈川新聞社発行)かもめ文庫 より

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 「相模川」は山梨県大月市の笹子川に端を発し、神奈川県中部を流れ平塚・茅ヶ崎を従えて相模湾に至る大河です。上流には城山ダムで堰き止められた津久井湖、相模湖があります。両湖の間には相模湖ピクニックランドもあり、神奈川県民には馴染み深い「四季折々人々を呼び集め栄えている/観光名所」です。その城山ダムを「破壊せよ!」という「誰も知らない本当の話/身近にあった話」が存在したとは驚きでした。こういう話はきちんと残しておかなくてはなりませんね。「九条の恩恵を受け」ている我々としては。
 「ちょっと心配になってきたな」「川は無事か」というフレーズに、作者の川に対する愛情の深さを感じます。川を「心配」することは私たちを愛しむことでもあると感じた作品です。




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