きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.6.11 京都・泉湧寺にて |
2006.7.7(金) その1 その2へ
今日はとても佳い体験をしてきました。小田急線東海大学前駅そばの紙芝居喫茶「アリキアの街」で牧野持侑(じゅん)さんのクリスタルボウル演奏がありました。初めて聴きましたけど、水晶の単振動の組み合わせに恍惚となってしまいました。現職のころ振動解析はずいぶんとやったものですが、周波数解析をするとおそらく振幅の狭い基本振動とその高調波が数本出ていると思います。水晶は、昔は無線の高周波数生成のために水晶発振子を使ったぐらいですからピュアに振動が出ます。今回の振幅は10Hz以下でしょうか。それが20個ほどのボウルから覆い被さるように発振され、その逓倍数(倍音と表現していました)が数本出るわけですから、理屈の上でもすごいものだと思いましたね。
写真は演奏をする牧野さん。そしてピアノの上の絵と、右のポストの横に見えている絵は尾崎尚寿さんの作品です。これらの絵が音と良く合っていました。これも不思議な印象でしたね。正直なところ、単独で見ているときはそれほど印象が強い絵ではないと思ったのですが、クリスタルボウルの音と一緒に見ると、このために描かれたのではないかと思うほどの衝撃を受けました。偶然でしょうが、実はこのお二人、30年近いおつき合いだそうで、どこか似てしまったところがあるのかもしれません。
牧野さんのお勧めでほとんどの人は床に簡易ベッドや茣蓙を敷いて寝ながら聴いていました。エエカッコシイの私はそこまではしなかったのですが、時計を外して靴を脱いで、リラックスと言うかだらしない格好で聴いていました。クルマでしたので呑みませんでしたけど、これでアルコールがあれば最高! 完全に寝ちゃいましたね。
手前に見えている二本の小さな円柱はシャンティチャイムというもので、ピレネー山脈生まれの風鈴のようなものです。しかし中には銀で溶接された8本の金属棒があって、これが逓倍音を出しながら鳴ります。売っていたので思わず買っちゃいました。
クリスタルボウル演奏のCDも購入。CDを聴きながらシャンティチャイムを鳴らして、これを書いています。今日到着した「越乃寒梅」を呑んで、さわやかに夜風が入って、たっぷりと楽しんでいます。原音には負けますけど、自宅ですからしょうがない、模擬です。おっと、愛犬百個(ももこ)が寄って来た! スピーカーの前にうずくまっています。人間には聞こえない高周波に惹かれているのでしょうか。ちなみに通常のCDは2万Hz以上をバンドパスフィルターでカットしていますが、このCDはノーカットとのこと。周波数解析機で測定するまでもなく(さすがに自宅にはありませんけど)百個で実証されたようです。
皆さんも機会があったらぜひ聴いてみてください。できればお酒を呑みながらね(^^;
さて、本日、詩誌『ガーネット』のバックナンバーをいただきました。一挙にこの頁に掲載すると、携帯電話で見た場合、容量オーバーになります。その1、その2と二つに分けましたのでご承知おきください。
○詩誌『ガーネット』37号 |
2002.7.20
神戸市北区 高階杞一氏方・空とぶキリン社発行 500円 |
<目次>
詩 大橋政人 泣く/食べる 4
神尾和寿 歴史上の人物 Y 8
阿瀧 康 骨 16
嵯峨恵子 みんなちがって/酒の害について/眠れる男 26
高階杞一 頭をかきむしりながら思いついた いくつかのこと/あるいは夏の恋人 32
シリーズ〈今、わたしの関心事〉NO.37 海埜今日子/桐田真輔/山本テオ/竹内敏喜 18
書評 おそらくそれらのために、突発的に襲ってくる人間の悲しみ――辻征夫『ゴーシュの肖像』阿瀧 康 20
雑感 詩誌やら何やら読んだり読まなかったり――不定期連載(1) 大橋政人 22
1編の詩から(8)黒田三郎 嵯峨恵子 36
詩集から NO.35 高階杞一
●ええ夕焼けやなあ――独り言の力 39
●詩片●受贈図書一覧 44
エッセイ おじさんの思い出――愛すべき酔っぱらい渋沢孝輔のこと 嵯峨恵子 50
ガーネット・タイム 57
お百姓さんに申し訳ない 高階杞一
猫背であった 神尾和寿
葉桜の季節? 阿瀧 康
「『先生のタバコ』余聞」補遺 大橋政人
ハーブの女王 嵯峨恵子
INFORMATION 63
あとがき 64
表紙絵 中井雄介
泣く/大橋政人
いくつもの顔があり
笑っているいくつもの顔が
まわり中からのぞき込んでくるが
風は冷たいし
光は痛い
暖かかった暗い部屋から
ぴかぴか光るばかりの
だだっぴろい広がりへ急に押し出されて
その寄る辺なさに
その恐怖に
生まれてすぐの私は
多分、激しく泣いたのだ
そのときの記憶はないが
生まれて初めての大きな恐怖は
私の心の奥深くにしまわれていて
それがときどき
心の表面近くに浮き上がってくるのではないか
そう考えてみると
朝、ひとり目ざめたときの
あの身震いするような恐怖感と孤独感も
いつまでたってもこの世になじめない感覚も
恐怖に触れているときほど
生きている実感が強くなるという変な性分も
すべてがいっぺんにわかってくる
風は冷たいし
光は痛い
あのときから今日まで
何一つ変わっていない
生まれてから今日まで
私はただ激しく泣き続けてきただけかもしれない
そう考えると
支離滅裂の来し方に一本スジが通ってくる
泣くのは赤ん坊の仕事と言うなら
詩人も泣くのが仕事
泣きながら
遠い昔の初めての時をめざしていけばいい
「朝、ひとり目ざめたときの/あの身震いするような恐怖感と孤独感も/いつまでたってもこの世になじめない感覚も/恐怖に触れているときほど/生きている実感が強くなるという変な性分も/すべてがいっぺんにわかってくる」という分析≠ヘ、作者個人に限らず詩人や芸術家一般のものかもしれません。それを端的に表したのが「泣くのは赤ん坊の仕事と言うなら/詩人も泣くのが仕事」というフレーズでしょう。最後の「泣きながら/遠い昔の初めての時をめざしていけばいい」というのは胎児回帰を言っていると思いますが、ここは大事なポイントで、大橋政人詩の原点であるように思います。
○詩誌『ガーネット』42号 |
2004.3.1
神戸市北区 高階杞一氏方・空とぶキリン社発行 500円 |
<目次>
詩 大橋政人 正しい山/ここにある 4
神尾和寿 ぼうふら/そのとき/イワシ 8
嵯峨恵子 一滴の血/何らかの役割/六月の蛇 12
阿瀧 康 灯る・投票 32
高階杞一 桃の花/早春 36
書評 いやだ 雨がやむまで/眼はあけない――辻征夫『詩の話をしよう』を読む 阿瀧 康 20
まどさんが まどさんしている――まど・みちお詩画集『とおいところ』を読む 大橋政人 22
1編の詩から(13)氷見敦子 嵯峨恵子 27
シリーズ〈今、わたしの関心事〉NO.42 木村恭子/ヤリタミサコ/粒来哲蔵/龍 秀美 30
詩集から NO.40 高階杞一
●詩片●受贈図書一覧 40
ガーネット・タイム 50
ジョニーがゆく 神尾和寿
秋から冬へ 阿瀧 康
癒しから脱力へ 嵯峨恵子
『現代詩における大橋政人』 大橋政人
ホッピーやん 高階杞一
同人著書リスト 55
あとがき 56
表紙絵 中井雄介
何らかの役割/嵯峨恵子
働きアリにも働かないアリが二割はいる
という研究結果がある
優秀な固体だけでは集団の生産性は最大にならない
そうな
会社においても働かない人は必ずいる
Hさんはかれこれ勤めて三十年以上は経つ
五十代半ばの女性である
マイペースな彼女は
どんなに忙しい時でも
一回三十分の休憩を一日四五回は欠かさない
二本の煙草を吸って、お茶を飲み
喫煙室にやってきた社員を相手にお喋りをする
あきっぽくてめんどくさがりや
覚えは遅くミスも多い
困ったことには自分の非は認めたがらない
あちこちに異動するにつれ
上司たちは仕事をさせる労力より
仕事を与えない努力をして
自分たちへの被害を防いできた
ある部署では終日英会話のテープを聴いていたそうな
バブルがはじける前の余裕である
義務は果たさなくとも権利は要求
組合に駆け込んだことも数知れず
社員は決定的な理由がなければ辞めさせることは出来ない
周囲は彼女のカバーをし
当人はアンタッチャブルに放牧状態
二人日の夫に食事の支度を任せ
カラオケと水泳と病院通いを趣味とする
Hさんの特技は世間話である
まわりのおじさんたちのこぼす
奥さんの愚痴を聞いては
適当に相槌を打ってみせる
彼女もまた何らかの役割として
会社に
この世に存在するのだろう
天の仕事は人の知恵でははかり知れない
「働きアリにも働かないアリが二割はいる/という研究結果がある」ことは私も聞いたことがあります。現職の頃、そうやって社内を見たことがあり「優秀な固体だけでは集団の生産性は最大にならない」と仲間内に伝えたものです。「上司たちは仕事をさせる労力より/仕事を与えない努力をして/自分たちへの被害を防いできた」ことも事実。私の勤めていた会社だけでなく、どこでも同じなんだなと妙に安心した作品です。
で、仲間内にはもうひとつ私の作り話を伝えました。優秀な二割のアリだけを集めても、やっぱり「働かないアリが二割」になる(^^;
○詩誌『ガーネット』43号 |
2004.7.10
神戸市北区 高階杞一氏方・空とぶキリン社発行 500円 |
<目次>
詩 嵯峨恵子 未来のイブ/忘れえぬ人/東京の一夜 4
高階杞一 柳/茄子 12
神尾和寿 これからの予定/みごとな題名 16
大橋政人 小詩集・大きな犬の死 26
阿瀧 康 天気 40
1編の詩から(14)茨木のり子 嵯峨恵子 20
意見あり!(1)ヘルダーリンとフリッツ 神尾和寿 22
シリーズ〈今、わたしの関心事〉NO.43 松岡政則/山田隆昭/岩木誠一郎/以倉紘平 24
この1冊 途中、3ウル――森 雅之『追伸−二人の手紙物語』 高階杞一 45
詩集から NO.41 高階杞一 46
●詩片●受贈図書一覧
ガーネット・タイム 50
大学の日々 高階杞一
見えないものが見たかった 神尾和寿
4−1−1+1=3 大橋政人
春から夏へ 阿瀧 康
バラの間を歩き回って 嵯峨恵子
あとがき 56
表紙絵 中井雄介
茄子/高階杞一
夜中に妻を
殴ったり
蹴ったり
する
ことがある
と言っても自覚あってのことではなく
夢の中で
そのようにした手や
足が
そのまま
隣の妻へ向かっただけのことであるのだが
そのたびに
わたくしは目を覚まし
妻も
驚いて目を覚ます
「どうなされたのでございます」
「うむ、喧嘩をしている夢を見た」
「どなたと」
「わからぬ…」
そう言ってまた蒲団をかぶる
実はおぼろげにわかってはいるのだが
長い出仕を辞して
もう二年も経つというのに
未だにかような夢を見るとは自分でも合点がいかず…
な
す
…茄子の浅漬け
ふいに頭にうかぶ
とある夏
とある農家の縁側で出されたあの茄子の浅漬け
心底うまいと思ったが
あれもまた
遠い夢のことであるように
今は思われてくる
侍言葉で表現し、まるで昔のこととのように書かれていますが、実際には現実の反映だろうと思います。「実はおぼろげにわかってはいるのだが/長い出仕を辞して/もう二年も経つというのに/未だにかような夢を見るとは自分でも合点がいかず…」というフレーズには、現実に「長い出仕を辞し」たかどうかは別にして「遠い夢」にいつまでも苛まれる私たち自身を重ねてしまいます。最終連で「茄子の浅漬け」へと転調させるところはさすがですね。学ぶことの多い作品です。
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