きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.6.11 京都・泉湧寺にて



2006.7.31(月)

 57歳の誕生日を銀座で過ごしました。日本詩人クラブ詩書画展初日で、8丁目の「地球堂ギャラリー」に詰めていました。初めて詩書画展の担当理事を務めましたのでちょっと緊張もありましたが、昼食に行く余裕もありましたから、まぁまぁだったかなと思っています。

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 写真は後日撮ったものですが会場外観です。右下に詩書画展の看板、上に「地球堂ギャラリー」の文字がお判りいただけるかと思います。銀座は昔に比べて人通りが少なくなりましたね。家族連れのアジア系の観光客が目立っていました。
 本日の入場者はフリーのお客さまも含めて47名。Eメールで呼びかけた人のうち古郡さんがおいでくださいました。出張帰りで本社に戻る前の貴重な時間を使っていらっしゃいました。ありがとうございました。



甲田四郎氏詩集『くらやみ坂』
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2006.8.15 茨城県龍ヶ崎市
ワニ・プロダクション刊 2000円+税

<目次>
身重の坂 8     叩く男 12
飛蚊症 17      痛いよ 20
ギゴ 24       出る 28
落ちる 32      ネズミ男 35
自転車坂 40     坂の上 44
くらやみ坂 47
 †
新宿まで 54     くり返す 59
匂いつけ 62     夏回る 66
ゴジラ 70      会館の階段 74
白木の札 77     三半規管 80
鳩の広場 84     遅れた花見 88
スニーカーの男たち 92
 あとがき 96



 くらやみ坂

この夏坂の上は戦争である、さあ殺せ
とヤケの薄笑いでゆっくり歩いていく人と
殺されるもう殺される
と殺気立って歩いていく人が
目立つようだと友人が手紙に書いてきた
そういう彼は私と同じ
とつぜん歩けなくなることがあるので友人なので
しかしヤケにならない殺気立たない目立たない人は
忍者のように歩いているのか知らん
と考えながらカエルの串刺し
我慢してそろそろ歩いて
そうっと一歩踏み出して
熱い電信柱に掴まって
開いた股をそうっと閉じて
脳天をジリジリ焼かれて
あたりを見回して
くらやみ坂で立ち往生
私のその状況は判った
しかしそれでどうする
首筋暗く汗をかいて焦げくさい
モーターが過熱した扇風機のように
首を振った
しかし風は起こらず
南部鉄の風鈴は振れず
「不来方
(こずかた)のお城の草に寝ころびて
空に吸われし十五の心」
青い短冊も動かない
それでも
扇風機は決して首を縦には振らないのだ
ずるずる電信柱の根元にしゃがんだ
すると日傘や背広やサンダルが次々
上手に私を避けては上っていく
掃除機に吸われていくゴミのようである
飯が腐敗しかけた状態を飯が沸いたという
ゴミが沸いたのである
昔の人はいいことを言った
権利の上に眠る者は権利を失う
「私たちはくらやみ坂で
歩けなくなることがある
だがあいつらは歩けないことがない
ましてしゃがんだりひっくりかえったりすることが
手足を持って運ばれるまでそうしていることが
どうしてあいつらにできると言えるか」
遠くで誰か倒れているわよ
あんた見て来てよ声がした
いやよ知らないジジイなんか、病気がうつるし
それから耳元で忍者のような声がした
もしもし大丈夫ですか、どこか痛いんですか
脳梗塞ですか、脳貧血ですか
痔ですか
私は目を剥いて
放っておいてくれないかと言った
私は権利を行使しているんだ

 9番目の詩集で、1編を除いては2001年以降の作品を収録したそうです。紹介したのはタイトルポエムですが、「くらやみ坂」とは実在する坂の名だそうです。甲田節がいかんなく発揮されている作品と云えましょう。特に最後の「私は権利を行使しているんだ」というフレーズが佳いですね。甲田詩の基本姿勢を感じるフレーズです。
 本詩集中の
「くり返す」はちょうど2年前に拙HPで紹介していました。ハイパーリンクを張っておきましたので合わせてお楽しみください。



隔月刊詩誌『叢生』145号
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2006.8.1 大阪府豊中市
叢生詩社・島田陽子氏発行 400円

<目次>

おはなし/江口 節 1
ペットショップの子犬/姨嶋とし子 2
もの作りの歌/木下幸三 3
オールド イズ ビューティフル 4/佐山 啓 4
蟹/島田陽子 5
聖水/下村和子 6
エール/曽我部昭美 7
裁判官は不在
/原 和子 8
断絶
/福岡公子 10
だんだん/藤谷恵一郎 11
また帰りたい言うてるやろ/麦 朝夫 12
ウンドォカイ/毛利真佐樹 13
荒れ終い伝説/八ッ口生子 14
おれの詩/山本 衞 15
合わせ鏡/由良恵介 16
沁みの記録(4)/吉川朔子 17
原風景/秋野光子 18

本の時間 20
小  径 21
編集後記 22
同人住所録・例会案内 23
表紙・題字 前原孝治
    絵 広瀬兼二



 おはなし/江口 節

坂をおりた角の家で、ときどき犬が吠える
単調にくりかえす鳴き声は
防犯用の人工音だとすぐわかる
以前、空き巣に入られた家の

嘘は、けなげだ
現実を生き抜くために
おとしめるなにものも、なく

コノハチョウは落ち葉に隠れ
揚げ羽の幼虫は、鳥の糞みたいで

わたしは、シラヨネリエ
もうすぐ本当のおかあさんが迎えにくるの
なまえの音訓を逆転させて
また、あたらしいおはなしの始まり

トシエちゃんは
散髪屋の一人っ子
おとうさんも
おかあさんも
一日中、お店で立ちっぱなし

おはなしをいくつも創って
世界は埋まっていったのだろう

トシエちやんのおかあさんが聞いたらどう思うだろう

そんな風に考えるようになったのは
わたしが母親になってからだけど

 「現実を生き抜くために」「けなげ」に「嘘」をつかなければならないものたち。「犬」や「コノハチョウ」や「揚げ羽の幼虫」と同じように「トシエちゃん」も「あたらしいおはなし」を「いくつも創って」いくわけですけど、ここには「おとしめるなにものも、な」いことが判ります。しかし現実には「トシエちやんのおかあさんが聞いたらどう思うだろう」という懸念が「母親になってから」「考えるようになった」「わたし」にはある。大人と子どもの違いと言ってしまえばそれまでですけど、「おはなし」の成立過程を見た思いがしました。「嘘」つきは作家の始まり、なのかもしれませんね。



詩誌『環』121号
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2006.7.30 名古屋市守山区
若山紀子氏方「環」の会発行 500円

<目次>
さとうますみ/ひとすじのまっすぐな息が 2
東山かつこ/さくらんぼ狩り 4
安井さとし/茜色の夕凪 6
菱田ゑつ子/石臼を挽くように――故渡辺力さんを偲んで 9
森美智子/やさしさ狩り 12
鈴木哲雄/急
(せ)かれて 14
加藤栄子/やっとだね、キティちゃん 18
若山紀子/やっぱり へん 20
神谷鮎美/ロング 22
<かふえてらす> 25
加藤栄子 東山かつこ 菱田ゑつ子
神谷鮎美 さとうますみ 森美智子
<あとがき> 若山紀子 29
表紙絵 上杉孝行



 さくらんぼ狩り/東山かつこ

バスから吐き出された波を
吸い込んでビニールハウスは
あやしげにふくらんだ

丈高いビニールハウスの中に
追い詰められてやむなく鎮まり立つ木々
枝をいくつも長く
何かを求める触手のように
ひょろり ひょろり とのばす
時に
千手観音の手のように
あたりに優しさをたなびかせ
かすかに何かを受け止める気配をみせる

実がすずなりになる頃
葉陰で
ひっそりとみのりの時を楽しんでいたのに
ルビー色の実はことさら色鮮やかさを強いられ
枝葉は輪ゴムで束ねられ
あらわに光に晒された実が
頬を染め恥ずかしげにただ下を向く

狩人の一団がビニールハウスを後にすると
触手をだらりと下げ
千手観音のような手からもさびしげに
むしりとられたむなしさが
あたり一面にただようのだった

 「狩」られる側の「さくらんぼ」に思いを寄せた作品で、「丈高いビニールハウスの中に/追い詰められてやむなく鎮まり立つ木々」「ルビー色の実はことさら色鮮やかさを強いられ」などにその思いがよく出ていると云えましょう。人間を「バスから吐き出された波」と捉えたところも見事だと思います。「あやしげにふくらんだ」も佳いですね。「さくらんぼ」は私も大好きなのですが、今度は「むしりとられたむなしさ」も感じながら食さねばいけないなと思った作品です。




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