きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.6.30 東京・新宿



2006.8.6(日)

 日本詩人クラブ第13回詩書画展の最終日です。展示は11時から14時まで。14時からは搬出になりました。一番問題が起きるのは搬出のときだ、と聞いていましたからちょっと緊張しましたけど何とか無事に終了しました。展示してくれた一人ひとりに対して、事前にどうするのか確認しておきました。本人が来る場合は問題ありませんが、来れない場合は誰に頼むのかを教えてもらいました。その結果、時間内に来れなかった人が数人いただけで無事に搬出が終わったというわけです。正直なところ、全員の搬出が終わったところでドッと疲れが来ましたね。でも、良かった!

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 写真は搬出直前のものです。この段階で疲れた様子なのが改めて判ります。お陰でお腹も少しは引っ込んでいるかな(^^; 打上げは銀座ナインの「天狗」で。運営委員の他に数人の会員がご一緒してくれて盛り上がりました。
 本日の来場者は53名。会期中の合計は340名に上りました。皆さま、ご協力ありがとうございました!

 「天狗」のあと、さらに行こうという人はいなかったのでそのまま解散。考えたら明日からは出勤の人が多いもんなぁ。私は天下晴れての無職ですから四谷に向かいました。「四谷コタン」の奥野祐子さんのライヴを見てきました。

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 前回は6月に行っただけですから、ずいぶん久しぶりに聴いた思いをしました。ほろ酔い加減で聴く「ふるさと」「SMILE」が特に良かったです。この1週間の疲れがスッ飛んで行った気がしました。奥野さん、ありがとう!



高橋茅香子氏訳『空高く』
チャンネ・リー原作
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2006.5.30 東京都新宿区 新潮社刊 2400+税

<目次>
空高く 5
謝辞 438
訳者あとがき 439



 イタリア系移民の父が興した造園業を息子にゆずり、軽飛行機三昧の日々を送る主人公。幼い二人の子を遺し、韓国系の妻が自殺めいた死に方をしてから四半世紀。地上半マイルから見下ろすと、すべての憂さが消えてしまうようだ。――だが、母を喪った子どもたちを育ててくれた長年の恋人は去り、老いて施設に暮らす父はいよいよ衰え、結婚を控えた娘は、重い病に襲われる。愛する者を半ば遠ざけるようにして生きてきた男に、決断のときが迫ってくる。全米期待のコリアン・アメリカン作家による、三代に亘るカンバセイション・ピース。

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 市販の本ですから詳しくは書きません。帯の文を紹介しました。的確に本著の内容を伝えています。「全米期待のコリアン・アメリカン作家」
チャンネ・リーには『Native Speaker』(未訳)と『A Gesture Life』(邦訳・最後の場所で)があり、今回は3冊目の長編小説だそうです。原題は『Aloft』。帯にもありますように「軽飛行機」の描写は共感できます。私は動力を使った飛行機で遊んだ経験はありませんけど、ハンググライダーやパラグライダーで遊んでいた時期があり、空中の感覚はかなり近いと思いました。もっとも、壁に囲まれた航空機と身を空中にさらすフライトでは決定的な違いはありますが…。

 前訳
『最後の場所で』ででも感じたことですが、40歳にもならない男がなぜ60歳・70歳の男を描けるのか、その回答は「訳者あとがき」にありました。リーの親友の彼は家族の歴史を一身に背負っていて、それを内在しているのだと思う≠ニいう言葉を紹介しています。これは非常に分かりやすい言葉ですが、本当にそんなことが出来るのかと疑問に思いました。しかし事実はそれを証明しています。今回の主人公ジェリー・バトルは59歳という設定で、私は現在57歳。60歳を前にした中年の男の心理には納得できるものがありました。すごい作家だと改めて感じます。前訳の紹介にはハイパーリンクを張っておきました。前訳ともども現代アメリカの文学を名翻訳で味わっていただければと思います。お薦めします。



安永圭子氏詩集
『七月六日の赤い空』
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2006.6.20 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 2000+税

<目次>
 T
空はいつも傾斜していた 8
手を振る 12
ネジと歌声 16
逃げおくれて 20
お堂と共に燃えた人たち 24
走馬灯 28
足の裏がゆがんだ 32
忘れてはいけない 36
歩け歩け東へ西へ 40
缶詰の山 44
学徒出陣した男 48
カッパ頭の虱
(しらみ)退治 52
庭は野菜畑 56
わたしは十二歳で鶏を捌
(さば)いてたべた 60
蛍 64
 U
ないものを売る古道具屋 68
水仙――子どもの瞳 72
川岸を歩いて 76
命の授業 80
笹舟 82
川 86
埋めこまれた種子 90
祈り 94
 あとがき 98



 忘れてはいけない

 滅茶苦茶ノ爛レタ顔ノ
 ムクンダ唇カラ洩レテ来タ声ハ
 「助ケテ下サイ」
 靜カナ言葉 コレガ人間ナノデス
 人間ノ顔ナノデス
  (広島原爆記念館掲示パネル・原民喜『夏の花』より)

あの日から五十年以上の歳月が過ぎた
広島の原爆記念館でその詩を
思わず声を出して読みあげた瞬間
小さなパネルの中から
血濡れた手がぬっと突き出て来た
うめき声も聞こえて来る

忘れたい
思い出したくない
日常は時の地底に鎮まっていて
起きあがってくることはないのに
悪夢のような光景がまざまざと呼び醒まされた
鉄の雨で破壊され火にあぶられた
恐ろしい顔 火中からの断末魔の悲鳴

十歳だった
郷里甲府で
空襲の真っ只中を線路づたいに逃げた
棒切れのような黒いかたまりに躓
(つまず)
老婆が焼け爛
(ただ)れた顔をあげ
どろどろの手をのばして
モンペの足首をつかんだ
「助けて! 水を 水を!」
その手を声を
払い捨て父の後を追って走った

昭和二十年七月六日
B29爆撃機一三九機甲府盆地空襲
投下焼夷弾約九七〇トン
焼き殺された非戦闘市民一、一二七人

 古希を過ぎたという著者の2冊目の詩集のようです。詩集タイトルの「
七月六日の赤い空」という作品はありません。最もタイトルに近い作品として上記を紹介してみました。「十歳」で「郷里甲府で」体験した「空襲」を描いています。本詩集の他の作品もほとんどがそれを主題としていました。空襲の恐怖とともに「老婆」の「その手を声を/払い捨て」ざるを得なかった子ども心境がよく伝わってきます。最終連の「焼き殺された非戦闘市民一、一二七人」という淡々とした表現にも胸を揺さぶられるものがありました。いつまでも後世に遺しておきたい詩集です。



詩誌『飛天』26号
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2006.7.31 東京都調布市
田上悦子氏方・飛天詩社発行 500円

<目次>
風に誘われて/やえざくら 工藤富貴子 2
屋敷跡で/六月 中井ひさ子 4
雷雨/講演会へ 富永たか子 6
おやつの時間 田上悦子 8
琵琶湖の十一面観音/闇に彩(いろ)を 安永圭子 10
海は碧いか/呼んで下さい 深雪陽紅 12
ふきのとう/兆/おやつ 西山悦子 14
さあ起きて/闇 安川登紀子 16
天租の会話 磯村英樹 18
天衣無縫 20
あとがきと同人報告 22
住所録 表3
表紙/デザイン 安永圭子



 呼んで下さい/深雪陽紅

ひとり暮しも二十余年
金婚式間近い仲間たちは言う
「あなたは気楽で幸せ者よ」と
そうです
夜更けに
誰もいない部屋に帰ります.
朝出たときのまま
時間が止っている部屋です
  誰か いませんか
  誰か 呼んで下さい
  私を 呼んで下さい

声楽家の友人から
チャリティコンサート案内が届いています
チケット代三千円はすべて
・・・
NGOへ寄付とのこと
・・・・
ユニセフからも募金依頼が来ています
一口三千円で四六七人のワクチンが
子どもたちの命が救われるのです と
  呼んでいます
  私を 呼んでいるのです
貧者の一灯どちらに投じよう 迷います

本当に呼んでいるのは
誰でしょう
誰かがきっと呼んでくれる と
私だけを
必要としてくれる誰かが と
今夜も えんぴつ握って
耳をすましているのです

 「ひとり暮し」がずいぶん遠くなって忘れていましたが「朝出たときのまま/時間が止っている部屋」を思い出しました。「誰か 呼んで下さい」という感覚を「本当に呼んでいるのは/誰でしょう」へ結びつけたところにこの詩の魅力を感じます。「今夜も えんぴつ握って/耳をすましているのです」から、これは詩神と考えてよいでしょう。「NGO」から「ユニセフからも」呼ばれるのは「ひとり暮し」とは関係ないことですけど、ミューズは関係しているのかもしれません。人間はいずれ一人になりますがその神だけには見放されたくないものだと思った作品です。




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