きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.6.30 東京・新宿



2006.8.30(水)

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 今年暮から来年初春に出版する予定の第6詩集のまとめに入りました。1999年の詩集『特別な朝』以来ですから、実に7年のブランクです。あちこちに書き散らしたこの7年間の詩を集めて驚いたのですが、22編ほどしかありませんでした。年平均3編という寡作です。エッセイはちょこちょこ書いてましたのでもう少し多いような気がしていましたが、意外と少ないものですね。それでも書けと言ってくれるところがあったから書けたわけで、そうでなければゼロだったでしょう。怠け者の私を叱咤激励してくださった皆さまに感謝します。
 そんなわけでほとんど全てを載せざるを得ず、19編ほどの詩集になりそうです。すぐ読める量ですから、読者泣かせにはならないでしょう(^^; 今まで詩集をいただいた方にはお礼のつもりで贈呈します。大きな書店では市販もされるようですので、お手元に届かないという方は書店で立ち読みしてください。そのまま読み捨てるも良し、お気に入ったらお求めくださればうれしいです。さて、資金調達しなきゃ(^^;



詩と評論・隔月刊『漉林』133号
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2006.10.1 川崎市川崎区
漉林書房・田川紀久雄氏発行 800円+税

<目次>
詩作品
白樺の林で…岩崎守秀 4
フィジカルで原質的な嵌入…成見歳広 7
蛍…池山吉彬 10
雨の速達便…遠丸 立 12
祈り…田川紀久雄 14
影のサーカス――5…坂井信夫 16
関係…成見歳広 18
日日の名残るに/母よ…貞松瑩子 20
短歌
黒紫…保坂成夫 22
小説
描のいる風景(1)…坂井のぶこ 34
エッセイ
「倉田良成芸術論集」を読んで…木村和史 28
岩崎守秀詩集「水のゆくへ」を読んで…田川紀久雄 30
島村洋二郎の痕跡…坂井信夫 34
何が詩なのか…由川紀久雄 44
後記 47



 雨の速達便/遠丸 立

雨に変わる
宇宙発 気象波変動速達便
晴れの日 曇りの日
空気の膚接は どこかよそよそしい
わが皮膚  <接触> 感 有りや
境界線は漠たるもの
接触? その感無し?

降りしきる
地を打つ雨 散弾
眺める
目の刺し傷が痛いほど
.<濡れる> 身(からだ)
からだからしずく ポトリ

天から雨が落ちてくる
戸をたたく
ホトホトホトホトホト
宇宙の芯が花ひらいた
花が声をかけてきた
雨琴が語りはじめた
宇宙の芯が 天弦が 琴線が ひびきわたる
雨 滴る 飛び散る飛沫
(しぶき)
宇宙の素
(もと) 最初で最後の物質
存在の汁
燃えるいのちの上澄み
ヒタヒタヒタヒタ 降りつづく雨
ヒタヒタヒタヒタ 雨の咳やき
宇宙の腹鳴 腸
(はらわた)弦楽器
天の腸 キラリ 夜空に光る 躍る くねる
あとを引く余韻
雨が降る夜
(よ) なぜか心にぎやか

 おもしろいタイトルだと思います。作品の主題も「雨」ですが、この捉え方も自由で、「宇宙の芯」から「落ちてくる」ものであり「最初で最後の物質」であったりします。「雨の咳やき」は「宇宙の腹鳴 腸弦楽器」というのもおもしろいですね。「腹鳴」は造語かと思ったら、ちゃんと辞書にありました。ふくめい≠ワたははらなり≠ニ読み、字の如く腹が鳴ることだそうです。勉強になりました。最終連の「なぜか心にぎやか」も佳いと思います。作品全体を明るくしてくれました。今夜は雨。雨を眺めながら鑑賞しています。



月刊『漉林通信』12号
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2006.9.10 川崎市川崎区
漉林編集室・田川紀久雄氏発行 200円

<目次>
川崎から小さな文化運動/田川紀久雄 1
荒川日記(4)/保坂成夫 1
広告 岩崎守秀詩集『水のゆくえ』2
広告 渋谷聡詩集『ひとりぽっちのおとうさん』2



かたちあるものに焦がれ
かたちあるものを畏れ
いくつもの橋を越えて
たえだえに
身を削り
落ちのびていく病葉
失われた季節のゆくえに沿うて
風は斜めに吹いている
僕の心はいつも揺れていて
目の前の風景は大きな目眩のなかで
かなり激しく歪んで見える

 「岩崎守秀詩集『水のゆくえ』」として載せられていた作品です。おそらくタイトルポエムでしょう。「水のゆくえ」として読んでみるとよく判ります。水は「かたちあるものに焦がれ/かたちあるものを畏れ」ているのだと捉えてみました。「僕」は水のことではなく作中人物かもしれません。これで1編の詩なのか抜粋なのかは判りませんが、完結していますのでおそらく1編の詩でしょう。そんな勝手な想像力を働かせながら楽しみました。



坂本孝一氏詩集
『烏の玉を繋いで』
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2006.7.30 北海道釧路市
緑鯨社刊 2000円

<目次>
超えていくもの 6  鶏の村 10
土器 14       族の痛み 18
何番目かの星に 22  ふなつきば 26
如月の祝日 30    さすらう流域 34
わたしの浅瀬 38   暑中見舞い 42
真っ赤な國 44    水炊き 48
公園にはみだらがいっぱい 52
駆くる舟うた 56   冬の夕空 58
闇に声を置くものたち 62
赤の繋がり 66    船虫 70
寒い国 74      あかいうみ 78
砂耳をこえるには 82 鳥よおもさを眠れ 86
あわ立つ磯辺 90   眠りなき果て 94
まつり 98
あとがき 104



 族の痛み

なにかが飛びたったあとのわたしの影は
軽くして地面をさきばしって
とまれない
闇のなかへとつきすすみ仕舞い込んでいる
懐かしい雑草の種子を開く

このあいだは羊水の魚で
いま烏の病にかかっている

生き茂った
よもぎ原を漕ぎ繋いできたものの
苦みも在るかもしれない
嫌うむらさきの煙の翼も

飛びたい姿勢が咎だとすれば
なん世紀も前のことだ
魚の烏の形容を泳ぎわたり
貌は何処へでもゆく

烏に劣らない早さで
地を蹴りあげて
日の一枚いちまい削ぎ落とし
肩先をばたつかせ
滑空しているあれは
寸前のわたしだ

突然やさしく
殻になっていくのだから
黒が似合っていないか

烏の玉を繋いで
内在する
わたしをなんみりか
積みあげていくだけなのだが

 詩集タイトルの「烏の玉を繋いで」という作品はありません。紹介した「族の痛み」の最終連にその言葉があり、そこから採ったのだろうと思います。粋なタイトルの付け方だなと思います。
 詩集全体とこの作品についてと思われることが「あとがき」にありましたので、これも紹介してみます。
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 烏のごとく簇簇に暮らすものとして、昨日の暗示は何であったのか。一昨日の事実が和らぐのはどうか。秘かに隠れもつ本性は不気味だ。どこの空の下に求める糧が見えてくるのか。霧中としかいいようがない。その連続。見えてくるものがない。
 されど彼の雑食の王。逞しさからか。西洋には紋章として生き延びて胸をはっているものもいると聞く。奥が深い。風土が認めたことだ。近くで出会う烏のときとして、つばさが紫に輝くときがある。いつからのものだろう。海洋で別れたいつか、お互い迷っていまがあるのだ。住処の生気の惑星、いくさは一日目からか、ひかる眼の度数をゆるめ、鬨をおいて原子のように溶けあい、昇りくる太陽を見る。朝餉の匂いがただよう。
 それにしてもである、おしなべて付き合いは長く、血を見せあうとはっきりするだろう。遠く、分岐の血が黙っていないはずだ。浅ましい旅のこと。十分に粗野な行動に確かさがある。これは繋いできたもの同士。すこしは、貸し借りがのこっているのではないか。
 族としての烏の骨は軽い。軽くなる日々として戸惑いのあるうちに、「ぎょく」を捧げておくべきかもしれない。
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 私が北海道にいたのはもう半世紀近く前で、しかもたったの1年だけですから記憶も定かではありませんが、「烏」は内地とは確かに違うように思います。大陸的な勁さがあったのかもしれません。そんな「烏」と「わたし」を対比させた、あるいは同化させた作品と読み取りました。特に第5連の「肩先をばたつかせ/滑空しているあれは/寸前のわたしだ」というフレーズにそれを感じます。最終連の「なんみりか/積みあげていくだけ」という詩語とは裏腹に「奥が深い」スケールの大きな作品だとも感じています。




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