きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.10.22 山梨県立美術館 |
2006.11.4(土)
仙台文学館で開かれた日本現代詩人会・宮城県詩人会共催の「現代詩ゼミナール<東日本>」に行ってきました。講演は第2回土門拳賞受賞の写真家で東北芸術工科大学教授の内藤正敏氏による「宮澤賢治と佐々木喜善」。佐々木喜善という人を初めて知ったのですが、柳田国男に「遠野物語」の原話を語った人物として知られているそうです。さらに宮澤賢治とはエスペラント語を通じて強く結ばれていたとのこと。エスペラント語についても詳しく解説がありました。当日のレジメを紹介します。
--------------------
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」は、岩手軽便鉄道がイメージとなって生れたといわれている。
岩手軽便鉄道は、国鉄東北線の花巻と釜石製鉄所がある釜石を結ぶ鉄道として造られたが、この沿線から宮沢賢治と佐々木喜善という東北の近代を代表する同時代の知識人が生れている。
佐々木喜善は、柳田国男に「遠野物語」の原話を語った人物として知られているが、宮沢賢治とエスペラント語を通して強く結ばれていた。エスペラント語は、ロシア領ポーランドのユダヤ人医師ザメンホフによって、弱小国の人間でも大国の人間と対等に話すことができる国際語として創りだされ、国際主義、絶対平和主義を唱えていた。
佐々木善善がエスペラントの重要性を教えられたのは、柳田国男からだったが、賢治は佐々木の影響で、エスペラントの理想主義的な思想に共鳴していた。賢治が大正十五年に上京した最大の目的もエスペラントを学ぶためであった。
いま宮沢賢治と佐々木喜善の交流を通してその文学と民俗学の背後に隠された思想について考えてみたい。
--------------------
宮澤賢治とエスペラントの関係は、研究者にとっては周知のことかもしれませんが、私は面白く拝聴しました。ただ、エスペラントにはちょっと苦い思い出が…。昔、アマチュア無線をやっていたころ、海外との交信はほとんどが英語でした。その中でエスペラント語で会話するグループがいて、彼らはこちらが英語で話しかけても決して応答してくれませんでした。嫌な奴らだなと憤ったことがあります。
しかし、今回「弱小国の人間でも大国の人間と対等に話すことができる国際語」という言葉に出会って、彼らがなぜ応答しなかったかという疑問が解けたように思います。「大国の人間」が遣う最たる言語、英語には強い抵抗感があったのでしょうね。日本語で話しかければよかったかな(^^;
写真は講演ではありませんが会場の雰囲気です。80名ほどが集まったそうです。その後は仙台ガーデンパレスというホテルに会場を移して懇親会。宮城県を始め東北の多くの詩人と交流することが出来ました。それというのも、部外者の私が挨拶をさせられたからだと思います。日本現代詩人会理事長の差し金でした。会員でもない私がなんで?と思いましたけど、きっと理事長の温情だったのでしょう。お礼申し上げます。
二次会は近くの居酒屋へ。その後三次会へと流れて、私が午前1時になったことに気付いて声を掛けて、それで解散となりましたが、放っておいたら朝まで呑んでいだろうなぁ。東北の人はさすがに酒に強いワ。
それにしても良い夜でした。会を運営するという責任がなく、気楽だったことも原因でしょうけど、最後までお付き合いさせていただいた皆さんのお人柄でしょうね。ありがとうございました!
○青柳晶子氏詩集『空のライオン』 |
2006.11.5 宮崎県宮崎市 本多企画刊 2000円+税 |
<目次>
空のライオン 10 緑(ビリジャン) 14
初秋 18 リコリス 22
地雷 26 錆 30
飛ベ 54 三輪車 38
チェリオ 42 一粒の豆 46
居場所 50 贈り物 54
波 58 バラの位置 62
未来へ 66 詩を求めて 70
八月 74 戦場ケ原から 76
なびく髪 80 木犀 84
月夜 88 十三夜 92
*
あとがき 94 カバー絵*ほんだひさし
空のライオン
暮れなずむ空から ふいに獣の声がした
見上げれば たてがみを靡かせた巨大なライオンの黒い
横顔 今まさに跳びかからんとする勢いで 東の空を睨
んでいる わたしはたじろいで 大きく目を開いて見な
おす それは見慣れた大欅の黒いシルエット ある方向
から眺めた時にだけ 正確なライオンの横顔になって
空から唸り声をあげたのだった
自然が仕組んだ隠し絵 それともいつか強く逞しい精
神を手に入れてどこまでも駆けたい≠サんな想いがひそ
かに育っていて 黄昏の空に幻のライオンを出現させた
のか
たてがみの中から たくさんの椋鳥が湧いて いっせい
に飛び去った
日没の記憶ばかりが あざやかだ
闇に脅え 暗い夢うつつのはざまから 光の方角へ行
きなさい≠ニ そっと肩を押して命じたもの それは父
の後姿のようにも見えたが悄然と闇の中へと消えていく
墜落するシーンばかり夢にみるわたし
翔べるか?
吼えられるか?
大風が夜どおし荒れて 大欅は黄葉した葉を一枚残らず
もぎとられた 傷だらけの葉は あたりいちめんに降り
つもって 夜になるまえの ほんのひととき この地上
がたてがみの色に輝いた
ほぼ10年ぶりの第4詩集だそうです。紹介したのはタイトルポエムでもあり巻頭詩でもある作品です。「黄昏の空に」「出現」した「幻のライオン」に重ねた「翔べるか?/吼えられるか?」という「わたし」の思いがよく伝わってきました。最終連の「夜になるまえの ほんのひととき この地上/がたてがみの色に輝いた」という微妙な色彩感覚も佳いですね。
本詩集の中の「飛ベ」は、すでに拙HPで紹介していました。ハイパーリンクを張っておきましたので合わせてご鑑賞いただければと思います。
○個人詩誌『Quake』22号 |
2006.11.15 川崎市麻生区 奥野祐子氏発行 非売品 |
<目次>
化身 一 しみ 五
醜 八 永遠の一秒 十三
永遠の一秒
それは汚れた水たまりかもしれない
昨夜の大雨で 道の真ん中に偶然に出来た
すぐに干からびて消えてしまうような
汚れた はかない 水たまりかもしれない
だけど
風がやみ 空が静止し
世界がハッと息を止めると
その水面は 鏡のように映すのだ
灼熱の火の玉と化した太陽を
目の覚めるような青空を
血のように紅い花びらを
空をよぎる鮮やかな鳥の影を
それは汚れた水たまりかもしれない
だけど その一瞬
この世界のすべてが小さな水面に集約されて
踏みにじられた泥だらけの道の真ん中に
確かに たち現れるのだ
濁った水面のその只中で
世界は光り輝いて
静かに止まる
過去と現在と未来とが
突然 手をとりあったまま 絶句してしまったような
凄まじい静けさの中
それは 汚れた水たまりかもしれない
半日たてば 消え行くような
だけど 今 そこにほら
永遠の一秒が映る
世界のすべてが
そこにある
「汚れた はかない 水たまり」が「一瞬」「鏡のよう」になる刻を捉えた秀作だと思います。「世界がハッと息を止める」、「凄まじい静けさ」などの詩語も佳いですね。特に後者は矛盾した言葉、あるいは反語とも採れますが、面白い効果を出しています。その前の「過去と現在と未来とが/突然 手をとりあったまま 絶句してしまったような」というフレーズも面白いと思いました。奥野さんの言語感覚がいかんなく発揮された作品と云えるでしょう。
○詩誌『波』17号 |
2006.11.15 埼玉県志木市 水島美津江氏発行 非売品 |
<目次> 題字 水島美津江
魂呑み/星 善博 2 約束の時/葵生
玲 5
眠れぬままに/小野恵美子 8 雨の夜/秋山公哉 10
独竹/神山暁美 12 夜別れ/佐々木洋一 14
夜の記憶 −星の産卵−/小川英晴 16 非在の夜/水島美津江 18
☆☆☆☆
「それぞれの美学シリーズ」16 =二つの火=/高貝弘也 21
うれしい夜 22
村山精二未来の会 23
定年退職 −実業の三十八年、面白くもあり嫌になっちゃったり/村山精二 24
☆☆☆☆
訪問者/山田隆昭 28 ミッドナイト・エクスプレス/綾部健二 30
人魚記/秋元 炯 32 除夜の犬/豊岡史朗 36
夜気/長谷川忍 38 オレンジ・シャーベット/大倉 文 40
たどり着かない夜/中井ひさ子 42 ひとしく降りてくる闇/中田紀子 44
2006の夜/村山精二 46
後記 ダーティ・ウーマン −こころの行方−/美津江 48
夜の記憶 −星の産卵−/小川英晴
深夜
海へ落下する
無数の天体
幾億光年を経て
ようやくはじまる
星の産卵
海では
銀河が再現され
目に見えぬ小さな渦が
やがて目にもとまらぬ速さで
巨大な魚群をともなって
陸へと迫る
到来するもの
消去するもの
そうしてひそかに懐胎するもの
いま 海は
握り潰された銀紙の
きらめきに似せて
太古からの刺繍布を織りなしながら
無数の星の抜け殻を
いちめんの白砂にかえる
私も書かせてもらっている水島美津江さんの個人誌です。今号の課題は「夜」。詩人に夜はつきもので、切っても切れない関係にあると思っていますけど、それにしても各人各様だなと改めて感じました。特にそれを感じたのが紹介した作品です。「星の産卵」とはうまいことを言ったものだと感心してしまいましたね。最終連などは作者の美的センスが窺えて、さすがと思った次第です。
私は今号でちょっと長い駄文を書かせていただきました。せっかく退職したのだから今のうちに何か書いておけ、という水島さんの指示で、思いがけず自分を見つめなおすきっかけをいただきました。ありがとうございました。機会ある方はお読みいただければと思います。
(11月の部屋へ戻る)