きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.11.04 仙台市内 |
2006.12.2(土)
来週土曜日に開催される日本詩人クラブ「国際交流の集い」の実行委員会が、会場となる池袋・サンシャイン60で開かれました。15名ほどが集まって会場確認、役割分担の確認を行いました。私の役割は会場への案内と連絡係、写真班と盛り沢山です。会場案内は当初3名でしたが、現地を見ると足りないことが判り、急遽増員してもらいました。これなどは、やはり現地に行かないと判らないことですね。
委員会は3時間ほどで終わって、珍しく陽の高いうちに帰路に着きました。しかし、途中の電車で訃報が…。妹の嫁ぎ先のお母さん、つまりお姑さんが亡くなったというものです。2カ月ほど入院していましたから、あるいは年内にも、と覚悟していのが現実になりました。
帰宅して葬儀場に赴き、納棺されたばかりのおばあさんと対面。あまり苦しまなかったようで、きれいなお顔でした。しばらく前に妹の家でホームコンサートをやったとき、私とおばあさんだけで日本酒を酌み交わし、二人で盛り上がったことを思い出してしまいました。享年84歳。ご冥福をお祈りいたします。
○清岳こう氏詩集 『ウェディングベルを鳴らせ』 |
2006.11.10 仙台市青葉区 白風社刊 2500円 |
<目次>
Cherry blossom さくら詩篇
昔むかし 10 そのまた 昔 14
竹をあむ 18 ある所に 20
紙をすく 24 ひとりのお婆さんが 26
一夜にして分限者に 28 あけび野ぶどう 32
龍宮城の乙姫が夕陽にもまれて泣く声は 34 白い尻尾の狐が 38
ある朝のこと 40 敗者の米 44
つづら折に 46
Shamrock シャムロック詩篇
むかし昔 50 そのまた むかし 54
刺繍をする 58 ある処に 60
アランセーターを編む 64 一人のおばあさんが 66
一夜にして郷紳に 68 野いちご野ばら 72
海底宮殿の若者が波間をただよい呼ぶ声は 74 赤いチョッキの妖精が 78
ある夜のこと 80 貧者のパン 84
ジグザグに 86
Wedding Bells ウェディングベル詩篇
まずは 一杯 90 乾杯 92
祭 94 戦 96
ウェディングベルを鳴らせ−筑前琵琶とアイリッシュハープのために− 98
Postscript あとがき
装幀・デザイン 龍秀美
ウェディングベルを鳴らせ
−筑前琵琶とアイリッシュハープのために−
Japonica Larch
都大路の闇の底を駆けぬける
Japonica Maple
生きとし生けるものすべからく鬼となり
Camellia Japonica
自椿ひとつ 波のまにまにながされて
Morning Glory Japonica
朝日の姫の 露に先立つはなだ色
Primula Japonica
鎧からもれてこぼれる呉紅の
Japonica Umbrella Pine
丸窓よぎる雲ひとつ
Japonica Cedar
わび住まいにも霧
Mamboo Japonica
雪ふり雪まう夜にとざされ
Anemone Japonica
苔むす谷間に灯をともし
Snow Ball Tree Japonica
せめても行く春を
風のあばら骨に住まいする武士女人の物語
風のむこう脛に息づく生者と死者の物語
どんな手だてで
はるかな波を越えたものやら
冷涼な季節のめぐりめぐりにも
根をはり繁りあがり
そして 今日
東のはてに生まれ育った耳たぶを
やわらかに噛む竪琴
娘よ
蜂蜜色の肌をもつ杏の瞳をもつ
私の娘よ
手のひとさし ひるがえし
足のひとふみ やわらかに
歌えよ唱え 廻れよ回れ
腰もあせばむほどに
黒髪をとうとうたらりとゆらめかせ
この世の夜が明けるまで
宿命の頬のこぶが取れるまで
鬼達と肩を組め
燃えさかる火を囲め
しの笛は鹿と駆けだし
大太鼓は狼とほえる
草笛はのっぺらぼうをうっとりとさせ
小太鼓は山姥と跳びはねる
Irish Plum
じゃが芋の花蔭にも精霊がひしめき
Irish Stew
煮えろよ煮えろ幸も不幸もかきまぜて
Irish Tweed
機織の前にも白波黒雲たちうねり
Irish Coffee
天使にも一杯のウイスキー
Irish Draught House
百敗の民なんぞのうわさ話は蹴っとばす
Irish Pennant
ロープのきれっぱしでもロープはロープ
Irish Turkey
命綱いっぽんが深井戸の牢獄
Irish Setter
夢まぼろしと手をくんで
Irish Wolf Hound
血には血を骨には骨を
Irish Elk
氷河期に絶滅したとは誰にもいわせない
風のうなじでたたえる吟遊詩人の英雄物語
風のふくらはぎでかきならす弾唱詩人の王の物語
演奏を禁じられても
ハープ野郎腰抜けとののしられても
シャムロックの緑が大地を這い大地に広がるかぎり
そして 今日
西のはてに生まれ育った巻き毛に
降りそそぐ米の花
息子よ
湖の瞳をもつ干草かおる額をもつ
私の息子よ
かかとを鳴らし 声たからかに
唄えよ謡え 踊れよ躍れ
腰もあせばむほどに
赤い髪をしゃくしゃくと輝かせ
この世の夜が明けるまで
宿命の背中のこぶが取れるまで
妖精達と肩を組め
燃えさかる火を囲め
フィドルは北風の背中をなだめ
バウロンは満天の星と歌う
手風琴は鬼婆を呼ぶ
ティンホイッスルは英雄を誘いだす
娘さんとアイルランド人の男性が結婚することへの祝婚詩集です。ここでは詩集の最後に置かれたタイトルポエムを紹介してみました。最初にルビについてお断りしておきます。HTML形式ではルビが正確に再現できません。そのため、通常は( )に入れるのですが、この作品の場合、美観を損ねますので外してあります。原著では以下のようにルビが振られていました。
第2連第1行 武士=もののふ
第3連第3行 竪琴=アイリッシュハープ
第6連第1行 吟遊詩人=バード
第6連第2行 弾唱詩人=ポエルジ
最終連第1行 フィルド=アイリッシュバイオリン
最終連第2行 バウロン=アイリッシュタンバリン
最終連第3行 手風琴=アイリッシュアコーディオン
最終連第4行 ティンホイッスル=ブリキのたて笛
また第4連と最終連の2字下げ部分は、原著ではゴジック体です。ここではゴジック+太字で表現しましたが、ブラウザによっては表現し切れない場合がありますので申し添えておきます。
さて作品ですが、英文と日本文が交互に現れて、これはサブタイトルの「−筑前琵琶とアイリッシュハープのために−」とありますように、二つの楽器が奏でるような効果をもたらしていると思います。もちろんこれは楽器とともに二人の男女を表現しています。この構成は巧みです。
アイルランドは長くイギリスに苦しめられ、「百敗の民」などと蔑まされてきたようです。「演奏を禁じられても/ハープ野郎腰抜けとののしられても」というフレーズもそれを示していると思います。そのアイルランドにこれから新生活を営む二人への祝婚歌は、歴史と切り離されたものではないことを詠い、清岳こうという詩人の鋭い視線を感じさせるものです。お二人への良いプレゼントになった詩集だと思いました。
なお、本詩集中の「白い尻尾の狐が」はすでに拙HPで紹介していました。ハイパーリンクを張っておきましたので合わせてご鑑賞ください。
○『かわさき詩人会議通信』41号 |
2006.12.1 非売品 |
<目次>
詩作はときに、「誇張」があっていい/河津みのる
丸善/寺尾知紗
薔薇を切る/丸山緑子
風のうた/さがの真紀
君を愛(め)でる詩(うた)/アンコール・トム/斉藤 薫
夜明けの時計/山口洋子
水車/枕木一平
ある農民/小杉知也
丸善/寺尾知紗
七十一才で
万年筆を買った
ちょっと贅沢な万年筆
あと何年使えるかな
指にしっかり握れば
円やかなづっしりとした感触
丸善
思えば青春の
あこがれの本と高級文具の店
日本橋に通っては目の保養をしていた
以来何十年と遠ざかり
丸善は霞んでいった
思いがけず
川崎駅近くの商業ビルの一階に
丸善が開店した
向こうから来てくれたのだ
あこがれがどうやら間に合った
丸善で買った万年筆
白いノートの上
秋の陽にやわらかく輝いた
たしかに「丸善」は「あこがれの本と高級文具の店」ですね。その「丸善が開店した/向こうから来てくれたのだ」という喜びが伝わって来ます。そのあとの「あこがれがどうやら間に合った」というフレーズがとても佳いですね。「七十一才」という年齢だから書けた言葉だと思います。「白いノートの上」に「丸善で買った万年筆」を置いて、「秋の陽にやわらかく輝」くさまをいとおしんでいる作者の姿が浮かぶ作品です。
○詩誌『火皿』112号 |
2006.12.1 広島市安佐南区 福谷昭二氏方・火皿詩話会発行 500円 |
<目次>
■ 詩作品
・お年頃…松本賀久子 2 ・釣針…川本洋子 4
・ねずみ男…川本洋子 5 ・残月抄(3)…津田てるお 6
・秋のはじまり…野田祥史 8 ・お金という生きもの…大石良江 9
・樹林のなかの舞踏…福谷昭二 10 ・波…沢見礼子 12
・被爆者二世検診成績報告書…福島美香 14 ・田舎の愉しみは(山峡過疎村残録)…長津功三良 16
・桃色のストール…山本しのぶ 18 ・鳥…松井博文 20
・らら…加藤千穂子 22 ・ハ、ワレニ(スーに)…加藤千穂子 24
・竹の風…御庄博実 26
■ エッセイ
・新しいヒロシマの詩創造への期待(三)−長津功三良詩集『影たちの墓碑銘』−…福谷昭二 28
・長編叙事詩『リトルボーイ』の詩人高桐烈さん来広…長津功三良 31
■ 編集後記
■ 表紙画−〔幻〕作者=巻幡玲子(尾道市在住)
らら/加藤千穂子
ぼくはテロリスト。
台所にいますねん。晩ごはん作らな。テロリストいうて
も、腹も空けば、うんこもします。
スーパーでもやし買うて新聞ひろげ、もやしの根をとっ
てる。かいでる、まびいてる、もいでるがな。銃ぶっぱ
なす暇はなし。されど、もやし始末するたっぷりの時間。
そういえば死んだ爺さん、ニュースペーパーのことを「し
んぶんがみ」ゆうてはった。ワイは、日露の海戦で勲章
もろたんや。男はかたじけなくも、お国のために戦うも
んなんで。「ちりがみ」たらいうような、なよなよしたふ
やけた落し紙はあかん。あったらもんは、お女郎がなに
のあと、そそら拭きするもんや。しんぶんがみで拭かん
と、どないもこないも落ちつかん。おいどがモゾモゾす
るってな。昔の人は頑固や。阿呆らしもない。
ついでに無我の境地で、もやしの芽も除くわいな。もや
しの滓を新聞紙にくるんで、昨日の出来事といっしょに
ポイ。まとめて生ゴミや。
で、惚れ惚れするほど上品な姿のもやしに、ごくごく千
に切りましたピーマン、筍、さやいんげんをともに炒め
まして、ラーメン丼に山なり食すれば腹くちくなり、頭
んなかは遊体ぷかぷか。お国がなんぼのもんや。しょう
こともない。てふてふ。
ぼくはテロリスト。
たいそう晴れた日には畑に水まきします。土が干あがっ
て、野菜が不憫ですねん。テロリストいうたかて、たま
に悪さして野良仕事してみたい。ほんま、こう暑うては、
革命も世直しも甲子園もすったくれや。
前庭に打ち水して、行水使うて、縁側にはんくりかえっ
て、ひいやりええ気持ちです。流れる雲の哀れ、しおら
しゅう愛でて、こういうん幸せいうんやろか。
レタス、パセリ、夏大根、清浄なん食べたら悪血薄まる
かしらん。害ある青虫も空の青恋しがり、ごっつう緑の
糞ひってはる。目籠に盛った青物、ざっざっとゆすぎ洗
いして食ってみよか。空の味せえへん。青臭いばかり。
だいこのしっぽ、味もしゃしゃらもあらへん。食べとう
ない。
清廉、お断りですわ。夢のうなります。そろそろ生きる
なんて気鬱なこっちゃ、雪月花。悪夢鍋蓋、てふてふ。
てふてふがてふてふ飛びましてン
韃靼海峡を飛びましてン※
どこにもよらず飛びましてン
ぼくはテロリスト
きみに、こん棒を
ぼくに詩を
※韃靼海峡を飛びましてン
安西冬衛作品引用
なんとも面白い作品ですが、最後までタイトルの意味が判りませんでした。戦後のララ物資≠ニ関係があるのかとも思いましたけど、どうもそうではないようです。
それにしても「きみに、こん棒を/ぼくに詩を」と言う「テロリスト」は愛嬌があります。テロリストと規定しなくても人間の面白い一面を現しているように思います。「もやしの滓を新聞紙にくるんで、昨日の出来事といっしょにポイ。まとめて生ゴミや。」などの詩語は私の好きな表現で、楽しませてもらいました。
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