きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.11.04 仙台市内




2006.12.4(月)


 夕方から妹の嫁ぎ先のお姑さんのお通夜。キリスト教ですので前夜式と云うそうです。牧師に合わせて「主の祈り」「使徒信条」を唱え、賛美歌を歌い、仏式とは違った敬虔な気持になりました。同居している肉親で唯一参列できない、ニューヨークに留学中の姪からはEメールでの弔文が寄せられました。祖母を思う心情があふれた良い文章でした。
 明日は朝から葬送式。今夜はおばあさんを偲ぶ酒になりました。



大塚欽一氏詩集
『美しき弧線の下で』
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2006.11.15 風樹舎刊 非売品

<目次>
第一部‥石の賦――ペトロ・岐部の生涯
紺碧の海 6     光と影 8
離郷 12       嵐 16
孤蓬はるか 20    光に釘づけされて 24
無窮 28       帰還 32
嵐の中 36      成就 42
時を超えて 46    注釈にかえて 48
第二部‥転び伴天連の賦――クリストファン・フェレイラ
西坂 62       小暗き滄溟の底より 64
土牢の奥 68     有と無の 72
絶望の淵で 76    見せしめ 80
幽鬼 84       夜 88
追放 92       対決 96
死ぬもならず 102
.  道 106
蛍 110
.       絵踏 114
海 118
.       ある日 122
死 126
.       Quo Vadis? 132
伴天連と蝶 136
西坂の丘に上りてクリストファン・フェレイラを憶う



 対決

  「しかし天はやはり見ていたのだという考えが李陵を痛く打った。見ていないようでいて、やっぱり天は見
  ている。彼は粛然として恐れた。」                     (中島敦『李陵』)

歴史は時として大いなる皮肉をもたらす それをひとは運命
(モイライ)の悪戯と呼ぶ
地獄の淵を覗いて以来 肩に食い込む重荷を背負いながら茨の丘を六つ越え
熾烈な血なまぐさかった嵐も大団円を迎えつつあった
一見何もなかったような平穏な日々
(薄皮のようなかさぶたの下に柘榴のような傷を隠してはいたが)
わたしは五十九歳になっていた

ある朝 糊のきいたシーツをぴんと張った早春の紗
(うすぎぬ)のむこうから
ふいに誰かが干からびたはずの沼の泥をはげしくかき混ぜた
真っ赤に焼けた巨大な鉄のへらで
このはみみずくの不吉な鳴き声 メランプースの囁き声に
意識の下深く押さえこまれていたものが一気にかさぶたを突き破って噴き上がり
ふたたびばっくりと開いた柘榴の裂け目

畏れていたものがやってきたのだ 死装束の袖の下に爆薬をひそめて
かつて雹混じりの嵐のなかでプロメテウスたらんと祈り励ましあい
駱駝の精神でローマへ赴き そして死ぬために帰ってきたおとこ
小柄で柔和な物腰のなかに鷲の炎と獅子の信念をマグマのように隠し持って
それが遠く東北の水沢で捕えられ 江戸の白州で裁きを受けるという
カスイ神父――岐部ペイトロ――
これは罰か 神がわたしに下した

またも生き地獄の泥のなか 長崎から江戸までの長い道中
時に浮き上がってくる 澱のように沈んでいる虫食いだらけの朽ち葉
――ひょっとしてこの身の恥辱と哀しみをわずかでも理解してはくれまいか――
カスイ神父の柔和な横顔が浮かんでは はげしく首をふる
――そんなことはありえない――

蒸し暑い黴雨の合間の陽射しが照りつける白州に仕掛けられた発破は しかし
浮かびあがろうとする虫食いだらけの朽ち葉を木っ端微塵に吹き飛ばした
荒縄で後ろ手に縛られ 襤褸をまとったかれの
醜悪なほどに肉が落ち頬骨が飛び出した黒い容貌は しかし
神の恩寵を一身にあつめて 泰然自若としてひとを呑む気迫
神とも紛う眼光だけが炯炯と まさに一個のへラクレス
わたしの眼とかれの眼が一瞬交叉する
鋭く哀れみの矢が突き刺さる わたしのもっとも奥深いところに
――フェレイラ殿 今からでも遅くない 立ち返りなさい――

わたしを丸ごと呑み込む巨大なアナコンダの前で もう何もできなかった
恐怖に怯えるあわれな蛙のようにただ身を縮めるほか
だが 時の宗門改め井上筑後守の訊問は執拗に そしてわたしを促す
わたしに何が言えよう 何を言ったか覚えもない
(もっともそんな詮索が何になろう)
わたしは口篭もり吐き出した 汚泥からでるメタンの泡ばかりを だが
わたしの言葉を聞くやいなやカスイ神父は神と見紛う声でわたしを罵倒した

 「ああ忌むべき人よ イエズス会の恥よ どうしてわたしの前に立って こんなにも冒
 涜の言葉を吐く勇気があるのか! あなたは信仰を棄てて何年もの間世界の躓きとなり
 木と石の偶像を拝むのを恥と思わないのか あなたが日本へ来たのはわが会に恥をかけ
 るためであったか?」

何も聞えない 何も見えない
ただ獅子の咆哮だけがわたしの蒼ざめた脳天に響き渡った 神の審判のように
心臓が高鳴り 手がぶるぶると震え 眼は虚空をさ迷い 息ができない
かろうじて倒れなかったのはわずかに残っていた自尊心のため
空気が必要だ 新鮮な それにしてもあまりにひどい吐き気
もうどうでもよかった ただそこから逃れさえすれば
死人のように蒼ざめて立ち上がると わたしはひどい酔っ払いの足取りで よろよろと
地獄の番人どもの叱責の声にまじって 獅子の鋭い爪がわたしの背中に食いこむ
まんじりともしなかった その夜
すさまじい羨望と嫉妬の焔 タールのように滴る狂気
自虐の劇薬が体という体を駆け巡り 狂気の青虫たちが呻きのた打ち回り髪を掻き毟る
カスイ神父の土気色をした顔に勝ち誇った獅子の表情が浮かんでは消える
薮にらみの眼をした醜いインウィディアに憑かれて どす黒い毒液を垂らすアグラウロス
のように 石像となったまま 闇を見つめつづける……
これが死のダンスを最後まで踊りきれなかったおとこの代償 あまりに大きな

  「わが血は嫉妬のために湧きたり われ若し人の幸福を見たらんには 汝はわれの憎悪の色に被わるるを見
  たりしなるべし」(ダンテ『神曲』「煉獄篇第十四歌」)

悟った この時はじめてはっきりと 黒いインクが和紙に染み込むように
おのれがすべてのキリスト者から疎外されたのを
どんなに狂おしい苦悩の錘を首にぶら下げて生きていようが
ごくわずかにせよ ひび割れた希望の卵を抱こうが
すべてが完膚なきまでに打ち砕かれたことを
忘恩の罪ゆえに火の車に縛りつけられて永遠の責苦を受けるイクシオーンのように
地獄をひきずって苦悶のなかを生きるべく運命づけられたことを

  まもなく岐部ペイトロは壮絶な殉教を果たした だがポロ神父とマルチノ式見神父は転んだ そこにフェレ
  イラの影がどこまで関与したかはわからない 次の年には奥羽の大殉教が起こり さらに最後の日本人神父
  である小西マンショがはなばなしく殉教した だが世はもはや切支丹時代に終りを告げようとしていた 訴
  人が続出し 改宗するものが後を絶たなかった

  フェレイラはなぜ発狂しなかった?
  (いや 生きつづけたこと自体が狂気)

 17世紀日本のキリシタン弾圧を扱った壮絶な詩集です。第1部は穴吊りの刑を受けながらも最後まで信仰を捨てなかった日本人ペトロ・岐部神父の章。第2部は穴吊りの刑の途中で転び、以後は幕府の犬となっていくスペイン人フェレイラ神父の章。紹介したのは第2部の件の2神父が「対決」する場面です。二人の、特にフェレイラ神父の心理がよく描けている詩篇だと思います。
 キリシタン弾圧を扱った文学作品としては遠藤周作の『沈黙』などが有名です。これは私も読んでいて、相当ショックを受けたものですが、詩作品としての本詩集は別の意味でのショックを感じています。散文ではなく行間で読ませ、言葉も選りすぐられた詩ですから当然と云えば当然なんでしょうが、詩言語の勁さを改めて感じました。キリスト教者はもちろん、私のように無信仰者も一度は読んでおきたい詩集だと思いました。



あらかみさんぞう氏詩集『暗夜飛行』
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2006.10.24 栃木県宇都宮市 詩風社刊 3000円

<目次>
T
闇の底から 8    真夜中のクリスマス 12
暗夜飛行 20     たまご 28
オワリノハジメ 32  シヌマデイキル 34
破産の人 38     ノック 40
走リナガラ 42
U
古賀志山原人奇譚 52 花と君 66
孵化 68       日月灯明 70
キャッチボール 72  にらめっこ 76
いのちの仕事は 80  あなたはあなたではない 82
V
鬼のいる風景 92   日曜日の庭から 112
春 このとき 114
.  恋歌 118
君へ 122
.      プレゼンテーション 126
問い 147
『暗夜飛行』によせて 岡田芳郎 150
 あとがき 154



 暗夜飛行

おもいきって
とびたちなさい
やみよのがけから

このさきに
みちはない
ここからはとぶしかない

だいじょぅぶ とぼうとおもえばとべるよ
むかしむかしじゆうにそらをとんでいたのだから
なにもしんぱいなんていらないよ
つばさがあるのだから

わすれてしまったの
めをつむればうかぶでしょう そらをとぶゆめ じゆうにとんでいるゆめ
なにもおそれずだれにもとらわれず しあわせだったでしょう
そしてあなたがそらをとぶためにうまれてきたことをおもいだすでしょう

だれもとんでいない?
だからひとりだけめだったりしないように
だれにもうしろゆびさされることのないように
あんぜんちたいのくさむらにみんなといっしょにいきをひそめていようというの

じぶんでとぶこともおよぐこともせず
せかいのふしぎをいのちをかけてたのしむこともせず
いきることをまたさきおくりしようというの
それであなたのはらのむしがおさまるというの

なんのためにとぶ?
そんなことはわからない
わからないけどとびたいのでしょう わからないからとぶのでしょう

それでもこわい?
こわくてもとびたいのでしょう
こわいからこそ とぶのでしょう

これまであなたはあらゆるいいわけをよういしてきた
ゆめよりげんじつとじぶんにいいきかせ こいびとができればこいびと
おかねがなければおかねをいいわけにひたすらとぶことからにげてきた
そのくせあきらめきれずにむりょくかんにとらわれてきた

なぜあなたはおそれながらもそれをあきらめきれないのだとおもう?
それがいきることだからでしょう
それはあなただけのねがいじゃないからでしょう
あなたのよろこびをよろこびとするみえないそんざいがあるからでしょう

もういきることからにげてはだめ
じぶんをごまかしてはだめ
こわいならかくさずにこわいよ!といってしまいなさい
それでもとびたいんだ!とちからいっぱいさけびなさい

せおっているおもにをおろしなさい
かなしみおえていないかなしみ できなかったことへのおそれ
じぶんをゆるせなかつたこうかい まだむねをいきぐるしくしているぜつぼう
あなたのくらやみでいきづいているぼうれいたちをときはなちなさい

よぞらにつきがのぼるまで たきびをして
こころにとじこめていたものを もやしてしまいなさい
ひとひらひとひらひのはなにして ときはなってしまいなさい
ひとひらひとひらひのはなにして

それから とびたちなさい
きがのびるようにはながひらくように
そしてすだちをむかえるハヤブサのように
からだにかいてあるとびかたのてほんにまかせ

かなしみはよろこびのためにあり
えいえんのじかんはいまこのときのためにひらかれ
あなたのまま よわいあなたのまま
かくされているいきるちからいきもののちからにみをまかせ

なぜとぶのかとばねばならないのかなどととうこともなく
とべないときはとべないじぶんをけんめいにいきるために
さあ かぜにのってくらやみのむこうへ
よあけまえのそらへ

とびたちなさい
いのちかけて
とびたちなさい

 第1詩集のようです。ご出版おめでとうございます。完全な手作り詩集のようで、大判の、手に馴染むあたたかい造りの本です。
 紹介した作品はタイトルポエムです。高みに立ったモノ言いのように受け止められる可能性がありますが、決してそんなことはありません。他の作品から著者は会社経営者であることが判ります。さまざまな危機に直面し、その中で紡がれた詩篇だと思います。これは自分自身への応援歌と捉えました。「いきることをまたさきおくりしようというの」というフレーズ、「かなしみおえていないかなしみ」という詩句は魅力です。ひらがな表記も成功しています。
 本詩集の中で
「オワリノハジメ」はすでに拙HPで紹介していました。ハイパーリンクを張っておきましたので合わせてご鑑賞ください。今後のご活躍を祈念しています。



詩と評論『日本未来派』214号
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2006.11.15 東京都練馬区 西岡光秋氏発行 840円

<目次>
<眼>それがどうした、ハンカチ王子旋風など/内山登美子 表紙2
<特集>詩と小説
作家と幸運/山田 直 24          小説と比喩表現−D・Hロレンスの場合/倉持三郎 28
高見順小論−詩とその意識/瀬戸口宣司 32  詩と小説断簡/西岡光秋 35

お墓を買いませんか/新延 拳 2      器の嘆き/伊集院昭子 3
洞の情話−またはディオニソス祭/川島完 4 樟の森/吉久隆弘 5
驟雨の里/小倉勢以 6           ボナロンの歌/鈴木敏幸 7
伸びていく階層/岩井美佐子 8       ノートルダム寺院の物ごい/藤田 博 9
火柱を/角谷昌子 10            湘南C−] わが夢の町/壁 淑子 12
青い海/磯貝景美江 13           先に逝かれた人に/川村慶子 14
夕涼みは/杉野頴二 15           そらまめいろのそら/松山妙子 16
闘牛場にて/井上嘉明 17          戦時中の記憶/島崎雅夫 18
野の花/中原道夫 19            うしろ姿/壷阪輝代 20
母との散歩/南川隆雄 21          窓/井上敬二 22
みず/くらもちさぶろう 23
<海外持>アメリカ ディヴイッド・アンチィン/石原武訳 40
  狂えるものの妄想一覧表 −彼らが怖れるものは
<持との出会い> 詩との握手/井上敬二 42
<日本未来派の詩人たち> 大月玄氏の今も脳裏に残る詩業について/島崎雅夫 44
<旅から生まれた詩> 綻びホテル/今村佳枝 46
<書簡往来> 九・二七並立写真、または加齢ということ/南川隆雄 48

薄明幻幻/内山登美子 52          ある日の鳥の死/安岐英夫 53
八月十五日の灯り/木津川昭夫 54      青の考察/植木肖太郎 56
燕尾服の男/水島美津江 57         月/中村直子 58
足を洗う/石井藤雄 59           あそぼ/宮崎八代子 60
風景のなかを通り過ぎるとき/後山光行 61  赤い栄華の見える頃/武田 健 62
茶色の枝/青木洋子 63           望郷/小山和郎 64
アイスクリームの作り方/斎藤 央 65    いく/平方秀夫 66
濁流のひびき/金敷善由 67         捨てる/綾部清隆 68
道/福田美鈴 69              ヒカゲチョウ/星 善博 70
狭き門/山田 直 71            いっしんに洗っている/石原 武 72
<私の処女詩集>
孤独を蟻一杯に詰めて/杉野穎二 50     詩の神様への懺悔/安岐英夫 51
<ボワ・ド・ジョワ>
「冬の七夕」の願い事−埼玉詩人賞贈呈式に参加して−/伊集院昭子 73
詩誌「裸足」300号発刊を祝う会/小野田潮 74

他がまま/天彦五男 75           夢の船/瀬戸口宣司 76
引き裂かれていた/細野 豊 77       握手閑吟/坂本明子 78
ホオズキ/まき の のぶ 79        夢売りの声/今村佳枝 80
花びら/建入登美 81            虫たちとのコラボレーション/山内宥厳 82
双子協奏曲/水野ひかる 83         腕にKISS/青柳和枝 84
樹海/林 柚維 85             海に歌えば/柳田光紀 86
父上 あなたはどこにいらっしゃるのですか/平野秀哉 87
歴史ケ丘の斜陽族/前川賢治 88       言葉ひと言では/若林克典 89
雑草/菊地礼子 90             死者/高部勝衛 91
沁染/奥村 泉 93             支柱のかげ/五喜田正巳 94
新野・舞いの山里/太田昌孝 95       しぐれ辻食堂/藤森重紀 96
猿山の謎/西岡光秋 97

失われた思想/山内宥厳 98         佐渡金山の武田武士/まき の のぶ 99
心霊の独立/五喜田正巳 100
.        ヴァーチャル・ワールド/水島美津江 101
詩人・萩原朔太郎からの脱出 −故・萩原葉子の創作活動/平方秀夫 102
変容するマスコミ/高松文樹 103
.      たぶん宝石のような/後山光行 104
初めての梅干造り/若林克典 105
.      「つつまれる」ということ/壷阪輝代 106
ベビー・ウォーズ/水野ひかる 107
.     「女」の隠れ家/岩井美佐子 108
<日本未来派「夏を歩く」>田端文士村の探訪/安岐英夫116
書評
木津川昭夫 詩論・エッセー集『詩と遊行』評/布川 鴇 110
水島美津江詩集『冬の七夕』/佐川亜紀 111
この七冊/坂本明子 112・伊集院昭子 114
短信往来109 投稿作品/安岐英夫・小倉勢以118 投稿詩応募規定109 同人住所録122 編集後記124
表紘・カット 河原宏治



 器の嘆き/伊集院昭子

あっちの方が良かったかな
あっちにすれば良かったなあ

購入した陶器を手に
いつものように男はぼやく
聞き続けて三十年
慣れてしまった女の耳は
買い物の度に
男の愚痴を期待する

期待に答える古びた声
二人のリズムはどんどんずれる
男は家に居ることが多くなり
女は努めて外出する

大きく変わって行く末来
変わらないのは男の口癖

趣味で並べられた器たち
どれも同じ響きで触られる
器に同情する女
密かに苦笑する

今日も男は器をながめる
一つ一つ撫でながら声をかける
あっちの方が良かったかな
あっちにすれば良かったなあ
女は気づく
器と一緒に並べられていることに

 優柔不断な男というものはいるもので、一度決定したことに対していつまでも「あっちの方が良かったかな/あっちにすれば良かったなあ」とグズグズとしている姿を見ると、短気な私などは腹が立ってきます。そういう男が夫であるという設定で書かれていて、「男は家に居ることが多くなり/女は努めて外出する」というフレーズには「苦笑」させられました。
 しかし、実は「女」を「器と一緒に並べられてい」たんですね。「あっちの方が良かったかな/あっちにすれば良かったなあ」と。これは上手い! 思わず手を打ってしまいました。
 この作品では結局、「男」も「女」も傷ついていない、と読むことができると思います。「三十年」の成果かもしれませんが、このような書き方が今の熟年の夫婦には望まれるのかもしれません。



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