きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
061104.JPG
2006.11.04 仙台市内




2006.12.18(月)


 その1  
その2へ

 午前中は銀行へ行ってお金を降ろし、その足で郵便局へ詩集代金の振込みに行ってきました。そこで聞いた話では、10万円以上の郵便振替は来年から身分証明書が必要になるとのこと。テロ資金対策、マネーロンダリング対策だそうです。ふーん。10万円以上の振込みなんて滅多にないから関係ないけど、手数料が上がるかもしれないという説明にはカチンと来ました。ATMを使った場合と、窓口の場合とでは前者の方が安くなっています。身分証明書を見せるには窓口で振り込むことになり、手数料は高くなるだろうとのこと。国からの指導なんだそうです。おいおい、それってこっちが頼んだことじゃぁねえぞ。国家が勝手にやらせておいて、ツケはおいらかよ!
 ま、国がやりそうなことだと思いますね。どうせアメリカあたりから捩じ込まれて、あわてて作った政令でしょう。10万円以上の振込みなんてしなきゃいいんだけど、そうも言ってられない場合が出てくるでしょう。渋々従うのかな、なんて今のうちから要らぬ心配をしています(^^;



月刊詩誌『現代詩図鑑』第4巻7号
gendaishi zukan 4-7.JPG
2006.11.25 東京都大田区 ダニエル社発行 300円

<目次>
中本道代…水晶地方…3           高木 護…しあわせ・見えてくる物…6
海埜今日子…異名街−曼珠沙華…11      倉田良成…とんぱた亭・イジオート…15
有松裕子…臨海…21             岩本 勇…悪食・喰ふ…25
岡島弘子…しろいてのひら…31        高橋渉二…特赦の日から…35
小野耕一郎…樹に寄り添う…38        佐藤真里子…本たちの引越し…41
枝川里恵…在室…44             國井克彦…夢の楽器…48
山之内まつ子…やがてについて…53     表紙画…来原貴美『リネンドレスの女の子』



 本たちの引越し/佐藤真里子

増え過ぎて床がいまにも抜け落ちそうで
ついに二階から一階へ本たちを引越しさせる

両手に高く積み上げて運ぶ途中で
みごとに崩れて散らばる本たち
顔を出した表紙のひとつひとつが
読んでいた頃の過去を細切れに巻き戻す

どこに何を並べるか迷いながらも
探検した大陸の地図をひろげるように
本棚を少しずつ埋めてゆく

開け放された北の窓から縁側へと
通り抜ける風に吹かれ
何度もかけ直すお気に入りの音楽に励まされ

ふと気がつけば
本からこっそり抜け出してきた主人公たちの
気ままな徘徊とおしゃべり

一冊一冊に歩みを重ねいっしょに潜ってきた
あんな時代もこんな時代も
いまは点滅してまわるプラネタリウム

突然に背後から目隠しをしてきた主人公の君はだれ?
くすんだ表紙の誘惑には勝てずに
とうとうページをめくってしまう
せめて夕闇が文字を消すまでは……

 あっ、これは判るな! というのが読み終わった私の第一声でした。本を捨てられる人と捨てられない人がいて、私は後者です。作者もおそらく後者なのでしょう。「何度もかけ直すお気に入りの音楽に励まされ」て「本棚を少しずつ埋めてゆく」姿が手に取るように浮かんできます。「あんな時代もこんな時代も」「一冊一冊に歩みを重ねいっしょに潜ってきた」本たちですから捨てられるわけがありません。そして最後はお決まりの「夕闇が文字を消すまで」「ページをめくってしまう」。本好きにとってはたまらなく共感できる作品でした。お互い、本に埋もれて生涯を閉じましょう!



個人誌『パープル』29号
purple 29.JPG
2007.1.16 川崎市宮前区
パープルの会・高村昌憲氏発行 500円

<目次>
四行詩
古刹…開あきこ(2)             少子化哀歌…高村昌憲(3)
散文詩
人間は言葉によってのみ人間であるか…よしかわつねこ(4)
特集 追悼 川杉敏夫
さようなら川杉さん 御冥福を…遠山信男(6) 諷刺と数学の詩人・川杉敏夫…木津川昭夫(8)
川杉敏夫氏追悼…北岡善寿(10)       現代の〈婆娑羅〉・川杉敏夫…中平 耀(12)
川杉さんの詩の未来…高村昌憲(14)     ダンディな刺客、「断念の美学」…谷口ちかえ(16)
多彩な才能の終焉…堀口精一郎(19)
執筆者住所録…(23)            編集後記…(24)
誌名/笠谷陽一  表紙デサイン/宿谷志郎  カット絵/高村喜美子



 話は変るが、川杉敏夫の川柳はあまり知られていないが、
これが実に面白い。その一部を紹介する。
  一九九六年
  老いらくの凧をたぐればあの世見え 敏夫
  特養でしなびたペニス比べおり   敏夫
 凧の句はきれいにまとめた入選句である。十年も前にす
でにあの世を見るという一種の先見性がひかっているのか。
これに比べて特養の句は選外であり、若干卑猥の趣がある
が、老
(おい)あわれさがうまく出ており、リアルな滑稽さが生
きている。
 もともと川柳というのは江戸川柳の時代からあわれさの
中におかしく、卑陋下賎なうちに一抹の清爽感をたたえた
ものであろう。
  一九九八年
  お花見で手を握ったが運の尽き  敏夫
  ケイタイは女の胸の谷で鳴り   敏夫
 お花見の句は見事に第一席で入選している。この句のも
つ物語性を秘めた時間性の豊かさ、その後の男と女の人生
がどうなっていくのか。幸か不幸か、さきゆきの運命を予
感させる。
 ケイタイの句は第三席で入選している。男にとっては、
思わず女の胸の谷に
さわりたくなるような艶(なま)めかしさを感
じさせる。きれいな句である。
  二〇〇一年
  なんとなく似た人も居る阿波おどり 敏夫
  寝たきりになるもならぬも丁と半  敏夫
 阿波おどりの句は第一席で入選している。私も一度友達
とつれだって阿波おどりを観にいったことがあるが、その
華やかな雰囲気にあこがれる人にはたまらない魅力であろ
う。この句のもつこのような普遍性が票の多さにつながっ
たのか。
 寝たきりの句は選外作。作句したのは時期的にみて、す
でに療養中のように思われるが、自身の身の上を暗示させ
て哀しい。
  二〇〇三年
  風狂は川柳までの人もおり     敏夫
 風狂とは何かという意味もよく判らず、せいぜい川柳を
つくる程度の人もいるということなのか、川杉にとっては
最後の句となっている。

 今号は、本年7月に80歳で亡くなった川杉敏夫さんの追悼特集になっていました。紹介したのは堀口精一郎さんによる追悼文の中の、風狂の会における川杉さんの川柳について触れている部分です。私は川杉さんのお姿を遠くで二、三度お見かけした程度の付き合いしかありませんでしたが、それでも川柳からは川杉敏夫という詩人が彷彿として来ます。特に、選外ではあったものの「寝たきりになるもならぬも丁と半」という句は佳いと思います。ご冥福をお祈りいたします。



詩誌『裳』95号
mosuso 95.JPG
2006.11.30 群馬県前橋市
曽根ヨシ氏編集・裳の会発行 500円

 目次 
<詩>
あそんだ日/神保武子 2          絵の裏側/高村光子 4
ジプシールンバ/須田芳枝 6        葉緑素にあこがれて/宇佐美俊子 8
M夫人の戦後/佐藤恵子 10         視線/宮前利保子 12
<詩集評>
宮前利保子詩集『カタクリの花の咲くころ』心情・主張を支える的確な修辞/梁瀬和男 14
『カタクリの花の咲くころ』から/須田芳枝 15
佐藤惠子詩集『母さんと二十世紀を買いに行った』不条理の解き方/志村喜代子 16
<連載>
ガラスの肖像 エミリー・デイキンスン私論(10) 狂気(U)白の選択/房内はるみ 18
<詩>
秋の音/金 善慶 22            耳/黒河節子 24
愛妻橋の上で/真下宏子 26         五一さんの星畑/篠木登志枝 28
眼の痕/曽根ヨシ 30            種/志村喜代子 32
梅の花の前で・秋/鶴田初江 34
後記
表紙「夜のしじま」 中林三恵
詩 モリガアッパヨ 中林三恵



 あそんだ日/神保武子

あしたあたり
野紺菊が咲く と
花の気配を
きいた

花たちは
毎年その時がくれば
あしたあたり
咲きます と
知らせていたのだろうが
花の気配を
はじめてきいた

いままでそんなに
いっぱいだったのか
そんなに毎日が
いっぱいいっぱいだったのか

ひんやりした風が
のど奥をとおりぬけて
はじめてまわりのものを
落着いてみることができた

いちにちの時間が
ゆっくり流れている
時をきざむかすかな音を
きいて
いちにちを行ったり来たり
時とゆっくりあそぶ

 「時とゆっくりあそぶ」日が必要なんだなと改めて思います。「毎日が/いっぱいいっぱいだった」頃には、「花の気配」など気にしている余裕が私にもありませんでした。この頃少しは余裕が出て、「はじめてまわりのものを/落着いてみることができ」るようになりました。しかし「花の気配を/き」くまでには至っていません。作者は「時をきざむかすかな音を/き」くことが出来るようになりました。素晴らしいことだと思います。「あしたあたり/咲きます と」「花たち」の言葉を聴けるようになった作者に敬服した作品です。


 その1  
その2へ



   back(12月の部屋へ戻る)

   
home