きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2006.11.04 仙台市内 |
2006.12.19(火)
その2 その1へ
○岡田喜代子氏詩集『千年の音』 おぐらひろかず絵・ジュニアポエムシリーズ166 |
2004.12.25 東京都中央区 銀の鈴社刊 1200円+税 |
<目次>
そら豆と地球 6 あおむけ 8
さざなみ雲 10 森へ 12
ある日には 14 千年の音 16
嵐 18 ヘリコプター 20
はちみつ 22 電柱 24
さくらんぼ 26 チューリップ 28
あじさいの花 30 梅の実−その一− 32
梅の実−その二− 34 すいか 36
きんもくせい 38 六月のカレンダー 40
六月に 42 つまようじ 44
扇風機 46 洗濯バサミ 48
九月に 50 図書館 52
夢 54 キズ 56
足の指 58 遠くを 60
携帯電話 62 わたしはなぜ 64
二匹の犬(れんとぽろん)へ 68 治療法 70
さんざしの木は 72 夏休み 74
せみしぐれ 76 あとがき 78
千年の音
木はだまって立っていますが
じつは
五十年も百年も千年も
生きているのです
千年を生きる木に
そっと耳をあてれば
千年の音が
聞こえます
副題に「ジュニアポエム」とありますように小学校中学年以上を対象とした少年詩集です。多くの詩に絵が添えられて楽しい詩集に仕上がっていました。
紹介したのはタイトルポエムですが「千年の音」の意味がよく判ります。人間の胸に「そっと耳をあてれば」50年なり70年なりの「音が/聞こえ」るかは疑問で、おそらくそれ相応の「音」を出せない人がほとんどでしょう。それに比べて「千年を生きる木」には「千年の音が」必ず「聞こえ」るはずです。同じ地球に生きる生物として彼我の違いまで考えさせられた作品です。
○詩集『木』26号 |
2005.7 東京都港区 非売品 NHK文化センター詩を楽しむ教室発行 |
<目次>
夜明け前の/菊地貞三 6
月見の宴/井田大作 8 西風/井田大作 9
冬景/井田大作 9 シャチの悲しみ/大野香代 10
珊瑚礁の国/大野香代 12 夏泊(なつどまり)/岡田喜代子 14
マウイ島/岡田喜代子 15 秋の庭/尾崎スミエ 18
影/尾崎スミエ 20 遥か昔の/川中芳子 22
パレード/楠瀬貞子 24 ほんとは何と/楠瀬貞子 26
きじ鳩/楠瀬貞子 27 空/熊谷福貴子 30
星降る夜に/すずきいつお 32 われら地球家族/すずきいつお 33
小さな大学町で/すずきいつお 34 台所/鈴木ふじ子 36
夏の蝶/鈴木ふじ子 38 蝶/鈴木ふじ子 38
梅雨入りの朝/田口静香 40 チビタ鉛筆の夢/田口静香 42
五月のゆううつ/土田康子 44 と言われても/鳥海恵美子 46
息子/萩野洋子 48 火薬/萩野洋子 50
証人/深沢保子 52 とりかえばや/深沢保子 54
スキー/藤田みつ子 56 京都/藤田みつ子 58
バス・ストップ/掘江 彬 60 白水阿弥陀堂/掘江 彬 62
梅の木/真下準三郎 64 雪の温泉町/真下準三郎 65
銀杏並木/向井登美 68 春遠からじ/向井登美 69
整理の基本/山下メグ 72 友達/山下メグ 75
あとがき 76
パレード/楠瀬貞子
ハロウィーンのパレードが通るというので
表参道に出かけてみる
しかし通りすぎた後であった
追いかけてみたが
パレードらしい姿はもう見えない
少しがっかりして
歩道のわきの鉄さくに腰をかける
けやきの葉は緑と茶が入りまじり
中途半端の黄葉である
気まぐれの天候のせいか
所在ない思いのまま坐っている
その時目の前を
長い槍を持った大男が通りかかる
パレードのしんがりがおくれているのか
それにしても槍とは
どこへ行くのですかと聞くと
大きな声で大阪夏の陣のいくさにという
急がねばと
ひょっとして貴方は
八田金十郎知当さんではありませんか
大男はびっくりした顔で
どうして知っているのかと
私は貴方の子孫です
先日「井伊年譜※」を読んだばかりと
いう私には目もくれず
急がねばと韋駄天走り
もう少しお話をという私を
ふりきって
折からけやきの葉がはらり
顔の上に舞い落ちて
うつつにもどる
わたしもパレードの一員
過去から未来へとつヾく
パレードの一員
※井伊年譜(彦根藩史)
「表参道」の「ハロウィーンのパレード」から「大阪夏の陣のいくさに」「急がねばと韋駄天走り」する「八田金十郎知当さん」が出てくるおもしろい作品ですが、そのつながりに不思議と無理はありません。「パレードのしんがりがおくれているのか」という1行が効いているのでしょうね。「先日『井伊年譜※』を読んだばかり」の「私は貴方の子孫です」という設定も奏功しています。最終連の「わたしもパレードの一員/過去から未来へとつヾく/パレードの一員」も見事です。このフレーズも現在から過去へ無理なくつなぐ上で大きな役割をしていると思います。時間を超越した壮大さの中に日本人であることを意識させられた作品です。
○詩集『木』27号 |
2006.7 東京都港区 非売品 NHK文化センター詩を楽しむ教室発行 |
<目次>
別れ/菊地貞三 6
大森海岸界隈/井田大作 8 霜柱/大野香代 10
天空の湖/大野香代 12 ディズニーランド/岡田喜代子 14
何かが/尾崎スミエ 18 早朝/尾崎スミエ 19
きじ鳩とこぶしの花と/楠瀬貞子 20 苦手/楠瀬貞子 22
十一月/熊谷福貴子 24 水鳥/熊谷福貴子 26
小道/すずきいつお 28 濃霧/すずきいつお 30
岬にて−春−/すずきいつお 32 ばら 二題/鈴木ふじ子 34
野ばら/鈴木ふじ子 36 風景/鈴木ふじ子 38
決まっていた筈なのに/鈴木正美 40 カンチクさん/鳥海恵美子 42
朝と夕方と/萩野洋子 44 きざきざの/萩野洋子 46
サンドイッチ/深沢保子 48 具道(ぐどう)/深沢保子 50
暁闇の中にいて/掘江 彬 52 親指かくし/掘江 彬 54
ぼやぼやしてはいられない/向井登美 56 冬椿/向井登美 57
待っている/向井登美 58 細く開かれた窓の向こうから/山下メグ 60
桃色の二月/山下メグ 62
あとがき 64
ディズニーランド/岡田喜代子
ディズニーランドは
いつも混んでいる
平日も 雪の日も 台風の日も
まばゆい親子
こそばゆい恋人
笑って 笑って
ほら
無言のミッキーマウスが近づいてくるよ
年がら年じゅう祝祭の国
の駅が
車窓を流れてゆく
天国が流れてゆく
私は毎日
天国を過ぎて
次の駅で降りる
マーケットで大根を買う
葱を買う
重い袋をぶらさげて
家まで歩く
空は夕暮れ
雲がひとつ
あの世に残した罪のように
薔薇色に光って溶けない
冷たいドアを開け
薄闇の台所にたどりつく
「さてと」
つぶやきは
すぐに私に帰ってくる
「さてと」
めぐりめぐって きょうも
なつかしい水道の栓をひねる
あたらしい記憶がほとばしり
部屋を満たしはじめる
住所録によると作者は浦安にお住まいのようですから「私は毎日/天国を過ぎて/次の駅で降りる」というのは実体験なのでしょう。「年がら年じゅう祝祭の国」を見ながら「マーケットで大根を買」い「葱を買」い、「重い袋をぶらさげて/家まで歩く」現実とのギャップがこの作品をおもしろくしていると思います。その象徴が「あの世に残した罪のように/薔薇色に光って溶けない」というフレーズにあるように感じます。「つぶやきは/すぐに私に帰ってくる」というフレーズも現実味があって佳いですね。「水道の栓」から「ほとばし」る「あたらしい記憶」は「ディズニーランド」のように浮ついていないことを教えてくれた作品です。
○詩誌『濤』13号 |
2006.12.28 千葉県山武市 いちぢ・よしあき氏方 濤の会発行 500円 |
<目次>
広告 川奈静詩集『ひもの屋さんの空』 2
訳詩 ニンフア/フイリップ・ジャコテ 後藤信幸訳 4
作品
冬のかもめ/川奈 静 6 百合の種の話/鈴木建子 8
蛇足/伊地知 元 10
濤雪
詩の朗読からの私的事象/村田 譲 12 吾が家の事情(2)/いちぢ・よしあき 13
作品
車椅子/山口惣司 14 メロポエム・ルウマ他/いちぢ・よしあき 17
受贈・受信御礼 24 編集後記 26
広告 山口惣司詩集『天の花』 27
表紙 林 一人
蛇足/伊地知 元
彼のことを船頭泣かせと言う
――もう上りましょう竿を納めて下さい
船頭が声を掛けても竿を仕舞おうとしない
返事をしない
――旦那いゝ加減にして下さいよ
船頭が泣きを入れても
知らぬ顔の半兵衛を決める
彼のことを同宿者泣かせとも言う
朝起きてトイレヘ入ったら
たっぷり一時間は出て来ない
泊りの釣行(ちょうこう)の時なぞ大変だ
朝五時の出船なら三時起きして
あぶれないように皆トイレヘ走る
職場の女の子が言った
――そんなのいゝ方よ
私なんか何時も机の上に転がっている
イチジク浣腸片付けさせられるんだから
彼のことを社員泣かせと言う
社長室の扉に〔ノック不要〕と書いてあって
不意に入っていっても彼が怒らないからだ
来客は必ず言う
――開放的でいゝ社長さんですね 皆さん
感謝感激で涙が止まらないでしょう
どうしてどうして ノック不要が不文律だから
彼はノック無しに社長室を飛び出して来て
不都合のあった社員の傍らに立ち怒鳴りつける
彼のことをインコなかせとも言う
彼の可愛がりようは尋常でない
餌の口移しは勿論のこと
外泊の時は鳥籠を持って歩く
インコは彼を見ると嬉しそうに
キュルキュルと鳴く
彼が熱を出した
38度C 大したことはないと思った
念の為医者にかゝった
カルテには〔感冒〕と書かれたのだが
二日経っても三日経っても熱が下らない
四日目には39度Cをこえた
遂にダウンし床についた そして
サヨナラも言わないで呆気なく死んだ
オウム病だそうだ
通夜の晩
業務部長が酔っぱらった
酔っぱらってうおんうおん泣いた
社長が死んだのがそんなに悲しいのか……
部長は社長をお慕いしていたのだ皆そう思った
神妙な空気が場に流れて一瞬会話が途絶えた
――だってよう明日から怒鳴られないと思うと
嬉しくてよう 涙が止まらないんだ
蛇足であるが
掲示板に業務部長の左遷が報じられたのは
数日経ってのことであった
「彼」=「社長」という人間がうまく描けている作品だと思います。エピソードに事欠かない人間は描きやすいのかもしれませんが、それだけではなさそうです。「彼」を見る眼があたたかいのです。おそらく「サヨナラも言わないで呆気なく死んだ」彼に対して作中人物は相当な思い入れがあったのではないかと思います。最終連の「蛇足」もおもしろいですね。決して蛇足≠ナはなく、亡くなったあとも「彼」の息が掛かっていることを感じさせます。人間模様を淡々と書いて、読者を惹きつける作品だと思いました。
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