きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.2.8 自宅庭の白梅




2007.3.22(木)


 3月10日に開催された日本詩人クラブの議事録が郵送されてきて、次期役員候補の名前が載っていました。現理事会から引き続いて残るのは、私も含めて3人のみ。16人の役員のうち半数は新任という状態です。年齢も大幅に若返りました。4月には念願の事務所も借りられるでしょう。もちろん、いずれも5月の総会の承認を得なければなりませんけど、日本詩人クラブが大きく変わろうとしていることが感じられます。私は役員辞退を申し入れましたが、説得されて受けた経緯があります。しかし受けたからには全力を尽くす義務があると思っています。会員の皆さまのご協力を切にお願いする次第です。また、会員外でも最近は多くの方が例会等においで下さるようになりました。引き続きご支援いただければ、こんな嬉しいことはありません。よろしくお願いいたします。



島村圭一氏詩集『ぞさえまま』
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2007.3.15 山形県上山市 書肆犀刊 1575円

<目次>
第一章
母語・方言による詩らしきもの――6〜48
For ever 6     『冬のソナタ』 8
不安た 12      街路樹 14
案山子 18      一パック七十八円 22
餓鬼べら挽歌 25   シャワシエ 28
日本列島総グルメ 31 談合 34
春先 36       ショウ ザ ホワイトフラッグ 38
カミキリムス 42   ザラブ 45
第二章
つれづれなきままに――50〜102
実生 50       マタニティ ブルー 53
青い水球 56     青いビー玉 60
スペアインク 62   癌病棟にて 65
ウスバシロチョウ 68 庭先にて 71
寄り道 74      アキアカネ 76
A病棟 78      確信 82
あなたたち 84    ヒメサユリ T 88
ヒメサユリ U 90  母なる川 最上川 92
幻想・案内所 96   高らかに 98
ゼフィルス 100
あとがき――104
*本詩集標題の「ぞさえまま」は「雑炊」の意の方言



 不安た

       

「フアンタ」って言ったら
ワガ シュ      *1
若エ衆がら笑わっチャ

「ファンタだよ、ファンタ」


「ファンタだべ」

何回言っても
             
*2
「ファ」なて言うごどなでぎね
  
*3 *4
ほだな「気持づ悪え」なて言たら

「気持ち悪い」だよ

なて言われる


おら
フアン
不安になてきた
  

おれ死んだら
        
*5
焼えでしぇえげんと
シェンゾ
先祖様どお茶のみ話する
オラ
俺だの言葉だげは

焼がねで
   
       *6
お墓さ入っちぇけらしゃい


 *1 笑われた
 *2 できない
 *3 そんな
 *4 「ki」の訛音
 *5 焼いていいけれど
 *6 下さい

 第1詩集です。ご出版おめでとうございます。方言・標準語という言い方にはちょっと抵抗がありますけど、便宜上そういう言い方をすると第一章は方言詩、第二章は標準語詩ということになります。ここでは方言詩の「不安た」を紹介してみました。最終連の「先祖様どお茶のみ話する/俺だの言葉だげは/焼がねで」というフレーズにドキリとさせられ、方言とは歴史的なものであることに改めて気付かされます。明治政府から始まった方言を奪って標準語化するという政策は、朝鮮語・中国語を奪った歴史と同質のものを感じます。なお、巻頭作品の「
For ever」は拙HPですでに紹介しています。非常に優れた詩で、日本詩壇の収穫と言っても過言ではありません。ハイパーリンクを張っておきましたので是非ご覧ください。

 この詩集は第一章の方言詩に特徴がありますが、第二章にも優れた作品が多くありました。「実生」「マタニティ ブルー」「青い水球」「寄り道」などです。また、第二章の副題がつれづれなるままに≠ナはなく「つれづれなきままに」としているところ、タイトルの「ぞさえまま」にも著者の矜持があると云えるでしょう。
 あとがきで50歳を過ぎて第1詩集を刊行する気になったいきさつが書かれていました。著者の属する『山形詩人』に載せた作品を先輩詩人たちが評価してくれたことに加えて、拙HPで紹介させていただいたことも励みになったとありました。驚くとともに大変嬉しく思いました。御礼申し上げます。



月刊詩誌『柵』244号
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2007.3.20 大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏発行 572+税

<目次>
現代詩展望 地方詩人団体の役割と期待 野津俊雄『ポエムの泉』から…中村不二夫 74
低い目線 灰谷健次郎(2) 私の出会った詩人たち(4)…伊勢田史郎 78
審判(7) 指導者…森 徳治 82
流動する今日の世界の中で日本の詩とは29 アメリカの翻訳者会議に出席して…水崎野里子 86
「戦後詩誌の系譜」42 昭和62年62誌追加4…中村不二夫 志賀英夫 104
風見鶏 高橋英司 我妻洋 小林妙子 高木白 田村のり子 90

詩作品
北村愛子/人生の味 4           宗 昇/堂影 6
山南律子/呼ばれて 8           小城江壮智/ほんもの 10
立原昌保/夜明け 12            名古きよえ/祖母の部屋 14
進 一男/花の散り方 16          岩本 健/零の唄 18
松田悦子/見る人もなき一本の桜かな 20   柳原省三/戦闘準備 22
肌勢とみ子/血族 24            前田孝一/いぶし銀 26
中原道夫/納豆 28             小沢千恵/楽山大仏 30
平野秀哉/閧ノついて 32          西森美智子/安全の為の危険について 34
織田美沙子/冬の風景画 36         山崎 森/塩昆布 39
水崎野里子/シアトルのインターナショナル地区 42     今泉協子/北京の朝 46
若狭雅裕/浅野川慕情 48          鈴木一成/都々逸もどき5 50
安森ソノ子/雪の言葉 52          門林岩雄/秋の色 晩秋他 54
小野 肇/無邪気な時間 56         川端律子/モンゴル草原の羊 58
忍城春宣/須走東公園 60          佐藤勝太/青春の復習 62
江良亜来子/桜 64             山口格郎/自分を自分に「解説」 66
南 邦和/KWAIDAN 68        野老比左子/詩人の祈り 70
徐柄鏡/洛東江の春うらら 72

現代情況論ノート(11) サダム・フセインの処刑…石原 武 92
世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想(10) 詩人が書く小説…小川聖子 94
韓国現代詩人(9) 金光圭の詩 挽歌…水崎野里子訳 86
コクトオ覚書219 コクトオ自画像[知られざる男]39…三木英治 100
東日本・三冊の詩集 細井明美『二弦琴』 禿慶子『我が王国』 宮崎亨『空よりも高い空の鳥』…中原道夫 116
西日本・三冊の詩集 猪谷美和子『亀との夕刻』 吉形みさこ『命どう宝』 岩本健『]YZ』…佐藤勝太 120
受贈図書 126  受贈詩誌 123   柵通信 124  身辺雑記 127
表紙絵/野口晋 扉絵/申錫弼 カット/中島由夫・野口晋・申錫弼



 青春の復習/佐藤勝太

正月三が日が過ぎて
人混みがなつかしく街に出た

さすがデパートは
どの階も女性客がひしめき
男は数えるほど
売場には女物が絢爛と
後ろの方で
――どう地味やろうか
七十路の女性が胸もとで広げた
花模様の派手なセーター
――よく似合っているわ
連れの女性の顔が揺れて
濃い化粧の皺が笑っている

二人はともに
地味な人絹地のモンペ姿で
その下に深紅の花弁を隠して
竹槍を肩に戦争を駆けた
女学生時代があった

いまようやく
遠い青春を復習している

 「七十路の女性」の「濃い化粧の皺」を冷笑するということはしばしば見受けられることで、世の詩作品、文芸作品を見渡してもと、そんな女性を揶揄する作品に出会います。しかしここでは「いまようやく/遠い青春を復習している」のだと見ています。この最終連を読んだときに、私は赤面しました。冷笑や揶揄が私も皆無ではなかったのです。「地味な人絹地のモンペ姿で/その下に深紅の花弁を隠して」いた時期があったことに思いが至りませんでした。不徳を恥じます。そして作者の人間を見る姿勢に敬服しました。



個人詩誌『玉鬘』40号
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2007.3.21 愛知県知多郡東浦町
横尾湖衣氏発行 非売品

<目次>
◆詩
「公害」
「夢の臓器」
「なずな」
「田の形」
◆鑑賞
『詩あれこれ』(14) 島崎藤村の詩(六)
◆御礼*御寄贈誌・図書一覧
◆あとがき



 田の形

真新しい
畳のように美しい田んぼ

空を見上げると
飛行機が飛んでいます
どこの固からでしょうか
「ようこそ
 お出で下さいました
 どうぞお上がり下さい」
ここは日本の座敷
大広間でございます

端麗な田に
吹く風を受けながら
通り峠から眺めた棚田が
ふと思い浮かびました
山間に営まれる
稲作の風景
歪な形で段々となっていました

整った田の形と歪な田の形
平野には平野の
山間には山間の
それぞれに適した形が
あるということです

日本は小さい国ですが
豊かな風景を持っていました
よく見ると
所々虫食いのように
休耕田が見えます

日本の特産品
米こそ農耕民族の
象徴ではなかったでしょうか
畦が崩れて
荒廃してしまった田に
今日も陽の恵みは注いでいます

 「畳のように美しい田んぼ」は「日本の座敷/大広間でございます」という発想が佳いと思います。「平野には平野の/山間には山間の/それぞれに適した形」の田圃があるのですが、それが今は「所々虫食いのように/休耕田が見えます」。「米こそ農耕民族の/象徴で」あったのに、米国の農家を潤すために「荒廃」させてしまった日本の政策。それに対する怒りも感じます。しかし、それにも関わらず「今日も陽の恵みは注いでいます」。太陽にとって米国も日本も同じことなのかもしれません。そんなことを感じさせられた作品です。



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