きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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百日紅(さるすべり)




2007.4.2(
)

 新車の2回目の燃費が出ました。11.3km/L。1回目が11.4kmですから、まあ、コンスタントに11kmは走りそうです。財布に負担をかけないということは、地球環境への負担も少ないということ。ヨシヨシと一人でほくそ笑んでいます。
 それにしても納車されてから1ヵ月近くなるというのに、まだ2回しか給油していません。旧車の頃は月1でしたから、そんなものかもしれませんが…。クルマというものは走っている時間より止まっている時間の方が圧倒的に長いものですけど、うちのクルマは止まるというより寝ている時間が長すぎます。たまには長距離を走らせてやりたくなりました。



藤谷恵一郎氏詩集
『風を孕まず 風となり』
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2007.3.20 大阪市北区 竹林館刊 2000円+税

<目次>
surrounded by stalkers 8         石瑠 12
小鳥 14                  銃弾 16
祈り 18                  首の夢 19
誇り−メッセージ− 20           届くもの 22
麦藁帽子 23                廻る 24
三姉妹 26                 夏、光の原 28
余りにも拙く 30              雪のように 38
扉 39                   移ろい 40
太陽の遺伝子 42              パンドラの箱 44
切り通し 46                いつ 48
英雄 50                  突き破れ! その向こうヘ 52
屋久杉 54                 時の海−晩夏 60
蝉捕り 62                 だんだん 64
水面の上には 66              白木蓮(1)−フリーター挿話− 70
白木蓮(2) 73               過去も未来もそして現在さえないもののように 74
蟋蟀 78                  平成子守唄 82
ダストボックス 84             旅人よ 88
風を季まず 風となり−Mご夫妻に− 92
  *
あとがき 100



 麦藁帽子

祖父の傍らで
頭上を見上げている少女に
   麦藁帽子が よく似合っている
――離婚の夏

 2003年の『喪失の宙
(そら)』に続く第3詩集です。紹介した詩は本詩集中最も短い作品ですが、非常に多くのものを含んでいると思います。もちろん最終行の「――離婚の夏」があってこの詩は生きています。それと同じ比率で効果的なのが「祖父」です。「少女」の父親でも母親でもない「祖父」が登場していることによって「離婚」の現実が表出していると云えましょう。季節は「夏」。「麦藁帽子」に隠れた少女の顔を想います。崩壊した夫婦と、崩壊することができない肉親という人間社会を考えさせられる作品だと思いました。
 本詩集中の
「蟋蟀」はすでに拙HPで紹介していました。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて藤谷恵一郎詩の世界をご鑑賞ください。



伊東二美江氏詩集『花びらの声』
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2007.4.1 神奈川県鎌倉市 M企画刊 非売品

<目次>
花びらの声…4    海の記憶…5
都会の風景…6    精霊…7
春立つ明日…8    春の足音…9
春の疾風…10     春の海…11
春の雨…12      春の雪…13
春の終わりに…14   春の愁い…15
栴壇の花…16     白十字の花…17
雨の滴…18      露草…19
ゆきあいの空…20   砂丘…21
輪廻…22       夏の使者…23
花火…24       深く静かな眼差し…25
夜盗蛾…26      無償の愛…27
樹陰…28       亡骸…29
ひるがえる日々…30  風のざわめき…31
光の警告…32     冬の葉音(ソナタ)…37
ルビー色の輝き…38  日が無い一日…39
冬たつ明日…40    またぎ越す鐘…41
傷跡…42       うねり うごめいて…43
プリザーブドフラワー=保存花=…44
追憶…45       回想…46
大気の中で…47    荒原からの発信…48

My Collection
敬愛するアーチストの作品
 ジョアン・モンカダ(父)
 マルタ・モンカダ(娘)
「花びらの声」に寄せて=金子秀夫…49
あとがき…52
装丁/表紙・カバー 伊波サチヨ(株式会社 スタジオネオ)
挿画/マルタ・モンカダ



 花びらの声

莢の柔らかな
産着に包まれ
小さないのちが
花びらの声を上げ
手足を動かし
刻々と時を歩む

胎内の鼓動から
渇愛と慈悲の
時空を越えて
己は
何を見つめて
生きて行くのか

地球はひどく汚れ
大都会の月の
鉛色の重たさは
大気の汚れとなり
花びらの声に上がる
満月はもうない

 1996年の第2詩集『鏡』以来、10年ぶりの第3詩集です。中ほどに「敬愛するアーチストの作品」としてモンカダ父娘の絵が添えられた美しい装幀となっていました。紹介した詩はタイトルポエムで、かつ巻頭作品です。「小さないのちが/花びらの声を上げ」て誕生するというイメージは著者のお人柄を示し、この詩集の性格をよく現していると思います。しかし最終連では「地球はひどく汚れ」ていると見、観念的な美だけを追っているのではないことが判ります。その狭間に心痛める詩人の声が聴こえてくる詩集と云えましょう。



機関誌『伝書鳩』7号
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2007.2.22 東京都世田谷区
西村承子氏・西村篤氏編集
(財)井上靖記念文化財団発行 非売品

<目次>
明方/井上靖…4
洛北の旅/森井道男…6           井上靖の手、一瞬を生み出す創造主に/宮崎潤一…8
『風林火山』を楽しむ…11          井上靖生誕百年 行事予定…12
酒田の井上靖展/安井収蔵…14        井上靖記念室設置のご報告/豊泉豪…18
これまでの井上靖文化貰受賞者…20      井上靖文化賞・要項…21
井上靖文化賞
 第九回井上靖文化賞 安田侃氏に…22     第十回井上靖文化賞 本間一夫氏と日本点字図書館に…24
 第十一回井上靖文化賞 直木孝次郎氏に…26  第十二回井上靖文化賞 中村稔氏に…28
旭川読書会からの発信/秋岡康晴…30     第十四回井上靖文化賞の決定…33
私の備忘録より/浦城いくよ…34       平成十三年度〜十七年度 事業報告 井上修一…46
図書だより…52
鳩のカット・福井欧夏            花のカット・黒田佳子



 明方/井上 靖

新しいインキ壜の蓋を開けると、ブル
ー・ブラックの深海がある。太平洋もイ
ンド洋も、これに較べると何と小さいこ
とか。私は大脳の手術をする医師のよう
に、清潔な白衣を着、手を消毒薬で洗い、
深海の一部を切りとって、小さい円筒形
の器物の中に収める作業に取りかかる。
深海には新しい海流が流れ始める。鯨の
群れと、無数の烏賊
(いか)と、同じく無数の翔
び魚が、S運河を抜け、K海溝へと殺到
して行く。やがて、ごうごうたる音を立
てて潮は渦を巻き始める。水位の低くな
りつつある海を、国籍不明の艦船が走っ
ている。
もうすぐ夜は明けるだろう。
         (「地中海」より)

 初めて頂戴した
(財)井上靖記念文化財団の機関誌です。拝読して知ったのですが、今年5月6日は井上靖生誕100年の記念日です。旭川や静岡県長泉町の井上靖記念館を始め、神奈川県立近代文学館、軽井沢高原文庫、伊豆市天城湯ヶ島「しろばんばの里」などで様々なイベントが計画されているようです。長泉町の記念館には何度も行っていますので、私もそれに合わせて行ってみたくなりました。
 紹介した作品は巻頭詩です。おそらく「もうすぐ夜」が「明ける」頃に執筆の手を休めて「インキ」を「小さい円筒形/の器物の中に収める作業に取りかか」っている状態でしょう。今は万年筆もカートリッジ式が主流で、こういう光景は見られなくなりました。しかし、それにしても「インキ壜」の中の「ブル/ー・ブラックの深海」に対して「太平洋もイ/ンド洋も、これに較べると何と小さいこ/
とか」という表現には敬服します。井上靖詩のスケールの大きさを知らされました。



季刊詩誌『竜骨』64号
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2007.3.25 さいたま市桜区
高橋次夫氏方・竜骨の会発行 600円

 目次
<作品>
切株/今川 洋 4             「される」ということ/森 清 6
はたして夜は明けるだろうか/長津功三良 8  生命/松崎 粲 10
オ辞儀シテ左様ナラ/木暮克彦 12      水路/高橋次夫 14
寒満月/西藤 昭 16            冬の公園/内藤喜美子 18
 ☆
ふく福三幅対(さんぷくつい)/松本建彦 26  ありふれた光景/高野保治 28
遠い祭/島崎文緒 30            古い祠の前で/小野川俊二 32
焦躁/横田恵津 34             星屑の夜/河越潤子 36
妣(はは)の雪/庭野富吉 38         ゆるやかな関係/友枝 力 40
詩集評 小野川俊二詩集『書き込みのない式辞』
自己凝視の厳しい姿勢/森 清 20
羅針儀 両国駅界隈/高野保治 42
書窓
こたきこなみ詩集『夢化け』/友枝 力 46  横井新人詩集『彼岸』/松本建彦 47
禿慶子詩集『我が王国』/木暮克彦 48    村山精二詩集『帰郷』/高橋次夫 49
海嘯 再び「河童」の国へ/友枝 力 1
編集後記 50                題字 野島祥亭



 古い祠の前で/小野川俊二

裏山の
畦の向こうの
草茫々の丘の片隅に
人間が出入り出来るばかりの
腐りかけた祠がある
鳥居はさらに腐蝕して見る影もない
その名は天満宮
人呼んで天神さん
訪れる人もなく
参拝に来る人影もない
その祠に
或る日
小さな絵馬が掛かっていた
縦三寸
横五寸ばかりの薄っぺらな絵馬には
入学祈願と記され氏名が書かれてあった

それから月が変わった或る日
小さな部落では
てんやわんやの大騒ぎが起こっていた
この部落の
どこかの少年が
大学入試に合格したのだという
学問には
全く無縁で不毛の地とされている地に
天神さんが ひと肌抜いて
草茫々の丘で輝きを
みせてくれているのだろうか
急に周辺の草が刹られ
鳥居が新しくなり
入学祈願と書かれた絵馬が
合格万歳と更に大きな絵馬に変り
でかでかと古ぼけた嗣の中で
輝いてみえるのだ。

 陳腐な言い方ですが古き良き時代≠感じました。「大学入試に合格」などは当り前のことで、大学を卒業しても碌な就職先がないという現在では「てんやわんやの大騒ぎ」も起こりようがないでしょう。それに比べて「急に周辺の草が刹られ/鳥居が新しくな」った時代には、将来への素朴な夢があったように思います。その上、地域と「天神さん」との関係、神≠フ発生の根源までも感じさせられました。遺しておきたい日本人の記憶、そんな思いをした作品です。
 なお、今号では高橋次夫氏により拙詩集の御批評をいただきました。ありがとうございました。



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